2-43 ラヤーナ 4つの魔法がレベル6になる
「ラヤーナ、よく魔法書を手に入れられたわね!」
「そうなのよ。偶然オオカミ獣人の兄妹を助けたの。その時のお礼として譲ってもらえることになったの。」
『ラティ見つけたのね~・本棚に本たくさん・魔道具もたくさん・ごちゃごちゃなのに見つけたのね~~~~』
「必要な物には、きちんとご縁があるんですよ。良かったですね、ラヤーナ。」
「はい、ローラ様。」
ラヤーナとラティは精霊の森の家に戻っていた。
町でのことを中心に、お店を1か月後に開始するつもりと、そのプランなどを話していた。薬の効能の高さやその他の新薬などの種類については、ローラ様やレーリナからさらにアドバイスをもらい、店舗では効き目が緩く一般的な薬や、お茶や保湿液のような日々の健康を守るようなものを主に販売していくことにした。騎士団や今後その他の(王国からの購入希望等)購入希望については、これまで通り高い効能の物を中心にギルドにお願いすることにしている。
「いよいよ、魔法書でレベルアップね!ラヤーナ、早速やってみて。」
ラヤーナは本の内容が読める、つまりレベルを上げることができる魔法書を1冊取り出した。これは水の魔法書だ。まずはこれから使ってみることにした。
「やり方は…」
「本を開いて、あなたの水の魔法の魔力を本に流してみてください。あとは自然とどうすればいいのかわかりますよ。」
ローラ様が言ったとおりに本に水の魔法の魔力を流す。ただの魔力を流すのではなく、“水の魔法”ということに絞った魔力を流す、ということがコツの様だ。
ゆっくりと魔力を流すと本が光っていく。すると、自分の水魔法の魔力がぐんぐんと吸い取られていくような感覚になる。根こそぎ…とはいかないが、これはかなり魔力を消費する。
本の光が一層強くなり、眩しくて見えないほどになると本がはじけ、水魔法の魔力結晶になりキラキラと輝く。その結晶がラヤーナの身体をつつむと、少しずつそれらがラヤーナの体に吸収されていく。その時間は1ミルだったのか、1ルラルだったのかはわからない。
時間の感覚がなく、結晶が自分の身体にひたすら吸収されていき、魔法書に注ぎ込んだ魔力が研ぎ澄まされ、精錬されて自分の身体に戻ってきたような感覚だ。
ようやくすべての結晶がラヤーナの身体に吸収され、ホッと一息つく。
「体の調子は大丈夫ですか?」
「はい。最初は魔力をたくさん使っていたんですが、すべて戻ってきたので、魔力不足などもありません。」
「そう良かったわ。」
「残りの、風、火、土の魔法も上げてしまおうと思います。」
「ラヤーナ、大丈夫?さすがにきついんじゃないの?」
「大丈夫よ、レーリナ。魔力はみんな戻ってきたから。このレベル上げは、こっちでやった方がよいと思ったの。外森の家でもできると思うけれど、こっちで魔法書を使う方がいいと思うの。」
「そうね、私もその方がよいと思います。」
「今日はまず残り3つを上げてしまいます。その他の魔法書は、読めるようになったら、またここでレベル上げをしていきます。」
「ラヤーナが大丈夫なら、早く上げていった方がいいわね。」
「えぇ、私もそう思ったの。残り3冊、用意するわね。」
ラヤーナは水魔法の時と同様に、火、風、土の魔法もレベルを上げた。
「ラヤーナ、4つの魔法はこれでレベルが上がっているでしょう。カードで確認してごらんなさい。」
名前:ラヤーナ・カーシム
レベル:7
スキルレベル:7
魔力レベル:6
年齢:16
種:人
職:薬師
職スキル:薬草の育成(全)
薬の作成(8)
薬の開発(8)
薬の鑑定(8)
魔法:水(6)、火(6)、風(6)、土(6)、空間(5)、時間(4)、治癒(0)
称号:森神人
特殊スキル:精霊の本の記録
神水の作成
精霊の指輪の所有
守護獣との守りの絆
「あ、4つの魔法がレベルが6になっています。」
「ラヤーナがしている精霊の指輪も、もう少し強くしましょう。指輪を貸してください。」
ローラ様はその指輪に更に強い魔法をかけたようだ。
「はい、これで大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。ローラ様…あの…エリスの町のギルド長なんですが…私のことを森神人だとわかり、ラティのことも見えるようなんですが、そういう人もいるんですか?」
「え…そのような人物がまだ生きている…?」
「まだ…というと?」
「ラヤーナ、寿命については以前にもお話した通り、人間族は70年前後になりますが、その他は種族によってだいぶ異なることはもうご存知ですよね。」
「はい、以前教えていただきましたし、町での講習でも習いました。」
「そう…エルの力が奪われてしまってから、寿命の恩恵の力はほとんどありません。」
「寿命の恩恵…ですか?」
「えぇ。本来、“エル”の力をもってこの世界を守ることができれば、この世界の人達…人として過ごしている人間や亜人、ドワーフ、エルフ…は寿命の恩恵を受けることができ、寿命が長くなります。人間種は変わらないのですが、例えば亜人の普通種は2倍ほどの寿命になります。」
「長生きするんですね。」
「えぇ、しかし今私には“エル”の力がないため、その恩恵が非常に限定的な場所、わかりやすくお伝えすると、このヴェルネールの森から近い範囲までにその恩恵が薄くかかる状態です。その範囲はおそらくリエスの町までだろうと思います。そして、その恩恵は非常に薄いため、亜人の最上位種またはエルフの最上位種にしかかからないでしょう。」
「その他の人たちには…」
「恩恵の力が薄いため、彼ら以外には効かないでしょう。ラティが見えるということは、私が“エル”の力を奪われる前に生きていた人物に限定されます。それは1000年近く前のことになります。」
「1000年も生きている…ということですか?」
「えぇ、そういうことになります。亜人でも上位種は恩恵があっても400年ほど、恩恵がなければ150年ほどが寿命です。エルフもドワーフも、恩恵があっても1000年以上の寿命はありません。ですから、もし1000年以上生きているとするならば…おそらく…亜人の最上位種になるでしょう。」
「ギルド長が、亜人の最上位種…」
『ローラ様・大丈夫なの・ラティわかったの・ギルド長大丈夫』
「ラティ、あなたにはわかったの?」
『わかったのね~』
ラティはローラの耳元に行き何かをローラに告げる。
「…なるほど…わかりました。ラヤーナ、この件は心配はいりません。ギルド長は我々の味方です。そして、今はこれ以上この件には触れない方がよい、ということになります。」
「今は、ですか?」
「えぇ。この世界を守るために…です。ラヤーナ、ごめんなさいね。全てをお話しできればよいのですが、理があるためにあなたにお伝え出来ないことがたくさんあります。それを伝えれば、あなたの身に危険が及んでしまいます。ですから、ギルド長を信じて、このまま町でお店を開いてくれませんか?」
「ローラ様がそうおっしゃるのであれば、私は…特に不満や異論はありません。実際にギルド長はとてもよくしてくださっています。あ、これ、ギルド長から私に連絡をするためにお預かりしているものです。」
ラヤーナは首から下げているペンダントをそのままローラ様とレーリナに見せる。
「…あ…それ…」
「レーリナ?」
「わかったわ!なるほど。ラヤーナ、それ絶対外しちゃだめよ。私にもわかるもの。それ、特別な物よ。そしてラヤーナを守ってくれるものでもある。絶対外しちゃダメ!」
「分かったわ、レーリナもそういうんですもの。これは外さずにずっと身に付けておくようにするわ。」
「えぇ、そうしてください。必ずそのペンダントもあなたを守ってくれるでしょう。精霊の指輪と共に、常に身に付けておいてください。」