31 ラヤーナ 魔法レベルが5に上がる(90日目)
第1章最終話です
ローラ様が目を覚ましてから40日が経った。
ラヤーナのところに来てすぐのころは、薬水を飲んでは寝てを繰り返していた。1週間ほどたつと、体が光り、3歳くらいに成長した。その頃から、精霊の森の果実や薬草を食べるようになった。そしてまた1週間ほどすると6歳になり、レーリナと一緒に時々神殿に行くようになる。ラヤーナも、それまで果実をそのまま食べていたが、ぺパパ(胡椒)、ソルル(塩)が使えるようになり、動物の精霊たちがミルル(ミルク)とエーグ(卵)を分けてくれるようになると、調理をして食事を作るようになった。このエーグはもちろん精霊は入っておらず、エーグの成分だけのものだ。
この調理をした食事が、ローラ様とレーリナには大好評で、昼食と夕食はラヤーナが調理するようになった。ウィーという小麦のような草も見つかり、これを風魔法で乾燥させた後、粉状にしてミルルと混ぜて焼き、パンの様な物も作った。薬草を混ぜて作ると薬草パンの様な物になり、動物の精霊たちにも大人気だ。
生クリームもミルルから作った。このクリームにラティや、果物の木の精霊がキスをすると甘いクリームになる。ウィーで作ったパンにこのクリームを塗り、果実をはさむとフルーツサンドが出来上がる。これはローラ様の大好物だ。他にもミルルからバターやチーズを作ってみた。森の外にも同じようなものがあるらしい。
ローラ様とレーリナは朝食の果実をとった後、神殿に行くときは必ずラヤーナの作る昼食を持っていく。主にこのウィーで作ったパンに、ミルルから作ったバターやチーズを塗り、野菜をはさんだ野菜サンドか、クリームに果実をはさんだフルーツサンドだ。
ローラ様とレーリナが神殿に行っている間は、ラヤーナの魔法練習の時間にあてている。魔法の練習といっても、森の整備や小屋の拡充、精霊の憩いの場の改築、畑の世話、精霊たちのリクエストに応じて彼らの住処の整備をし、薬を作る、それらの作業をしながら魔法をたくさん使い、レベルを上げること目指している。レベル上げと環境を整える、一石二鳥を狙っているのだ。
また、最初に使えるようになった神水のスキルだが、今は土魔法で作った“森神人の石”を小川からの囲いの中に入れているため、毎朝神水を作る必要がなくなった。この“森神人の石”はラヤーナの神水のスキルの力を込めたもので、ラヤーナがその場所に設置することで神水ができるようになる、というものだ。“森神人の石”はラヤーナの意思でその石の力を調整したものを作ることができるようになった。小さな効力の石は1週間ほどだが、効力を強くした石は半年ほど神水を作ることができる。その期間もラヤーナが調整して作ることができるようになった。小川からの囲いの中に入れているのはさらに強い効力を付けたため、3年ほどは持つはずだ。神水が常にここにあれば、今後ラヤーナが森の外に行くようになって、時々留守にしても困ることはないだろう。そのうちここの“森神人の石”だけはラヤーナが生きているうちは半永久的に使い続けられるようなものにしたいと思っている。
水魔法も自分で水を生成できるようになった。生成した水でウォラーカッター、ウォラースラッシュを使い、畑の薬草を刈るとなぜか薬草たちが楽しそうにし、薬の効果が上がる現象も起きている。ラヤーナの魔法も順調に魔力が上がっており、もうすぐ目標のレベル5になりそうだ。
そして、現在のローラ様は15歳となっている。今日も昼食のフルーツサンドをもってレーリナと神殿に行っているはずだ。1週間ごとに3歳ずつ成長し、今は15歳の美少女だ。女神としての力は戻ってはいないが、魔法などは使えるようになっている。ラヤーナが魔法を使っていると、時々ローラ様がアドバイスをくれることがある。そして大きな難しい魔法を事も無げにさらっと使ってみせる。やはり女神様は女神様なのだと思うのだが、女神の力“エル”がローラ様に戻ったらどうなるのだろう。もっと強い力を持つようになるのか、何か別のことができるようになるのか…それはラヤーナにはわからないが、エルクトラドムにとっては必要なことなのだということはわかっている。
今のラヤーナにとっては、ローラ様も、レーリナも、ラティも、森の精霊たちも大切な家族だ。これから先、みんなが平和で楽しく過ごせるように、ラヤーナのできることはしたいと思う。
『ラヤーナ~・ラティお腹空いたの~・フルーツクリーム欲しいの~』
薬草を作りながらローラ様や精霊たちのことを考えていると、空腹になったラティがラヤーナの調剤室に飛び込んできた。もうお昼の時間だ。
「ラティ、もうお昼の時間なのね。フルーツクリームね。どのフルーツがいい?」
『ラティね~・ん~・今日はマースカがいい!』
「うふふ。マースカね!待ってね、今用意するわ。」
生クリームにマースカの果汁を混ぜたものを、ラティの前に置く。
ラヤーナの昼食もマースカのフルーツサンドにした。
昼食の後はラティと一緒に森の中に作っている“精霊のおしゃべりルーム”にやってきた。
この間から作っていて、今日ようやく完成しそうだ。
精霊たちが寝転がったり、遊んだりできるようにここにも柔らかい草を敷き詰めてある。
そしてここの近くには小さな湧き水があり、そこから小さな水路を引いて、ため池の様な物を作った。そのため池に今日これから“森神人の石”を設置する。これで、ここでも神水がいつでも飲めるようになり、精霊たちがここでも楽しく過ごせるようになったらいいと思っている。
ここの“森神人の石”もラヤーナがこの場所に設置するために強いものにした。
「ラティ、これで完成ね!」
『できたの~・おしゃべりルーム・できたの~!』
「ラティもいろいろ助けてくれたものね。ありがとう。」
『うふふ~・いいの~・ラヤーナのお手伝い・とっても楽しいの~!』
ラヤーナの魔力はかなり上がってきている。レベル5に届きそうだ。この2,3日の魔力の流れが強く研ぎ澄まされたものになっている。ただ、レベル5になるためには、何かが足りない気がする…、何か、こう詰まっていて思うように出て来ない、そんな感じがするのだ。魔力的にはレベル5だという感覚があるが、どうしてそれが出て来ないのかが分からない。ラティに聞いてもわからないと言っているし、レーリナかローラ様に聞いてみたほうがいいかもしれない。
ラヤーナとラティは森の様子を確認しながら小屋に戻ることにした。
小屋に入るとローラ様とレーリナがすでに戻っているようだ。
今日のフルーツサンドも美味しかった、と二人が言っている。
そして二人がラヤーナに話したいことがある、と言い始めた。
とても大事な話の様だ。
「ねぇ、ラヤーナ。もうあなた、魔法のレベルが上がるのではないの?」
「ローラ様にはお分かりなんですね。魔力的にはレベル5だと感じるのですが、何かが足りないというか、こう詰まっていて蓋でふさがれてしまっているような感覚があります。でもそれが何かはわからないんです。」
「あぁ、やっぱりそうなのね。レーリナ、女神の果実をラヤーナにお願い。」
「はい。ラヤーナ、この果実、食べてみて。」
「これを?」
「そう。それは女神の果実なの。今日神殿から持ってきたのよ。きっと必要になると思ってね。」
「…それは…ローラ様も、レーリナもわかっていたということ?」
「それもあるけれど、ローラ様の状態が安定してきたの。だからラヤーナのレベルも上がるだろうと思っていたのよ。」
「えぇ、ラヤーナ。果実を食べてみてちょうだ。足りないものはこの果実よ。大丈夫、美味しい果実だもの。」
大きさはチェルルの実のサイズだ。色は虹色に光っている。
ラヤーナはその実をそっと口に入れた。ゆっくりと咀嚼する。
甘くて、少し酸味があり、とても爽やかで、濃厚で、いろいろな美味しさが順番に押し寄せてくる。1つの実でいろいろなおいしさを味わえる不思議な実だ。
「あら…」
「ほらね、たべるとわかるでしょ!」
「うふふ…ラヤーナ、どうかしら?」
「魔力が…私の魔力…こんなに隠れていたなんて…すごい…これが私の本当の魔力…」
「そう、この実はね、森神人の眠っている力を引き出すの。特にラヤーナは異世界に飛ばされていたでしょう。だからその時にいろいろな力を閉じ込めてしまったの。それを開放することができるのが、この女神の果実よ。魔法だけではなく、職や特殊スキルも少しずつ出てくると思うわ。
それに、ラヤーナの身体も完全にこの世界に馴染むの。」
不思議な感覚だ。自分の体の中にはいろいろな力が閉じ込められていたのがはっきりとわかる。今は魔力が表に出てきたが、ローラ様が言ったように、これから少しずつ他の能力も出てきそうだ。
「ローラ様、不思議ですね…私は本当に、エルクトラドムの世界の森神人なのですね…」
「えぇ。ラヤーナ、これからまた大変なお仕事をあなたにお願いすることになるわ。」
「ローラ様、私はこの世界の森神人です。森のみんなのために、この世界のために、頑張ります。」
「ありがとう、ラヤーナ。」
『ラヤーナ・すごいの~・魔力上がったの~・すごいのなのなの~~~~!』
「ウフフ、ラティ。みんなのために、もっとがんばらないとね。」
「早速ラヤーナにお願いがあるわ。ローラ様も元気になられて森の方は大丈夫よ。ラヤーナの身体も、もう完全にこの世界のものだから、森の外に出ても大丈夫。だから今度は精霊の森の外、ヴェルネリア王国で薬を普及させてほしいの。」
「そういえば、以前ラティから聞いたことがあるわ。薬草がないとみんな弱っていくって…」
「えぇ、その通りよ。今は聖水に魔力を込めたものが薬として使われているの。それも薬ではあるんだけど、効力が全然違うの。この世界は女神様が精霊の森にいて、そこから恩恵をみんなが受けるということもあって、薬草から作る薬がないと生き物の生命力がだんだん弱ってしまうの。今はラヤーナ以外には薬師が一人もいない状態で、聖水に魔力を込めた薬と、治癒魔法でけがや病気を治しているけれど、だんだんその力を持つ人たちも少なくなってしまっているわ。だから、まずラヤーナの薬をこの森から一番近い町でそこの人たちに使ってもらったり、お店を開いて薬を売ったりして、いろいろな人に使ってもらえるようにしたいの。」
「町に薬屋さんを作るのね…」
「えぇ、もちろん、まずは森の外で生活できるように、鬼獣に対抗できるように練習してからになるけれどもね。」
「わかったわ。まず精霊の森の外でも生活できるようにしないといけないのね。」
「そういうことなの。それに今魔法のレベルが5でしょう。6からは町で魔法の書を手に入れる必要があるわ。ラヤーナの魔法はこれからもっとレベルが上がるはずなの。書も町で入手してね。」
『ラティも!ラティも一緒に行くの~~~!』
「もちろん、ラティもラヤーナについていってもらうわ。」
『大丈夫なの~・まかせてなの~』
「ラヤーナ、これからまたいろいろとあなたにお願いすることになってしまうわね。“エル”の力を取り戻すまでは、あなたとレーリナに頼るしかないの。許してね。」
「ローラ様、私はこの世界が、そして森のみんなのことを家族だと思っています。だから、みんなで助け合うのは当然ですよ。レーリナ、ラティと一緒に森の外へいけるようにがんばるわね。」
「ラヤーナ、頼りにしているわ!わたしもローラ様と精霊の森の中で準備を進めていく。これから薬屋をオープンさせましょう!」
森の外の世界へ向かっていよいよ出発だ。