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れっつ世界を救おう  作者: Luna
第2章 れっつオープン薬屋さん
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2-26 ラヤーナ 騎士団長と相談する 2

「さてエルウィン殿、ラヤーナ嬢に関してあまり無理は言わないでいただきたいのですよ。彼女は先週はじめてこの村に訪れましてね、ギルドの個人カードもその時に初めて作成しております。」


「先週だと?それまではどうしていたんだ?」


「そう焦らずに聞いていただきたい。メリルの話では、小さい頃村を襲われ、魔獣に育てられたということです。言葉は話せますが、読み書きはつい先日のラーゴの日に講習を受けています。講師の話では、本当に読み書きができなかったようで、数字1つわからなかったそうですよ。この世界のことや王国についても知らなかったようで、それは一昨日、昨日は病気とケガについての講習を受けておられましたよ。こちらはかなり熱心に講習を受け、講師にもいろいろな質問をしていたようですな。講師の話では、どうやったら町の人たちに元気になってもらえるのか、どのような病気が流行りやすいのか、どのように対処しているのか、怪我や病気、治癒魔法はどのようなものなのかなど、人々が健康になるにはどうしたらよいかと考えていたそうですよ。そして今日は朝から町での生活について学んでいました。本当に何も知らなかったようですな。」


「……そうなのか?……」


「……」


「ラヤーナさんは今森に住んでいるのよね。」


「…はい…」


「魔獣と一緒に?」


「…えぇ、そうです。仲間です。」


「ラヤーナさんの仲間、という魔獣は相当強いわ。討伐依頼のあったグリズル―とダイアーフを相当数狩ってきたもの。」


「グリズル―とダイアーフか…」


「かなりの数よ。」


「…そんなに強い魔獣が………………どんな魔獣だ?種族は?魔獣の上位種か?」


「…わかりません……私がお伝えできるのは、彼は大切な仲間…ということです。」


「…よくわからんな…一体お前は何者なんだ…?」


「私は…私です。」


「…………………」


「エルウィン殿、ラヤーナ嬢に関しては、これ以上の詮索はご遠慮いただきたい。」


「ギルド長!」


「私もかつては王国の騎士団におり、また冒険者として多くの困難に対処しておりました。年寄りの勘ですな。ラヤーナ嬢は貴殿の考えているようなことは無いでしょう。それよりも我々が守るべき存在ですな。」


「ギルド長…それはいったい…」


「まぁとにかく、ラヤーナ嬢に関しての詮索は無用でしょう。それより、昨日の覚書についてお伝えするとしましょう。おそらくですが…このギルドを拠点としてラヤーナ嬢は動くおつもりでしょうな。王国もそしておそらく他国にもラヤーナ嬢の薬は必要になるでしょう。この薬が不正に取引されぬよう、人々に公平に渡るよう、ギルドでお手伝いをするつもりなのですよ。」


「確かにこの娘の薬は貴重なものだが…」


「エルウィン殿、ラヤーナ嬢はもともとあの薬を1つ100エルク程度で売るつもりだったのですよ。」


「…何を…100エルクだと?どういうことだ!」


「いずれ100エルク程度で購入できるようにしていくお手伝いをギルドでしていくのですよ、エルウィン殿。」


「100エルクだと?あれだけの高い効能を持っている薬をか?そんなことをしたらこの娘を攫い、薬を作らせる道具にして金を儲けようとする輩が……」


「そういうことです、エルウィン殿。ラヤーナ嬢もそれを一番危惧されましたよ。そしてその対象は国そのものも含まれております。」


「…国がか?…なぜそんなことを国がしなければならない?この娘をすぐに保護し、安全な環境で薬を大量につくらせれば、この娘も攫われる不安はないだろうし、王国の前線で戦う騎士たちも安心して、」


「エルウィン殿、それをしようとする国と、先ほどご自分でおっしゃった『薬を作らせる道具にして』という輩とどう違うんですかな?」


「なに、国とそのような輩を同じだというのか?」


「どんな大義名分を付けても、ラヤーナ嬢からすれば、大量に薬を作らされる、という点では同じではないのですかの?」


「…それは……しかし…目的が違う…」


「それはあなた方に都合の良い目的であって、ラヤーナ嬢が考えていることではない。」


「…私は…」


「エルウィン殿、冷静になりなされ。貴殿であれば、正しき道がお分かりになるはずだ。木を見て森を見ず、ではありませぬ。物事の先の先まで考えて動きなされ。慧眼を持たれよ。」


「ギルド長……」


エルウィンはギルド長に諭されしばらく考えていたようだが、ふぅーと息を吐くとラヤーナに丁寧に頭を下げた。


「…………すまぬ……………ラヤーナ嬢…………申し訳なかった………どうあっても……どのような事情があっても……あのように貴殿に言い募るべきではなかった。すまなかった、ラヤーナ殿……」


「…いえ…わかっていただければ、それで結構です。ご自身のお仲間が怪我をされ、それを治す手段があれば手に入れたいと思うことは至極当たり前のことですから。」


「フォフォフォ。ラヤーナ嬢はやはり不思議な方だの。とてもその年齢の嬢とは思えんの。」


「…森でいろいろと経験しましたから…」


「まぁ、そういうこともあるかもしれんな。」


「ギルド長、ラヤーナさんの覚書の件をエルウィン様に」


「おお、そうじゃったの。すまんすまん、話がそれてしもうた。昨日のラヤーナ嬢との覚書はな…」


ギルド長が昨日の覚書を取り出し、ラヤーナと決めたことについてエルウィンに説明を始めた。


「…本当に…このような取り決めを…」


「ラヤーナ嬢の目的はお金儲けをすることではなく、薬を行き渡らせること、ですな。」


「はい。町の人たちが、この国の人たちが、この世界の人たちが、怪我や病気に対しての不安なく元気過ごせるようになってほしいんです。薬が十分にあり、治療が十分にできるということが分かっているのと、これから治療が難しくなっていくのではないかという不安を持っているのとでは大きく異なります。今は混乱を避けるために、すぐに大きく値段を下げるということはしませんが、少しずつ皆さんが使いやすいように考えて作っていきたいと思います。」


「効能を下げたものも作る予定よね?」


「はい、メリルさん。そのほうが安心して皆さん使っていただけるかと思います。いきなり効果が高いものばかりになってしまうと、治療魔術師の方たちも困惑すると思いますし、実際に昨日の講習で治療魔法を持っている人の数がどんどん減ってきている、ということでしたから、一般によく使われている薬よりも効果が少し高い程度で、価格を少し安くしたものを先に流通させることができればいいなと思っています。聖水の治療薬が一番価格が低いもので200エルクということでしたら、それよりも効能が少し高くて同じ200エルクか150エルク程度で最初は販売しようかと思っています。」


「それは良いと思うわ。その件に関しては後で私と細かく相談をしましょう。」


「ラヤーナ殿…今回作られた薬はどの程度売れたのだ?」


「140個ほどです。今手元に残っているものは60個程度ですね。」


「…それをひとまず騎士団に売っていただけないだろうか?」


「騎士団に…ですか?」


「あぁ。貴殿に失礼な振る舞いをしたことは本当に申し訳なかった。それに関しては言い訳のしようもない。だがそれとは別に、騎士団でのケガ人が増えているのだ。鬼獣も増えているため、騎士団員は常に戦いを強いられている。聖水の治療薬でも治りきらず、治療魔術師たちも常にだれかを治療しており、今はどこにも余力がない。正直魔術師たちは限界ギリギリまでの治療で彼らも疲弊している。貴殿の薬は正直、聖水の治療薬で一番効果の高いものにも匹敵する、いや少量での効果を考えるとそれ以上ではないかと感じた。」


「そうね…それは…私も思ったの。ラヤーナさん、今日最初に協力したドル…ドルーカスのことは覚えている?」


「はい。ドルって呼んで…と言われた方ですよね。予約もされた…」


「えぇ、彼が言っていたでしょ?ふつうは聖水を沢山かけるって。」


「…はい…そうですね…確かにそんなことをおっしゃっていましたね…ドバドバかける…でしたっけ?」


「あぁ、そうだ。普通は今日の兵士のような傷を完全に元の状態まで治すのに、聖水を大量に使う。おそらく傷用薬8が4~5本は必要だろう。だが、貴殿の薬は1キュプさえ使い切っていない。」


「そうなのよ。ラヤーナさんの薬は少量でも十分なの。ちなみに聖水の1本はおよそ4キュプの量よ。」


「え、そうなんですか!」


「あぁ。そうだ。それにあの聖水1本作るのに、魔術師の魔力を相当必要とする。傷用薬8は魔術師が一人で1日4~5本作れるかどうかだ。それを貴殿はあの200個の薬を一人で作ったのだろう?」


「…そうですね…魔力は…使っていないわけではないですけれど…治癒魔法ではないので…」


「え、ラヤーナさん、魔法を使っているの?」


「はい。でも水魔法と火魔法です。普通の魔法です。魔力もそれほど消費しません。」


「普通の魔法…そうよね…特殊な魔法かと思ったわ。」


「それで、ラヤーナ嬢、騎士団へ薬はどうするかね?」


「とりあえず…今回残った分に関しては騎士団に売ってもよいのですが…ギルド長はどう思われますか?」


「そうだのう…嬢がそれでよければ問題は無いの。」


「そうか!売っていただけるのだな。」


「今後のことはまだお約束できません。ですが、今残っているものに関してはお売りできます。先ほどの取り決めのように、今回に関してもギルドを通しての販売になります。それでよろしいですか?」


「貴殿こそ、それでよいのか?」


「はい。騎士団のような常時薬が必要なところへはどのように販売していくのか、量や効能、個数等もメリルさんやギルド長と相談をしながら決めていきます。薬は私しか作れませんので、無理の無い範囲でのみになります。また、町の人たちのような一般の皆さんにも広く使っていただきたいので、騎士団だけを優先させることもできません。薬の種類も、今はいろいろ試作している段階で、もっと違うものが出てくる可能性もあります。そのような研究する時間も欲しいので、無理はできません。素材などもいろいろと入手しながら試したいので…」


「ラヤーナ殿、約束する、貴殿に無理はさせない。騎士団だけを優先させるようなこともしない。貴殿が気持ちよく薬を作れるように我々騎士団も尽力すると誓おう。必要な鬼獣の素材などもこちらで手に入れたら貴殿に優先的に譲るようにする。」


「そうですか。まぁ…素材に関しては仲間の魔獣がいるので大丈夫だと思いますけれど、そう言っていただければ、今後も無理の無い範囲で、こちらのギルドを通して購入していただけるようにします。」


「それでな…もし貴殿が新しい薬を作った際は、騎士団でそれを試していただけないか?」


「え…騎士の方を実験台にするんですか?」


「…実験なのか?」


「いえ、一応鑑定はきっちりしていただくので…問題は無いかと思うのですが…新薬は人に対して初めて試すことになりますので…」


「貴殿は今回の薬…塗り薬は誰に試したのだ?」


「…仲間の…魔獣です…」


「…魔獣に試したのか…」


「はい…傷はきれいに治りました…」


「魔獣にまで効く薬なのか…本来魔獣には薬は効かないとされているのだが…」


「そうなんですか?知りませんでした。」


「……それでいい…わかった…実験台になろう…」


「新薬の実験は無理をされなくても…」


「いや、今日のあの実演販売の様子を見る限り、新しい薬は必ず良いもののはずだ。負傷者が多い騎士団ではたとえ実験であってもそれで助かるものが多いはずだ。だから遠慮せずに実験台をさせてほしい。」


「…そうですか…そこまでおっしゃるのであれば…また新しいものを作った際は、ギルドから連絡をしていただくようにします。」


「あぁ。それでいい。よろしく頼む、ラヤーナ殿。」


とりあえず、騎士団への販売も決まったようだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] というか現代みたいに仕事量、内容に対し賃金が低いもしくは乱獲やその他要因で薬草その物が絶滅したのなら仕方ないけど薬師その物が廃れるとかないよね。金持ちや一部の人間が独占してるなら尚更
2021/04/27 19:23 退会済み
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