2-37 ラヤーナ 獣人の兄妹を助ける
「アルバス、今日も森の出口までお願いね。」
『あぁ』
「ウフフ。アルバスが一緒だと安心ね。」
『安心なのね~』
「転移魔法は使えるようになったけれど、店舗を構えたとしても急ぎじゃないときは、これからもこうしてアルバスに送り迎えして欲しいわ。こうしてアルバスと一緒に森を歩くのはとても楽しいもの。」
『楽しいのね~・アルバスと一緒お散歩ね~・鬼獣もたくさんね~』
『そうだな…』
「今回は、“タレ”の材料を購入して帰る予定よ!できるかどうかわからないけれど、材料の予想ができているの。もしかしたら同じ味にはできないかもしれないけれど…あら…」
『だれかいるのね!』
『ラヤーナ、下がっていろ。鬼獣だ。』
どうやら鬼獣がいるようだ。森の中を歩く場合は必ずアルバスが一緒のため、ラヤーナは鬼獣に遭遇してもあまり危機感を持たなくなってしまった。
「…でも…子供が襲われている?」
『二人いるのね~・オオカミ獣人の子どもね~』
「アルバス、二人を助けられる?」
『鬼獣は我が狩る。子供を助けるのはお前だろう?』
「私?」
『ラヤーナ・薬なのね・怪我しているのね~』
「え!それは早く手当てをしないと!」
『そこに居ろ。鬼獣を狩ってくる。』
「アルバス、お願いね。」
アルバスはあっという間に鬼獣に近寄り、鬼獣と対峙する。それほど距離がなかったとはいえ、すぐにラヤーナとラティが走ってその場所に着く頃には、すでに鬼獣はアルバスに狩られていた。鬼獣の横には傷を負ってぐったりとしている女の子の獣人と、同じように深い傷を負いながらも女の子を心配する男の子の獣人がいた。
「あなたたち、どうしたの?」
「妹が…」
「…これはひどい傷だわ。動かないで、二人とも手当をするから。」
「…あ…ありがとう…」
ラヤーナはカバンから薬を取り出す。
町で売る予定のものだが、試薬として騎士団から要請があった強い薬も持ってきている。飲み薬なども持ってきたので、まずぐったりして動かなくなっている女の子に薬を飲ませた。男の子のほうが傷は深そうだが、妹を心配しているようで、気丈にふるまっているようだ。
「あなたもこれを飲んで。傷の方はこれから薬を塗るから。」
「…これ?」
「痛みを止める薬よ。早く飲みなさい。」
「…あ…でも…お金…」
「そんなことは気にしなくていいの。このままだと二人とも怪我が治らなくなってしまうわ。わかるでしょ。」
「…うん…」
「さぁ、飲んで。妹さんには今少しずつ口に流しているから。のどがコクコクしているから、意識ははっきりとは無いようだけど、飲めているから大丈夫よ。」
「お姉さん…ありがとう…」
「妹さんより、あなたの方が怪我がひどいじゃない。まずあなたの手当てをするわ。」
「僕は大丈夫、妹を…」
「ダメよ。あなたが先ね。妹さんも大丈夫よ、よく効く薬があるから心配しないで。」
「お姉さん…ありがとう…妹はユリアって言うんだ。僕はレスリー…」
「レスリー、ユリアのことは心配しないで。さあ、あなたのけがを見せて頂戴。」
ラヤーナはレスリーの身体を診察する。
「…ひどい傷じゃないの。こっちは深いわよ。先にこのジージャロップを飲んで。今薬を塗るわ。いたくないから大丈夫よ。」
ラヤーナは一番効果の高い薬、今回騎士団に頼まれて試作したものを取り出して、塗っていく。鬼獣などに襲われ傷が深いときにすぐに効くように作ったものだ。
薬を塗ると、傷がみるみるふさがっていく。レスリーは自分の傷がふさがっていくのを見て、とても驚いていた。ジージャロップが入ったカップを手に持ったまま、固まっている。
「レスリーどうしたの?傷はふさがったけど、どこか他にも怪我はある?怪我は全部薬を塗ったつもりだけれど…」
「…すごい………お姉さんの薬……すごい!」
「そう?ありがとう。ほら、ジージャロップも飲んで。あなた、傷で、かなり血を流してしまったから、ちゃんとそれを飲んでね。多分少し体が温かくなると思うけれど、流れた血の分をいま体が一生懸命作っているところだから。少しここで休んでいてね。私はその間、ユリアの手当てをしてくるから。」
「お姉さん…あの…白いのは…」
「あぁ。アルバスね。私の仲間よ。私はラヤーナ、あそこにいる魔獣は私の仲間のアルバスよ。」
「すごい…かっこいい…綺麗…」
「アルバス、かっこいいですって。良かったわね。」
……///……
「…なんか…にらまれているの、ぼく?」
「恥ずかしがっているだけよ。」
「そうなんだ…ちょっと眠い…」
「ジージャロップの効果よ。10ミルほど休んでいてね。」
「うん。ラヤーナ…」
レスリーが眠っている間にユリアの手当てを始める。
ユリアの傷はそれほど深くはないが、女の子だ。傷が残ればショックを受けるだろう。そもそも鬼獣に襲われたこと自体がショックかもしれない。薬を丁寧に塗り込み、傷がふさがっていくのを確認する。レスリーと同じように、怪我の箇所は全部薬を塗ったため、傷はきれいに治っている。ジージャロップも少し飲ませた。うっすらと意識があるようで、コクコクと少しずつ飲めているようだ。良かった…ジージャロップを飲んでおくのと飲んでいないのでは、この後の体力回復の様子が変わってくる。アルバスはラヤーナ以外を載せることはできないし、ラヤーナが二人を抱えて歩くのもちょっと厳しい。子供二人には自力で歩いてもらわないといけない。
とりあえずアルバスが狩った鬼獣は素材を取り出す処理をし、残りは食肉として、いつものように買い取ってもらうためにカバンに入れた。二人が目を覚ますまで、アルバスとラティ、ラヤーナで果実を食べながら待っていると二人が目を覚ました。
「あ…僕たち…」
「お兄ちゃん…」
「あら、二人とも目が覚めたのね。どう、どこか調子の悪いところはない?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「あら、急にそんなかしこまらなくてもいいのよ。二人とも、どうして森の中にいたの?鬼獣が出るから森には子供だけでは来ないことになっているでしょ?」
「う…ん…そうなんだけど…お父さんが怪我と病気で動けなくなって…お母さんが仕事してるけど…薬代が高くて…食べるものも少なくて…だから…森で果実が採れたらッて…」
「…そうだったのね…果実…あ、これ上げるわ。ラーゴの実よ。ジージャロップを飲んだから、体調は良くなったと思うけれど、お腹が空いているんじゃない?」
「え、もらっていいの?」
「いいわよ。はいどうぞ。ユリアもね。」
「ありがとう。…お姉さん…」
「あ、ユリアには言ってなかったわね。私はラヤーナよ。」