19 ラヤーナ 太陽や月の名前を知る(7日目)
昨日はバーナの実をもらい、ギーの葉に助けてもらいながら風魔法を何とか使えるようになった。
今日も朝から神水のスキルと水魔法で森に神水を撒いている。
昨日寝る前にラティからアドバイスをもらい、神水を撒くときに、水魔法だけではなく風魔法もつかって遠くまで飛ばせるように練習をした。そのせいか、今朝起きた時に精霊の本で自分のステータスを確認したら、風魔法も、水魔法もレベルが2に上がっていた。
精霊の本で自分の状態を見ることを、『すてーたす・の・かくにん』とラティに教えてもらったのも昨日だ。自分の感覚はだいぶ16才に近づいているようだが、1週間ほど前までは80歳を過ぎていた年寄りであり、まだまだこの時代のこの年齢として生きていくには他にも知識が必要になるだろうと思っている。ここには鏡もないし、泉に映る自分の顔もなぜかぼやけていて、どんな自分なのかもよくわかってはいない。わかるのは、肌の色が日本人の時よりもずっと白く、髪の色が光沢のある緑色だということ、そしておそらくではあるが、体型が地球で言うところの欧米系のような、手足が長く、腰の位置が高い、希望的観測もあるがモデルに近い体型ではないかと思う。
着ているものは相変わらずここに来た時と変わってはいない。
庭仕事をしていた時のままなので、動きやすい服装ではあるし、不思議な力がかかっているのか、汚れたり服がダメージを受けたりはしない。ただ、どう見てもズボンの丈の長さが違っている。
「…これで生活ができているんだから…今は深く考えておくことはやめておくわ…」
日がちょうど真上に来るまでラヤーナは魔法を使って神水を撒いていた。
お昼前までに神水を、昨日の2倍くらいの範囲に撒けたのではないか。
今日はバーナの実をもらった。これがラヤーナのお昼になる。
「…ラティ、魔法って便利ね!この時間までに昨日の2倍くらいの範囲に神水を撒くことができたわ。お昼の後も神水を撒いて、森がもっと元気になるようにしたいわね。」
『・・らやーな・・もり・・とてもげんき・・なって・きた・・・らてぃも・・げんき・・・』
『・・らやーな・・まほう・・じょうたつ・・すごい・・らてぃも・・がんばる・・』
「ラティのお話も上手になってきたわよね。この世界のこと、もっと教えてね。」
『・・らてぃ・・おはなし・すき・・ここ・・せかい・・えるくとらどむ・・』
「ここ…エルクトラドムという世界なの?」
『・・ここ・・もり・・ゔぇるねーる・・せいれい・・いる・・もり・・』
「…ここはヴェルネールの森というのね…そしてこの世界はエルクトラドム…」
『・・もり・・げんき・・なる・・めがみさま・・そだつ・・・』
『・・れーりな・・めがみさま・・かわり・・がんばる・・・らてぃも・・がんばる』
「…レーリナは女神様の代わり?…それはどういうことなのかしら…私がこの森に来たのもレーリナに呼ばれたからだし…」
『・・まだ・・せつめい・・むずかしい・・もり・・げんき・・せつめい・・わかる・・』
『・・らやーな・・れべる・・あがる・・えるくとらどむ・・もっと・・わかる・・』
「今はまだ説明が難しいのね。私のレベルが上がればこのエルクトラドムの世界のことももっとわかるということね。それならまずはレベルが上がるように頑張るわ。」
ラヤーナはお昼の後もできるだけたくさん広い範囲に神水を撒いていった。
今はギーの葉を乾燥させる作業に時間があまりかからないし、薬草として刈られたいと言っていた葉もあらかた刈って、今は乾燥させて麻袋の中で眠っている。
この眠っているということもギーの葉とラティが教えてくれたことだ。
ラヤーナがこの先、薬師としてどう作業すればよいのかわかるようになって、ギーの葉を薬にできるようになるまでは袋の中で眠っているそうだ。ギーの葉は刈っても、乾燥させてもギーの葉の声が聞こえる。昨日食べたギーの葉も、食べる時に薬草としての効能がラヤーナの中にしみこんできたが、ギーの葉の意思のようなものは、何となくではあるが他のギーの葉の中に潜り込んでいったようだった。
現に眠っているギーの葉が入っている麻袋をのぞいてみると、ギーの葉が何か寝言のようなことを言っているのが聞こえる。『や・く・そ・う』とか『く・す・り』とかそういう言葉の様だ。不思議なことに、ギーの葉を見ないと声は聞こえない。麻袋の外からいくら耳を近づけてもギーの寝言は聞こえない。しかも時々寝息なのか鼻息のような音まで聞こえる。
とても不思議だ。
ラヤーナは日が落ちかけるまで、できる範囲で神水を撒いていった。
ラティのところに戻ると、ちょうど空には2つの月が昇っていた。
「月…のようなものが2つ。この時期…だったわよね、月が2つ。ねぇラティ、違う時期は、月は昇らないのかしら?あぁ、それに月っていうの?そういえば昼間も私は“太陽”って思ってちゃっているけれど、名前はあるのかしら?」
『・・ひる・・あうら・・そらに・ひとつ・・あかるい・・ひかり・・・』
『・・よる・・みこー・・あかるい・・るしおら・・やわらかい・・』
「昼の明るく照らす星はアウラというのね。地球では“太陽”って言うのよ。今空に昇っているのは、ミコーとルシオラというのね。ミコーが明るい方で、ルシオラが柔らかく光っている方ね。」
『・・いま・・あえすたーす・・もり・・そだつ・・あたたかい・・あつい・・ながい・・』
『・・つぎ・・おーたむなす・・もり・・みのる・・あたたかい・・ながい・・みこーだけ・・』
『・・つぎ・・いえむす・・もり・・ゆっくり・・すずしい・・・みじかい・・るしおらだけ・・』
『・・つぎ・・ゔぇーる・・もり・・おきる・・あたたかい・・みじかい・・みこーとるしおら・・こうたい』
「…ラティは季節のことを言ってくれているのね?今は…アエスタース…森が育って、暖かくて暑くて…ながい?期間かしら?季節は…夏のことの様ね。その次は、オータムナス…私の知っているオータムの言葉と同じだとしたら、季節は秋ね。実るということからもやっぱり秋ね。この時期はミコーしか昇らないのね…次が冬で短くて、ルシオラだけしか昇らなくて、その次が春よね、きっと…この時期はミコーとルシオラがこうたい…交代?」
『・・よる・・みこーだけ・・つぎのよる・・るしおらだけ・・つぎのよる・・みこーだけ・・』
「ああ、順番に交代で出てくるのね。不思議ね。どうしたらそうなるのかしら。そういうところは前の世界とはだいぶ違うわ。」
界が異なれば、理も違うものらしい。