3-1 看板娘
「こんにちは~、この間のチェルルのお茶が美味しかったのよ~。体調も良いし、今日はおいてある?」
「はい、昨日補充できましたので、今日はありますよ。」
「それから塗り薬も1つお願いしたいの。今日は5キュプの大きい方ね。その水色の…えぇ、それそれ、それくらいでちょうどいいの。もう、うちの人たちはしょっちゅう擦り傷を作るのよ。前は聖水を使っていたけれど、こっちの薬の方が安いし、効きはいいし、少し塗れば十分だしね、ほんとにいいものよね。それも1つお願いね。」
週に3日、2ラルから4ラルまでの、2ルラル開けているお店はいつもお客さんが誰かしらいる。フランカもレスリーも接客にだいぶ慣れ、お店は順調に繁盛している。繁盛するということは、それだけ薬を使う人たちが増え、定着しているということだ。そして、ユリアが思っている以上に売り上げに貢献してくれていた。
「この塗り薬ねぇ…、みんなに勧められてきたんだけど、本当に効くのかしらね…」
「あ、おばちゃん!こんにちは。」
店の隅にある、ユリアの遊び場で一人遊びをしているところに店の客が声をかける。
「あら、ユリアちゃんもお手伝い?」
「そう、ユリアもお手伝いだよ!おばちゃん、くすりかいに来たの?」
「そうなんだけどね…みんながここの薬は良いって言うから来てみたんだけど…こんなちっぽけな1キュプのものだと、擦り傷1つ治すだけでやっとじゃないかと思ってね。高くはないが、効くかどうかわからないものを買ってもね…」
「そっかー。おばちゃん、せい水いっぱいもってたもんね!」
「そうなんだよ…。まだたくさんあるからね~、無理して買わなくてもと思うんだけど、みんなが良いって言うからねぇ~。」
「うん。むりしてかわなくてもいいと思うよ、せい水あるなら~。」
「おや、そうかい。ユリアちゃんは薬が売れないと困るんじゃないのかい?薬を売るお手伝いをしているんだろ?」
「え、ユリアはくすりがひつような人に、うるお手伝いをしてるんだよ?おばちゃんはいらないでしょ?ひつようじゃないから、うらなくてもいいんだよ。」
「…そりゃ…そうだけど…」
「せい水あるなら、それをつかえばいいよ!ここのくすりはせい水がなくて困っている人がつかうのがさきなの。だからおばちゃん、せい水のくすりがなくなって困ったら、こっちのくすりをかいにくればいいんだよ。」
「そうだよね…うーん…どうしようかね…」
「あ、いらっしゃいませ~」
「お~ユリアちゃん、今日もお手伝いかい?」
「うん。ユリア、ちゃんとおくすりがひつような人のお手伝いしてるよ!」
「おおーえらいなー。ユリアちゃんがこの間、それならこれだよ、って言ってくれた薬ね、本当に良かったんだよ。かみさんが具合悪かったのが、飲んですぐに良くなったよ。すごいね、ここの薬は。」
「そうー、すごいんだよーーーーー!ユリアね、きじゅうにおそわれて、ぐあいわるいよりももっとわるくて、いっぱいぐらぐらしてたの。このジージャロップのんで、元気になったんだよ!森から歩いてかえってこれたの。きずもぜーんぶ、くすりでなおったの!おじさんも、ジージャロップのんだんでしょ?」
「ああ、そうだよ。この間は『中』の効果のジージャロップにしたんだけどね。だいぶ調子もよくなったから、今度はいつも飲めるように、普段から少しずつ飲むと疲れにくいって聞いた効果の軽を買っていこうと思ってね。」
「うん、それ、すごくいいよ!お父さんも、おかあさんも、お兄ちゃんも、ユリアも、みーんなまいあさのんでいるの。だからね、いっぱい元気だよ!」
「うん、よくわかるよ。ユリアちゃんも、レスリーも、顔色がずっとよくなっている。フランカも元気だし、ヘリットなんか、前より元気だからな。」
「お父さん、すごく元気だよ!」
「そうだよな~。毎日か…うん、フランカ、やっぱりもう一回り大きい方の(効能が)軽いジージャロップにしてくれ。そんなに高いもんじゃないし、それで家のみんなが元気ならそのほうがいいからな。」
「うん。おじさんもおばちゃんも、みんな元気になるね!」
「そうだね、ありがとよ、ユリアちゃん。」
「おじさん、またね~~~」
「…ユリアちゃん…」
「ん?なーにーおばちゃん?」
「あの、ジージャロップっていうのは?」
「うーん、あまくて、元気をくれるのみ物だよ!」
「甘いのかい?」
「うん。甘いよ。」
「ふーん…」
「お水とかに少し入れて飲むか、お茶に入れるんだって。」
「お茶に?」
「うん。ふつうのお茶でもいいし、やく茶に入れてもおいしいよ!」
「薬茶って…なんだい?」
「やく茶は体にとってもいいお茶だよ!お母さんは、やく茶のんでるから、おはだツルツルしてるもん!ユリアもときどきのませてもらってるよ。」
「え、肌がツルツル…それはどういうことだい?」
「うん。お茶がね、おはだをツルツルするのたすけるんだって。やく茶はね、おかあさんにきくといいよ。」
「そうかい。塗り薬は、聖水があるからまた今度でもいいと思ったけど、薬茶はどんなもんか知りたいね。フランカに聞いてみるよ。」
「うん。それがいいよ、おばちゃん。」
ユリアの率直な感想は、薬の効果に疑問を持っている人たちの不安をやわらげ、購買意欲を引き出すようだ。ユリアは単純に、自分が思っていることを伝えているだけだが、その言葉に嘘はない。また、この一家は誠実で実直なことも知られていて、子どもであってもその性質は信頼できるものだと知られている。
それに、この家族は全員、薬がいかに効果があったのかを目の前で見て実感している。良い薬を安い値段でみんなにゆき渡るように売る、ということは、やりがいもあって楽しく、フランカも、子どもたちと一緒に自分のできる仕事ができて、それもうれしかった。
「こんにちは~」
「いらっしゃいませ。」
「おー、ユリア、今日も元気そうだな。」
「あ、ドルのおじちゃん。」
「…おじちゃんは…なぁ、ユリア、俺はまだ若いんだよ。お兄ちゃんくらいにしてほしいんだけどね…」
「えー、お兄ちゃんはレスリーお兄ちゃんだもん。おじちゃんは、おじちゃんでしょ?」
「そりゃ、ユリアから見れば俺はおじさんだろうけど…」
「今日もラヤーナさん、いないよー」
「え…いないのか…」
「ドルさん、ユリアがごめんなさいね。」
「いや、フランカさん。すみません、子ども相手に…」
「いえいえ。それよりもラヤーナさんに何か御用が?私の方からドルさんが用事があると連絡しておきましょうか?」
「え、いや、大丈夫です。」
「あら、でもラヤーナさんに用事が…」
「あ、急ぎじゃないんで、ほんと、大丈夫です。」
「そう…それならいいけれど…」
「あの…次はラヤーナさん、いつ来られるんですかね?」
「あ、実は昨日まで3日ほど来ていたのよ。ギルドからの呼び出しがあってね。その時に、ギルドの方には薬を納品されていったから、次は…2週間後かしら。もしかしたらその前に来るかもしれないと言っていたわ。」
「…そう…ですか…、くそっ…昨日だったのか…」
「おじちゃん、ざんねんだったね。」
「…そうだな…」
「また次、がんばって。」
「そうするよ、ユリア…」
「あら、お薬は買われて行かなかったけれど…いいのかしら?ラヤーナさんに用事だったのかしらね?」
「…お母さん…」
「なに、レスリー?」
「…ううん…何でもない…」
「そう?」
「うん。あ、お客さんだよ。」
お店は順調に繁盛している…
※子どもは気づいているが、フランカさんは気づいていない…という