3-4 異国からの購入者
オータムナスの祭りも近くなり、町ではその準備も進められている。
ラヤーナの薬屋もお祭りの期間はラヤーナが滞在し、その間は朝食後の10ラルから1~2ルラル程度追加で開け、お昼後も通常の時間で開き、毎日開ける予定だ。フランカと相談し、お店の様子を見ながら交代で店番をすることにしてお祭りの期間に他国からも薬が欲しい人たちへの対応をすることにしたからだ。
「こんにちは。こちらは巷で人気の薬を扱っているお店でしょうか?」
「あ、いらっしゃいませ。人気かどうかはわかりませんが、聖水で作られたものではない薬は扱っています。」
「ああ、その薬のことです。購入しようと思っているのですが、いろいろと教えていただけませんか?」
「はい。もちろんです。」
「こちらの塗り薬がとてもよく効くと伺っていますが、どのくらいの効果があるのでしょうか?」
「そうですね…ここで取り扱っているものは、市中で一般的に使っていただけるものです。ちょっとした擦り傷程度でしたらこちらの塗り薬を薄く塗布していただければ十分です。」
「少し塗ればいいんですね。」
「ええ。これは1キュプの大きさですが、擦り傷程度でしたらこの量でも十分ですよ。」
「フム…塗布する量はそんなに少量でいいんですね…」
「はい。傷の範囲が広い場合はもっと広範囲に塗る必要がありますが、それでも傷の深さがそれほどないようでしたら薄く塗れば十分ですよ。」
「そうですか…もっと…傷が深い場合や、痛みがある場合などの薬も取り扱っていると伺ったのですが、それらもこちらにありますか?」
「傷が深い場合というのがどの程度にもよりますね。」
「あぁ、そうですね。私は実は隣のアウロレリア王国から参りました。ここのオータムナスの祭りも楽しみに来たのですが、今回一番知りたかったのがこの国で販売されているという薬です。まだヴェルネリア王国の他の町では扱っておらず、騎士団の上層部の知り合いからこちらの店主の方が作っていると伺いました。騎士団はどの王国でも今最前線で鬼獣と闘っており、負傷者も多く、こちらの店主の薬でかなりの人たちが助かったということです。私の国でも騎士団での薬はこちらのギルドからおろしていただいていますが、できれば私の国の市中にも薬を販売して、この国だけではなく他の王国でも一般への薬を卸していただけないかと思い、こちらに伺いました。」
「…そうですか…それでは直接店主とお話しいただいた方がよいですね。先ほどギルドへ納品に行き、もう間もなく戻ると思いますのでしばらくお待ちいただくか、後程ご来店いただくかになります。どうされますか?」
「戻られるのでしたら是非直接店主様からお話を伺いたいです。」
「そうですか…。もう戻る予定ではあるのでそれほどお待たせしないと思います。」
「はい、ありがとうございます。待たせていただいている間、できればもう少し、このお店で扱っている薬について伺いたいんですが、よろしいでしょうか?」
「ここで扱っているものでしたら薬茶も飲み薬などもありますので、そちらについてはご説明しますね。」
フランカがこの店で扱っている薬の説明を始めた。
レスリーとユリアは商品の補充をするために店の奥の部屋から商品を取りに行き、店の棚に補充をしているところだ。ユリアが籠の中に入れて運んできた商品をレスリーに渡していき、レスリーが脚立を使いそれらの品物を上の棚まで並べていく。扱っている品物が比較的小さく軽いため、二人とも無理の無い範囲でこうしてよく店の手伝いをしてくれているため、ラヤーナは二人の子供たちにもお給金として毎週お小遣いを渡しており、金額については、二人の両親ヘリットとフランカにも相談し、働きに見合ったものにしている。
2人がもう少し商品を棚に補充するため、再び店の奥の部屋に商品を取りに行くとちょうどラヤーナがギルドから戻ってきたところだった。
「あ、ラヤーナ、おかえり~!」
「おかえりなさーい!」
「二人とも、いつもお手伝いありがとう。」
「ラヤーナ、今、他の国から薬を買いたいって言うお客さんが来てるよ。お母さんが今、薬の説明をしているところなんだ。」
「あら、そうなの…他の国から…ちょうどオータムナスのお祭りがあるから、町中にも、他の町や国からのお客さんも来ていたわね。」
「うん。なんかね、きしだんに知り合いがいるって言ってたよ。」
「え、そんなことを?」
「うん。アウロレリア王国から来ているみたいだよ。そこの騎士団の人たちも、ギルドから売ってもらっているラヤーナの薬で助かった人が大勢いるみたい。」
「そうなのね…皆さんに…国を超えて薬が回り始めているのね。」
「うん。それでね、ふつうのお薬も欲しいんだって!その国の人、自分の国でもほしいんだって!」
「そうなのね。ありがとう、レスリー、ユリア。今フランカさんが対応しているのよね?すぐに行ってみるわね。」
「「いってらっしゃーい!!」」
ラヤーナは対応をしてもらっているであろう二人の母親のフランカのところへ急いで向かった。これからのお祭りの期間、店のことも回せ、お祭りを楽しむことができるのも、二人の両親ヘリットとフランカが協力してくれているおかげだ。店舗を貸してくれ、店員としてお店を回すことにも協力してくれている。扱っているものが、「薬」ということもあり、信頼のできる人でないとお店を任せることもできない。本当にここの家族には感謝しかない。
「お待たせいたしました。他国からお客様ですか?」
「ああ、ラヤーナさん、おかえりなさい。こちら、アウロレリア王国からのお客様です。」
「フランカさん、対応をありがとうございます。店主のラヤーナと申します。」
「ああ、ご店主はずいぶんとお若いお嬢さんなのですね。アウロレリア王国から参りましたアルナウトと申します。こちらで扱っている薬を是非私の国でも販売させていただきたいと思っています。オータムナスのお祭りもちょうど開催されるので、この町に訪れました。」
「そうですか。それは遠いところからわざわざお越しいただきありがとうございます。」
「ここで扱っている薬については、先ほど私の方からアルナウトさんにご説明しました。」
「フランカさん、ありがとうございます。」
「先ほどフランカさんからお話は伺いました。薬茶や飲み薬もいろいろ効能があり、値段もそれほど高いわけではない、というところが良いですね。本当に聞いていた通りです。すぐにでもアウロレリア王国でも販売したいのですが、お願いできませんか?」
「アウロレリア王国でも販売していただけるのはとても嬉しいです。ですが、売買に関してはこの町以外の販売に関して、すべてギルドに入ってもらっています。私一人では、このお店をフランカさんたちに助けていただいてまわすことと、薬を作ることで手いっぱいなのです。」
「お一人でこれだけの薬を作られているのですか?てっきり工場などがあるものだと思っていました。」
「工場はありません。私が一人で作っています。もしアウロレリア王国で販売していただく場合、商品の納入も含めた交渉はギルドとのやり取りになりますが、それでもよろしいですか?」
「直接交渉はできませんか?」
「申し訳ありません。私一人ではそこまでの管理は難しいので、この店以外での販売は、すべてギルド経由となります。商品のご要望や、使っていただいた感想などは直接伺いたいと思いますので、その際はギルドでの取引の際、私も同席させていただきます。」
「なるほど…わかりました。売買はギルド経由ですが、必要に応じてご相談には乗っていただけるということですね。」
「はい。まだ数日この町にいらっしゃるのでしょうか?本日は私もここでの準備があるため、明日以降でよろしければお店の閉店後にギルドへ行ってすぐに交渉することもできます。」
「おお、それはありがたい。お祭りが終わるまであと10日ほど滞在する予定です。ギルドの都合の良い日で構いませんので、交渉日を設けていただけると助かります。」
「分かりました。少しお待ちください。」
ラヤーナは店の奥に設置してある通信用魔道具でギルドに連絡を取ってみた。手短に今回の件を伝えると、明日の夕方、交渉の時間を設けてもらえることになった。
「アルナウトさん、お待たせしました。ギルドは明日の夕方が良いそうです。明日の夕方でもよろしいですか?」
「はい。もちろんです。」
「それでは明日の5ラルに直接ギルドの窓口へいらしてください。私もその頃にギルドに向かいます。」
「分かりました。明日はぜひよろしくお願いします。」
※子供たちはラヤーナにすっかり懐き、呼び方が「ラヤーナさん」⇒「ラヤーナ」に