3-43 魔法の倉庫
ラヤーナは森に戻り、大量の薬を作っているところだ。
傍にはアルバス、ラティが常に居り、セヴェリはすぐ近くで待っており、できた薬を保管庫に入れ、この家から直接ギルド長に送るなど、ラヤーナの薬づくりを手伝っている。ここは結界がある森の家のすぐ隣にあるセヴェリの家だ。
森の家はセヴェリが入ることができないため、こうしてこちらの家で薬を作っている。
「でき…た…」
『ラヤーナ~・ふらふら~~』
「どうした!」
『…魔力切れだろう…』
『ラヤーナ・一生懸命なのね~』
「完全修復の薬は治癒と時間魔法を使うからな…大量に魔力を消費したようだな。」
そう言いながらセヴェリはラヤーナを抱き上げるとこの家に作ったラヤーナの寝室のベッドにそっと横たわらせた。ラヤーナの作った魔力回復の飲み薬も持ってくる。ラヤーナは手渡された薬をゆっくりと飲んでいった。
「セヴェリさん、ごめんなさい…いつも運んでもらってしまって…」
「魔法レベルを上げるためだろう。それに薬もだいぶ量がそろってきたな。」
「はい。魔法倉庫の方に薬を移動していただいてありがとうございます。」
「これくらいしかできないからな。薬は俺には作れない。」
「それはそうですよ。今は私しか作れないから。」
「まぁ、そうだな…」
「もう少し薬を作ったら、サフェリアへ行きたいです。」
「そうだな。空間魔法のレベルも上げる必要があるだろう。あとどれくらいで薬は作れそうか?」
「一休みして、落ち着いたらこの後もう少し頑張って作ります。できれば今日中に必要な予備量の薬を作ってしまおうと思います。」
「…大丈夫か?」
「はい。魔力目いっぱい使ってしまう方が、逆にレベル上げには効率がいいんです。以前は一人だったので、そこまで使い切ってしまうと日常生活が不便になってしまってできなかったんですが、セヴェリさんがいてくださるので、使い切っても大丈夫かなって…」
「俺が、少しでもラヤーナの役に立っているんならそれでいい。」
「セヴェリさん、ありがとうございます。」
「夕食も作っておく。休んだ後、薬を作るんだろ?」
「はい。それで…明日なんですけれど…サフェリアへは行ったことが無いので、どのあたりに行けばいいのかちょっとわからないんです。転移するのにちょうど良いところってありますか?」
「そうだな…サフェリアの町にある俺の家が良いかもしれん。俺が転移魔法を使うことは知られているから突然家に現れても問題は無い。家は町から近いところにある。買い物もしたいんだろう?」
「はい!香辛料や香草を見たいんです。1回の転移でどれくらい魔力を使うのかまだわかりませんが、複数回転移してみたいと思います。」
「そうか。やってみると良い。俺の家は…わかるか?」
「明日、地の恵みのスキルを使って、セヴェリさんの気配がする家を手繰ってみます。多分それで転移先を絞れると思います。」
「そうか。」
「それで…サフェリアにはラティも一緒に来てもらいたいんですけれど、いいですか。」
「あぁ。」
『ラティも一緒ね~~~・さふぇりあ~・行くの初めてなのね~・楽しみね~』
「アルバスは森に居てもらうことになるけれど、もし何か異変があったら教えてね。」
『無論だ。森のことは我に任せよ。』
ラヤーナはこの後、町で購入した材料をほとんど使い切るまで薬を作り、セヴェリに鍵付きの倉庫に保管してもらった。日に何度も魔力を使い切ったため、魔力回復の薬を飲んでももうフラフラだ。だがこれで薬の在庫は十分にできた。店舗の方にも空間魔法を強力に掛け、大量に薬を保管できるようにした保管箱ごと置いてあるため、店で販売する薬も十二分に用意してある。
セヴェリに作ってもらった夕食を取り、明日の出発を考え、そのまま休むことにした。
ラヤーナを寝室に送り届け、寝入ったことを確認するとセヴェリはラヤーナの部屋に強力な防御魔法を張る。万が一のことを考えてのことだ。
ラヤーナの部屋から出てきたセヴェリはアルバスに声を掛ける。
「アルバス…明日サフェリアに行ってくる。この数日中にラヤーナの魔法レベルを上げておくためだ。」
『うむ…わかった。』
「コリファーレだが…この1,2週間のうちに仕掛けてくるのではないかと思っている。」
『あまり時間に猶予が無いな…』
「あぁ、確証があるわけではないが、ギルド長も同じ見解だ。だがいつ仕掛けてくるかは実のところ分からない。突然ということもある。負担を掛けてすまないが、森と、ラヤーナを頼む。」
『お主もラヤーナを守るのだろう。』
「もちろんだ。だが…俺は………間に合うのか……」
『間に合う…?』
「いや…何でもない…何としてでも…ヒントはある…必ず見つけ出して間に合わせる…。」
『…お主にも役割があるのだろう…我の役目は昔も今も変わらない。森神人の守護獣として最後までラヤーナを守る。』
「…そうか…ラヤーナを…必ず頼む…」
『わかっている。』
『ラティも・頑張る…』
もうあまり時間に猶予が無い…三者とも同じように感じているのだろう。各々ができることをするしかない。
翌日は朝食を取るとサフェリアに行く準備を始めた。
まず地の恵みのスキルで転移先のセヴェリの家を探し出す。多少時間はかかったが、何とか探し出して転移魔法の準備をする。スキルを使って分かったのだが、サフェリアまではかなり距離がある。この世界は陸続きではなく、王国の間は全て洋と呼ばれる海のようなもので隔たられており、それぞれの大陸が1つの王国になっているため、移動は基本的に転移魔法を使っているようだ。船のような乗り物は、海の生き物との交流や、海にすむ鬼獣を退治する際に使うものらしい。そういえばギルドの初心者講座では、洋は王国を分けているということしか習わなかったため、海の生き物については今初めてセヴェリから教えてもらうことができた。あの頃は、今の森周辺についてや、世界の理を理解するだけで精いっぱいで、国の外について考える余裕はなかった。
転移魔法でこれから国をまたぐことになるが、洋を超えるためにかなり魔力を消費するため、魔力回復の薬を何本か持っていくことにした。セヴェリの話では、初めて洋を超える時は、おそらくラヤーナのすべての魔力を1回で使ってしまうのではないか、ということだった。洋を超える転移魔法である空間魔法については、慣れるとコントロールの仕方が分かり、無駄な魔力消費は無くなるらしいが、はじめの数回はその調節が分からないため、大量に魔力ロスをしてしまうらしい。調節ができるようになっても魔力の消費はそれなりに多いらしいので、空間魔法のレベルを上げるには非常に良い練習になることは間違いないようだ。
「準備はできたけれど…」
「不安か?」
「魔力がうまくコントロールできるかしら…」
「まぁ、やってみることだな。必要になれば俺がサポートする。」
「…セヴェリさん…いつもこの転移魔法を使っていたんですか?」
「あぁ、そうだが?」
「魔力消費が大きいんですよね…」
「慣れればそれほどでもない。」
「え…それほどでも…あると思いますよ。だって、まだ魔法使っていなけどセヴェリさんの家までかなり距離がありますし、私でも洋が作っている王国間の不思議な壁の存在は感じます。あの壁を突き破らないと転移できないんですよね。」
「そうだ。あの壁は何か害を及ぼしているというものではない。王国を分けている目安に過ぎない。」
「…国境みたいなものなのかな?」
『こきょー?・なに~~?』
「国境よ。国と国の境目のことなの。」
『こっきょー~~・洋にあるのはこっきょーの壁なのね~』
「そう…その壁を通り抜けて転移魔法使うには魔力がかなり必要ですよね。」
「…まぁ…そうなるな…」
「セヴェリさん!セヴェリさんは魔力もたくさんあるし、力もあるし、このくらいの転移は何でもないかもしれませんが、絶対それって普通じゃないですよ…そもそも転移魔法が使えること自体、貴重だって聞いています。」
「……まぁ……それは……」
「今だって、転移魔法を使えることは絶対に公にしないってギルド長と約束もしています。…ということは…セヴェリさんが転移魔法を使えるってことはサフェリアの国は知っていて、サフェリアだけじゃなく、他の王国の王様や騎士団長みたいな人達はみんな知っているってことですよね。」
「…そうだな…」
「もう、セヴェリさん…そうだな…じゃないですよ…」
「まぁ、俺のことはいい。今はラヤーナの魔法レベルを上げることが最優先だろう。」
「それはそうですけど…」
「サフェリアの香辛料や香草にはこの王国にはない物がいろいろあるぞ。」
「……」
「魔道具屋もいろいろあるはずだ。マーケットはもう開いているな。香辛料は比較的いつも同じものが置いてあることが多いが、香草はその日によっていろいろあるらしい。魔道具も古いものはそれ1つしか置いていないから一品ものが多いはずだ。今日はどんなものが…」
「セヴェリさん!行きましょう!!早く行ってみましょう!!!」
『楽しみなのね~・キラキラのお菓子ある~~~?』
「キラキラのお菓子ね…あったらいいわね。」
『アルバスのお土産もほしいのね~・美味しいお肉もあるといいのね~』
「そうね!新しい香辛料も手に入れば、薬だけじゃなくて料理にも使えるかもしれないわ。」
「…準備はできているようだな。」
「はい!いきましょう!!!」
『キャぁ~・楽しみなのね~~~~』
「…遊びに行くわけでは…いや…転移魔法を使う以外は…そうだな…まぁいい…」
「はい。セヴェリさん、それではよろしくお願いします!」
サフェリアに向かって出発だ!