2-35 ラヤーナ アルバスと絆を結ぶ
魔法書のことをローラ様やレーリナに相談したが、現状は様子を見る、ということになった。まだ二人とも森から出られないし、魔法書を町の外以外で手に入れることはまだできない。別の王国に行って手に入れる、という手もあるが、そこでは魔法書がどのように扱われているかわからないし、それにそもそもまだラヤーナは国から出ることができない。今は無理をせずにラヤーナの他の魔法やスキルを上げていくことを優先し、今後については王国内にいてどうにか魔法書を手に入れることができないか、みんなで考えていくことになった。
アルバスのいる外森の家に戻り、新しい薬や、注文があった薬などを作っていた。
『焼肉は旨いな…』
「アルバス、あのお肉好きよね。」
『ラティも好きなの~』
「ラティもって、私は食べていないけど?どうやって焼肉の気を取り込んだの?」
『我だな…』
『アルバスお肉食べるの~・ラティもアルバスの気をもらうの~・美味しいの~』
「ラティはアルバスからも精霊気の様なものがもらえるのね…」
『昨日からもらえるようになったの~・まだお肉・“アルバスのお肉箱”に入っているから・たくさん食べれるのね~』
「…まぁ、二人とも美味しく食べてくれればそれでいいわ…でも、待って…昨日から気がもらえる?」
『ラヤーナ、畑に行くぞ。』
「あ、アルバス、ちょっと待って。」
突然アルバスは家の裏にある畑に向かう。ラヤーナも急いでアルバスの後についていった。
『ラヤーナ・やくそう・とって』
『たべごろよ・とって』
『アルバスと・たべるのよ』
「ここの薬草?いつもはみんなまだダメって言うから、この隣の薬草をつかっていたのだけど、今日はいいのね。」
『わたしたちは・とくべつ』
『アルバスと・ラヤーナの・やくそう』
『アルバス・ときどき・たべてたわ』
「え!アルバス、食べちゃってたの?」
『我は食せ、と言われたからだが?』
「え、そうなの?薬草さん…まって、あなたたち、ギーの薬草じゃないの?」
『ウフフ・ちがうの』
『ウフフ・とくべつ』
『ウフフ・ちがうの』
ギーの薬草によく似ている。実際、ラヤーナはギーの薬草だと思って植えていた。彼らはここに植えてほしいと指定し、他のギーの薬草たちとは、小さいが別の畑に植えて欲しいと言われたため、隣り合わせとはいっても畑は別になっていた。
だがよく見ると、本当によく見ないとわからないのだが、色がすこしだけギーの薬草とは異なっている。
『アルバス・やくそう』
『わたしたち・ひつよう』
『そのとき・たべた』
「あなたたちは…」
『ウフフ・まもる』
『ウフフ・まもられる』
『ウフフ・きずな』
「…もしかして…絆を繋ぐための薬草?」
『きずな・だいじ』
『もりがみびとだけ・たべられる』
『しゅごじゅうだけ・たべられる』
「あ!…もしかして、ラティがアルバスの気を食べられるようになったのも…」
『そうかもしれないな…』
「あ!この間、私の考えていることとか心配していることとかが分かるようになったかも…って思ったけれど…もしかしたら…」
『そうなのね~・絆ができ始めたのね~』
「ラティは知ってたの?」
『この間ね~・ラヤーナとアルバス・気が繋がり始めてたのね~・アルバスは薬草食べているのね~・ラヤーナと絆・アルバス薬草たくさん食べるのね~』
「そうだったのね…」
『薬草は旨いぞ。まぁ好物だしな。』
『薬草美味しいのね~・アルバス絆・準備できたのね~・次はラヤーナたべるのね~』
「…このまま食べればいいのかしら?でも…サラダっていうわけじゃないから…ちょっと食べづらいわ。」
『ラヤーナ・やくすい』
『かじつ・まぜる』
『おいしい・のむ』
「薬水を作ればいいのね。わかった。作ってみるわ。」
ラヤーナは、畑から薬草を採り、ラーゴの実も1つ樹から採ってくると、家の中に戻り薬水を作り始めた。
『アルバスと一緒に飲むの~』
『薬水は旨い。』
『ラティも飲みたいの~~~』
「…ラティも飲んで大丈夫よね?」
念のため畑の薬草に聞いてみた。
『ラティ・だいじょうぶ』
『のんで・だいじょうぶ』
『おいしい・だいじょうぶ』
3人で一緒に飲むことにした。
「うん。美味しいわ」
『旨い。』
『美味しいの~』
「…それで…どうなるのかしら…あら、体が中からあたたかい?」
『ラヤーナ~・右手・アルバスの額に乗せるのね~』
「こんな感じ?」
『そのままなのね~』
「え、それだけ?」
『そのうちわかるの~~』
ラヤーナは右手をアルバスの額に乗せると、体の中にある熱が動き始め、右の手に集まってきた。それがゆっくりとアルバスの額に移っていく。
「え!なに、この感覚…」
『まだそのままなのね~・アルバス動かない・ラヤーナもそのままなのね~』
右手に集まった熱がアルバスの額からアルバスの身体の中を一巡りし、ラヤーナの右手に戻り今度はラヤーナの身体の中を流れていく。アルバスの研ぎ澄まされた高い能力やラヤーナを守るという温かく強い意志と感覚が熱から感じ取られそれがゆっくりとラヤーナの身体を巡ってまた右手に戻ってきた。
ラヤーナの右手と、アルバスの額が光る。
『もう手を放しても大丈夫ね~』
ラヤーナはゆっくりと手を放す。
アルバスの額には不思議な紋が光り、同じ紋がラヤーナの手の甲にある。
光はだんだんとおさまり、額と手にそれぞれ吸収されるように消えていく。今はアルバスの額にも、ラヤーナの手の甲にも紋は全く見えない。
『絆できたのね~』
…我の声は聞こえるか…
「え!アルバスの声?え、でもアルバスしゃべってないわよね…」
…聞こえるのだな…
…お前もやってみろ…
「え、やってみろって…」
…我に声を出さずに問いかけてみよ…
「えーと…」
…お肉は次回もたくさん欲しいですか…
『………………』
「あれ、聞こえなかった?」
『聞こえた…だが…問いかけがあれなのか?』
「え、だって今…とくに急ぎの話もないし…」
『え~・何お話したの?』
「お肉のこと?」
『お肉~・食べたいのね~』
『ふぅ…』
「あら、アルバス、お腹空いた?」
『…そうだな…』
「じゃ、お肉の用意するわね。」
『ラヤーナとアルバス・守りの絆・結べたのね~~~!』
「そうみたい。良かったわ。」
『…そうだな…』
どうやら、無事に守りの絆を結ぶことができたようだ。これで、離れていても意思の疎通ができるようになる。
あ、町から帰る時に森の入り口で待っていてもらえるようになるわ。お肉も出来立てを持って帰れるわね、よかったわ。時空魔法のカバンに入れているからほとんど出来立てってわかってはいるけど、気持ち的には、本当に目の前で焼けたばかりのお肉を食べてもらいたかったのよね…
…おい…肉のことだけなのか…
「あ、アルバス、聞こえてた?」
『いや、いい…もうそれでいい…』
「ウフフ。また町に行ったら買ってくるわね。」