3-51 魔剣士ゲルハルト 1
アルバスとギルド長が魔剣隊と対峙している頃、セヴェリはゲルハルトと闘っていた。
「…セヴェリ…腕を上げたようだな…あるいは…今までの力は見せかけだったということか…」
「…………」
「まぁいい…お前はあの娘ともども俺が始末をしてやる。」
「…それを俺が許すと思うのか…」
「許す?お前に俺を止める力はない。俺の力は王妃様のお力でさらに強くなった。」
「王妃の力?お前のその怪しい力は王妃が授けたということなのか?」
「王妃などと呼び捨てにするとは失礼な!王妃様は美しく聡明な方だ。あれほど素晴らしい方は他にはいらっしゃらない。」
「素晴らしい…?」
「美しい体…甘いにおい…俺を受けいれてくださるあの方のすばらしさ…あぁ…思い出すだけでも身体がうずいてくる。お前にあの方の素晴らしさなどわかろうはずもない!」
「甘い匂い…だと?お前、それは…」
「初めてお会いした時からお慕いしている。俺は、王妃様のために全てを捧げている!王妃様の望むことであればどんなことだってできるのだ!そして…いずれは俺があの方の側に立つ…」
「…初めて会った時から…か…お前は…取り込まれたのではなく、自ら堕ちたということなのか…」
「俺がおちた?何をわからぬことを言っている。俺は大きな力を手に入れた。王妃様を守り、王妃様の側に立つための力だ!お前たちを始末し、王妃様のための王国を作るのだ。まずはお前たちの首を我が王妃様に差しだそう。」
「…お前も…あいつのようになってしまったのか…」
「あいつ?なんのことだ?俺は俺だ。我が王妃様にお仕えし、いずれ王妃様の側に立ち王妃様を支えるのだ。」
セヴェリの中に苦い記憶がよみがえる。
助けることができなかった古い友人…
人の気持ちを変えることは出来ない…
それが…本人の望みであり
魔法で変えられたものではなく、自ら望んで捕らえられてしまったものには…
ただ…堕ちていくのを見ることしかできなかった…
ゲルハルトは友人では無い…会った時から自分と対峙をする者…そうであったとしても…
それでも…こいつもたやすく闇に飲み込まれていく…
「………」
「まずはお前をここで始末してやる!」
ゲルハルトの魔法剣がセヴェリを襲う。邪気を怖ろしいほどに纏う剣から放たれる一撃は、その剣を受け止めるだけでも苦しく重い。また彼は魔剣士でもある。魔剣士の繰り出す剣は、攻撃がその剣の一撃のみではない。その剣から放たれるものは殺傷能力の高い攻撃魔法だ。
「…!」
「…ほぅ…これを防御するのか…やはり我々に見せていたものはお前本来の力ではなかったということだな。」
「………」
「まぁいい…どちらにしてもお前はこれまでだ。」
ゲルハルトが魔方陣を目の前に浮き上がらせ、剣をその魔方陣に突き刺すと、邪気がさらに強くなり、剣からゲルハルトの身体を取り巻くように強い魔力が剣に蓄えられていく。
「これまでだな、セヴェリ。」
そう言うとゲルハルトはセヴェリに向かった再び強力な一撃を放つ。
「セヴェリさん!」
「来るな!ラヤーナ!」
セヴェリはラヤーナを守りながらゲルハルトの剣をかわそうとする。
「くっ…」
「っぅ…」
しかし、かわしきれずに二人とも体中に切り裂かれたように切り傷ができる。
「ラヤーナ!」
「だい…じょうぶ…」
「嬢!」
「来るなと言っただろう!」
「治癒魔法を…」
「俺のことはいい。すぐにここから離れるんだ。」
『ラヤーナ、離れていろ。』
『ネバネバ・危ないのね~~』
「大丈夫よ。私も、セヴェリさんも大丈夫…」
「…ラヤーナ…」
「ほぉ…じじぃも獣も皆集まったか。ちょうどいい、まとめて消してやる!」
「セヴェリさん、セヴェリさんの剣に攻撃魔法を付加します。」
「攻撃魔法を付加だと?」
「今の一撃で魔法が分かりました。だからその同じ魔法を付加します。」
「…新しいスキルか…わかった…」
「儂の剣にも付加されておるぞ。」
「ギルド長」
「嬢はすごいの。儂も魔剣士じゃよ。おそらくセヴェリの剣であればその威力も強かろう。」
「そうか。」
「はい、これで目いっぱい付加しました。ギルド長にも今の魔剣の魔法も付加しました!」
「何をごちゃごちゃ言っている。まとめてお前たちを始末してやろう!」
ゲルハルトは再び邪気を纏った剣を構えている。ラヤーナが付加魔法を掛けている間にゲルハルトも次の一撃のために魔方陣を起こし、剣に力をため込んでいたようだ。
「ラティ、魔法防御と身体強化の魔法は目いっぱいね!」
『もちろんなの~』
「アルバスにも付加をしたわ。3人(2人と1獣)の威力を合わせれば、さっきの一撃よりも強いと思うわ。皆さん、お願いします!」
「お前たち、これでおしまいだ!!!」
ゲルハルトの剣から強い一撃が繰り出された。
それに合わせるように、3者から同じようにそれぞれの剣や爪から強い一撃を放った。
ゲルハルトの剣からは強い邪気を纏った魔法攻撃が、こちらの3人の剣や爪からは強い魔法攻撃が繰り出され、双方の攻撃がぶつかる。
「くっ…何なんだ!こいつらは!!!」
「むっぅ…なかなか…此奴…」
「ぐっ…やられるわけにはいかない…ラヤーナを…」
『邪悪な者に我が負けるわけにはいかぬ。我は森を守る者。森を、守護者を守る。』
『魔法防御目いっぱいなのね~~~・ラヤーナ~・身体強化しないとなのね~~~』
「もちろん最大限に掛けているわよ!身体が…きつっ…もっと強い防御と身体強化魔法を掛けないと!!!」
双方から放たれた魔法はどちらにも届かず、互いの魔力をぶつけ合いどちらも押し合っている状態だ。
「ぐっぅ…もっと…押さんと…」
「くそっ…」
『邪気に染まった魔力か…』
「付加魔法をもっと掛けるわ!」
『ラティは防御なのね~~~』
双方の魔力をぶつけ合っていたがとうとうどちらか一方に押し切ることができず、大きな爆音とともに魔法がはじけた。
「ラヤーナ!」
「私大丈夫です!防御魔法と強化魔法を!!!」
誰も大きなけがはなかったようだが、ギルド長、セヴェリ、アルバスは魔力を使ったため、肩で息をしている状態だ。ゲルハルトはどうやら再び魔方陣を浮かび上がらせているようだ。
「みんな、早くこれを飲んで!」
魔力回復の薬と体力回復の薬をギルド長とセヴェリに渡し、アルバスには口から流しいれて急いで回復をさせる。ラティに飲ませた後ラヤーナ自身も飲むと、付加魔法や防御魔法を再び張り次の攻撃に備える。
ゲルハルトの様子はこちらから伺う限りまだまだ余裕がありそうだ。その時ラヤーナの持ってきた魔方陣解除の魔道具が反応をした。まだ作動できるような強い反応ではないが、先ほどは全く動かなかったものが動かせるその気配がしたのだ。
…もしかしたら…
「ギルド長、セヴェリさん、アルバス、もう一度お願いします。もしかしたら相手は魔方陣を使う力を消費しているかもしれないです。」
「なぜそう思ったんじゃ?」
「さっきは全く反応しなかった魔道具が動作反応をしたんです!相手の力が大きいと魔道具は受け入れきれずに反応しないときがあります。でも今、わずかですがその気配があったので、まずあの無尽蔵に人から奪い取っている魔方陣を何とかできれば…」
「分かった。魔道具の作動についてはラヤーナに任せる。こっちはあと数撃食らっても持ちこたえるようにする。」
「嬢、薬はもってきておるのかの?」
「はい。まだカバンの中に大量にあります。それにこの薬…多分相手には効かないので、使われる心配はありません。」
「…そうか…邪気とは恐ろしいのぉ…」
「はい…こちらは薬を使って体力回復をしていますが、相手はおそらく…」
「魔方陣か…」
「はい。」
「分かった。」
『来るぞ!』
『防御ね~~~~!』
「付加魔法と防御を最大にします!」