2-46 ラヤーナ 助けた人の正体を知る
ラヤーナ達は森で休んでいた。
怪我をしている人はぐっすりと眠っているようだが、傷の方はそれほど心配しなくても良い状態にまで回復している。
ラティは寝そべっているアルバスの背中の毛の中で遊んでいるようだ。
「おお~、ここじゃったか。またせたの、嬢」
「ギルド長!よくここがお分かりになりましたね。」
「まあ、これも年寄りのスキルじゃよ。」
「…ギルド長は…すごく長く生きていらっしゃるんですよね…」
「まぁ、そうだの~~~~。嬢、そのうち儂のことはわかるから心配するな。それよりも…おおおおお~~~~立派なレオールじゃの。白いレオール…最上位種か…お主は嬢の守護獣じゃな。」
『お前は…』
「よいよい、心配するな。儂はお前の爺さんを知っておるよ。優しくて誠実、本当に良い奴じゃった…。レオールの寿命は、儂ら程は無いからの…仕方がないて…」
『竜族か…』
「まぁ、そういうことだよ。」
「ギルド長が…竜族…竜人なのですか?」
「フォッフォッフォッ。ここ最近はずっとこの姿じゃよ。おお、ところでケガ人はどこかな?」
「あ、はい。そちらです。傷がとても深く、えぐられた傷までは治せませんでした。」
「…いや…よく…これはよほどひどい状態であったのだろう…気が…これは嬢の気か…こ奴のもともとの気も魔力もほとんどない…嬢…治癒魔法も使えるようになったの」
「…はい…」
「心配せんでも、どこかに言ったりはせんよ。」
「…ありがとうございます。」
「それで…嬢は今日町に来る予定だったのぉ。」
「はい。その途中でケガ人に遭遇しました。」
「そうか…じゃぁ、このまま儂とケガ人と一緒にギルドまで行こうかの。守護獣殿もそれでよいか?」
『…あぁ…かまわん…』
「そうか、それじゃ行くかの。ラティもおるな。では守護獣殿、またの。」
アルバスに何かを言おうとした頃には、すでにギルド長の執務室に転移していた。
怪我をしている人はソファの上に寝ている。ギルド長は複数人を同時に転移させる空間魔法も使えるのか…、もっと…実はもっとすごいことができる人なのかもしれない…。
「嬢、先に薬を預かってもよいかな?騎士団の方の負傷者が増えておっての、すぐに欲しいそうなんだよ。」
「あ、はい、どうぞ。この袋に入っています。」
「この袋…袋ごと預かってもよいかの?」
「はい。この袋には、騎士団に納入する薬しか入っていません。ですので、こちらの中の物は全て騎士団の皆さんにお渡しください。」
「分かった。ありがとう、嬢。すぐにメリルに騎士団へ送るように伝えよう。」
ギルド長はカバンを持って部屋を出ていき、メリルに薬を渡すと、また執務室に戻ってきた。
「嬢、今日はこの者が世話になったの。」
「いえ、ケガ人をそのままにはできませんから。それよりもお忙しい中お呼びすることになって申し訳ありません。他に方法が無くて…」
「このペンダントにラティが少し魔法を載せたのだろう。このペンダントはラヤーナ嬢を守るためのものだからの。嬢の守護獣の魔力を媒体にして言葉を伝えることができたのだろう。賢い精霊だの。しっかりと嬢を守っておる。」
『ラティね~・ラヤーナを守るのね~~~~』
「おうおう、よいよい。ぜひ嬢をこれからも守ってくれ。」
『任せてなのね~』
「嬢、こ奴が誰か知っておるかね?」
「いいえ…わかりません。」
「この、大けがをした者はこの国の王子じゃて…」
「え!王子様なんですか?」
「そうじゃ。鬼獣狩りのため、騎士団をまとめている者じゃ。これだけの傷を負うとは…油断したかの…」
「あの…その…もうちょっと丁寧に扱わないと…まずかったですか?」
「こ奴か?心配せんでもいいよ。まだまだ若造じゃからの。おそらく無謀なことをしたんじゃろうて…嬢の森に転移していなければ、今頃は鬼獣のえさになっておったよ。」
「…そんなことに…」
「そうじゃ。まぁ、これで国王にまた貸しができたからの。」
「国王様…ですか…」
「そうじゃ。嬢の薬を国で直接扱わせろとうるさくてのぉ~。ま、これで交渉材料もあるし、心配はないじゃろ。嬢は自分のやりたいように店を作りなさい。騎士団からも、国王からも、嬢に手出しはさせんから、嬢は町の人、国の人、騎士団の連中、みなを助けているぞ。みな嬢の薬を必要としているんじゃ。作りたいものを、自分で思うものを、必要と思うものを自由に作りなさい。」
「…はい。ギルド長、ありがとうございます。」
この後、ラヤーナはギルドショップで販売してもらう基本薬を預け、その他の薬茶や緩やかな薬を売るために、ギルドカフェの区画ショップの販売日の予約をした。その後は新しい店舗で必要になるいろいろなものを買いそろえるために、町の店でたくさんの買い物をした。
店舗準備のために必要な物や、その店舗にある別の部屋を町に来た時に泊まれるようにするために、リネンや着替えなど、購入したいと思っていたものは全て購入していく。
『いっぱい買ったのね~~~~~』
「かなりの量ね。食材や食べ物も買って、このままフランカさんのところへ行きましょう。お店の準備を少しでもしておきたいわね。」
レスリーやユリアにお土産を買い、店舗予定の別邸へ向かった。
到着すると、まずは正式に借りるための書類について必要なことをフランカに伝える。
ギルドで後日、職員が店舗としての登録をし、それをラヤーナが借りる、という書類を持ってくるそうだ。そこにサインをしてもらい、ギルドに提出すると、正式に賃貸契約を結ぶことになる。
ギルドの手続きにもお金が必要になるため、当面3か月分の家賃をフランカに渡した。食材や食べ物も買ってきたので、それもフランカに渡し、店舗の準備を進めた。
フランカから、簡単に掃除をしてあることと、今日から別邸を自由に使ってよい、と言われたため、遠慮なく準備を進めさせてもらうことにした。
この日は宿をとっているため、5ラルを過ぎた頃には片付けをやめて宿屋に戻ることにした。
「ラヤーナさん、いつまで町にいる予定ですか?」
「3日後に森へ戻る予定です。明日はお昼まではギルドカフェの区画ショップで薬の販売をする予定なので、お昼の後と明後日一日は店舗の準備をさせてもらいに来てもいいでしょうか?」
「えぇ、もちろん構いません。ラヤーナさんがよろしければ、明日から宿ではなく、森へ戻るまでの食事は私達の方で用意します。寝室も、店舗の方の寝室が間に合わなければこちらにもお客様用寝室がありますので、そちらにとまっていただきたいんです。食材はたくさんラヤーナさんから頂きましたし、店舗の準備をするのなら、少しでも時間があった方がよいと思うので、同じ敷地なので一緒に食事をとっていただければ思いました。レスリーもユリアも喜ぶと思うので、ご一緒にいかがですか?」
「え、でもそれだと作る手間が…」
「ラヤーナさんお一人の分が増えても、作る手間にそんなに違いはありませんよ。こちらで一緒に食べてしまう方が、作業が少しでも楽になるでしょう?それくらいしか私の方ではお手伝いできないですし…お礼にもならないんですけれど…」
「分かりました。そう言っていただけると助かります。明日はお昼前までショップ販売がありますが、おそらくだいぶ早く終わると思いますので、お昼の分は私が屋台で買ってきます。明日の夕食と、明後日、3日後の食事をお願いしてもよいですか?」
「えぇ、もちろんです!よかった。もう本当にお世話になりっぱなしで、何か私にもできればと思っていたんです。少しでもラヤーナさんの店舗準備の助けになれればと思っていました。」
「食事を用意していただけるととっても助かります。すみません、ではお世話になります。今日は宿屋に戻るので、また明日よろしくお願いします。」
翌日のお昼はレスリーやユリアたちと一緒に昼食をとり、二人に手伝ってもらいながら、まずこの日から使えるように寝室の準備をした。ベッドカバーやブランケットなどは、町の店で購入してきたので、これでこの日からはここで寝ることができる。そのまま二人に手伝ってもらいながら店舗の準備も進めた。店舗部の方は、以前使われていた部分をそのまま活用して、当面は使うことにしている。できればここで大掛かりな魔法は使いたくない。あくまでも、残っている家具や道具を利用して、店舗のように整えたのだが、小さいながらユリアのセンスがなかなか良く、レスリーと二人でアイデアを出しながら、店舗として整えていった。
翌々日は母親のフランカも手伝ってくれたおかげで、別邸の店舗部以外の居間などもすっきりと片付き、商談などもできるような場所になった。キッチンも小さいながら使いやすいものが設置してあり、フランカが夫のヘリットから聞いた話では、商売熱心だった祖父はほとんどこちらで生活をしていたらしい。そのため、この別邸でも生活するために必要なものは普通に一通りそろっているということだった。この後夕食前まで、店舗部の準備を進めた。
3日目は店舗部で、まだ片付け途中だったところを終わらせ、これでほぼ準備はできた状態だ。あとは次回、町に来た時に、薬をここで売れるように商品を持ち込めばよい。
ラヤーナはフランカに2週間後にまた戻ってくることを告げ、店舗を後にした。2週間後に店をオープンし、最初はレスリーやユリアと一緒に手伝ってもらうようにお願いをしたので、少しずつ慣れてもらえばいい。さすがに次回ここに来るときは3日では不十分なため、1週間ほど町にいる予定だ。
さぁ、薬屋さんオープンまであと少しだ!