3-28 森の家
セヴェリと店で合流し、昼食をみんなで食べた後、ラヤーナ達は森へ帰ることにした。レスリーたちにこれから薬を大量に作って、転送魔法で送るのでお店の方をしっかり見てほしいことをお願いした。
「ラヤーナ、まかせて!ユリアもお兄ちゃんもじゅうぎょういんだから!おじちゃんたちのめんどうをみるね!」
というユリアの勇ましい言葉とともに見送られ、店舗を出発した。
店から離れ町に入るとラヤーナはセヴェリにお願いをした。
「セヴェリさん、あの…森まで転移すれば早いんですけれど、ちょっと町でお買い物をしていってもいいですか?先ほどはお店で使うものだけ買ったんですが、自分の物は買う時間がなかったんです。薬の材料になるビーロップなんかも購入しておきたいですし、アルバスのお肉も買わないと…」
「肉?買い物についてはかまわない。必要な物や欲しいものを買ってから森へ戻る。俺も必要なものは用意できたつもりだが、一緒にまわりながら気づいたら買っておきたい。」
「はい、もちろんです。あ、まずはビーロップから買っていっていいですか?一応、ビーロップを入れる入れ物は持ってきてはいるんですが、全然足りないので大量に購入して持って帰ります。」
「荷物は俺が持った方がいいか?魔法カバンに入れるんだろうから重いということはないだろうが、いろいろ買っていきたいんだろう?買いやすいように、ある程度カバンに入ったら俺が持とう。」
「セヴェリさん、ありがとうございます。そうしていただけると助かります。…実はカバンを結構沢山持ってきていて…」
ラヤーナが持っていたカバンの中から、さらにいくつものカバンが出てきた。
それを見たセヴェリからフッと笑みがこぼれる。
…あれ…なんか…何だろう…
「すでにかばんは準備済みの様だな。さぁ、欲しいものを買っていこう。」
「あ、はい。…ありがとうございます。」
ラヤーナは一瞬何だろうか…と思ったが、この後の買い物に意識を向けるとそのことはすぐに忘れ、薬を大量に作るために町で購入する必要がある材料を次々と購入していった。
ビーロップはもちろん、様々な香草や材料、それにしばらく森にこもるのであれば、町でしか手に入らない食材も買っておきたい。セヴェリさんはたくさん食べそうだから森で手に入る材料だけでは、特に香辛料が足りない気がする。
「セヴェリさん…好き嫌いってありますか?」
「なんだ?」
「食べ物です。」
「食事のことか?俺のことは心配するな。森で鬼獣を狩って肉を焼けばそれで…」
「ダメです。お肉ばっかりになっちゃうじゃないですか。せっかく一緒に食べてくれる人がいるんです。森の家だと食べるのは基本私だけなんですよね。アルバスはお肉は好きですけれど、あとは薬草や果実だし、ラティは食べるけれどそれは私やアルバスの食べているときの気だし…」
「……」
「ですから、食べ物の好き嫌いはありますか?」
「ない。」
「そうですか。それじゃ、私の好きなように作っちゃいますね。」
結局香辛料や野菜なども、薬を作る材料用のものとは別に大量に買い込み、セヴェリの手には現在5つの魔法カバンが握られている。入れるものによってカバンを分けたため、それぞれのカバン容量いっぱいまでぎっしり入っている…というわけではないが、ラヤーナの7まで上げている空間魔法がかけられているカバンだ。1つのカバンで工場の倉庫1つ分ほどの容量があるはずだ。これは…家に戻ってから物をしまっていく方が大変そうだ。
その他にも新しいリネンや生地、糸、毛糸なども購入していく。
結局、セヴェリに7つのカバンを持ってもらい、8つ目のカバンにアルバスのための焼肉をこれまた大量に買い込んで、森の家に向かった。
…そういえば…昔もこんなことがあったような…仕事が忙しかったから、買い物に出る時間もあまりなくて、それで出かけた時はあれもこれもになったんだっけ…それで…その時も…
ラヤーナが昔のことを思い出しかけたところで、森の入り口に到着し、アルバスが待っているのが分かった。
『アルバスぅ~~~~~~~~』
ラティがアルバスに向かって飛んで行ってしまい、アルバスの耳元に行って話をしている。きっとラヤーナが誘拐されたことなどを話しているのだろう。
ラヤーナとセヴェリがアルバスのいるところにたどり着くと、セヴェリがアルバスに声をかけた。…挨拶をしている、という方が正しいのかもしれない。
「セヴェリだ。ラヤーナの守護獣だな。」
『我はアルバス、お主は…護衛か…』
『ラティね~・アルバスに説明したのね~・セヴェリ大丈夫ね~』
「ラティ、ありがとう。」
セヴェリにはラヤーナが独り言を言っているように見えるのだろう。だが特にセヴェリは何も言って来ない。おそらく、昨晩裏のステータスカードを見て、ラヤーナが普通の人ではないことを知ったはずだ。
アルバスとは特ににらみ合いなどもなく、受け入れてもらえたようだ。
「アルバス、今日から護衛をしてもらうことになったの。サフェリア騎士団の団長をしている方よ。町の中だけではなく、これからは森の中でも狙われるかもしれないらしいの。あとでもう少し詳しく話をするわね。でもまず、森の家の結界のすぐ横に、この人の家を作りたいのだけれどいいかしら?転送用の小屋は森の家が気づかれないように森の家から少し離れているし、小さすぎるわ。それに、彼は結界の中には入れないから…」
『そうか…好きにするとよい…』
ラヤーナ達は森の家に行き、家の結界の横にラヤーナが主に土魔法を使い家を建てた。
「セヴェリさんは魔法は使わないんですか?」
「使うが…今は細かい魔法が得意ではない。」
「あぁ~そんな感じですね。セヴェリさん大きいから…」
「…体の大きさは関係ないんだが…まぁいい…ラヤーナ、すまないが家の中の方も魔法で準備をお願いできるか?」
「はい、もちろんです!これからお世話になりますし、それにさっき家を建てた時に建築魔法が1になったんです。」
『ラヤーナ凄いのなの~~~』
「うふふ~~。初の建築魔法~~~~~。」
ラヤーナは先ほど『1』になったばかりの建築魔法を使ってみることにした。
今は新しい魔法を初めて使ってみる時のコツも覚えて、火の魔法や水の魔法のような最初のころのような戸惑いはない。まだレベルは1のため、魔法を使ってみることくらいしかできないが、土の建造魔法とうまく混ぜ合わせ、家の中を整えていく。そのうち建築魔法のレベルが2となり、簡単な内装ならできるようになった。
「家全体と水回り、居間はこんなかんじでいかがでしょうか?あとは奥の寝室ね。」
『ラヤーナ~~~~・すごいのね~~~~・家の中もできたのね~・魔法もすぐに2になったのね~~~』
「これから先は少しずつレベルを上げる必要があるけれど、最近は新しい魔法はその日使えばその日のうちに2まではいくようになったのよ。」
『まぁそうだろう…ラヤーナは新しいものには目がないからな…』
『ラティ知ってる~~~~~・こうしんきおせい・って言うんだよね~』
「ラティ…こうしんきじゃなく、こうきしんよ。おせい、じゃなくて、おうせい、好奇心旺盛っていうのよ。」
『え~~~~・大体同じね~』
「もう…ラティったら…」
「ラヤーナ…そうか…頑張っているんだな…」
「え、なに?」
「いや。なんでもない。寝室もお願いしていいか?」
「えぇ、今魔法で部屋を作ってきてしまいますね。」
ラヤーナはできたばかりの家の寝室を魔法で整えに行った。
『あぁ…ラヤーナは頑張っている…』
「そうか…」
『お主もか…』
「ラティから聞いたんだな。」
『あぁ。だが…今もうすでに状況が良いとは言えんな。この森に時々不穏な気配の物が混じる。』
「思っている以上に向こうの動きが早い。」
『そうか…』
「とにかく今は…ラヤーナに多くの薬を作ってもらう必要がある。それで…薬を狙っている雑魚は大方排除できる。」
『我にはラヤーナを守ることしかできん。』
「それで十分だ。」
『お主は…』
「セヴェリさん、できました!寝室を見てもらえますか?」
セヴェリはアルバスの言いかけたがことが分かったのか、アルバスに一言「そうだ」と言って、寝室を見に向かった。
※ラヤーナはセヴェリ相手だと気づかないうちに、ラティのことも普通に話題にしています。