3-38 感じ取った言葉
「その方は…ギルド長のお弟子さんだったんですね…」
「そうじゃよ。優秀な竜騎士でのぉ…。まぁいわゆるいけめんじゃて、女子がのぉ…」
「…イケメン…だったんですね…あぁ…女性がというのは、何となく…想像がつきます…」
「彼奴もそのような一人じゃった…」
「そうですか…」
「ラヤーナ…女神は…ローラ殿は…そいつが神界にいることがおかしいと言ったんだな。」
「はい。居るべきものではない…というようなことをおっしゃっていました。」
「居るべきものではない…エルクトラドムの者ではない…ではどこから…別の界にいた者なのか…だとしたら…」
「セヴェリ…別の界とは…ラヤーナ嬢がいたような界ということかの…」
「そうかもしれないが…ただ…蠱惑か…」
「…ヴァルにも使っておったの…まぁ、ヴァルには効かなんだが…」
「はい…そのことについてもローラ様がお話して下さいました。そして、エルクトラドムの神の候補はそのような気持ちを持つこと自体がおかしい…と。ローラ様は全てのものが等しく愛しいとおっしゃっています。エルクトラドムの神候補であれば、そうでなければおかしいと…。」
「…別の者…このエルクトラドムのものではないということじゃの…ローラ嬢がそういうのであれば…」
「ラヤーナ、他に何か感じたことはないか?王から何か…」
「あの…これは私の思い込みかもしれないので参考にならないかもしれないんですが…」
「なんだ。なんでもいい。教えてほしい。」
「あの…王の方にだけあった魔方陣ですが、その中に『イケメン』という言葉が見えた気がしました…」
「…彼奴…よほどの男好きじゃの…」
「あの…ギルド長は『イケメン』という言葉をどこでお知りになりましたか?」
「それは、ほれ、嬢についておるそこの可愛い精霊じゃて。」
ギルド長はもはやラティが見えることをセヴェリに隠そうとしていない。セヴェリはやはりラティが見えるのだとラヤーナは確信した。だが、ラティもセヴェリも互いに見られている、見えているような素振りはしない。これについては何か事情があるのかもしれないとラヤーナは考えていた。
「そうですよね…それまではご存じなかったんですよね。」
「そりゃそうじゃよ。儂は今どきの若者言葉はよくわからんでのぉ。」
「セヴェリさんはいかがですか?」
「ギルド長から聞くまでは、使ったことはない。」
「そうですよね。だからもしかしたらなんですけど…その『あれ』って…何と呼んだらいいのかわからないんですが…」
「彼奴のことか…下手なことは声に出せんしの…どんな言霊が仕掛けてあるかもわからんし…そうじゃの……『めー』でどうじゃ?」
「あの…どうしその呼び名に…」
「いや、名の初めじゃて…」
「あぁ…そうですね…ギルド長はその…名前はご存じなんですね………そうですね…はい。では『めー』さんで。」
「……」
「なんじゃセヴェリ?」
「いや…俺が何か言うことではないな…」
『おじいちゃんセンス無いのね…』
「ん、なぁに?」
『何でもないのね~・ラヤーナはみんなにわかること話したほうがいいのね~』
「そうね…」
「…して…その『イケメン』ということばになにがあるのかの?」
「…ギルド長、この言葉は私が以前いた世界の言葉です。この世界には…エルクトラドムにはない言葉です。」
「…そうだな…この世界では聞いたことがなかった言葉だが…」
「はい。セヴェリさんもギルド長から聞かれるまでにご存じなかったようですし…」
「……」
「ふーむ…ということは…嬢は彼奴がもともといたところはもしや…」
「ラヤーナは魔方陣からも以前の界をわずかに感じ取ったようだしな…以前過ごしていた界、ということか…」
「はい。私が以前いたところは、『地球』という星の『日本』という国です。その星には沢山の人たちが暮らしていて、使われていた言葉もいろいろありました。『イケメン』という言葉は私の使っていた『日本語』ですが…他の国の言葉でも似たような意味の言葉はあります。ですが…私が感じたのは『日本語』の『イケメン』という言葉でした。」
「ラヤーナ…それは…あいつのルーツが…以前にラヤーナがいたところにある、ということか。」
「ルーツまではわかりません。ですが、確かに王にある魔方陣からはこの『日本語』が感じ取れました。」
「…そうか…」
「…ふーむ…なぜ嬢の以前の界にいたものが、このエルクトラドムの界におるんじゃ?」
「それは…私にはわかりません…ですが、その『めー』さんは、『日本』にルーツがあるのかもしれないと感じました。」
「…わかった…それに関しては…」
「セヴェリ…何かわかるのかの?」
「今は何も申し上げられない。」
「そうか。」
「あの…これ…もしかしたらヒントになるかもしれないんですが…こんな文字が見えました。」
ラヤーナは魔法帳を取り出し、空いているページを開く。すると
『ラヤーナ、頑張るのよ。もちろんお手伝いするわ~♡♡♡』
「………」
「なんじゃ…こりゃ…」
「あの、すみません。とっても親切な魔法帳なんです。たくさん協力をしてくれて…」
「…魔法帳自らが協力じゃと…?」
「…ラヤーナの味方は多いほうがいい。魔法帳、ラヤーナをよろしく頼む。」
『もちろんよ~~~~~♡♡♡』
「……なんというかの…嬢の味方は種を問わずたくさんおるようじゃの。」
「ええと…はい…ありがたいことです。」
「して…嬢、儂らに伝えたいこととはなんじゃ?」
「はい。こちらを見てください。」
ラヤーナは魔法帳に日本語で文字を書いた。
『愛楼』
「なんじゃこれは?何かの記号かの?」
「…これは…先ほどの王の…蠱惑がかかっている魔方陣から見えてきた文字です。これはおそらく名前…」
「!」
ラヤーナが『名前』と言ったところで、セヴェリの顔色が一瞬変わった。
「セヴェリさん?」
「ラヤーナ!これは…これなら…」
「セヴェリ。」
「ギルド長、これは…大きな一歩だ。」
「そうか…」
「まだどうなるかわからない。しかし、探し出すきっかけにはなる。」
「探し出す…?」
「あぁ。俺の方で動いていることがあるが今は八方塞がりの状態でどうしても先に進むことができなかった。だがこれで…」
「あの…お役に立ったんでしょうか?」
「ああ。とてもな。」
「そうですか。良かった…」
「セヴェリ、その件は任せる…というかお主でなければ何ともできんからの。じゃがこちらは何か手を打たねばならん。王がこのまま引き下がるとは思えんからな。」
「ギルド長、俺をこのままラヤーナの側に付けてほしい。あいつからの偵察や干渉、あるいはさらなる攻撃はこれから増えていくだろう。」
「むろんそのつもりじゃが、それだけでは不十分ではないかの。」
「いや、下手に増やすとこちらも身動きが取れなくなる。それにラヤーナの魔法も上げる必要がある。」
「そうじゃったの…嬢、どこまで魔法レベルが上がったのかの?」
「全体のレベルは9に、魔力レベルとスキルレベルも9です。でも、光と闇を使えるようになるための空間と時間、治癒がまだ7なんです。」
「そうか…嬢、魔法書はもっておるな?」
「はい。8にするための魔法書はあります。でもまだ魔力レベルが不足していると感じます。もっと魔法を使う必要がありますが、それは森に戻って、大量に薬を作ることで治癒魔法はレベルを上げることができると思います。時間魔法も、今別の薬を作っているところでその際に使っていて…」
「別の薬じゃと?」
「はい。正確には別の薬というよりは進化版というか強力版と言った方が近いものだと思います。」
「嬢はどんな薬をつくりたいんじゃ?」
「はい。欠損部の完全復活です。」
「なんじゃと!」
「これまでの薬に私の治癒魔法を混ぜると薬の効果が上がりました。最近ギルドに卸している薬の効果がさらに強くなったのはそのためです。古い部分欠損の薬も製作できるようになって、先日納品しています。」
「あぁ、メリルから聞いておるよ。非常に驚いていたのぉ。まぁ儂も驚いたんじゃがの。」
「はい。でもまだ大きな欠損には効かないものです。ですが、今作り始めているものは時間魔法を加えることで、大きな欠損部も修復できそうなんです。」
「…それは…凄いことじゃの…そのようなものがあれば…それは皆、喜ぶじゃろう…」
「はい。でも…」
「なんじゃ…」
「試作品を作ってみたんですが効果を検証できなくて…」
「…検証…か…?」
「はい。セヴェリさんの体にあった傷や欠損はもう全部薬の効果検証で使わせていただいてしまったんです。」
「なんと…」
「………」
「古い傷や、小さな欠損はたくさんありましたので、薬の効き具合に関してもセヴェリさんに協力をしていただきました。もうセヴェリさんの身体に傷はありません。」
そこでラティがギルド長の方へ飛んでいき、耳元で何かを伝えたようだ。
「…なんと!」
ギルド長がセヴェリの方を見て、フォッ、フォッ、フォッと声を上げた。
「…なんだ…」
「セヴェリ、お主、嬢に身ぐるみはがされたんじゃな。」
「…あぁ…」
「体の隅々まで傷を調べられたのか…それはそれは…」
「ギルド長…」
「よいではないか。しっかりと傷も治ったのだろう。サフェリアの騎士団としての仕事はいろいろあったじゃろうからの。」
「…そうだな…」
「ギルド長…」
「なんじゃ、嬢?」
「ギルド長には傷やけがはありませんか?」
「儂にか?」
「はい。…大きな欠損部など…」
「嬢…儂まで実験台にするつもりかの?」
「1000年前、ローラ様をお守りする際、怪我を負ったと伺いました。その怪我はどうなっているのでしょうか?」
「……」
『ラヤーナ~~~・ラティわかったのね!』
「あら、ラティ、何?」
『ギルド長ね・翼がないのね!!なくなっちゃってるのね~~~!』
「こりゃこりゃ、ラティ。」
「ギルド長…。古い大きな欠損部、あるんですね。」
「…嬢…」
「今日、ここに薬を持ってきています!ギルド長、ご協力をお願いします。」
「いやいやいや…ここではまずいじゃろ。」
「まずいですか…」
「ラヤーナ…ギルド長は竜騎士だ。竜体を取ることもできるが、当然身体も大きくなる。」
「え!ギルド長、竜になれるんですか!!!ぜひぜひ!!!見てみたいです!!!」
「…なんじゃ…儂のようなおいぼれの竜を見ても…」
「やっぱり竜体になると背中に翼があるんですか?うわぁ~どうなっているのかな?空を飛べるんですか?すごいなぁ~~~~。うわぁ~~~」
「…嬢…」
「ギルド長、ぜひぜひお願いします。ここではだめなんですよね。森に行きましょう!薬を試しましょう!!」
「ギルド長、俺からもお願いしたい。騎士団には欠損部が大きいものもいる。彼らに元の身体を戻してやれるものならそうしてやりたい。今でも苦しんでいるものがいるからな。」
「…そうじゃの…儂は翼をやられてから過ごした時間が長くての…竜騎士としての自分を忘れておったよ…」
「ギルド長!それではご協力いただけるのですね!」
「そうじゃの。ここでは難しいじゃろうから、明日の朝、森に行って試してみるとするかの。」
「はい!ぜひよろしくお願いします。」
「明日はギルドの方でも国王と必要な相談をしておくからの。明日の朝は皆が起きる前に森に行ってすぐに戻ってくることになるの。」
「はい。大丈夫です。ギルド長こそ、朝早くにすみません。」
「いやいや、よいよい。儂も翼が戻るかもしれないと思うとのぉ…なんというか、不思議な期待があるんじゃよ。」
「そうですか。もし今回の薬がだめでも、必ず作ります。」
「フォッ、フォッ、フォッ。嬢、楽しみにしておるよ。」
「はい。」
「して、セヴェリ…儂はこのままここに泊まらせてもらうよ。コリファーレの王のことがちと心配じゃからの。」
「あぁ、それはありがたい。」
「して、どこか寝る部屋はあるかの?」
「はい。あ…でも…客室として作ってあるのは1室で…」
「おお、そうか。ちょうど良いの。儂が使わせてもらおう。」
「あ、でもセヴェリさんが…」
「セヴェリは嬢と同じ部屋が良い。」
「え!」
「王のことじゃ…すぐにでも何か仕掛けてくるかもしれん。森の結界がある家ならまだしも、ここは町の中じゃて、どんなに王国が強い防御の魔法や、儂らが魔法を掛けたとしても彼奴の力はそれ以上のはずじゃ。油断はできんのじゃよ。」
「…そうですよね…、あ…そうしたら、私の寝室にもう1つベッドを入れればいいですね。」
「いや、もう1つベッドを入れたら狭いだろう。俺はソファでも…」
「ダメです。体を休ませないといざという時に動けないじゃないですか。ベッドをもう1つ入れるくらいのスペースはありますから大丈夫です。物置部屋にもう1つ使っていないベッドがありますので、それを持ってきます。」
「…ラヤーナ…それなら俺が動かそう。」
「そうしていただけると助かります。よろしくお願いしますね。」
「ではセヴェリ、しっかりと頼んだぞ。明日は5ラルでよいかの、転移魔法で行って戻ってくれば、ここでの朝食には間に合うじゃろ。」
「はい。それでお願いします。」
「…わかった。」
ギルド長は客間で休み、ラヤーナとセヴェリはベッドを寝室に入れた後、それぞれ着替えをして部屋に戻ってきた。さすがに着替えるのを同じ部屋というわけにはいかない。
「ラヤーナ、明日は早い。もう寝たほうがいいな。」
「はい。…セヴェリさん…やっぱり王は私を狙ってくるんでしょうか…」
「あぁ、まず間違いなく。」
「そうですか…」
「不安か?」
「…少し…」
「そうか…」
「でも…セヴェリさんがいてくださるので…大丈夫です。」
「そうか…。俺がいる。心配せずにゆっくり休め。」
「はい。あの…お休みなさい。」
「あぁ。お休み、ラヤーナ。」
※ ギルド長のネーミングセンスの無さについてラヤーナは全く気づいていません。セヴェリは思うところはあったようですが…。ラティはラヤーナにへばりつきながらつぶやいちゃいました。