3-46 鬼獣襲撃
この1週間、サフェリアと森を何度も往復し、気になった香草や果物、香辛料や野菜などを購入し、魔道具についてもアマートや他の魔道具店から面白そうなものをいろいろと購入していった。森に戻ると薬を大量に作成したり、家にある魔道具を修理したり、購入した魔道具を分解して仕組みを調べたりしてすごした。その中で、新しい魔法を理解する、というわけのわからないスキルも発顕したが、何ができるスキルなのか、ラヤーナにはよくわからなかった。魔法を理解する…とは…どういうことなのだろう…。ともかく空間魔法を大量に使い続けるようにし、ようやく空間魔法をレベル8まで上げることができた。これで、空間魔法で作った倉庫の鍵に、所有者を限定することができるようになった。早速ギルド長に渡しておいた鍵とセヴェリに渡しておいた鍵それぞれに、所有者限定の魔法を掛け、二人に再び鍵を預けるようにした。
時間魔法と治癒魔法もすでに8になっていたため、光と闇の魔法を使えるようになる準備はできたはずだ。
いつものように森で材料の収集をしていると、不意にアルバスが警戒態勢を取り、セヴェリがラヤーナを守るように前に立ち、辺りの気配を伺い始めた。ラティはラヤーナの肩に居り、シールドを張る準備を始める。
『来たか…』
『来たのね…………』
「ラヤーナ、俺から離れるな。」
「わ、わかりました…あ…森の家にいたほうがいい?」
「いや、危険だ。かなり大きな力がやってくる。」
『森の家の結界が持つかわからない。我の近くに。』
「結界が持たない?…わ、わかったわ。」
「ラヤーナ、シールドは張れるか?」
「はい。できます。」
「シールドを張って、自分に防御の魔法を掛けておけ。」
「はい。」
「まずは自分への防御魔法を優先しろ。その次は結界を張ることだ。」
「余力があったら…お手伝いしたいです…」
「…それでは攻撃魔法ではなく、俺やアルバスと精霊にも防御魔法を重ねてくれ。」
「はい!」
『来るな…』
「あぁ…」
アルバスとセヴェリの警戒が一段と強くなる。
ラヤーナがシールドを張り、ラティもそこに重ねてくる。自分とラティに防御魔法を掛け、アルバスとセヴェリにも二人の魔法の補強するようにして防御魔法を重ねる。
突然、空の上に大きな裂け目が現れ、その空間から大量の鬼獣が現れた。
「こ…こんなにたくさん…」
「ラヤーナ…こいつらは雑魚だ。鬼獣はおそらく俺たちに魔力と体力を消耗させることが目的でここに落とされている。この後に気を付けるんだ。」
「わ…わかりました。」
『ラヤーナ…できるだけ力は温存しておけ。無駄な力は使わないように。』
「は、はい。」
「大丈夫だ。必ずお前のことは守る。」
「セヴェリさん…」
「来るぞ!」
鬼獣が避けた空間から雨のように降ってくる。
ほとんどの鬼獣はこの森では見たことがないため、ラヤーナにはどう対処してよいのかわからない。セヴェリやアルバスの言う通り、少しでも足手まといにならないように防御魔法を掛け続けるしかない。でも…本当に何かできたら………
「くそっ!キリがない。」
「あっ!あれが使えるかも…。セヴェリさん、これ鬼獣だけですよね。」
「あぁ。本陣は後ろでこちらの様子を見てるんだろう…」
「…あの…この魔道具を…この森の鬼獣用に作ったのでどこまで効果があるのかはわからないんですが…使えるかもしれないので使ってみたいんです!鬼獣が出てくる空間の裂け目の近くの木に…遠隔操作できる魔法か何かで掛けられますか?直接近くに行くのは危険なので…」
「それはできるが…何だこの魔道具………?ラヤーナ、これは…」
「どこまで効果があるのかはわからないんですけれど…一応自作したもので…鬼獣ホイホイです。」
「………」
「セヴェリさん、何ですかその微妙な表情は…」
「いや…」
『ラヤーナの名前のセンス・ないのね~~~~~~~』
「もう…」
『ラヤーナ…何でもいい…それを仕掛けてみろ。』
ラヤーナは道具が稼働するように準備をするとセヴェリに渡し、魔法で先ほどの位置に動かしてもらった。
「…後5数えるくらいで稼働します!」
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
パキン…
「え…パキン?」
パキパキ…パキーン………
「え?何が起こって…」
「…空間に裂け目を作っているんだろうな…あの音は…」
「え、そうなんですね…」
「ラヤーナ…どういう仕組みで鬼獣を集めるのかわからなかったのか?」
「空間に裂け目はわからなかったんですけれど…鬼獣を集めて溶かしちゃうというのはわかったので…」
「…溶かすのか?」
「…みたいです…どういう風に溶かすのか、どこまで溶けるのかはわからないんですけど、魔道具の魔力回路を見るとそうなっていて…」
『魔道具の蓋が開いたのね~~~~~』
『鬼獣が魔道具の中に吸い込まれていくぞ。』
「あ、ほんとだ!」
「…魔道具の中に空間の裂け目を作っていたのか…」
『わぁ~・すごいいっぱい吸い込まれてるのね~~~』
『…これは……』
「ふーん…掃除機みたいな感じで吸い込むんだ…あ…あれくらいの数の鬼獣だったら全部吸い込んじゃうのかしら?」
「………」
『あれ・魔道具の蓋が閉じちゃったのなの~~~』
「あ、容量がいっぱいになったのね。」
「容量があるのか。」
「はい。魔道具なので、無尽蔵に吸い込むことはできないみたいです。」
『あ~・ぐるぐる回ってるのね~~~~~!』
鬼獣を吸い込んだ魔道具が勝手に回転を始めた。
「…多分…今、溶かしているということね…これだと…うーん…素材やお肉は手に入らないわね…」
「……」
『ラヤーナ…次の鬼獣がまた大量に来るぞ…』
「あ、アルバス、この魔道具、たくさん持ってきたので大丈夫よ。セヴェリさん、お願いしますね。」
「…わかった…」
セヴェリは先ほど設置したように、手際よく魔道具を裂けた空間の近くの木に掛けていった。ある程度の鬼獣を吸い込むとその魔道具の蓋は閉じ、残っている鬼獣は次の魔道具に吸い込まれていく。もはや流れ作業のように次々と魔道具を設置していくだけだ。
「…随分な量を用意したんだな…」
「はい。魔道具を修理した時に使えるようになった道具なんですけれど、仕組みがわかったので、アマートさんから購入した『鬼獣防御魔道具』というものを参考にして、修理してもダメな大量の魔道具を素材にして自分でも作ってみました。…素材も作り方が分かったので、土魔法で道具の鋼材を作って大量生産してみたんです。これ…もし町の人たちが鬼獣に襲われて困ったらギルドに卸して使ってもらうと騎士団の負担は軽くなるかもって思って…」
「そうか…」
「おそらくなんですけど…溶けた鬼獣は最終的に、魔道具の中で特殊鉱石になるっぽいんです。何かの道具の素材になるかもしれないし、もしかしたら薬の効果を上げる材料になるかもしれないので、後で魔道具を回収してもらってもいいですか?」
「…今のうちに回収したほうがいいだろう……」
「あ、じゃぁ、このバッグにお願いします。」
セヴェリは鬼獣を吸い込んだ魔道具を魔法で集め、ラヤーナのカバンにすべて入れた。
『…緊張感が無くなったな…』
『いっぱい鬼獣来たとき・キャ~~・って思ったのになの~~~』
「え…私…何かまずかったかしら?」
「いや…助かった…鬼獣に体力も魔力も奪われずに済んだからな…」
『そうだな…』
『もう・鬼獣でてこないのなのね~~~』
「そうだろうな…これだけ吸い込まれて溶かされたら…」
空間の裂け目近くの木にぶら下がっていた魔道具は100個を少し超す程度の数だろうが…
1つの魔道具に、ざっと見た目、少なくとも1000体程度の鬼獣が吸い込まれていたような気がする。すると…10万体以上の鬼獣か…魔道具なしでは相当魔力体力を削られた可能性がある…
「ラヤーナのおかげだな。」
『そうだな。』
「そうなのかしら?でも…少しでもお手伝いができてよかった。」