2-15 ラヤーナ カードを特別にする
しばらく休憩をとった後、アルバスに森神人の小屋の裏手、外森と秘森の境目まで送ってもらうことにした。
まだラヤーナの空間魔法では、外森の家(アルバスの棲み処だったところ)に空間魔法の拠点を作ることができない。魔法のレベルが上がるまでは、鬼獣に襲われたときに対処してもらうため、アルバスにここまで迎えに来てもらい、秘森の家(森神人の小屋)の近くから外森の家まで一緒についてきてもらう必要がある。外森の家からはこの秘森の家近くまでは魔法で戻ってこれるが、その逆はまだ出来ないため、アルバスに迎えに来てもらう場所を知ってもらう必要があった。
『守りの絆・早くできるといいのね~』
『そうだな…まぁ、まだもう少し時間が必要だろう』
「守りの絆?」
『森神人とね・守獣とね・いっぱい信頼ができると・守りの絆ができるのね~』
「守りの絆ができるとどうなるの?」
『守護対象の場所が分かるな。不安や危機を感じ取れるようになって、守りやすくなる。それに背中に乗せて走れるようになる。』
『きっとね~・ラヤーナとアルバス・すぐに絆できるのね~・アルバス走ると早いのね~・背中に乗るの楽しみね~~~』
「…背中に乗るの?…速いって…ちょっと怖そうよね…ねぇ…絆って普通どれくらいかかるの?」
『我が聞いた話では…早くて1年と聞いた…』
『ふつうはね・数年かかるのね~』
「そんなにかかるの…」
『でもね・ラヤーナとアルバス・もっと早いのね・ラティにはわかるのね・楽しみね~~~』
『絆が結ばれればわかる。まぁしばらくはこうして迎えに来るから心配するな。』
「…そうね…」
『鬼獣の狩りもできるだろう。』
「うーん。それはありがいのだけれど…まだ氷魔法が使えないし、時間魔法は使えるようになるかどうかもわからないから、今はどうしようもないのよね…町に行くときは鬼獣の肉はぜひ欲しいのだけれど…」
『早く魔法が使えるようになることだな。』
『時間魔法凄いのね~・とっても便利なのね~・ラヤーナも使えるようになると楽しいのね~』
「…楽しいかどうかはわからないけれど…薬師として素材保管に大活躍してくれそうな魔法よね…可能なら…ぜひ使えるようになりたいわ!」
『まぁ…魔法については訓練することだな…』
秘森の入り口に到着し、アルバスと別れる。明日は秘森(精霊の森)の中で少し作業をして準備をしたいと思ったので、翌々日アルバスに迎えに来てもらい、外森の家の準備を進めることにしている。アルバスを呼ぶときは、風魔法でラヤーナの作るラーゴ入りの薬水の匂いを強くしたものを届けることにした。アルバスがこの薬水を非常に気に入り、アルバスからこの匂いを送るように指定してきたからだ。風魔法で匂いをアルバスに届けるのにおよそ20ミル、それに気づいてアルバスがここに来るまでに10ミルかかるそうだ。10ミルで森の中のどこからでも来れる、ということに一番驚いた。ラヤーナの場合は、半日か場所によっては丸一日かかっても到着できないだろう。今は空間魔法で秘森の入り口に戻れるため、森の中からどう歩いても町にも秘森にもその日中に戻れない場所でも行けるようになったが、アルバスのように10ミルということは絶対にありえない。
アルバス曰く、身体強化とスピードアップの魔法を使う、ということだが、それでも10ミルはあり得ない。
ラティが、『それは守獣だからなのね~・守獣本気で走ると・見えないくらい早いのね~』と言っているが、それこそ転移でもしているんじゃないかと思っている。その速さで走るアルバスに乗る自分というのも想像できない。とにかく外森の家づくりの準備をしなければならないだろう。
ラヤーナとラティは精霊の森に一日ぶりに戻っていった。
「ラヤーナ、お帰り!」
「ラヤーナ、お疲れさまでした。昨日はアルバスが間に合ってよかったですね。」
「ほんと、昨日はまさかグリズル―に襲われるとは思っていなかったわ。ローラ様も精霊のみんなも心配していたの。でもアルバスの気配がしてきたから、大丈夫だってなって、本当によかったわ。」
『ラティもね・頑張ったのね~~~』
「えぇ。ラティも、よくラヤーナを守ってくれましたね。ありがとう。ギルドにも行って、町の様子を見てくれたのでしょう。どうでしたか?」
「まずいろいろな人がいてびっくりしました。この世界に来る前は人間がいて、動物がいて…、人間とその他の生き物が混ざったような生き物が普通に町の人として生活しているのを目にして、お話は伺っていましたが、やはり驚きました。でも町の人たちは親切で、元気に過ごしています。森の外の生活やルールも少し教えてもらいました。今日はオーランの日だそうです。」
『そうなの~・ラーゴの日・オーランの日・バーナの日・マーゴの日・グーフルの日・ギーの日なの~』
「そのような決め事になっているのですね。」
「はい。来週…次のラーゴの日から初心者講習というものを受けに行きます。5日連続でいろいろな講習を受けてきます。そのため1週間…6日ここを留守にする予定です。」
「えぇ、大丈夫ですよ。森も自力回復できるほど力を取り戻していますし、私もレーリナも森の中でなら安全に過ごせるようになりました。少しずつ私の力も戻ってきて、森からも恩恵を受けられるようになりました。」
「よかったです。ローラ様が元気になっていくのがとても嬉しいです。」
「えぇ。ラヤーナ、ローラ様のことは私に任せて!ローラ様の力は少しずつ戻ってきてはいても、女神の力は別の場所にあるの。それはこれから取り戻さないといけないのよ。でもまずはローラ様の力が、今戻せるところまで戻せてからのことになるわ。まだまだ以前ほどにはほど遠いもの。」
「レーリナ、いろいろと面倒をかけます。私の力もだいぶ戻ってきているのだけれど、まだまだ戻さないといけないわね…」
「ローラ様、この短期間でここまで戻ってきただけでもすごいものですよ。みんないます。ラヤーナがこの世界に根を下ろしてくれました。だから大丈夫です。」
「えぇ…みなさん…ありがとう…」
レーリナもラティもルルも、他の精霊たちもローラ様の周りにいて、嬉しそうにしている。女神様が元気になっている。それが何よりもうれしいのだ。
『ローラ様にね~お願いあるのね~』
「あら、ラティ、どのようなおねがいなのかしら?」
『ラヤーナのギルドのカードね~・ちょっと魔法ほしいのね~・秘密したいのね~』
「ギルドのカード…あぁ、そういうことね。ラヤーナ、あなたのギルドのカードを見せていただけるかしら?」
「ギルドカード…?何をする…あ…わかったわ、ラティ!いいこと考えるわね。」
『ウフフ・レーリナ・いいことなのね~・必要になるのね~』
「ローラ様、このカードです」
名前:ラヤーナ・カーシム
レベル:3
スキルレベル:2
魔力レベル:2
年齢:16
種:人
職:***
職スキル:***
魔法:水(3)、火(2)、風(2)、土(3)
「ラヤーナ、まだ指輪は付けたままよね。まだ外さないでね。」
「はい。」
「ウフフ…このカードの裏を作りましょうね。」
「カードの裏…ですか?」
「えぇそうよ。そうねぇ…裏表というよりは…二重カードといったほうがいいかしら?」
「ローラ様、楽しそうですね~」
「えぇ。こういういたずらのような遊びは一度やってみたいと思っていたのよ。女神としての私は人の気持ちを弄ぶことになってしまうような悪戯や遊びはできないと思っていたし、今もできないわ。でも今回は、目的は世界を正しき道に戻すための一つの作戦の中の、小さな魔法ですもの。気持ちよく、楽しく魔法をかけることができるわ。」
「そうですよね~。楽しみですよね~。」
『楽しいのなのね~~~・ローラ様・いっぱい嬉しそうなのね~』
「ウフフ、こういうのも楽しいものね。」
「楽しいですよね。」
『楽しいのね~』
『た・の・し・い』
「ルルもそう思っているのね。みんなも楽しいわね。」
ローラ様の周りにいる精霊たちも一斉に、楽しそうに踊っている。
「さぁ、ラヤーナ、カードができたわ。まず指輪を外してみて。」
「はい。」
「その後、“ウェーリタス”と声に出してみてね。慣れれば心の中で唱えるだけでも発動するようになりますよ。」
「はい…ウェーリタス……あ…!」
名前:ラヤーナ・カーシム
レベル:6
スキルレベル:6
魔力レベル:5
年齢:16
種:人
職:薬師
職スキル:薬草の育成(全)
薬の作成(6)
薬の開発(5)
薬の鑑定(4)
魔法:水(5)、火(5)、風(5)、土(5)、空間(4)、時間(0)、治癒(0)
称号:森神人
特殊スキル:精霊の本の記録
神水の作成
精霊の指輪の所有
守護獣との意思疎通
『ラヤーナ・やっぱり時間魔法・つかえるようになるのね~』
「治癒魔法も使えるようになるわね。0だと…しばらくは使えないかもしれないけどね。」
「そうですね。ここに出てきたということは、まもなくレベル1が発動されるでしょう。今は見えなくても、発動が近くなるとこのカードに現れるようになります。」
「これは…二重になっている…のですか?」
「このギルドのカードは森の外の人たちが作り出したシステムです。ここまで精巧ではありませんが、以前から、私の前の代の女神のころからありました。指輪は所持者の力を過少に見えるようにする力があることはもう知っていますね。このギルドのカードは常にその人の力を示します。そのため指輪を外してしまうと、ここには真の数値が自動的に表示されてしまいます。そこでこのカードを二重にして、真の力を提示させるには指輪を外したうえで先ほどのスペル(呪文)を唱えないと表れないようにしました。ですから指輪を外してしまった場合でも、過小評価の数字は修正されず、表の評価はそのままになります。指輪をしている状態でステータスが上がった時はこの通常側の表面で通常通りのレベルアップとして表示されます。指輪を外してスペルを唱えると裏の(真の)評価を示しますが、指輪をすれば、スペルの効果は消え、元の指輪をしていた時のステータスが表示されます。万が一指輪が意図せず外れてしまったときにこのギルドのカードを見られても、困ることはありません。そして、ラヤーナ、あなたの真の力がどのようになっているのか確認したいときは、指輪を外してスペルト唱えればよいのですよ。」
「ローラ様、ありがとうございます。」
「ウフフ…遊びにもならない程度のことですよ…森の外の世界でラヤーナにはこれから動いてもらわなくてはならないのですから…これくらいは周りの人たちをだましてもよいでしょう。」
「ローラ様、“騙す”だなんて…ウフフフ」
「そうよね…ウフフフ」
『ひみつね~・秘密なのね~・裏表なのね~・両方なのね~・秘密のカードなのね~』
「…みんな…楽しそうね……」
「あら、ラヤーナは楽しくないの?」
「…私は…そうねぇ…特には…これで森の外の生活は助かるって思うくらいかしら?」
「そう?ウフフ…こんなに楽しいのに?」
…精霊たちの楽しいポイントについての理解は難しい…
そう感じたラヤーナだった。