3-47 セヴェリとギルド長 2
「な、なんなんだ?一体なにがおこったんだ?」
ヴェルネールの森の上空に特殊な空間魔法で裂け目を作り、そこから国内に生息していたすべての鬼獣を集め投入していった。いくらセヴェリが魔力体力の化け物でも、10万体以上もの鬼獣を相手にしては消耗しないわけがない。1000体ずつ程度の鬼獣を、セヴェリが疲れるように継続的に投入していたはずだ。
投入してすぐのころは確かにセヴェリは鬼獣を相手にしていたはずだ…だが…なんだ…
しばらくすると突然放り込んだ鬼獣が森にどんどん吸い込まれるように引き落とされていき、こちらが継続的に投入をしようとしても、それを無視するかのように、勢いよく引き出されるようにして鬼獣が空間から森へ落ちていった。
…そして…気づけばわずかな時間の間に10万体以上の鬼獣が全ていなくなっていた…
森に…投入したはずなのだ…これは…セヴェリがそれだけの力を持っているということなのか?
これでは…。全くの想定外だ…。何とかしなければならない。この任務は失敗はできないのだ。あの小娘を何としてでも始末しなければ…王妃様がお嘆きになられてしまう…
私の護衛を断るなど…してはならぬことをあの小娘はしたのだ。
あのような小娘、王の手を煩わせるまでもない。
「くそっ、セヴェリの奴…いつの間にこれだけの力を身に付けたんだ!」
「ゲルハルト様、次の指令を!」
「くっ、こうなれば…私が直接指揮を執る。」
「部隊の準備は整っているか?」
「はい。第一隊、第二隊も出陣準備済みとなっております。続く第三隊も魔術隊もその後にすでに控えております。」
「魔剣士隊と魔弓隊は?」
「そちらも準備はできております。」
「そうか。行くぞ。まずは第一隊を送り込め!順次、第二隊、第三隊を森に送り込みセヴェリ達へ攻撃させろ。」
ゲルハルトはイラつきながら、次の行動の指示を出すが、どうしても納得がいかない。セヴェリがこれだけの鬼獣をこのような短時間で片付けることなどできなかったはずだ。この間、あの小娘の護衛の任のためリエスに行った際には、それほどの力をあの男からは感じていない。…これは一体どういうことなのだ…。自分の目で見て確かめるしかない。
それにしてもつくづく忌々しい娘だ。この自分を拒絶するとは…。まぁよい、俺があの娘を始末すればそれで済むことだ。
「中将、準備ができました!」
「よし、転移させろ!」
準備のできた部隊がヴェルネールの森に転移させられた。
「今度は転移か…」
『人間種か…』
「ラヤーナはアルバスの近くに行け。人間種相手は俺の方がいい。」
「でも…セヴェリさん一人では…」
「…後方から防御魔法を掛けてくれ。おそらくもうすぐギルド長も来る。」
「ギルド長が?」
『我もあの者の気配を感じるぞ。こちらにやってくる。』
『おじぃちゃん・来てくれるのね~~』
「町の方は大丈夫なのかしら…町からも何か戦いの気配がしてくるし…」
「…おそらくあちらも何かしら動きがあるのだろうが、ギルド長がこちらに来るということは、町の方は何とかなっているということだろう。」
「あ、指輪が!」
ラヤーナの精霊の指輪が淡く光ると、ラヤーナの中に不思議な力が流れ込む。
「ローラ様の力だわ…」
「…女神は…おそらく今の状態では森から出ることができないのだろう。指輪に今送れる力を送ったんだろう…」
「ローラ様…」
「敵が仕掛けてくる。防御魔法をたのんだぞ。」
「はい!」
『任せてなの~』
『我はこちらに向かってくるものを片付けよう。』
「アルバス、頼んだ。俺は少し離れて片付けてくる。」
セヴェリは敵の隊の方に向かいながら大きな攻撃魔法を放ったようだ。
アルバスは少数で直接ラヤーナに攻撃を仕掛けてこようとする者たちを返り討ちにしている。ラヤーナとラティは二人で、近くにいるアルバスも含めた自分たちに魔法防御と身体強化の魔法を掛けシールドを張っている。併せてラヤーナはセヴェリに対しても魔法防御と身体強化、シールドを張った。離れていても魔法を付与したい相手に掛けられるようになったこともラヤーナの魔法レベルが上がったからできるようになったことだ。
確かに攻撃魔法は怖いし、人を相手に使えるかと言われると使えると言える自信がない。でも防御に関わる魔法であれば使うことができる。人を傷つけるのではなく対象を守る魔法…これなら自分でも思い切り使うことができる。
第一隊を片付けたと思ったら、すぐに第二隊が送り込まれてきた。
ギルド長もやってきて、すぐセヴェリの近くで戦闘を始めた。
ラヤーナはギルド長にも防御の魔法を掛ける。併せてセヴェリの防御魔法も強化をした。
「嬢の魔法も随分と上達したのぉ~」
「魔力切れを毎日何度も起こして魔法のレベルを上げていたからな。」
「ほほぅ…。お主も気が気ではなかっただろうのぉ。」
「………」
「ほんに、キュートな女子じゃのぉ…」
「…なんだ…その言葉遣いは…」
「ラティに教えてもらったんじゃよ。フォッ、フォッ、フォッ…」
「………」
「ほれほれ、気をそらすと敵が来るぞ。」
「…そんなミスはしない…」
「まぁ、お主は昔からそうじゃったのぉ~」
「…ギルド長も…変わってないな…」
「そりゃそうじゃろう。儂はわしじゃて。」
「……」
「嬢は本当に可愛いのぉ…お主の忍耐も、良く持つのぉ。」
「………」
「…して…どうなんじゃ…何とかなりそうなのかの?」
「……わからない……」
「…そうか……」
「…すまない…どうしても…最後の…必要なものが見つからない…」
「…儂らは…やるだけのことはやる…それだけじゃよ…」
「…すまない…」
「まだ最後まで分からんじゃろ。」
「あぁ…」
「儂は最後まで諦めんし、最後まであがくつもりじゃよ。お主もそうじゃろう。」
「…もちろんだ…」
「ほれ、第三隊も来るようじゃぞ。」
「…ラヤーナ…」
「嬢のためにも、この世界のためにも、儂は諦めんからの。」
一方ラヤーナ達は、セヴェリ達が対している部隊とは別の少数の敵と対戦をしている。ラヤーナとラティは防御魔法を掛け続け、シールドも張っているため、3人とも無傷のまま、アルバスの物理攻撃と、攻撃魔法で問題なく敵を蹴散らしている。
状況は悪くなく、アルバスも、そしてこちらから見えるセヴェリとギルド長達も余裕があるほどだ。それでも…不安は尽きない。
このままというわけにはいかないだろう…おそらくもっと強い敵が出てくる…
※当然ゲルハルトは鬼獣ホイホイの存在を知りません。もともとの魔道具は鬼獣から身を守るため、サフェリアで作られているもっと簡易なものです。『鬼獣防御魔道具』というもので、効果としては、2~3体の鬼獣から守るのがやっとの物ですが、ラヤーナがいろいろと効果を高めるために改良したら、このようなものになってしまった…
※戦いが始まり、ラヤーナのことも特定され、森への攻撃が始まってしまったということから、もはや女神の名を出さないことに意味がない状況になってしまったため、会話の中でも口にするようになっています。