3-55 コリファーレ王との闘い
「来よったか…」
「久しぶりだな…セヴェリ…ヴォイットもいるか…」
「………」
「ゲルハルトで運よくお前たちを片付けられればと思ったが、やはり無理であったか。」
「………」
「あやつは…私の他に我が王妃の加護を受けた者。もう少し働いてくれると思っていたが…やはりその程度であったか…」
そう言葉に出す王からは、ゲルハルトとは比べ物にならないほどの邪気があふれ出ている。
以前ギルドで会った時は、不快感はあったものの、このような邪気ではなかった…いったいこれはどういうことなのか…
「…加護…か…」
「フッ…お前も望むのか、我が王妃の加護を…」
「………」
「お前のような獣を我が王妃は相手にはせんぞ。我が王妃は美しく洗練されたものを愛する。美しいもの…そうだ…王妃は美しい…王妃に愛されることで我らは加護を受けるのだ!」
コリファーレ王は王妃から加護をもらっているという。王妃…王妃の加護ってこの邪気のことなんだろうか…?邪気が王妃って…王妃は邪気なの?これっていったい…それに…この王様ちょっとおかしい気がする…何だろう…この違和感…
『ラヤーナ…お主の違和感は我も感じている。』
「アルバスも?あ、そっか…危険に関わることってアルバスにも伝わるんだっけ…」
『ラティもね~・この王様変と思うのね~』
「そうなのよね…何だろう…さっきのネバネバは全身悪者って感じだったんだけど…この王様、ちょっと違うのよね…以前ギルドで会った時とも違うわよね…」
『前はね~・怖いだけだったの~~~~~』
「ラティ、出て来れなかったわよね。」
『そなの~・すごい怖いの~・でも怖いだけだったのね~』
「怖いだけ?」
『そなのね~・怖いが全部だったのね~』
「怖いが全部…」
『でも今はね~・混ざってるのね~』
「混ざってる?」
『怖いじゃないの・混ざってるのね~』
「怖いじゃないのが…混ざる?」
『…なるほどな…この者…内なる心が別にあるな…』
「別っていうことは…今の心は別っていうこと?」
『そうだ…我も最初に感じたのだ。この者…内なる心で何かと闘っている。』
「何かと闘う…」
『ラヤーナ、そろそろあの者の邪気が攻撃の形になってきている。まずは防御を最大にしておいたほうがよい。』
「分かったわ、アルバス。セヴェリさんたちにも防御を…」
『ラヤーナ、先ほどの地の恵み、その力を防御にも重ねて使うことは可能か?』
「地の恵み…聖神水を使ったときの力ね。…わからないわ…」
『できればやってみてほしい。おそらく我の青炎と形は異なるが聖なる力を付与できるものであろう。防御において大きな力となるはずだ。』
「わかった。やってみるわ!」
ラヤーナはすでに掛けておいた魔法防御とシールドに地の恵みの力を付与するようにして防御とシールドをさらに強くしてみることにした。まだ力の入れ方が分からず、手探りの状態で少しずつシールドと防御に聖なる力を付加していく。少しずつ、内側から本当に少しずつゆっくりとシールドを強化するように地の恵みの力を付与する。魔法防御にも外からではなく、身体に沿わせるように、少しずつ力を流していくようにし付与する。
地の恵みが付与された魔法防御とシールドにセヴェリ達が気づいたようだ。
「!!ラヤーナ、無理はするな!」
「ほぉ…嬢はいろいろと器用じゃのぉ…」
「あの…だいじょうぶですか?特に違和感とか…」
「すごぶる頼もしい守りじゃて。」
「あぁ…これなら…正直助かる。」
「なんだ!!!お前たち…その力…その力を持つ者は…力を奪った女神の者か!!!」
「…王…なぜそれを…」
「ほぉ…王は何を知っておるのかのぉ…」
「私は王妃から加護を受けた者。私は全てを知っている。あのような汎用な者がこの世界統べるなど、おこがましい。我が王妃こそ、この世界を統べるにふさわしいのだ。」
「…なるほどな…」
「…王はもはや…儂の知っておる王では無いようじゃな…」
「それはどういう…っく…う…」
王は先ほどから何度か苦しそうにしている。
「…王…お前…もしや…」
「…くっ…この…聖気が…私は…ぐっぅ…この地は…王妃の…ものに…」
「…聖気じゃと…お主…」
「…ぐっ…ヴォイット…殿…す…まぬ…」
「王か!」
「…ぐっ…おのれ…おまえたち…」
「ラヤーナ、守りを強くするんだ!攻撃がくる!!」
「は、はい!」
『我とラティは防御結界を強くする。ラヤーナはできる限りの強い地の恵みをかけるのだ。』
『ラティ頑張るのね~~~~~!』
「わかったわ、アルバス。」
「お前たち!!!許さん。我が王妃のため消えよ!!!」
強い攻撃がラヤーナを含め全体に降りかかった。
「ぐっ!」
「ぬぉっ!」
「きゃぁ!」
『ひゃーーー』
『っ…』
「…ほぉ…この攻撃に耐えられるのか…だが…次はどうか…な…っぅ…ま…た…くそっ…!」
『ラヤーナ、地の恵みを王に向かって放て。』
「は、はい!」
「セヴェリ、最大限じゃよ。」
「分かっている。」
王が再び攻撃を仕掛けようとすると、また苦しそうにもがき始めた。
邪な力が王の力を増大させていている今、王に隙ができたこの時に攻撃するしかない。
ラヤーナが地の恵みを聖魔法のようにして王に掛ける。
地の恵みの力が王の邪悪なシールドを消していき、さらに王自身をつつんでいく。
「ぐわっーーー。おのれおのれおのれーーーーーーーーー!!!」
「ぐっ…ヴォ…い……ど…の………す…まぬ…」
「この力!我の邪魔をするな!!!お前たち皆消し去ってやる!ぐっぅ…っく…我の…」
「せ…ヴぇ…り……す…ま……」
「この力は我の力を阻害する…が…蹴散らしてやる…っぐっぅ…こ…の…」
「…聖…力…どう…か…抑え…このまま…私ごと…たの…む…」
セヴェリとギルド長は頷くと、二人そしてアルバスは最大限の攻撃魔法を王に向かって放つ。ラヤーナは三者(セヴェリ、ギルド長、アルバス)の放った魔法に、地の恵みの力を付加する。ラティは防御のためのシールドを掛けた。
大きな魔力のうねりが王を襲い、包み込むと大きな爆音がした。
「…お…の…れ…わたく…しの…傀儡を…」
「傀儡…?」
王は大きなダメージを受けたようで、うずくまっており、何かしゃべっていて、セヴェリとギルド長が対峙しながら様子を伺っている。ラヤーナは防御を最大限にして魔法を掛けた。すると、道具を入れておいたカバンから魔道具が一つ転がり出てきた。
「これは…アマートさんからもらった古い魔道具…魅惑解除の…あ!…もしかして…これを今使うってこと?さっきも必要な時に出てきたし…でもきっとそうだわ。とにかく道具を使ってみよう。」
ラヤーナは出てきた魔道具を王に向かって使うことをセヴェリ達に告げた。今であればフェルディナン王に向かって、魔法を使えば魔道具を飛ばすことができそうだ。
『その魔道具ね~・アルバスの魔法で飛ばすほうがいいと思うのね~・ラヤーナの地の恵みでアルバスの魔法守るのね~・今なら届くのね~』
「分かったわ、ラティ。アルバス、お願いね!」
『わかった。』
アルバスは作動させた魔道具を魔法で王のところへと飛ばす。ラヤーナの地の恵みの力を織り込んだアルバスの魔法は、邪の防御に阻まれることなく王の近くに道具を運んで行った。地に着いた魔道具はすぐに淡く光始めると、キラキラと光る緑虹色の小さな粒が道具から出てきて、王の左の胸辺りに集まり始めた。
「ぐおわっーーー!!!!!」
大きな獣…それこそドラゴンがが咆えるような唸り声が上がり、王が苦しそうに自分の左胸を抑えた。
「ラヤーナ、あの魔道具は…」
「古代の魅惑解除の魔道具です。アマートさんから譲ってもらいました。もしかしたら役に立つかもしれないと思って、いろいろな魔道具と一緒に持ってきたんです。」
「魅惑解除…じゃと…」
「はい。この魔道具ですが、どのタイミングで使えるのか、魔道具自身が分かるみたいです。さっきカバンから転がって出てきました。」
「魔道具が自ら…じゃと?」
「はい。」
「…そうか…不思議な道具じゃて…」
「王の様子が…」
光が集まっている王の左胸からは、シャキシャキシャキ…と何かが砕けているような音がしている。その音に合わせ、王の様子が変化していく。光が完全に消え、魔道具の作動が終わると、王の美しい顔はもはやそこにはなく、疲れ果てた王が現れた。
「ヴォイット…セヴェリ…すまぬ…すまぬ…」
「王!」
「儂が知っておる王じゃの。」
「…すまぬ…」
「何があったんじゃ…」
「何が…そうだな…コリファーレはもはやコリファーレにあらず…すまない…」
「王…一体…」
「ぐっぅ…」
「王!」
「私の身体は…もうもたぬ…この身体を奴に自由に使わせてはならぬ。蠱惑に惑わされ、私自身の心が奴に染まり切らずにあらがうのが精一杯であった…。何とか己の身体を取り戻そうとしみた…だが…実際はこの通りだ…。蠱惑の魔術に惑わされ、実際起こしてはならぬことを起こしてしまった…。お主たち、私を…私の身体を跡形もなく消し去って欲しい。私には…自分の意志のみで自分の力を、魔力を操る力はすでに残ってはおらぬ。この身体を奴に使わせてしまえば、私の身体を使ってこの世界に攻撃を仕掛けてくるであろう。もはや一刻の猶予もない。私が…私の隙が招いたこの事態を自ら収拾できない不甲斐ない王ですまない…お主たちに預けるしかもはや道はないのだ…すまぬ…ヴォイット…セヴェリ…どうか…奴からこの世界を守ってほし…ぐっぅ…」
「王!」
「させぬ、させぬ…わたくしの魅了がなぜ解けたのか…」
「!お前は…」
「わたくしは…っぅく…ヴォイット…セヴェリ…もう…時間がない…私自身が奴に消される…消されてしまえば…この身体は奴が自由に使えるようになってしまう…私を…早く…私の身体を…ヴォイット…セヴぇ…ぐぁぁぁ………………………………」
「「王!」」
崩れ落ちた王の雰囲気が一瞬で変わり、ゆっくりと王の身体が再び立ち上がる。
そこには先ほどまでとは比べ物にならないほどの強い邪気を纏った、王の姿をした何かがこちらを見てほほ笑んでいた。