3-60 メロウの正体
ヴァルテリの転移魔法で一同全員を精霊の森に移動させる。
精霊の森の家、ラヤーナが何度か拡張して作った大きな居間にみんなで集まった。レーリナは精霊の森の中ではローラ様と同じような大きさに戻っている。
まだ身体の回復が完全ではないローラ様やレーリナ達のため、ヴァルテリはラヤーナの意向に沿って、柔らかく大きなソファや、ゆったりと座れる椅子等を用意する。これらのものはリエスの町の店の倉庫に置いてあったものだ。
ラヤーナ自身もまだ完全に回復しているわけではなく、ヴァルテリに抱き上げられたままだ。正直…とても恥ずかしい…だが…ヴァルテリはラヤーナを絶対に離そうとしない。ときどき、頬やおでこにキスをしてくるので、周りの目があってそれもいたたまれない。
「フォッ、フォッ、フォッ!嬢、ヴァルはこういう奴じゃて、慣れるしかないのぉ~」
「アヤ…やっとだ…」
「ヴァ…ヴァルさん…その…今はみんなもいて…恥ずかしいので…」
「アヤ…そんなこと言うと、二人だけの世界に閉じ込めるけど?」
「ふ、二人だけって?!」
「誰にも邪魔されずに、二人だけで過ごそうか?ほら、日本にいた時の新婚旅行みたいに…」
「あ、待って、待ってヴァルさん、これ…このままでいいです!お話、お話をしましょう。これからのこと…決めましょう!平和になったエルクトラドムで、森神人としてすごしたいです。」
「…俺は?」
「も、もちろん、ヴァルさんと一緒に…ヴァルさんは征爾さんですよね?セヴェリさんでもあるっていうのは…わかるんですけど…なんでそうなったんですか?」
「ヴァル…嬢を愛でたいのはわかるがの…この世界が平和になればなんぼでも愛でることができるじゃろ。このままではいつ邪魔が入るかわからんぞ。」
「……」
「まぁ…1000年ぶりかの?それ以上かのぉ…。気持ちはわからんでもないが…」
「え…でも…征爾さんは日本にいた時の、前の世界の夫でしたから…えーとそうですね…この世界に来てまだ1年経っていないし…5,6年ぶりくらいですよね…」
「アヤ!俺は一日だって離れたくは無かった…」
ラヤーナは日本にいた頃の夫、樫村征爾のことを思い出す。あ…そうだった…征爾さんはそういう人だった…よく友人に溺愛束縛凄いね…と揶揄されていたことを今、思い出した。友人曰く、どんなにイケメンであっても、こうまでの粘着系は絶対無理だということだった。ついでに言うと、アヤは鈍すぎるから大丈夫なんだとも言われていたっけ…。
そうだ…それに…夫から少しでも離れようとするとその後が大変だった気がする…基本的に自分も夫には側にいてほしいと思うタイプだったため…好きなようにさせていたんだっけ…。さっきの二人きりになろうという話の時に、とっさにああいう返答をしたのは、自分がああ言わないと、あとで大変なことになることをうっすらと覚えていたからなのかも知れない…あるいは…夫と一緒に過ごしてきた中での本能かもしれない…
「ラヤーナ…あなたが幸せになる、それが私の望みです。ヴァルテリがこうしてあなたのもとに戻れた、それはとても嬉しいことですよ。どうか彼を受け入れてください。」
「ローラ様…」
「大丈夫ですよ、ローラ様。ラヤーナ、とっても嬉しそうですよ。」
「レ、レーリナ…」
「フォッ、フォッ、フォッ。それでいいじゃろうて。」
ヴァルテリがじっとラヤーナを見ている。
「そ…そうですね…。こ…ここは…」
「ここ?」
ヴァルテリがラヤーナにキスをしながら問いかけた。
「ヴァ、ヴァルさんの腕の中は…お…落ち着きます…ね…」
「そうか。それではこのまま話をしよう。」
ヴァルテリはラヤーナの返答に満足したように、ラヤーナに再びキスをし、ギュっと抱きしめ、ラヤーナが話に参加しやすいように身体の向きを調整し、もう一度しっかりと抱きしめ直すとみんなの方に向き直った。
「…してヴァル…お主はやはりヴァルじゃな。」
「…そうだ…」
「欠片はどうなってたんじゃ?1つはセヴェリだというのはわかったが…」
「俺の…18の欠片はそれぞれいろいろな界に飛んで行った。アヤを探し出すために。」
「私を?」
「そうだよ、アヤ。…アヤ…可愛い…」
再びヴァルがラヤーナにキスをしてくる。自分が返事をするたびに、じっと見つめられ、キスをされるのは本当に忍びない…だが…ここで嫌がるそぶりを見せれば確実に二人きりで部屋に閉じこもりコースに突入し、しばらく出て来れなくなる…今はそれは絶対に回避しなければならない……キスは人前であるが…甘んじて受けるしかない…のか…
ラヤーナが嫌がらずにキスを受け入れ、しばらくキスを続けヴァルテリがそこそこ満足したことで話をつづけた。
「アヤを見つけた欠片…日本では樫村征爾として生きた欠片はその世界でアヤの夫としてアヤを守り、その生を全うした。併せて、その世界で手に入れることができる知識や技術、力などもできる限り手に入れている。」
「…征爾さん…お医者さんじゃなかったけれど…知識はすごかったわよね…」
「そうだよ、アヤ。」
「他の欠片はどうしていたのよ?」
ラヤーナに絡みついているヴァルテリにレーリナが問いかけた。
ヴァルテリはラヤーナを抱きしめており、満足したところで答える。
「みんな別の界に飛んで、そこで得られる力を全て得るようにした。」
「え…全て?」
「そうだ。」
「全てとは、どういうことじゃ?」
「…それぞれの界で、魔術、魔法、魔力、体術、剣術、学問、気学、神力など…得られる力や知識、技術は全て自分のものにしてきた。アヤのいる世界では主に経営力、社会学、技術力、政に関するものを習得した。医療に関しては他の界で習得していたからアヤのいた世界では他分野を得るようにした。」
「そうだったのね…征爾さん、医師ではないのに、医師以上にいろいろなことを知っていたから、どうしてなのかなってずっと不思議だったのよね…」
「アヤ、アヤが医者になりたいと言って一緒に勉強をしたときに、アヤに教えるのはすごく楽しかったよ。一生懸命なアヤも可愛いね。」
ヴァルテリがラヤーナを構っている間、他の者たちはヴァルテリが持っている力と能力について考え始めた。しばらく無言で考えている中、ローラ様がヴァルテリの力について話し始めた。
「そう…だったのですね…。それにしても…ヴァルテリの力は…正直私の力をも超えていると思います。メロウを一瞬で退かせているあなたの力は…もはや神の領域にあるのではないのですか?それであれば世界は力のある神が治めたほうが…」
「女神ローラ、このエルクトラドムは神が治める世界ではなく、女神が治める世界であり、俺はこの世界には、森神人の番として受け入れられている。それ以上でもそれ以下でもない。そして俺もその立場を望んでいる。どんなに力があっても俺は森神人の番としてしかその力を使う気はない。」
「…しかし…」
「アヤ、アヤはどうしたい?」
「私…ですか?…私は…この世界でみんなと楽しく過ごしたい。薬を作って、みんなを助けて…森と一緒に過ごして…ローラ様がこの世界を治め、レーリナ達も、他の精霊たちも幸せにこの世界で過ごす…私もそんな仲間になりたい…そう思っています。」
「そうか…それがアヤの望みであれば…俺の望みもこの世界の平和となる。」
「ヴァルテリは…あなたの望みは何ですか?」
「俺の望みは女神ローラに願ったことと変わっていない。俺をラヤーナの番とすること。そして、ラヤーナと永遠に番でいることであり、ラヤーナが望む幸せに生きる世界を守ることだ。」
「そうですか…。ヴァルテリは…本当にヴァルテリなのですね。」
「あぁ。」
「それで…その力は…。…神力…もあなたは持っていますね。」
「そうだな。…間に合ってよかった…アヤのヒントが無ければ間に合わなかったかもしれない。」
「ヒント?」
「そうだ。俺たちはアヤが見つかったことで征爾がアヤを守る担当になり、他の欠片は奴に対抗するための力をつけることに集中した。この世界には屈強で魔力が高い欠片を残し、その欠片はサフェリアで再び生を受けエルクトラドムの世界の情報を集めるようにしていた。それがセヴェリだ。他の欠片は力を得ると、ヴァルテリの欠片に集まり始め、別の界で神界へ行くための力と方法を得た欠片が合流して、ようやく神界へ行くことができた。神界に行くには大きな力が必要だったため、セヴェリ以外の欠片は全てそこに集まり俺の中に戻っている。そこで、メロウを神にした大神を見つけ、神力を得ることができ、同時にメロウを引きずり下ろす力も手に入れた。」
「どうやって神力を手に入れたんじゃ?そう簡単ではなかったんじゃろ。」
「…あぁ…交渉と弱み…それらは何とかなったんだが…メロウの真名とルーツが分からなかったんだ…それが無いとメロウから力を奪うことができない。」
「じゃが…それを手に入れたんじゃろ?」
「あぁ。アヤ、アヤのおかげだ。」
「え、私?」
「そうだよ、アヤ。やっぱり俺のアヤだ。」
「え…あ…ヴァルさん…待っ…」
ヴァルテリがラヤーナを愛で始める…
周りにはしょうがないな…という空気が流れ…しばらく放っておこうかというところでラヤーナのカバンが淡く光った。そちらを見れば、魔法帳が少しだけカバンから顔を出していた。
「…魔法帳かの?」
「ラヤーナ…は…取り込み中ね。私が取り出すわ。」
レーリナが魔法帳を手に取ると、ひとりでにページがパラパラとめくれ、文字が現れた。
ヒントはこれよ♡
池上愛楼
「…これがヒント?」
「ふーむ…儂には何と書いておるかわからん…」
「これは、ラヤーナの以前いた界の文字ですね。」
皆で何と書いてあるのか唸っていると、ようやくヴァルテリから解放されたラヤーナが魔法帳に書いてある文字を見てこう言った。
「これ…いけがみあいら、と読みます。」
「いけがみあいら?」
「はい。いけがみは姓、あいらは名前です。」
「どうしてこれがヒントに?」
「私も…わかりませんが…この人…以前うちの…前の界の日本というところにある病院で仕事をしていたんですが…そこに緊急で運び込まれた患者さんです。」
「…病人じゃったのか?」
「そういうわけではなくて…刺されて…」
「刺される?嬢の以前いた世界は平和じゃったと聞いたが?」
「平和なんですが…それなりにいざこざもありまして…この方、痴情のもつれから大けがをされて病院に運ばれてきました。」
「痴情とは……それはまた…」
「はい。一度は退院されたんですけれど…いろいろとお取り撒きがすごかったため、病院中で知らない人はいませんでした。征爾さんも知っていると思います。その後…別の方に再び刺されて、その時は別の病院に行ったそうなんですが、そこでお亡くなりになったそうです。」
「それは…何というかのぉ…」
「えぇ…それと…その方…池上愛楼さんなんですが…『め』さんにお顔がそっくりで、『愛楼』という漢字も…ここに書かれている名前の文字のことですが…読み方を変えると『メロウ』とも読めます。そして戦いのとき、『め』さんを…王様越しですが、初めて見た時に、どこかで見たことあるなぁ…と思っていたらこの方のこと思い出して、闘っているときに『いけがみあいらさんですか?』って聞いちゃったんです…」
「…!なんじゃと!」
「え、ラヤーナ…そんなことしたの?って言うか…戦っているときに、よくそんなことつぶやけたわね…」
「あ、レーリナ…ごめんね…緊張していたからなのか…フッとそんなことが口から出ちゃって…」
「そうだ、アヤ。アヤから見せてもらった『愛楼』という文字と、アヤがつぶやいた『いけがみあいらさんですか?』って言う言葉が俺の征爾の記憶に繋がって、ようやくメロウの真名が分かった。」
「メロウは…やはりエルクトラドムの者ではないのですね。」
「あぁ、そうだ。大神が貪欲な、特に異性に対して貪欲なこの女が面白いと思って自分のところに引き寄せた。そこでこの女は大神に取り入って自分の力を強力にし、神の器を手に入れた。だがしばらくすると大神がこの女に手を焼くようになり、神という力を与えてしまったために、どうしようかと思っていたところで、女神しかいないところであればいいだろうと、エルクトラドムに大神の力で押し込んだ、ということだったようだ。」
「なんと迷惑な!大神にも困ったもんじゃ…」
「でも、どうやって交渉したの?大神様相手で交渉は普通しないでしょ?」
「…そもそも大神も色欲の神で、女遊びが激しいんだ…」
「…え…神なのに?…」
「…レーリナ嬢…男子とは…何処でも同じようなもんじゃよ…」
「えー…だってラヤーナのヴァルはそんなことないでしょ?おじいちゃんだってそんなことないでしょ?」
「ヴァルはまぁ…のぉ…儂はいいんじゃよ…儂のことは…」
「…あ、わかった!!!ふふ~~~~~ん…」
「な、何じゃ…?」
「おじいちゃんのこと、今ちょっとわかっちゃったぁ~~~~」
「なに?」
「大丈夫、言わないから~~~。おじいちゃん、安心してねぇ~~~~」
レーリナはギルド長に話しかけながら、チラチラとローラ様の方を見ている。
ギルド長はレーリナの視線の動きを理解して、やれやれとため息をついた。
「して、ヴァル…どうやって交渉したんじゃ?」
「いろいろと紹介した…ということだ。」
「紹介?」
「大神に、神界に余計な者を連れてくるから問題になる、だからそれぞれの界で遊べばいいと言って、いろいろな。」
「…それで交渉になるのかの?」
「大神は神界に拘束されている。そこから出られないんだが…依り代があると自分の一部をそこに入れ、下界で過ごすことができるらしい。だがそれをするには別の神の力が必要になる。」
「…ヴァル…どうやって女子を見繕ったんじゃ?ここには嬢がおる。内容によっては嬢が悲しむぞ?」
「俺が師匠の考えているようなことをするはずがないだろう。それぞれの界で人把握もしてきたんだ。大神の好みの女なぞ、いくらでもいる。」
「別の神の力も必要なんじゃろ?」
「あぁ。依り代を作り、大神の一部をそこに入れて、下界に下ろせばいい。依り代を作る時、下界に下ろすとき、戻る時にも大神とは別の神の力が必要だ。」
「それをお主が担当すればよい、ということか…」
「そうだ。他の神は大神の色事に巻き込まれたくなかったようだからな。大神に俺が手伝うと言ったら非常に喜んでいた。」
「じゃが…面倒ではないのか?」
「面倒?一瞬で行って戻ってこれる。紹介リストは無限にある。何の手間もないだろう。」
「…お主がそう言うのであれば…それでいいじゃろうが…」
「ヴァルテリ…あなたが力を授かった経緯はわかりました。ですが…メロウ自身は神界に潜んでいますし、まだその力は残っています。私の力が回復するまでにはまた時間がかかりますし…神界に行って『エル』の力が入っている水晶を取り戻せるかどうかはわかりません。」
「あぁ、それに関しては、ラヤーナに『エル』を取り戻させる。」
「ラヤーナに?それは危険ではないのですか?すでにラヤーナには多くのことを担ってもらっています。これ以上は…」
「女神ローラ、だが、自分ではもう取り戻せないこともうすうす感じているんだろう。」
「…そうです…ね…女神ではあっても…神界まで戻る力はもう…ありません…」
「…精霊の森から…出てしまったから?私の…せいで…」
「いいえ、ラヤーナ。メロウを抑えられなかった私の未熟さが招いたことです。あなたに過分な負担を強いてしまったのは私です。」
「でも…でも…」
「女神ローラが行くことは出来なくとも、神界にはラヤーナなら行ける。」
「ラヤーナは神ではありません。神界には行けません。」
「普通はそうだ。だが俺は?」
「…ヴァルテリ…あなたは…」
「そして俺はラヤーナの番だ。俺の力はラヤーナの力だ。番の絆が深ければ、ラヤーナを神界に送れるはずだ。」
「…あなたの…神としての力をラヤーナと共有する、ということですか?」
「あぁ。どちらにしても、これから俺がラヤーナの番である以上、森神人の寿命は俺の寿命と同等となる。そして神の力を持つ俺に関してはその能力も共有することになる。」
「…それは…でも…それであれば…でも…まだラヤーナには闇の魔法も光の魔法も使えません。」
「そうだな。だからこれから立て直しが必要になる。そもそもあいつがこの地に降り立てること自体がおかしい。」
「そうじゃの…コリファーレのどこかにその原因があるはずじゃが…」
「あぁ。だから俺はアヤと一緒にコリファーレにあるその原因を探しに行く。おそらくある物は…杖だ。」
「ディーデの杖のことか…」
「そうだ。まずあいつの力の源となっているコリファーレの地からの搾取を止める。その間に番の絆を強くし、神力の共有ができるようにし、アヤの光と闇の魔法も使えるようにする。女神には、この森で再び力をつけ、『エル』を受け入れられるように回復をしてほしい。アルバスも、しばらくは精霊の森で休む必要がある。死にかけていたところを無理やり神獣にしたからな…。力を体になじませ、新たな力を使いこなすまでにも時間が必要だ。」
「アルバスは…ラヤーナの守護獣としてだけではなく…この森の守護神獣となってくれたのですね。」
「そうだ。」
「そうか…よかったの…アルバスも嬢にとっては大切な仲間じゃからの。」
「あぁ。アヤの守りたいものは、俺の守るべきものでもある。準備ができたら、アヤをエルクトラドムの神界に送り『エル』を取り戻し、メロウを完全に排除する。アヤ、大変だが俺がいる。やってくれるな。」
「はい。もちろんです。」
「ああ、アヤ…。俺のアヤ…。…師匠、リエスの町を頼む。アヤ、薬は倉庫にあるんだろ?」
「はい。薬はたくさんあります。しばらくは大丈夫なはずですが、できれば今のうちに新薬ともう少し在庫を…ぁ…」
「こりゃこりゃ、ヴァル、嬢が何か言うたびに接吻をするのはやめておくんじゃ。全くこらえ性の無い男じゃの…この話が終われば一度森の家で休むんじゃろ?そこでいくらでも愛でればよかろうて…。コリファーレに向かうには準備の時間も必要じゃろうし、コリファーレに杖探しに行く間も二人きりじゃろうに…」
「そうだな。」
「リエスの町のことや、国に関することは儂がいろいろと手配しよう。コリファーレに襲撃された町の復興も必要じゃろうし、他の国も含め、いろいろと支援を必要としておるからの。ローラ嬢とレーリナ嬢は森のこと、この世界のことをよろしく頼みますじゃ。」
「えぇ、わかっております。ギルド長…ヴォイットでしたね…1000年前も、今回も…本当に感謝しております。」
「いやいや、儂はこの世界が大切なだけですじゃ。ローラ嬢の治める世界を見たいとは思いますが…なんせこのような年寄りですからのぉ…儂の最後のお手伝いになると…」
「師匠には、今後も手伝ってもらう。」
「…今後も…じゃと?」
「あぁ。師匠が老衰なんかでいなくなられるとアヤが悲しむからな。」
「こりゃ、ヴァル。」
「それに…孫を見たいんだろう?」
「…孫…じゃと?」
「そうだ、師匠。血縁ではないが…俺は師匠のことは師でもあり父でもあると思っている。俺とアヤの子どもはきっと間違いなく可愛いはずだ。」
「…お主…儂に孫の子守をさせるつもりか?」
「あぁ。一人ではないぞ。今はどこの国も愛し子がいない。この世界が平和になってからさらに繁栄させるには、いとし子が多く必要だ。それにアヤの味方は多いほうがいい。」
「…人使いが荒いのぉ…じゃがヴァル…儂の寿命はもうそこまでは無い…お主たちの孫が生まれるころまではのぉ…それはお主もわかっておるだろう?」
「師匠、俺がどんな力を持っているか、もうわかっているだろう。」
「…ヴァル…お主…………儂の寿命を延ばすつもりか?」
「無理に…ではない…だが…女神にも、アヤにも、頼れる師が必要だ。アヤには俺がいるが、女神には誰もいない。レーリナもアヤも、味方ではあるが女神の師にはなれない。」
「…お主…」
「女神ローラ…お考えを…」
「…私は…皆が幸せに過ごせるような世界を作る…そのことしか考えておりませんでした…でも…もし…私にそのような方がいらっしゃれば…ですが…それはこの世界の理に…それにその方ご自身の負担にも…」
「理に反することは無い。神を作るわけではないからな。」
「ですが…私のことなど…」
「女神ローラ、あなたがこの世界のすべてを平等に愛しんでいる、それはわかる。だが、アヤもレーリナも我々も、皆、あなたにも幸せに穏やかにすごし、この世界を治めてほしいと願っている。」
「わたくしは…自分の望みを…考えたことがありません…」
「師匠、どうする?」
「儂は…」
「おじいちゃん、今ならチャンスだよね!」
「こりゃ、レーリナ嬢…」
「師匠、寿命を長くできるが、外見も寿命にあった以前の様にもできる。それに、精霊の師としてこの精霊の森に出入り自由にすることもできる。」
「…じゃが…若くなったりしたらギルドの連中も驚くじゃろうて…」
「おじいちゃん、自分で見た目を変えればいいんじゃない?若者になったり年寄りになったりして。」
「そ、それは…そうかもしれんが…」
「ローラ様も、外の世界のことをいろいろと教えてくれる人が頻繁に訪れてくれるときっと嬉しいと思うな~」
「むむ…」
「ギルド長の生ですから…ギルド長の望むようにしてください。」
「ラヤーナ嬢…」
「ヴォイット、私のことは気にすることはありません。あなたはあなたの生きたいように生きてください。」
「ローラ嬢…」
「さぁ、師匠。どうされるかな?」
「ムムム………」
「ラティもいつかは戻ってくるからな…師匠に会いたいというかもしれないな…」
「ムムムムムム………ヴァル…師匠をこき使いおって…全くしょうもない弟子じゃの………」
「…俺はいつもの通りだ……」
「…仕方がない…不肖な弟子の責任は師が取らんといかんだろう…お前の好きにせい…孫も仕方がない…面倒を見てやろう…全く本当に…怪しからん弟子じゃ…」
※ 征爾は絢音を『アヤ』と呼んでいました。そのためすべての欠片も『絢音』=『アヤ』=『ラヤーナ』という認識をしており、ラヤーナのことも愛称の『アヤ』と呼ぶことが当たり前のようになっています。
※ 大神との交渉でヴァルテリが神の存在となった経緯はもう少しいろいろとあります。ここでは話の中の説明として簡単に伝えるためかなり端折っています。