3-61 夫婦として
3章最終話です!
森の家でヴァルテリに深く愛され、番の絆が少しずつ強くなっているのが分かる。昨日も、その前も、ヴァルテリに会ってからずっと…こんなに甘やかされていいのだろうか…。
「アヤ…おはよう…」
「ヴァル…おはよう…」
「今日も可愛い…アヤ…」
「え、あ…ちょっとま…あっ…」
こんな感じでヴァルテリは全くラヤーナを離さない。征爾として樫村絢音と夫婦として過ごした時間が長いせいか、ヴァルテリはラヤーナに対しては口調も、他の人相手と違って柔らかいものとなり『アヤ』と呼ぶ。ラヤーナも、そう呼ばれて安心する気持ちがある。ずっと…日本にいた頃自分と添い遂げてくれた夫は本当に絢音に優しかった。夫が絢音よりも早く老衰でなくなってしまったときはショックでしばらくは何もできなかったほどだ。いずれ自分も彼の元へ行く、それまでは彼との家族、孫たちを少しでもサポートすることが夫へできることだと思って何とか頑張ったのだ。
この世界に来て、『番』が必要だと言われたときは…必要であれば仕方がないと思っていた部分があった。でも…この世界でも征爾が…ヴァルテリが自分の『番』であり、『夫』である、ということが本当に嬉しい。他の人ではなくて良かった。自分だけを『妻』として受け入れてくれたヴァルテリ…どの欠片も、他の女性には決してなびかず触れもしなかったと聞いて、ラヤーナも嬉しくて仕方がない。日本にいた頃の征爾も同じだった。周りからは粘着過ぎて怖いと言われたけれど…でも自分だけを見てくれる人がいると思うことが絢音にとっては嬉しかった。…まぁ…恋愛ごとには非常に鈍いらしい自分だから…粘着されているということに気づいていない…ということではあるらしいけれど。
番の絆を強くするには夫婦としてのつながりを強くする必要がある、とヴァルテリに言われ、どうすれば絆が強くなるのかわからないラヤーナは全て夫に任せている。
そう、夫なのだ。ヴァルテリからの強い希望もあり、メロウとの闘い後、すぐに夫婦としての誓いを教会で立てたのだ。コリファーレへ杖探しに行く前の準備を進めやすくする、という目的もあった。町の教会でレスリーやユリア、メリルさん、ギルド長等親しい人たちに参列してもらって、心温まる優しい式を挙げることができた。その後、ヘリットさんとフランカさんが従業員の人たちと一緒に店の裏手でガーデンパーティを準備してくれて、みんなで美味しい食事を摘まみながらお祝をしてもらった。サフェリア騎士団の人たちにもお祝いされ、ヴァルテリがセヴェリであることが伝えられ、正式に騎士団をやめ、セレスタンがそのまま第5騎士団の隊長としてこの隊を率いることになった。完全に平和になったわけではないこと、これからコリファーレに行くこと等、いくつかの点についてはギルド長の判断で、騎士団にも伝えてある。また今回のコリファーレからの襲撃で、リエスの町はまだまだ復興のため多くの手が必要なことなどもあり、国との取り決めで、このままセレスタンたちの騎士団はリエスの町の復興の手伝いをしながら、店での従業員と護衛、諜報活動を継続することになっている。
「…団長…何ですか…この神々しい美しさは…」
「俺…聞いていないっすよ…」
「おかしいですよ…あの野獣のような団長が実はこんな…コリファーレ王ですら足下にも及ばないような美丈夫だったなんて…詐欺じゃないですか…」
「俺…野獣のような団長が良かったんですけど…」
「…ラヤーナさんも…野獣のような団長が良かったんじゃないんですか?いいんですか、こんなになっちゃって…」
「…おい、こら…俺はもう団長じゃないんだ…それにおまえたち、ラヤーナを見るな。ラヤーナは俺の妻なんだ。お前たちは見なくていい。」
「…ちょっとラヤーナさん、団長ってこんな人だったんですか?セヴェリ団長の時は、もっと、こう…無言で俺に任せろ、みたいな、余計なことは話さず、身をもって手本を示すような人だったんですよ…本当に同じ人なんですよね…?」
「ええと…そうですね…同じだと思います…」
「フォッ、フォッ、フォッ!」
「あ、ギルド長…ちょっとこの団長何とかしてくださいよ…」
「無理じゃよ。ヴァルはセヴェリではあるが、ラヤーナ嬢のことになるとこうなるからの。」
「えー、セヴェリ団長の頃はそんな様子見せなかったじゃないですか。ラヤーナ嬢のこと大切に想ってるんだろうな―って言うのはものすっごくよくわかりましたけど、でもこんな風に人前でいちゃつくとかぜんっぜん、無かったじゃないですか。」
「セヴェリにもいろいろと事情があったんじゃよ…」
「…じゃ、今はその反動ってことですね。」
「そうじゃの。まさしくその状態じゃの。」
「…くそ…そうか…セヴェリ団長はむっつりだったのか…」
「おい…お前ら…」
「ヴァル、まぁよいではないか。皆、お前たちのことを喜んでおるじゃろ。」
「…そうだが…」
「ラヤーナ~~~」
「ユリア!」
「僕もいるよ!」
「レスリーも」
「「おめでとう~」」
「二人ともありがとう。」
「ラヤーナ…この人本当にセヴェリさん?」
「そうなのよ…」
「ふ~~~~~ん…」
ユリアがヴァルテリの周りをゆっくりと回って観察している。
「見た目はちょっと変わったけど…セヴェリさんだね!」
「…なぜそう思った?」
「だって…なんていうか…ラヤーナ好き好きオーラがまえといっしょなんだもん!」
「…そうか…」
「うん、そうだね。見た目は全然変わっちゃたけど、雰囲気同じだね!」
「レスリーもユリアも、すごいわね。」
「あとね、セヴェリさん…ヴァルさんだっけ?」
「あぁ。どちらでもいいぞ。」
「えっと、ヴァルさん、前より強くなったでしょ。僕分かるよ。」
「ほぉ…」
「なんかね…お店でお手伝いしていていろんな人見ているうちに、何となくそういうの、わかるようになったんだ。この人はどういう人なのかなって思いながら、じゃぁどういう薬が必要になるのかなって考えるんだよ。」
「レスリー、すごいわ!」
「うん。やっぱり僕、この仕事自分にすごく向いている気がする。」
「そう、そうしたら…いずれこのお店はレスリーに任せようかしら。」
「え…!」
「まだずっと先のことだけれど…もしかしたら…他の国にもお店を出すかもしれないから。でもずっとまだまだ先のことなんだけれど…」
「え、本当?ね、ユリア、他の国に行ってみたい!ユリア、そこの店長になってあげる!」
「あらユリア、本当?」
「本当だよ!ユリアもこのお仕事好き!」
「そう。じゃぁ、いずれ二人にはお店を任せるわ。」
「うん。嬉しい。そしたら今はこのお店でいろんなことをもっと勉強するようにする。」
「ユリアも!」
「えぇ。楽しみにしているわね。」
二人は食べ物を取ってくる~と言って駆け出して行った。
「二人とも…凄いわね。ヴァルのこともわかっちゃうなんてね。」
「そうだな。頼もしい子供たちだな。」
「二人とも可愛いわね。数か月しか経っていないけど、ずいぶん大きくなったって感じるわ。」
「アヤは昔から…子供も好きだったな。」
「えぇ、そうね。あ、そういえば…日本にいた時の子どもたちはどうしているかしらね?」
「そうだな…孫たちも成人してその子どもたちも大きくなっているんだろう。この界から向こうの…日本の様子はわからない。想像しかできない。神界に行けばわかるだろうが…」
「そっか…そうなのね…そこまでして知りたいというわけではないの。みんな元気で過ごしてくれていればそれでいい…ちょっと寂しいけどね。」
「アヤ…いずれこの世界が平和になったら…アヤと俺の子どもたちをたくさん作ろう。いとし子もたくさん必要だろ。」
「そうねぇ…子供たちがたくさんいたら楽しいわね。」
「アヤ…俺の持っている力は…神の力も含めてだ。おそらく寿命もないに等しい…それはアヤ…ラヤーナも俺と同じ寿命となってしまう…俺は嬉しい…だがアヤ…お前はそれでいいのか…?」
「あら、私も嬉しいわ。だってずっと一緒に居られるんでしょ?征爾さん…今度は私を置いていったりすることは無いわよね?」
ラヤーナに見つめられ、ヴァルテリの顔が引き締まる。
「あぁ。アヤを置いていくことは2度とない。それに、俺から離すこともない。これから…未来永劫一緒だぞ。」
「ウフフ…望むところです。ずっと一緒なのね…。そのうち子どももたくさん…」
「あぁ。アヤ…俺のアヤ…。この世界を平和にし…必ず…そういう未来が来る。」
「えぇ。私の旦那様。よろしくお願いします。」
「アヤ…未来永劫…アヤ…ラヤーナ…お前は俺の妻だ。」
「はい。」
アヤ…絢音…ラヤーナ…俺の番…俺の妻…俺の命そのものだ…
愛してるよ…アヤ…
番外編、挿話はこちらです。
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