3-57 絢音の記憶
強い力ではじき出され、ラヤーナは再び周りを見渡した。
「ローラ様!」
そこには倒れて気を失っているローラ様がいた。
「なぜ…どうして…どうしてこんな…」
「どうして?」
「そう、そうよ。どうしてこんなひどいことを…ローラ様はこの世界を大事にしていらしたのに…」
「ローラがこの世界を大事にしている…ねぇ…何も考えていない博愛主義者でしょ?」
「はくあい…って…」
「すべてが平等に愛しい?おかしいわよ、それって。」
「どうして…どうしておかしいの!」
「どうして?すべてが平等なわけないでしょう?」
「あなたは…どうして…この世界の女神になりたいの?女神は全てを平等に愛しむのでしょう?それが嫌なら女神でなくても…」
「女神は世界の頂点に立つ者よ。全てを手に入れる。そしてすべてを思い通りにするの。」
「そんな…」
「そして、この世界の男は全てわたくしのものになる!」
「…え…」
「うるさいローラの付属品が…そう…お前はただのおまけ…そうねぇ…お前はよくわかっていないようだから…これから消えるお前に、優しいわたくしの慈悲で言葉を授けましょう。」
「…えっ…」
「フェルディナンのような美しい男はわたくしだけのもの。」
「…あの……」
「世界の美しい男たちはわたくしを楽しませ、わたくしだけを崇拝すればよいの。わたくしだけの世界にするのよ。」
「…そんな…こ…と…」
「わたくしを崇め奉りなさい。この世の男は全てわたくしのもの」
「…あ…れ……どこかで…この言葉…」
「わたくしは力を手に入れた!世の美しい男はみなわたくしに跪くのです。」
「…どこかで…どこで…」
「わたくしを喜ばせるために男は存在するのよ。この世で一番美しいわたくしを!」
「……どこで…どこかで…」
「わたくしエルメロウに愛されたいと望みなさい。そしてこのわたくしにすべてをささげなさい!」
「あっ…!」
以前…医師として病院で働いていた時に聞いた声が耳によみがえる…
『この世の男は私のためにあるのよ!美しい私に跪くのは当然なのよ!』
『私のためにすべてをささげるのよ!』
『男はみな私のものよ!私を敬い、私のために何でもするのよ!』
『私に愛をささげなさい!この私、アイラに捧げれば男は皆幸せになるわ!』
アイラ…あいら…愛楼…あ…!
「…もしかして…いけがみ…あいらさん…なの…?」
「おまえ!なぜその名をよぶ!!!」
「…やっぱり…そうな…の…」
「くっ…お前は何なの!…許さない…その名は捨てた名前!今のわたくしはエルランメロウ!いずれエルメロウとなるものよ!たかがローラの使い走りの分際で、わたくしの捨て去った過去を持ちだし、侮辱するなど許さない!」
「…いけ…がみ……あい…ら……だと…」
「セヴェリさん!生きて…意識が…」
「お前たち…わたくしの、その捨てた名を声に出すことは許さない!!!ここで消えてしまうがいい!!!」
強い攻撃が再びラヤーナを襲う。
ラヤーナは持てる限りの防御をするが、すでに魔力はほとんど残っていない。
セヴェリは瀕死の状態で意識が戻っていたのが不思議なほどひどい怪我を負っている。
もう…もう…攻撃をかわすことも、闘うこともできない…
ラヤーナは静かに目を閉じた。
もう…自分に成す術はない。何もできない自分が悔しい…
せめて…セヴェリに意識があるのなら…彼だけでも助かってほしいが…
自分の防御魔法も魔力がほとんどなく役に立たないだろう…
少しでも…苦しまずに…
ラヤーナは残っている魔力、気力、生力すべてをかき集め、自分以外の仲間に聖なる力を込めたシールドを掛けていった。セヴェリ、ギルド長、アルバス、ラティ、ローラ様…あぁ…レーリナもローラ様と一緒にいるのね…、そして森全体に…そこに住む生き物たちに…。メロウが作り出す大きな邪力の塊はこの森全体を覆うように広がっている。
皆が…少しでも苦しまないように…森の生き物たちが…少しでも恐怖で苦しまないように…
全ての力…ラヤーナの生命力も…すべてを使ってラヤーナはシールドを掛けていった。
掛け終わったラヤーナの意識が遠のいていく…
もはや…自分にできることはこれで全てだ…
森を…守り切ることができなくて…ごめんね…
ラヤーナの意識がなくなった…