3-56 メロウ登場
「…お前は…」
「お主…王ではないな…」
「お前たち…よくもわたくしの…わたくしの傀儡を壊しましたね…」
「…壊したのはお主じゃろ?」
「何をおっしゃっているのかしら…」
「お主…王の身体を乗っ取ったのか…」
「王は…わたくしの王でしたのに…美しい王には加護を多く与え、わたくしのものでしたのに…」
「王の身体を乗っ取ったのは…王妃か…いや…お前は…」
「お主…メロウか…相変わらずの『イケメン』好きじゃのぉ…」
「なぜその名を!…お前……お前は………あの時の…竜騎士…わたくしの…わたくしの邪魔をしたものですね…」
「王妃の皮をかぶった化け物が今度は王の皮をかぶっておるわ…」
「化け物ですって!お前…わたくしを侮辱するの!」
「侮辱も何も儂は事実を言っているだけじゃがのぉ…王と言い…あの…ネバネバ…名はなんじゃったかの…」
「ゲルハルトだ…」
「おお、そうじゃった。奴も見目が良い奴じゃったからのぉ。昔と全く変わっておらんのぉ。」
ギルド長、セヴェリ、メロウが話している間、ラヤーナはこれが噂のメロウという人なのか…と後ろから見ていた。
「昔と変わらないってことは…1000年前と変わっていないってことなんだ…」
『我はその頃のことは知らんぞ。』
『ラティもわからないのね~・精霊は記憶が繋がるのね~・でもその頃は覚えていないのね~』
後ろでアルバスやラティと話していたラヤーナにメロウは気が付いたようだ。
「…あらぁ…そこにはあのローラの子飼いがいるのですね…ふふふ…まとめて消してしまいましょう。この世界はわたくしのもの。あのような愚図女が女神としてこの世界を治めること自体が間違っているのよ。」
「お主…相変わらずじゃのぉ…」
「竜騎士…お前の減らず口も相変わらずね。まぁ、でもいいわ。お前たち。もう間もなくこの世界から消えてなくなるのですからね。フフフ。ここはもうすぐわたくしが女神として治める世界となる…。あぁ、邪魔なものは早く消してしまいましょう。ゲルハルトはともかく…王は本当にもったいないわ…わたくしのお気に入りでしたのに…。この身体も本人がこと切れてしまったからあまり持ちそうにもないし…。さっさとお前たちを片付けてしまいましょう。美しい傀儡はまた探せばいいわ。」
「…お前…」
「そこの獣…わたくしにその獣面を向けないように。私は美しいものしか受け付けないのよ。その子飼い達と一緒に片付けてしまいましょう。竜騎士、お前も一緒にね。」
そう言うと王の身体から邪気の塊のような攻撃が飛んできた。
「ぐわっ!」
「ゲほっ…」
「きゃ…」
『ぐぅっ…』
『きゃー』
強い攻撃はラヤーナ達が張っていたシールドを簡単に突き破り、攻撃が直接体に突き刺さる。
「ぐっ…ラヤーナ!」
「…お主…」
ラヤーナの身体には多数の切り傷があり、身体のあちらこちらから血がにじみ出ている。
だがそれ以上にひどい状態なのはアルバスだ。
おそらくラヤーナを守るためにアルバス自らその身を盾にし、ラヤーナが受ける傷を最小限に抑えたのだろう。
「アルバス!」
『我は…よい…ラヤーナ…お主は…』
「私の傷は大したことないわ!アルバスの方がひどい怪我よ。今治療する」
『我は…よい…他のものを…』
「アルバス…だめよ…みんな…そう、みんな、全員治療をする!」
ラヤーナはシールドを掛け直すと、聖神水で浄化をし、治癒魔法をシールドの中に居る全員に一斉にかけた。
「ラヤーナ!」
「嬢…治療はありがたい…が…無茶はするな…」
「ギルド長。私の魔力がいつまでもつかわかりません。でもできるまでは続けます。」
「…そうか…」
「ラヤーナ…すまない…俺の力が…足りず…」
「セヴェリさん?」
「…いや…何でもない…」
「オホホホホ。この程度の攻撃でそのような傷を負うとは…。お前たちは弱いのね。この王の身体もいつまで持つのかわかりませんし…さっさととどめを刺してしまいましょう。」
メロウはそういうと立て続けにラヤーナ達に攻撃を仕掛けた。
攻撃を受けるたびに、ラヤーナは聖神水を掛け、最大限の治癒魔法を使い治療していく。持ってきた薬も使うが何度も繰り返し攻撃を受け続け、ラヤーナの魔力も薬も残りがわずかになっていった。
セヴェリやギルド長、アルバスも治療魔法を掛けているとはいえ、受け続けている攻撃が強すぎるため、実際のところは満身創痍の状態だ。
一方のメロウはかすり傷一つ負っていない。これが…力の差なのか…。
「…セヴェリ…ここは任せるとしよう…」
「……」
「え、ギルド長?」
「嬢、せっかく薬で完全体に戻してもらったからのぉ。儂の竜体での攻撃を嬢に披露せねばのぉ。」
そう言うとギルド長は竜体に変化し、王の身体に向かって飛び込んでいった。
「フッ、小賢しい…。わたくしがお前たちごとき小物にやられるわけがない。まとめて片付けてしまいましょう。わたくしは、エルメロウになるのですよ。女神とはこの世界で一番の力を持つ者。わたくし自らお前たちを消しましょう。光栄に思いなさい。」
先ほどよりずっと大きな邪力の塊が王の前に現れ、攻撃に向かっている竜体のギルド長に放たれた。その力はギルド長の身体を飲み込み、そのままラヤーナ達へ襲い掛かってきた。
「ラヤーナ!」
ラヤーナが持つあるだけの魔力を使って地の恵みを織り交ぜたシールドを張るが、その様なものは無かったかのように、邪力の塊がラヤーナ達を飲み込んだ。
…こんな…女神に近しい強大な力とは…こんなに…凄いのか…まったく…まったく…歯が立たないなんて…
攻撃を受けてしまったものの、辛うじて気を失わずにいられたラヤーナだが、今、自分のすぐ目の前には王の身体を乗っ取ったメロウが立っている。
「あ…」
「あら、子飼いの分際で…まだ生きているのね…」
「え…あ…みんな…セヴェリさん…ギルド長…アルバス…」
見渡せば他の皆は倒れており、身体中から出血しているようだ。アルバスはラヤーナをかばうようにして倒れており、手足がばらばらになっている。
「みんな!」
「お前の仲間は、どうやらお前をかばって息絶えているようね。そんなにお前が大事なのかしらねぇ…」
メロウである王の手がラヤーナの顎を持ち上げ直接ラヤーナの目をのぞき込んだ。その王の顔にはうっすらと別の女性の顔…メロウの顔が重なって浮かんでいる。
…ん…あれ…この人…あれ…どこかで…会ったことが…?…どこで…
「さぁ、後はお前だけね。どうやってとどめを刺そうかしら…。っく…。あら…この身体ももう限界の様ねぇ…。お前は…大した力もなさそうだし、ぐちゃぐちゃにつぶしてしまおうかしら?ウフフ…。さぁ、これでおしまいよ。わたくしの前から消えてしまいなさい!」
大きな邪力の塊がラヤーナの頭上に現れ、ラヤーナを上から押しつぶそうとしてきた。ラヤーナは逃げようとするが体を動かすことができない。
「か、身体が!」
「ウフフ…体を動かせないようにしたのよ。これでゆっくりつぶれていく様子が見れるわ。楽しみね。」
大きな塊がラヤーナの頭に触れ、どんどんと下がってくる。
どうしよう…どうしたら…でも身体は動かない…魔法も…何か…
ラヤーナは自分の使える魔法を繰り出すが、全て塊に弾かれてしまう。
「オホホホホ。その程度の力で…抗えるわけないでしょう。」
塊がラヤーナをつぶしにかかってくる。
「っく…だ…め…」
『だめなのね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!』
「ラティ!逃げて!あなただけでも逃げて!!!」
『ラティ・ラヤーナを守るのね!!!!!!!!』
ラティの身体から強い光があふれ、邪力の塊を少しずつ溶かしていく。
「何をするの!この…小さい羽虫ごときがっ!!!」
『ラヤーナを守るのなの~~~~~~!!』
メロウがラティに攻撃を掛けようとしたところで、ラティの身体の発光がさらに強くなり、邪力の塊を強い光がすべての見込み、塊を消し去った。
「お前!!!許さないわ!」
メロウの攻撃がラティに当たり、ラティの羽が捥げ、地面にたたきつけられた。ラティはピクリとも動かなくなった。
「ラティーーーーーー!!!どうして…どうして…」
「うるさい!もう許さないわ。お前は今すぐここでぐちゃぐちゃにしてやるわ。お前だとわからないほどぐちゃぐちゃによ!今度こそ!」
再び大きな邪力がラヤーナの前に現れ、今度は直接ラヤーナを包み込み始めた。
「く…くる…しぃ…」
「ウフフフフ…今度こそ…とどめよ…」
邪力がラヤーナを包み込み、その禍々しさが色濃くなるにつれ、ラヤーナの意識が薄れていく。力が…生気が…なくなっていく…
「ウフフ…そうよ…お前の生気が無くなると身体をぐちゃぐちゃにつぶしていくのよ…。ほら、楽しいでしょう?」
「…っぅ…も…く……」
「ウフフ…アハハハ…そう…そうよ…ようやく…これでこの世界はわたくしのものに…」
ラヤーナの意識がなくなりかけたその時、突然息が楽にできるようになり、ラヤーナを包んでいた邪力が消えた。
「なに!」
「おやめなさい!」
「お前…お前は!」
「メロウ、あなたはこの世界にいてはいけない存在のはず。それがどうしてここにいるのでしょうか。」
「ローラ…お前は…わたくしの邪魔を…」
「邪魔をしているのではありません。あなたはこの界に居るべき存在ではありません。そうでしょう?」
「…お前はもはや女神ではないはず。わたくしこそがこの世界の女神、エルメロウとなるもの。お前にはエルの力はない。わたくしこそが…」
「あなたはエルの力を使えません。それはこの界があなたを女神と認めていないからです。」
「何を…何を言う!エルはわたくしが持っている。」
「あなたはエルの力を私から無理やり奪っていきました。ですが、エルの力はエル・クリスタルを持つことではありません。この世界から認められなければエル・クリスタルを持っていても使えるようにはなりません。それはあなたが身を持って体験しているでしょう。」
「…う…うるさい!」
「それに、あなたはこの地を踏めない。あなたの身体で直接この世界の地を踏めない、そうでしょう。」
「わ、わたくしは…こうして…今でもこうしてこの地に立っている!」
「王の身体を使って…ですね。そして…あなたが直接立つことができるのはコリファーレの地、そこだけでしょう。私にはわかります。あなたはこの世界の、この界のものではない。別の界から来た…異物です!」
「…異物…ですって…わたくしを…異物だと…」
「そうです。初めからおかしかったのです。エルクトラドムの女神はこの世界のすべてに愛を注ぎます。それは自分の望みや欲望を持たないからです。それがエルクトラドムの神たる故です。ですがあなたは違いました。あなたは欲望を持ち、その欲望を満たすために周りの犠牲を厭わなかった。それはなぜでしょうか。」
「う、うるさい!わたくしは大神に認められた女神なのよ!」
「大神に…それはいったい…」
「もう、もう許さない。ローラ、それにその子飼いもよ!みんな、みんな消してやる!わたくしの計画を邪魔する者は…許さない!」
「あなたの計画?」
「みな、消えてしまうがいいわ!!!!!!」
メロウが攻撃のための邪力の塊を作り始めた。何度も繰り返し放たれたメロウの攻撃だが、今度は今までとは桁が違うほど大きいものだというのがラヤーナにもわかった。
「ラヤーナ!」
「ローラ様!!!」
邪力がラヤーナとローラに襲い掛かってくる。
ローラは持てる限りの力を使って必死で攻撃を防ごうとしているが、明らかにメロウの邪力の方が強い。ラヤーナも今自分の持てる限りの魔力や地の恵みを加えるが、それでも押し返すことは出来ない。
「アハハ!お前たち、わたくしの力でつぶれるがいい!」
邪力は二人を包み込み襲い掛かってくる。このままでは自分も、ローラ様もやられてしまう。ローラ様だけでもこの邪力から押し出せれば…ラヤーナが朦朧としてきた意識でローラ様の身体を押し出そうとした…その時…強い力がラヤーナにかかった。
押し出されたのはローラではなく、ラヤーナだった。