2-23 ラヤーナ 実演販売を体験する 1
ラヤーナは現在区画ショップの自分の販売ブースの中にいた。
自分の目の前にいる人たちは、屈強な、頑丈そうな人たちだ。種族はいろいろで、人間種の人もいれば、獣人の亜人もいる。冒険者もいるようだし、ものすごく綺麗な人も混ざっており、この人は容姿からエルフではないかと思っている。
今日の実演販売ではラヤーナの予想で4~5人の人たちが協力してくれるのだと考えていた。しかし今ラヤーナの目の前に立っているのは全部で16名、こんなに来ると思っておらず、正直困惑気味だ。
この実演販売を、見学者と一緒に後ろから見ているのがメリルだ。彼女の横に、これまた屈強な男性が立っておりしかも何やらすごい威圧感があって、彼からは魔力も感じる。首の後ろに獣人の光紋が光っており、初めて見るが、どうやら獣人の上位種らしい。
『すごいのね…・強そうな人・いっぱいいるのね…』
さすがのラティも、ラヤーナの服の上衣ポケットに入り、顔だけ出してこっそり覗いている状態だ。威圧感がすごいらしい。さぁ、そろそろ始めないといけない。
「皆さん、本日はご協力をありがとうございます。これから怪我を見せていただき、今日販売予定の薬を塗布させていただきます。」
「塗布?ポチポチ垂らして塗り込むんじゃないのか?」
「はい。こちらはクリーム状になっていますので、垂らすのではなく、指で薄く塗ります。」
「へぇ~、今まで見たことない薬だな。」
「どうやって作ってるんだ?」
「あ、すみません、それは特殊技術なので、特別なスキルがないと作れないんです。」
「あぁ、それじゃ聞いてもダメだな。…で、効果は大丈夫なのか?」
「はい。ギルドで鑑定と審査は受けています。こちらがその鑑定結果です。」
「え…何だよこれ…こんなんあるわけないだろう。聖水で作ってるわけでも、あんた治癒魔術師でもないんだろう?」
「はい。どちらも違います。あ、念のためにギルドカードはこちらになります。」
ラヤーナは自分の個人カード(表)を協力者に見せていく。
「魔法も普通だし…魔力もそれほどってわけでもないな。治癒魔法は出てないしな…特殊スキルは見えないようになってるからここには載らないか…」
「なぁ、あんたが作ってるって言ったって、実は別のやつが作ってるんじゃないのか?まぁ、それでも薬に効果があればそれでいいけどな。」
ああ、そうか…薬を作っているのは別の人ということにしておけばよかったのか…
でもそれはそれで保護してもらったりする際に困ったことになる可能性もある。まぁ、別に薬を作っている人がいる、と思われてもラヤーナは困らないので、そこは自由に言わせておこう。
「…薬の効果を体験していただきたいのですが、どなたからご希望ですか?」
「…メリルから聞いてここに来たんだが、本当にお代は取らないんだよな?」
「はい。試しに塗っていただくだけですので、塗った分についてのお代はいりません。もし薬を気に入られて、購入されたい場合の品物はこちらの箱にありますので、品物代を払っていただきます。値段はそれぞれの箱についてありますので、ご購入されるときはそちらを見てください。」
「これ本当に全部効果が高いやつか?試し用の物だけ高い効果で、他はくそみたいなもん、ってことは無いんだろうな?」
「はい。こちらの箱に入れてあるものはすべて同じものです。模様が違う入れ物は少し効果が異なるので、今日試していただくのはこちらの一番高い効果の物ですが、別の方の効果を試したいという場合は、そちらも試していただけます。」
「へぇ~。他のも全部鑑定、あるんだよな。」
「はい。メリルさんにも立ち会っていただいて、こちらの品物全て鑑定済みです。鑑定結果もそちらに示してある通りです。」
「ふーん…じゃ、俺から試してもらうかな…。この、一番効果の高いやつでな。」
「はい。わかりました。あ、念のためですけれど、お試し用として品物を1つ開けます。どれでも1つ取ってください。全部を開けると途中使用の品物になってしまいますので、お試し用として開けるのは1つですが、これはどれも同じものですから、協力者の方が1つ選んでいただけると、より安心だと思いますので。」
「…本当に全部同じものなんだな…じゃ、これにするよ。」
最初に試すと言ったのは、騎士団の下級兵士らしい亜人だ。しっぽがフサフサ揺れ動いている。その兵士が1つ薬を手に取った。
「はい、それではこれをお試し用としますね。どちらに塗布されますか?」
「ああ、こっちの足だよ。」
兵士はズボンの裾を持ち上げて、傷の箇所を見せる。左足のふくらはぎに傷があり、まだ少し血がにじんでいる。どうやら傷用薬の1を使って殺菌だけはしているようだ。傷の大きさはふくらはぎ全体に斜めに3本ほどあって、そのうちの1本は少し深い傷の様だ。
「…かなり深い傷ですよね…歩いてて痛くなかったんですか?」
「…多少はな…一昨日鬼獣退治の時に足をやられたんだよ。今日は特に参加する予定じゃなかったんだが、メリルから試したらって昨日言われてな。それで来てみたんだよ。」
「そうだったんですね。鬼獣に足を……町を守っていただいてありがとうございます。」
「え、いや…まぁ…仕事だしな…」
ラヤーナがお礼を言うと、兵士は少し照れたようだ。
「それでは塗っていきますね。」
ラヤーナが薬を塗っていくと、浅い方の傷は塗ったとたんにみるみるふさがっていく。深い方の傷は薄く塗るだけでは不十分なようだ。だが兵士の方が驚いている。
「な、なんだよこれ!傷がふさがるって…これ…しかも薄く少し塗っただけだぞ!」
「え、でも塗り薬なので、塗らないと…」
「そういうことじゃなくて、ふつうこれくらいの傷は、聖水をドバドバ振りかけないとだめなんだよ。おまえ、これ薄く塗っただけだろ?なんでふさがるんだ?」
「あ、でも、一番深い傷はふさがってないので、この傷はもうちょっと薬を多めに塗らないとだめですね…この薬でふさがりきるかな…あ、動かないでくださいね。」
ラヤーナは少し多めに指に薬を取り、傷を埋めるように薬を塗っていった。
するとゆっくりと傷がふさがっていく。他の2本の傷のように、塗ったそばから傷がふさがる、というほど早くはないが、じわりじわりとふさがっていくのが分かる。
「これくらい深い傷の場合は、多めに塗らないと効かないみたいですね。」
ラヤーナは、薬の効き方を観察しており、深い傷の場合は1キュプではなくもう少し大きな入れ物で販売した方がよいか、あるいは効能を下げて、たっぷりと塗れるほうが安心して使えるのか、と考えていたが、兵士の方は茫然としている。
「あ、大丈夫ですか?足の方の調子はどうでしょうか?」
「………」
「痛みとかありますか?」
「………………………」
「あの…大丈夫ですか?」
「…これ、1つがあの値段なんだよな…」
「はい、そうです。」
「俺、買っていくわ。」
「あ、そうですか、ありがとうございます。」
「じゃ、3つ…」
「すみません、お一人1つのみになっています。」
「え!1個しか買えないのかよ。」
「はい。今回はどれくらい需要があるかわからず、お試しということもあって、持ってきている個数もそんなにないですし、できるだけいろいろな方に使っていただきたいので。」
「…次買えるのはいつだ?」
「え、まだ決まっていません。多分、今後もメリルさんとご相談をしながらになると思いますので…」
「じゃ、メリルに聞けばいいんだな。」
「そうですね。でも、私が森に帰るのは今週の終わりですし、その後また薬を作って、ということになるので、少し先のことになると思います。」
「先なのかよ…」
「え…あの、早めに頑張って作るようにします。」
「よろしく頼むよ、俺はドルーカス、みんなドルって呼んでるよ。次回予約な。」
「はい。ありがとうございます。」
ドルーカスは効果の一番高い薬を1つ購入すると、足取り軽く、傷が治ったことが嬉しそうに走ってギルドを出ていった。
「…おい、あんたの薬、そんなに効果があるのかよ…」
「それは…試していただいて実感していただければと思います。」
「じゃ、次は俺に試させてくれ。」
薬に関しては、協力者はもちろん見学していた人達含め、みんなにその効果の高さを実感してもらうことができた。次回購入希望者もかなりいるため、販売方法や値段、効能、容量などももっと検討したほうがよさそうだ。森に帰ったらレーリナやローラ様にもきいてみようと思った。