2-20 ラヤーナ 初心者講習を体験する
『ラヤーナ~・今日はお勉強の日ね~・ずっとお勉強なのね~』
「そうなのよね…楽しみだけれど…お昼の後もまだ続くのよ…」
『頑張るのね~』
この日は「読み書きと算術」の日だ。算術に関しては、日本にいた頃の知識がそのまま使えるのではないかと考えている。表示の仕方、記号、こちらの数の概念等を学ぶつもりだ。読む・書くに関しては、今日できるだけ基本的なことを押さえておきたい。普通に読み書きができるようになるには少し時間がかかると思うが、日本で言うところの50音表のようなものがあれば、少しずつ使って覚えていける。今は何もヒントがないし、ラティも森の外で使われている文字はわからないようなので、ラヤーナが覚えるしかない。
「とにかく、文字に関しては早く覚えたいわ。」
『ラヤーナ・魔法帳呼んでるのね~・魔法帳ね~・協力するって言ってるのね~』
「え…魔法帳が?」
ラティに言われ、魔法帳を見てみると、淡く光っている。
慌てて取り出し、ページをめくるとこちらの世界の物と思われる文字表があり、その下に日本語での記述がある。
この上の表をおぼえるのよ♡
頑張ってね♡♡♡
「……」
『ね~・応援しているのね~』
「…そうみたいね…」
この魔法帳はハートマークを使うことが好きなようだ。
そしてラティは魔法帳を読めるわけではないが、内容を感じとることができるらしい。
さぁ、算術と読み書きだ。算術はそれほど難しくなく、数の概念も使い方も日本の時と同じような十進法だったため、数字の書き方を教われば、あとは理解ができた。その後は昼を挟み、ひたすら文字の理解をした。日本語のようにひらがな、漢字のような文字数が複数あるわけではなかったので、一度覚えると何とかなりそうだ。文字はしばらく魔法帳が示してくれた文字表を見ながらになるだろう。話している音と文字があっているので、表を見ながら時間をかければ、書くこともできそうだ。すらすらと読めたり、書けるようになったりするには、使い慣れるしかない。数字も含め、書き方を覚える、それがまずしなければならないことだ。
講習を受けながら、この町で必要な準備、主に今回購入する予定の物や、お店についての準備、調剤についてのメモ、今後欲しい道具の種類など、とにかく思いつくことをこちらの世界の文字で書いていった。魔法帳が気を利かせてくれたようで、ラヤーナが頑張ってこちらの文字で魔法帳に書き込むと、その下に日本語で同じことを表示してくれる。
非常に親切でありがたいのだが…日本語を知らないはずのこの世界の魔法帳の仕組みは一体どうなっているのだろう…、この件に関してはあまり深く考えないことにした。
ようやくこの日の講習が終わり、疲れたため買い物には寄らず、すぐに宿屋に戻ることにした。
「疲れたわ…、文字を見るのも、書くのも…今日はもう遠慮したいわ…」
『ラヤーナ・いっぱい頑張ったのね~・ラティも頑張ったのね~』
「あぁ、そういえばラティも私の横で文字を見たり、文字の上で飛び跳ねたりしていたけれど、何をしていたの?」
『ラティもね・文字を覚えてたの~』
「ラティも?」
『そなの~~~・見ててね~』
ラティがラヤーナの前でゆっくりと動き始めた。
ラティの動きは、こちらの世界の文字をなぞっていた。
ら て ぃ
「ラティ、自分の名前ね!」
『そなの~~~~・ちゃんとね・い・は小さくしたのね~』
「すごいわね、ラティ!」
『これも見てなのね~』
ら や ― な
「これは…私の名前ね!」
『そなのね~~~~・ラヤーナのお名前ね・延ばすとき・ちゃんと棒つけたのね~』
「すごいわね、ラティ。私もラティと一緒に頑張らないといけないわね。」
『一緒ね~・一緒に頑張るのね~』
頼もしい仲間と一緒に、早く文字を覚えて、いろいろな本を読めるようにしよう。こちらの世界の植物の本や魔法に関する本などもあれば読んでみたい。知識も、もっとたくさん必要だ。
「疲れたけれど…ラティが頑張っているんだから、私ももっと頑張るわ。夕食の後もう少し文字の練習をするわ。ラティも一緒に勉強する?」
『するの~・一緒にするのね~・頑張るのね~』
「そうね、頑張りましょう。」
翌朝は時間ギリギリに起きてしまった。昨晩はラティと遅くまで文字を勉強していたが、そのうち体を使っての文字当て遊びになってしまい、最後は二人で汗だくになってしまった。今朝はその疲れが残っているようで少し眠いが、文字に関しては昨日一日でかなり読めるようになった。ラティと一緒だと本当にいろいろなことをどんどん学ぶことができる。ラティが一緒でよかった…
今日の講習はこの世界の成り立ちや国のこと、森と国との関係などを学ぶことになっている。お昼少し過ぎで終わる講座らしい。
明日は病気とケガへの対処法で一日の講座になる。明日はできるだけこの世界の病気やけがの対処法や聖水から作っているという薬のこと、過去の薬の状況と今の薬の使われ方など、学べることはできるだけ学びたいと思っている。
明後日はマーゴの日で町での生活ルールの講座だ。ギルドの役割、素材の分け方などもこの日に教えてもらえるらしい。こちらは半日の講座で、この日は午後にギルドの区画ショップで薬を売ることになっている。講座が終わり食事を急いで取った後、1ラルにショップに品物をもって向かう予定だ。
この週の最後の講座は商売のイロハ、主にこの町で店舗を構えて商売をしたい場合のルールなどを教えてもらえるらしい。こちらは半日の講座のため、午後はラティと一緒に精霊の森に戻る前にいろいろと買い物をする予定だ。アルバスへのお土産用の焼肉も購入して、この日に急いで外森の家に戻る。アルバスは夕方森の出口に迎えに来てくれることになっているが、焼肉の匂いを頼りに来てくれるからすぐに会えるとラティが言っている。
初心者講習で得られる知識をしっかりと自分のものにしよう。そう思い、ラヤーナはラティと2日目の講習に参加し始めた。