3-53 聖神水
「セヴェリがもどってくるの」
『…仕留めたな…』
『ネトネトいなくなったのね~』
「もう…大丈夫?」
「とりあえず…じゃろうな…」
セヴェリが、敵のいた方からゆっくりと戻ってきた。
「セヴェリさん!怪我は?何もない?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「あぁ、待って。傷が…あぁ…やっぱり怪我があるんじゃない…って…これ……あ!!ギルド長も、アルバスも、傷があるでしょう?さっきは無いって言っていたけれど…」
「いや、大丈夫じゃよ。儂の身体は特殊じゃて…」
『その者は竜人であろう。竜人の身体は鋼の様だと聞く。』
「あ、アルバス!あなたも傷があるじゃない?」
『この程度は…』
「…え…待って…セヴェリさんもギルド長もアルバスも…ちょっと傷が多いわよ!小さいのも少し大きいのもたくさんあるじゃないの!」
ラヤーナは治癒魔法で傷を治そうとするが、治らない。薬を使っても同様だ
「え…どうして…傷がふさがらない?」
『あ~~~・たぶんね~・邪気の傷だからなのね~』
「邪気の傷?」
『邪気か…やっかいな…』
「…邪気の傷…邪気って…神水から作った薬が効かないからそれって…待って…それ…邪気が…確かエルクトラドムの地の恵みがないって…うーん…あ!もしかしたら…これで…。……うん!…多分これで邪気を払えるかも…」
ラヤーナは手のひらに神水を造り出した。そこに地の恵みをさらに付加し、神水の透明度を上げた。
「嬢…それは…」
「これ…神水に地の恵みをもっと付加したものなんですけれど…」
『それね~・聖神水ね~~~』
「聖神水じゃと?」
「あ…アルバスにちょっと掛けてみるわね。」
『なぜ我を先に…』
「いいから、いいから…」
聖神水をアルバスの塞がらない傷に手のひらからそっとかけていく。
すると、聖神水を掛けた辺りから黒っぽい靄がうっすらと立ち上がり聖神水がその黒い煙の後を追うようにキラキラと煙状になって追いかけていき、黒い煙が消えていった。
「なんと!」
「邪気を払ったのか…」
「アルバス、もう一度治癒魔法を掛けてみるわね。」
聖神水を掛けた場所の傷にもう一度治癒魔法を掛けていく。すると傷は見る間にふさがり、綺麗に傷が治っていった。
「よかった…この聖神水を使えば邪気が払えるみたいです。これで、皆さんの傷に残っている邪気を払って、その後治癒魔法で治療していきます。」
「ラヤーナの負担が大きい。邪気だけ払い、薬を使ってもいいんじゃないか。」
「そうなんですけれど…私が治癒魔法を使える時は魔法を使います。薬は皆さん各自で持っていてください。この後…私が…もし治癒魔法を使えなくなってしまった場合は薬を皆さんで使ってください。大量に持ってきてはいますが、どれだけあっても十分とは言えない不安があります。」
「ラヤーナ!」
「嬢、それは…嬢は覚悟を決めているということなのか?」
「それは…そうかもしれないし…そうじゃないかもしれないです。自分でもよくわかりません。でも…気絶とか…魔力切れとか…私自身に何かあって…すぐに後方から治癒魔法を掛けることができない場合は薬で回復したほうがよいとなると思うんです。それから…皆さんの治療が終わったら、この聖神水も瓶に入れてお渡しします。こちらは絶対に必要になる気がするんです。」
『ラヤーナ~・ラティが守るのね!』
『我はラヤーナの守護獣。お主を守ることこそが我の役目だ。』
ラヤーナはアルバスの他の傷を全て治療すると、ギルド長の傷、そしてセヴェリの傷を全て治していった。その後、先ほど戦闘の合間に薬を飲んだ際に残った瓶に、聖神水を次々と満たすとそれをギルド長とセヴェリに渡した。アルバスには瓶に入れたものに魔法を掛け、アルバスの意志で蓋が開くようにした。ラティにも、急いで魔法で小瓶を作り、そこに聖神水を入れて渡した。
ちょうど聖神水を渡し終えたところで強い気配が近づいてきた。
「…来るな…」
『怖い人~~~』
『大きな邪気を持つ者だな…』
「王が来よったか…」
「今のうちに体力と魔力の回復薬を飲んでおいてください!空いたビンにも聖神水を入れておきます。」
ラヤーナは急いでみんなに薬を飲んでもらい、そのビンに聖神水を入れ、それもそれぞれに渡していく。
大きな邪気がどんどん近づいてくるのがラヤーナにもわかった。
「ラヤーナ…絶対に守る…」