3-34 コリファーレのフェルディナン王1
ラヤーナ達が何者かに襲われてからの2週間は大きな問題もなく平和に過ごしていた。この間、森の家でのラヤーナの生活のルーティーンは、
朝 朝食をセヴェリの家でとった後、アルバス、セヴェリ、ラティとラヤーナで森の中に素材を集めに行き、その後は森の家でお昼までラヤーナは薬を大量に作る。新しい薬などもこの時間に作ってみている。
昼 セヴェリの家で、セヴェリの作った昼食をみんなでとる。セヴェリはラヤーナが薬を作っている間、昼食を作るようになった。
午後 できた薬をギルドや店舗に転送した後、魔法の練習(身体強化と魔法防御が中心)をアルバスとセヴェリに教えてもらいながら実施する。
夕食 セヴェリの家で、ラヤーナとセヴェリが一緒に作ってみんなで食べる。食事の間に翌日の予定を話し合う。その他、これから気を付ける情報などがあった場合もここで共有する。ときどきギルド長が夕食を一緒に取りに来ることがある。
このような形でこの2週間を過ごした。ラヤーナの治癒魔法は午前中の薬作成の時間に大量消費したり、一番強い治癒魔法を新しい薬の製作に使ったりして、2週間たったころにはレベル7に上がっていた。尤も、薬に関しては半分以上のものは失敗作だが、薬草の組み合わせと、香草、香料、果実、その皮や種等…組み合わせによって新しいものも作ることができた。
午後の魔法練習は身体強化と魔法防御はレベルが3まで上げることができた。まだレベル3では大きな魔法や力を防御することはできないが、それでもないよりはずっといい。
建築魔法と土魔法もよく使っており、セヴェリの家で過ごす時間が増えてきたことからほぼ毎日セヴェリの家のどこかしら手を入れ、気づけば大幅な改築となった。新しくキッチンを増設したり、部屋を増設したり、居間を広く使い易いものにしたり、また診療室の様な部屋を作ったり、というように、気づけば森の家よりも広くなっていて、建築魔法もレベルが5まで上がっていた。土魔法は今回の増改築でいろいろと魔法の使い方を工夫したり、また薬の容器も使いやすくするために魔法を大量に消費したりしたこともあって、こちらもレベルが8まで上がった。
それから能力探索の魔法はレベルを5まで上げることができた。
これに関しては、アルバスたちだけではなく、森の精霊たちに協力してもらい、精霊たちには全員の能力を探索させてもらった。通常この短期間で5までは上がらないらしいが、探索対象に精霊が多かったということで、より魔力を使うらしく、上がるのが早かったらしい。
レベルが5ということは、隠れたスキルなどは見ることができないが、身体の不調は骨だけではなく、内臓の中のレベルまで見ることができるようになった。スキルなどに関しても、どのスキル攻撃が苦手なのかということまでは探索ができる。特殊能力については、探索できるものとできないものがあるようだ。例えば、森の精霊たちのステータスはほとんど細かいところまで見えるようになった。木々の枝の調子が悪いところ、葉が少しかれているところなどや、土を変えてほしい、別の薬草の栄養が必要、神水を飲みすぎ、など、その原因もわかるようになった。ラティのように羽を持った精霊として形を取って飛んでいる者たちは、もう少し力があるためなのか、ところどころ特殊ステータスのところに???が表示される。これはおそらく自分の探索スキルが上がらないと見えるようにならないのだろう。
ローラ様も私のステータスも見てごらんなさい、と言って見せていただいたが、特殊スキルは???だらけで、魔法レベルやスキルレベルも、ほとんどのところが???となっている。ローラ様の話によると、自分よりレベルが高いステータスを見るには、探索レベルを8まで上げないと見ることができないらしい。8までいけば、自分よりもレベルの高い者のステータスも見ることができるようだ。ただし見られる相手が、探索不可の魔法を掛けている場合は見ることはできないらしく、その場合は自分がその相手よりもレベルが高くなると、探索不可をすり抜けてみえるようになるということだった。(ローラ様のステータスに関しては探索不可の魔法は掛けてはいなかったので、まだ探索レベルが不十分ということのようだ)
セヴェリのステータスも見せてもらったが、やはり???が表記されていたところが多かった。セヴェリのステータスも相当高いようだ。
ギルド長にも見せてもらったが、???が多かった。
ギルド長も種は竜人、というところは確認ができ、竜族の人だったのかとこの時はやはり、という気持ちが強かったが、年齢については1000年以上とだけ表記されていて、非常にびっくりした。そういえば年齢は表示がある人とない人がいるようだ。精霊には年齢の表記はないようだ。
また、町の方にもこの間2度ほどセヴェリについてきてもらい、店の様子を確認し、材料も大量に買い込んできた。魔法のレベルが上がり、魔力も上がっているため、買い物のたびに前回の倍量以上を買って帰るが、消費も激しいため、次回分についてはあらかじめ今回の3倍量を目安に欲しい量を伝えておくことにした。
更に1週間がたち、魔法も順調に上達し、薬の在庫もかなりの量がギルドと店に置かれ、森の家にも空間魔法を掛けた保管庫に大量に保管してある。そこでアルバスとセヴェリに相談をして、久しぶりに町のお店に泊まることにした。セヴェリも騎士団の様子を確認しておきたいようなので、お店には2泊することにし、その間、ギルドにも行き、鬼獣の使いきれない分の肉と、使わない部位の素材を買い取ってもらうことにした。
セヴェリについてきてもらい、鬼獣の肉と不要な素材を買い取ってもらった後、ギルドショップによって帰ろうとしたときに、メリルに呼び止められた。
「ラヤーナさん…今お時間いいかしら?」
「はい。今日はこの後、町で買い物をしたらお店に行ってそこに泊まる予定です。」
「そう…今ね…ちょっとお客様がいらっしゃって…薬屋の店主に会いたいという方が来ているの。ギルド長が対応しているんだけれど…、今日は町にラヤーナさんがくるって聞いていたから、ギルド長がもしラヤーナさんがギルドに来たら来てほしいって言っていたの。」
「そうですか。それでしたらこれから伺いますけれど?」
「…えぇ…でもねぇ…ちょっと相手が…」
「相手は誰なんだ?」
「セヴェリ団長…その相手はコリファーレの王で…」
「コリファーレのフェルディナン王か…厄介だな…本人が来ているのか?」
「はい…そうなんです。…」
「ギルド長はラヤーナがもしギルドに来たら顔を出すように言っていたんだな。」
「はい…でも…私は王には合わない方がいいと思っているんです。」
「メリルさん、その…王様には合わない方がいい理由があるんですか?」
「ラヤーナさん…その…ちょっとこちらに…女性同士のお話がちょっと…」
「セヴェリさん、ちょっとメリルさんと話してきてもいいですか?」
「そうだな…どこで話すんだ?」
「いつもの奥の相談室です。」
「そうか…そこに行って安全を確認させてもらう。俺は部屋の外で待っているが、話の内容を聞かれたくないというのなら…防音魔法を掛ける。それでいいか?」
「はい、セヴェリ団長、それでいいです。」
「そうか、ラヤーナ、少しいいか?」
「セヴェリさん、何ですか?」
「…ラヤーナ…防音魔法を使ってみろ。まだ使ったことがないだろ?」
「え、あ、そうだったわ…」
「上手くかからなかったら俺が外からかける。掛けられる範囲でかければいい。」
「…私は…セヴェリさんにならお話を聞いてもらいたいと思っているんですけれど…」
「メリル嬢の都合もあるだろう。まぁ、どちらにしても、俺は聞かなかったことにする。」
「分かりました。」
ラヤーナは防音魔法のことを知られないようするため声を潜めてセヴェリと話すと、メリルと相談室に向かった。
ラヤーナはセヴェリに言われたように、防音魔法を掛けてみる。セヴェリは今隣にいて、防音魔法を掛けるタイミングを見計らっているようだ。初めて使う魔法ではあるが、新しい魔法はイメージをしっかりと持って使ってみるというコツはもうすでに分かっている。ラヤーナはゆっくりと防音魔法を掛けた。思ったよりも揺れが少なく魔法を掛けることができたが、まだ不安定だ。セヴェリがその上から魔法を掛け、安定させた。とりあえず防音魔法はこれまで使う必要がなかったので練習はせず、とにかく他の魔法のレベルを上げるために時間を使ってきたが、防音魔法の使い方はわかったので、これからはこの魔法も時間がある時に練習してみようと思った。
「セヴェリ団長、魔法を掛けていただいたんですね。ありがとうございます。」
「俺はここに待機する。話をして来ればいい。」
「はい、セヴェリさん。」
ラヤーナとメリルは二人で相談室に入りそっとドアを閉めた。
「…あのメリルさん…その、コリファーレ王は何かまずいんでしょうか?」
「…ラヤーナさん、率直に聞くわね。セヴェリ団長とどういう関係?」
「え…?どういうって…」
「二人の間の空気が、こう、なんていうのかしら…しっくり来ていて、お二人は恋人同士になったのかなと思ったのよ。」
「え、え~~~~!いえいえ、そんなんじゃありません。セヴェリさんにはひたすらお世話になっていますが、それではセヴェリさんに申し訳ないです。」
「…申し訳ない…なの?団長とそういう風にみられるのが嫌、ではなくて?」
「いやいや…メリルさん、セヴェリさんは本当に私のことを守っていただいて、そんなことを考えたら本当にセヴェリさんに申し訳ないです。一緒に居ていただけるだけで本当に安心できるし、こうして守っていただけるだけでも感謝でいっぱいです。」
「…でもラヤーナさん、団長のこと好きでしょ?」
「え、私がですか?」
「そうよ。」
「もちろん人として尊敬しています。」
「そういう意味の好き、ではなくて、恋人に…つまり…この間のオータムナスのお祭りに一緒にまわって、将来を一緒に過ごせるようになりたいっていうことよ?」
「え…お祭り…いえ…それは考えたことがないです…」
「そうではない?私の勘違いだったのかしら……それはごめんなさい…余計なことを……」
「いえ…あの…お祭りに一緒にまわる…あ…もし一緒にまわれたら楽しいかも…え…待って…好き……え…私が…セヴェリさんを???え、えええーーーー!」
「ラヤーナさん…」
「え、私、セヴェリさんのことを好き?好きなんですかね?え、えっと、ちょっと待ってください…えっと…人として、でしたらもちろん好きです…あの…え…と…」
『ラヤーナ~~・落ち着くのね~~~』
「え、でも、でも、でも…まって…えっと…でもセヴェリさんには…本当は離れてほしくないとか…あ…それってそういう…あ…でも…襲われて不安だから一緒にいてほしいっていうだけで…あ…でも…」
「………ラヤーナさん……もしかしたら自覚していなかったのね…今、あなたの顔、真っ赤よ…」
「…あ、あの…」
「…そういうことなのね…まぁ、まだ団長と何かあるというわけでは無いようだからいいけれど…」
「セ、セヴェリさんはそんなことは…」
「団長はあなたを守ることを第一としているようだから、まぁ、しばらくは大丈夫でしょう。」
「大丈夫って…何が大丈夫なんでしょうか?」
「…うーん…それは…あ、そうか、そうだったわ、ラヤーナさん、森育ちで、人がいるところに来たのはこの町がはじめてだったわよね。そうか…人との交流の免疫もまだあまりないのよね…それならこの状況もわかるわ。」
「あの、メリルさん。あの…」
「ラヤーナさん、いいのよ。ラヤーナさんのペースで。」
「…なんのペースでしょうか?」
「いろいろよ。今は気にしなくていいわ。」
「…えっと…あの…」
「あぁ、それでね…そうね…ラヤーナさんのこの様子なら大丈夫のような気もするけれど、一応私がお話したかったことを伝えるわね。」
「あ、はい。お願いします。」
「コリファーレ王はね、美丈夫なのよ。」
「…え…美丈夫?」
「そうよ。今は、世界一の美しい王と言われているの。本当に美しい方よ。」
「はぁ…」
「コリファーレ王国だけではなく、この世界で一番美しい人なのよ。」
「…そうなんですか?」
「そうなの!女性でコリファーレ王を見て恋に落ちない人はいないわ!」
「…メリルさんもコリファーレ王が好きなんですか?」
「あら、私はただのファンよ。」
「…恋に落ちない人がここにいるじゃないですか。」
「私は現実を受け入れているだけよ。王様と一介のギルド職員がどうこうなれるわけないじゃないの。私が心配したのは、ラヤーナさんとセヴェリ団長が恋人同士だったら王に会うと、大体女性が王に恋してしまって、仲たがいしてしまうの。だからお二人が恋人同士だったらちょっと気を付けたほうがいいと思っていたのよ。」
「…あ…そういうことだったんですか…てっきりコリファーレ王が何かまずい人かと思いました。」
「…それは…何とも言えないわ。実際、前回ラヤーナさんを襲ったのはコリファーレが関わっているということは私もギルド長に聞いているから。でも、それが王の采配なのか、一部の者の暴走なのかはわからないのよ。」
「…薬を手に入れたい…ということですよね。」
「えぇ。だから、もしかしたら今回コリファーレ王がこちらにいらっしゃったのは、そう言うことが無いように、きちんと取り決めをされるためにいらっしゃんだと思うのよ。」
「…なるほど…」
「コリファーレ王は国民を大切にしているらしいわ、だからそういう暴走する人たちを抑えるためにいらしたんじゃないかしら。それに噂ではコリファーレ王には美しい王妃がいるらしいわよ。」
「噂…なんですか?普通王妃様って皆さんに知られているものではないんですか?」
「コリファーレ王妃はちょっとミステリアスなの。とても美しい方で、コリファーレ王は相当王妃のことを大事にしているらしく、めったに表に出さないのよ。噂ではだれにも見せたくないと思っているらしいわ。」
「そうなんですね。」
「えぇ。でも王国の式典などではお顔を見せてくださるらしいのよ。本当に美しい方らしく、お二人仲睦まじく王国民にバルコニーから手を振られて、まるで美しい絵画の様だと聞くわ。」
「はぁ…」
「…ラヤーナさん、本当に興味がないのねぇ…」
「はい…美丈夫と言われても…あまりピンと来なくて…」
「お会いすればきっとラヤーナさんもドキドキするわよ!」
「…そうなんですかねぇ?」
「…まぁ…これだけ怖がらずにセヴェリ団長が良い、というラヤーナさんだから…特に何も思わないかもしれないけれど…あぁ、でもそうね…綺麗なお花を観賞していると思えば…」
「花?」
「えぇ、コリファーレ王は花で言うなら本当に美しく咲き誇る花よ!そう、そうよ!恋に落ちはしなくても、その美しさに感動はすると思うわ!!!」
「…わかりました…それなりに観察しておきます…」
「えぇ、ぜひ!」
「…そうですか…それで…そんな方が私に?」
「薬を作っているあなたに直接お会いしたいようよ。」
「あぁ、なるほど。でも他国への売買はすべてギルドにお任せしています。」
「でもアウロレリアのメイネルス氏とは取引をしているでしょう?」
「それは、ギルド長から大丈夫だと言われたからですが、アルナウトさんとの取引も、ギルド経由ですよ?アウロレリアの皆さんの薬の使用状況や、人気のある香りのお茶、希望する効能についても、まだ1度しかお話を伺っていませんし、そう言う意味ではやっぱり取引はギルド経由です。ですから王様にお会いしても、私の方では特に何か…ということはないと思います。」
「そう?」
「はい。…薬は、今かなりたくさんギルドに納品していますし、今回も町で2泊したら森に戻って、また薬を作る予定です。コリファーレ王国に薬をもっと卸す、ということになっても増産は可能です。ですから、取引に関しては、ギルドの判断で進めていただければ大丈夫です。」
「そう…。わかったわ。でも、とりあえずギルド長には言われているので、ギルド長のお部屋に行っていただけるかしら?もちろん団長についてもらって行ってかまわないわ。」
「分かりました。そうしたらセヴェリさんと一緒にギルド長のお部屋に伺いますね。」
※セヴェリは「聞かない」ではなく「聞かなかったことにする」と言っていたので…
(実際に関しては…ご想像にお任せしますm(__)m )