2-32 ラヤーナ 騎士団に試薬を試してもらう
『ラヤーナ・おはようなのね~』
「おはようラティ。」
『“もしもし”・不思議ね~・面白いのね~』
「昨日買った通信用の魔道具ね。」
『そうなのね~』
「外森の家に戻ったら、使えるか試してみたいわね。」
『精霊の森は多分使えないの~・この魔道具の魔法・シールドで魔法なしになるのね~』
「精霊の森は特別だものね…」
『外森のシールドは・ラヤーナとアルバスの魔法をこの魔道具にかけると使えると思うの~』
「私の魔法を?」
『そうなの~・このままだと無理なのね~・でもラヤーナとアルバス・二人の魔法つかうと使えると思うの~』
『今のラヤーナの魔法だとね~・魔道具がもしもしなのかはわかるようになるのね~』
「もしもしって…あ、この魔道具に連絡が来たかどうかってこと?」
『そうなの~・アルバスの魔法も必要なのね~・シールドの中にもしもしの魔道は入れない方がいいのね~・だから・ラヤーナがもしもし来てるか分かればいいのね~』
「…魔道具に魔法を掛けて、外森の家のすぐ近くにこの魔道具を置ける場所を作ってそこに置けばいいかもしれないわね。外森の家に戻ったらやってみましょう。使えるようになれば、そのうちこの町にお店を構えた時に使える用になると思ったのよ…まずは家に戻った時に試してみましょう。」
『楽しみね~』
「さあ、ギルドに行くわよ。」
『だんちょ…』
「ラティ、大丈夫よ。またポケットに入っているといいわ。」
『そうするのなの…』
ラヤーナはギルドの受付に向かった。ラティは上衣のポケットに入っている。
「おはようございます。」
「おはようラヤーナさん。今日はこちらよ。あ、それから明日区画ショップで販売したいって昨日話していたでしょ?ちょうど1区画空いていたの、予約を入れておいたけれど良かったかしら?」
「はい、ありがとうございます。助かります。」
「それじゃ行きましょう。」
ラヤーナがメリルの後についていくと、ギルドの裏手にある別の大きめの建物の中に入っていく。周りは柵があり、メリルは鍵を取り出して入り口を開ける。中は広い仕切りの無い空間だ。
「今ギルド長もいらっしゃるわ。」
「この場所は…?」
「今日はここに直接騎士団が来るわ。この建物には空間魔法がかかっていて、向こうからここに転移してくるの。」
「ここに…直接いらっしゃるんですね…」
「えぇ。3つの部隊の負傷者みんな転移させるからって…」
「え!そんなに…しかもみんなって…」
「エルウィン様は稀代の空間魔法の使い手でもあるのよ。負傷者をみんな魔法で転移させるそうよ。」
「ラヤーナ嬢、久しぶりですな。」
「ギルド長、今日もよろしくお願いします。」
「こちらこそですな。さぁ、そろそろエルフィン殿がやってこられるでしょう。我々は壁の方へ寄っていましょう。」
部屋の中の空気が揺れ、強い魔力を感じると、急に空気が変わり、広い部屋の中に大勢の騎士が立っていた。負傷していて立てないものは、他の騎士に支えられたり、抱えられたりしている。これだけの人数の人たちが一瞬で移動するのを始めて見たラヤーナはびっくりしていた。
「ラヤーナ殿か。ここに実験台を連れてきた。早速頼む。」
「…一度にこれだけの移動って…すごいですね…びっくりしました…」
「そうか?今日は負傷者だけだから、大したことはない。」
「…そうですか…」
「それで、薬はできたのか?以前の薬もあるのか?メリルからいろいろあると聞いて、怪我が軽いものから、重いけがをしているものまで、自分の部隊にいるものはみんな連れてきた。」
「皆さん…ですか…」
「正確に言うと、転移魔法に耐えられる者だけ…だな。耐えられないほどの重傷者もいる。この間の薬はもう全て使い切って無い。それについても話をしたい。」
「…それについては…この後ギルド長も交えてご相談することになっていますので…」
「そうか。それはありがたい。今日も新薬以外に、この間の効き目の高い薬はあるのか?」
「えぇ…あります…」
「新薬を試した後、その薬を購入させてほしい。それを持たせて部下を転移魔法で王都に戻す。その後に相談だ。」
「…わかりました…それではまず、今日持ってきた薬の説明をしますね…」
ラヤーナは作ってきた薬を説明し、負傷者一人一人を簡単に診察しながら薬を塗ったり・症状によっては飲んでもらったりしていった。その間、エルウィン、メリル、ギルド長はずっとラヤーナの後についてくる。
ちょっと…やりにくい…
メリルやギルド長はまだいい。薬の効果に興味があるようで、どのような薬をどのように判断して渡しているのかも興味があるようだ。
問題はエルウィンだ。
まるでラヤーナが何か不思議な魔法でも使うのではないか、というようにじっと観察している。実際、簡単な水魔法で傷を綺麗にして風魔法で簡単に水を飛ばし、傷の状態を確認などしているのだが、そういう意味ではなく、特殊な何かをしているのではないか、と見ているようだ。
ギルド長はラヤーナの傷の状態を確認している様子や、体の症状、痛みの場所などを聞いている様子を見ながら、フムフムとなにか納得しているようだ。メリルは薬の効果を確認して、適正な値段を考えているようだった。
「飲み薬ですが、苦かったり、飲みにくかったりしないですか?」
「いや、野菜(草)の味にチェルルが混ざっていて、飲みやすいよ。」
「チェルルは草の苦みを消してくれますからね。飲みやすくてよかったです。」
「これはビーロップか?傷はさっきの塗り薬で直してもらったが、無理してたせいか風邪にもかかっちまったらしくて体調も悪かったんだよ。これ飲んだら体が中からあったまったと思ったら、一瞬で楽になったよ。この味はいいな!」
「ビーロップの甘さは大丈夫なようですね。」
「この塗り薬、使いやすいな!俺の傷はそれほどひどくないから、これくらい軽い薬だと気軽に使えそうだ。これは手軽に使えるほうの薬だろ?」
「はい。これは町の皆さんにも気軽使っていただけるように、小さな傷や、軽い傷にすぐ使っていただけるように作ったものなので、お値段も安心して購入していただけるようなものです。」
「へぇ~。それはいいよな。俺、妹のために1つ欲しいよ。」
「購入に関しては後で販売もする予定なので、その時にしてくださいね。今は薬の使い勝手や使ってみた感想を教えてください。」
「あぁ、わかった。」
ラヤーナは騎士たちの様子を見ながら次々に薬を渡しては、魔法帳に書き込んでいく。
飲み薬に関してはもう少し甘い方が、飲みやすいというものもあれば、もっとさっぱりしたほうが飲みやすい、というものもあって、薬草と果実を混ぜる割合なども参考になりそうだ。
塗り薬の方は、軽めの薬が使いやすいと人気があり、値段が高くないのであれば、1キュプではなく、もっと大きいものを常備薬として置いておきたいという要望もあった。
傷が深い騎士たちには、試薬ではないということから、販売用に持ってきた薬を騎士団が購入する、という形で渡し、その場で傷を治すようにしていった。
ようやく全員への治療と新薬のお試しが終わり、薬の様子をしっかりと魔法帳に記入し終わると、ラヤーナはほっと一息ついた。