3-59 ラティとアルバス
このお話ではヴァルテリの名前が会話の中も含めていろいろと混在しています。
次話からは落ち着きます。
「…や…」
「…………」
「ラ………ナ…」
「……っ……」
「…アヤ……」
「…っぅ……わ……た…し……」
「ラヤーナ…!」
「セ…ヴェリ…さん?………」
「…アヤ…」
「…せい…じ…さん…?」
「アヤ…」
「むかえに…来て…くれた…の?」
「アヤ!」
「…せ…じ……さ……ん…」
「俺は…」
「…あ…りが…と…」
「アヤ!」
男性はラヤーナをそっと抱きしめ、ラヤーナのおでこや頬にそっとキスをしていく。
「せい…じ…さん…なのね?」
「アヤ…」
「あえ…て…よかっ…」
「アヤ!」
せいじ、とラヤーナに呼ばれた男性はラヤーナの唇にそっとキスを落とした。何度も何度も愛しむように、繰り返し優しいキスを重ねていると、ラヤーナの身体が柔らかい紫色の光に包まれ始めた。その光がゆっくりとラヤーナの身体に吸収されていくのを見て、せいじ、と呼ばれた男性の厳しかった表情が少し緩む。
「…わ…たし…?」
「大丈夫か?」
「あの…私…あなたは…」
男性の腕の中から起き上がろうとしたラヤーナは強い眩暈でそのまま身体が崩れ落ちそうになったところを、しっかりと抱きしめらた。
「まだ無理をするな。しばらくこのままでいたほうがいい。」
「…あの…でも…あなたは…」
「アヤにはわかっているんだな。」
「…征爾さん?」
「あぁ…そうだよ、アヤ。」
「…でも…セヴェリさん?」
「そうでもあるな。」
「でも…本当は…ヴァルテリさん?」
「あぁ。ちゃんとわかっているアヤ、君はやっぱり可愛い。」
「あの…私…まだ混乱して…でも征爾さんであることもわかるけれど…」
「アヤ、細かい話は後でする。今はみんなを助ける必要がある。」
「あ、ラティ!ラティは?征爾さん、ラティはどうなったの?アルバスは?ローラ様は?レーリナは?ギルド長は?みんなどうなったの?私、私…みんなが…」
「アヤ…」
「ラティ、どこ!!!…ラティは私を守るために…ラティの力を全部使ってしまったの。ラティを探さないと…早くしないと…ラティ…ラティーー!!」
ラヤーナはラティの気配を探る。ずっと自分の側にいてくれた、この森に呼ばれてからずっとそばにいてくれた…はじめは木のまま自分とおしゃべりをして…それから可愛い精霊の姿になって…おしゃべりもだんだん上手になって…キラキラした甘いお菓子が大好きで…
「ラティ…ラティ…ラティ………ラティの気配が…何処…ラティ…」
必死で気配を探るが見つからない…ラティの気配がない?だめ、そんなのだめだ。探さないと、ラティを探さないと…ラヤーナは自分の身体がボロボロな状態にもかかわらず必死でラティを探し続けた。
………あ…!
「ラティ!!!」
ラヤーナはほんの僅かの…本当に…おそらく誰にも気づかれない…ラヤーナしか気づくことができない本当にほんの僅かに感じるラティの気配を見つけた。
そしてそこには羽が捥がれ、消えかけているラティが地面にたたきつけられたように横たわっていた。
「ラ…ティ……。え…いや…いやよラティ…一緒にいたじゃない…ラティ…ラティ…ラティーーー!」
「…まずい…このままでは…」
『……や…な…』
「ラティ!」
『…せ……り……や…く…そ………ま…も………た……』
「ラティ!ラティ!」
『…こ…ど………な…り……か………た……』
だんだんとラティの身体が消えていく。
「ラティーーーーー!」
「アヤ、ペンダントはあるか?」
「ペンダント…?」
「俺が作ったもので、アヤが守りにしていたものだ。」
「あ、あります…守りの力は…メロウの攻撃で…もう残っていないけれど…」
「そのほうがいい。そのペンダントを貸してくれ。」
「これを?」
「あぁ。急げ。」
ラヤーナは首から外してヴァルテリに渡す。
ヴァルテリは消えかけているラティを不思議な魔力で包み込む。するとラティは小さな…とても小さな少し赤みを帯びた水晶のようなものに変わった。それをラヤーナのペンダントにそっと重ねると、ラティの水晶はペンダントの中に自分の居心地を確かめるかのようにフルフルと揺れたり回転したりした後、淡く発光したと思ったら、スッとペンダントに綺麗に収まった。
「ラティはここにいる。消えかけていたからな…力が戻るにはしばらくかかるだろう。だが…いつかまた俺たちの元に戻ってくるはずだ。」
「ラティ…ラティがここに?」
「そうだ。今は…ゆっくりと休ませてやれ。」
「はい…ラティ…ここに…いるのね…私を守ってくれてありがとう。これからも一緒にいてくれてありがとう。ラティ…また…あなたとお話しできるのを待っているわ。」
ラヤーナはラティのペンダントを再び首に掛けた。
「征爾さん、他の人たちは?」
「アルバスが危険だ、行くぞ。」
二人は急いでアルバスのところへ向かった。
そして、見つけたアルバスも手足がばらばらになり、瀕死の重傷を負っている。
「アルバス!アルバス!怪我が…ひどい…待ってて、治癒魔法と薬を…」
ラヤーナが聖神水を掛け治癒魔法を掛けるが効かない。薬を取り出して掛けてもアルバスの怪我が治る気配がない。ばらばらになっていた手足をつなげて魔法を掛けても全く治る気配がない。
「どうして?どうして治癒魔法も薬も効かない…アルバス!」
『我の…やく…めは…果たせた…ようだ…』
「ねぇ、どうして薬が効ないの?魔法が効かないの?」
「…すでに…治癒も薬も効かないか…守護獣のコアを砕かれたか…」
「守護獣のコアって何?砕かれるって…」
『役目は…終わった…ラヤーナ…これからは…その者と…』
「だめ!アルバス!!嫌!!!一緒にいてくれるって…そばで守ってくれるって言ってたでしょ!」
『…す…まぬ…』
「…アルバス…お前は望まないのか…もっとラヤーナの側に居たいと…」
『それは…もう…叶わぬこと…であろう……守りの…核を…やられた…我は…もう…』
「お前次第だ。お前の望みはなんだ。」
「我の…望み…我は…お前たちの…子を…お前たちが…守る世界を…見たかった…できる…ことなら…ラヤーナを守り続け…た………か………」
「そうか。」
アルバスの目がそっと閉じる。
「アルバス!!!」
「…アヤ…森神人の石をすぐに作れるか?」
「え、はい…作れ…ます…」
「精度の高い…最上のものを1つ欲しい…」
「今…?あ、アルバスに?」
「そうだ。」
「わかりました!」
ラヤーナは土魔法を使い、純度の高い鉱石を造り出した。アルバスに逝ってほしくない…アルバスが元気になるように…
強い思いを込める。
ラヤーナの手の中で鉱石がさらに純度を増し、虹色の光を持つ宝石になる。そして神水の力とさらに地の恵みの力を込める。ラヤーナがこれまで作った森神人の石の中でこれほど強い物を作ったのは初めてだ。
「征爾さん…これを…」
「あぁ。…これは…素晴らしい石だ。これならば…」
ヴァルテリはアルバスの眉間にそっとその石を置く。すると、すっとその石が眉間に張り付いた。
アルバスの息は辛うじてあるが、おそらくすでに意識は無い状態だ。
「アルバス…これからもラヤーナを守り…この森の守護者としてすごしてほしい。」
ヴァルテリが石に何か強い力を注いでいるようだ。石が光り、そこから出ている強い光がゆっくりとアルバスの身体を包み込んでいく。光がアルバスの身体を包み込むと、その光は強いまま七色に色を変えその光が1色ずつアルバスの身体にゆっくりと馴染んでいく。色の変化が終わり、強い発光がだんだんとおさまり、今アルバスの身体は淡い7色の光に包まれている状態だ。
「征爾さん…アルバスは…」
「あぁ。」
「よかった…」
「アヤ、少し力も回復したか。」
「あ…はい…」
「…もう少し力が必要か…」
ヴァルテリは再びラヤーナに優しいキスをする。するとヴァルテリの不思議な力がラヤーナの身体にゆっくりと染み渡る。
「せ、征爾さん?」
「まだアヤ自身の回復が十分じゃないだろう。それにこの森全体に神水を撒くにはアヤが倒れてしまうからな。女神ローラや森の精霊たちを助けるにはアヤの聖神水が必要だ。」
「で、でもっ、きっ、キス…!」
「番同士なら互いに回復させることができる。」
「そっ、そうかもなんですけどっ!」
「アヤは可愛いな…」
「征爾さん!もう……。あ、ヴァルテリさんって言った方がいいんですか?」
「アヤの好きな方で。…まぁ…みんなの前ではヴァルの方がいいかもしれないな。」
「…わかりました…」
「アヤ、今はこの森全体を神水と聖神水で回復させられる分だけ回復して欲しい。女神もレーリナも、他の森の精霊たちもそれで基本的には回復する。おそらく森の精霊たちは、女神に自分たちのすべての力を渡し、女神がレーリナと一緒にメロウと対決していたのだろう。魔力や身体を癒すには、森が力を回復することが一番だからな。」
「はい、わかりました。…あ…ギルド長は大丈夫でしょうか?」
「師匠は気配がしっかりあるから大丈夫だろう。おそらく薬を使って今は回復しているところだな。弱っていた気が今はしっかりと戻っている。おそらくすぐここに来るだろう。」
ラヤーナが森に治癒効果を付加した神水を撒いていく。聖神水も併せて撒いていく。力が足りなくなると、時々ヴァルテリに助けてもらいながら森全体に十分に行き渡るようにたくさんの神水を撒いた。精霊の森辺りにもより多くの神水を撒いたが、森から感じる気配としては、おそらく精霊の森の中に入って神水をもっと撒くことになるだろう。
ラヤーナが森に神水を撒き終わる頃、ギルド長がやってきた。その頃にはローラ様も意識を取り戻していた。レーリナも小さな精霊となっていてローラ様の胸元辺りからスッと飛んで出てきた。レーリナの力をローラ様に預けるために、レーリナの意識を完全に消してすべてをローラ様に預けていたのだそうだ。
「…ヴァル…間に合ったか…」
「あぁ…間に合った…師匠…」
「よい、よい…じゃが…まだ奴は生きておるのだろう?」
「あぁ。」
「ヴァルテリ…ですね…一度ならず二度もこの世界を守ってくれたのですね。ありがとうございます。」
「今度は砕けなかったのね!良かったわね、ラヤーナ。」
「えぇ…でも…みんなが…」
「ヴァル、いろいろと聞きたいことがある。今後のことについてもじゃ。」
「あぁ。女神…ローラ様、まずは精霊の森で力を癒す必要があるだろう。アルバスも…今は精霊の森にいる必要がある。」
「え…アルバスは精霊の森に入れないんじゃ?」
「…ヴァルテリ…アルバスは守護獣ではなく…神獣になったのですね…」
「そうだ。」
「いろいろと話し合う必要がありそうですね。まずは皆で精霊の森に戻りましょう。」
「そうか、そうか。儂は後から話を聞くことにしようか。」
「いや、師匠も一緒に来てもらう。」
「ヴァル、儂は精霊の森に入れんぞ?」
「入れるようにする。」
「…それはどういうことじゃ?」
ヴァルテリはギルド長に魔法を掛け、周りに何か膜のようなをものを作ってギルド長の身体を包み込んだ。
「…これで森に入れるはずだ。」
「…ヴァル…お主…」
「詳しい話は森に入ってからにしよう。」
※ ヴァルテリ(征爾・セヴェリ)はラヤーナのことを『アヤ』と呼んでいます。
※ 瀕死のラティの言葉です
『…せ……り……や…く…そ………ま…も………た……』
(セヴェリ・約束まもったの)
『…こ…ど………な…り……か………た……』
(こちらは、予想は付くと思うのですが、3章のおまけ話(挿話・番外編にアップ)でわかります…)