3-25 ラヤーナのカード
「二人とも、昨日はよく眠れたかのぉ?」
「はい。疲れていたみたいで…私はすぐに眠りました。」
「こちらもゆっくりさせていただいた。団員たちも皆ゆっくり休めたようだ。」
「そうか、そうか、それは良かったのぉ。嬢の店舗とその護衛に関してはメリルに任せておる。メリルの方で一通りの準備ができた後はセレスタン殿を中心に動いてもらうつもりじゃよ。薬を狙って店を直接襲ってくることも考えられるが、特にヘリットの家族を狙ってくる可能性の方が高いの。末の娘のユリアはまだ幼い。レスリーもよく母親のフランカを手伝っておるがまだ子供じゃ。二人にはギルドの保護具(安全装置のこと)を付けておるがそれだけでは不十分じゃろう。あそこは敷地全体にも防犯用の魔法を掛けてあるが、今回嬢を攫ったように、強い魔術師を抱え込んで襲ってくる可能性もある。副団長のセレスタン殿は本来第1騎士団であってもおかしくない騎士じゃが…」
「…本人の希望だ…王国の中枢として動くよりも市中での問題にあたりたいということだった…それで第5騎士団となった。」
「じゃがサフェリアの第5騎士団の任務はそれだけじゃないじゃろ。実際は第1騎士団の別部隊ではないのかの?」
「…すでに国王より聞いているのだろう?」
「まぁのぉ…。」
「昨晩、第1騎士団長のマルスランから連絡があった。『リエスのギルド長にはすべて伝えた』とあった。思っている以上に危険な状態ということか…」
「そういうことじゃよ…」
「え…あの…そんなに大変なことになっているのでしょうか…?団長さんがついていてくだされば大丈夫なんですよね…」
「ラヤーナ嬢、心配するな。サフェリアは全面的にリエスのサポートにまわった。我々は全力で嬢を守る。」
「………セヴェリ殿…お主たち…他人行儀じゃのぉ~~~~。これからしばらくは一緒に行動する必要があるじゃろうに…。」
「え、でも…」
「嬢、『団長』というとエルウィンもおるがのぉ…国王との会談では護衛にはエルウィンという話もあったんじゃよ。」
「えっ……ギルド長、そっちの団長は遠慮させていただきます。」
「まぁ、そうじゃろうて…嬢、セヴェリ殿のことは是非名前で呼ばれるとよいぞ。」
「…セヴェリさん?」
「………なんだ?」
「まぁそれでよいだろうよ。セヴェリ殿もじゃ。これからお主は嬢と一緒に動くことが多い。今の呼び方では他人行儀じゃし不自然なことも多かろう、それに儂と同じ呼び方では嬢がかわいそうではないのかの…儂は年寄りじゃからよいが。ほれ、嬢のことを名前で呼んでみぃ。」
「……………」
「ほれ、ほれ。」
「…ラヤーナ…」
「うわぁ~~~…」
「どうしたんじゃ、嬢。」
「いえ、団ちょ…セヴェリさんに名前を呼ばれると何というか…安心感が倍増します。」
「………」
「フォッ、フォッ、フォッ!それは…良いことじゃ。…それに嬢は気づいてはおらなんだがの…」
「私…何か気づいていないことがありますか?」
「特に問題は無いよ、嬢。やはりこれだけ厳つい護衛じゃから、名前で呼ばれる方が安心するんじゃろ。」
「あ、そうですね!そういうことだったのね!セヴェリさん、よろしくお願いします!」
「…あぁ、よろしくラヤーナ。」
「うふふ~~~~。」
「なんだ…」
「セヴェリさんに名前で呼ばれると、ものすごく安心します。強面効果ってすごいですね!」
「……………………………」
「フォッ、フォッ、フォッ!相変わらず嬢は面白いのぉ~」
「え、そうですか?」
「そうじゃよ。」
「…ギルド長…」
「おお、すまんすまん、話を進めてしまわんとな。」
「………」
「今後なんじゃが、しばらく嬢は森の家にこもる予定じゃろう。薬を作るには森の力が必要じゃからの。」
「え…ギルド長…」
「嬢、セヴェリ殿には話しても問題は無い。心配はいらんよ。そしてセヴェリ殿はここでの話を誰にも伝えない。セヴェリ殿は嬢の側におり守る、それだけじゃよ。」
『ラヤーナ~・ギルド長のいうこと大丈夫なの~・心配しないのなの~・セヴェリにはお話しておいた方がいいのなの~・薬のことも~・森の家も~』
ラティまでそういうのだ。二人がそう言っているのなら自分はこのことについて不安はない。
「分かりました。セヴェリさんにすべてお話していただいて大丈夫です。」
「そうか…。まず薬のことじゃが、嬢には森の力が必要になる。薬を森で作り、森の家のすぐ近くの場所からギルドに転送箱を使って転送をしているんじゃよ。」
「…ラヤーナは転送魔法も使えるんだな。」
「はい。」
「他に使える魔法は今どこまでだ?」
「…今…ですか?」
「そうだ…これから使える魔法はおそらく増えるだろう。薬を作れるということは現在の唯一の者であるからだ。」
「セヴェリさんは…」
ラヤーナはセヴェリの返答に困惑した。この人は自分が思っていた以上に何かを知っているのではないのか…。だが不思議と恐れや不安はない。あるのは安心感だ。ラヤーナはラティの方を見た。自分の魔法についてどこまで話していいのか知っておきたい。
「…私の魔法については…どこまで話していいのかしら…ギルド長にも…」
『この二人にはね~・ラヤーナのことは魔法もその他のことも全部話しても大丈夫なの~・ラヤーナの秘密も全部大丈夫なの~・女神様はギルドのおじいちゃんのことは絶対大丈夫って言ってたの~・おじいちゃんが大丈夫って言うセヴェリも大丈夫なの~~~』
「そう…それなら…わかりました。私の魔法についてですね…魔法は…そうですね…いろいろ…です。」
ラヤーナは自分が指にはめていた指輪を外し、そっとポケットに入れた。そしてカバンに入れていたギルドカードを取り出した。
「…こちらを見ていただけますか?」
二人に今のギルドカードを見せる。
名前:ラヤーナ・カーシム
レベル:3
スキルレベル:2
魔力レベル:2
年齢:16
種:人
職:薬師
職スキル:薬の作成(3)
魔法:水(3)、火(2)、風(2)、土(3)
「こちらは…この町で生活をしていくためのカードの表側になります。」
「表側?」
「はい。私の本当のステータスをお見せします。『ウェーリタス』。こちらを見てください。」
ラヤーナはそう言うと、二人にカードの裏、本来のステータスを見てもらった。
名前:ラヤーナ・カーシム
レベル:7
スキルレベル:8
魔力レベル:8
年齢:16
種:人
職:薬師
職スキル:薬草の育成(全)
薬の作成(10)
薬の開発(10)
薬の鑑定(9)
薬の完成(8)
薬草の鑑定(5)
魔法:水(8)、火(7)、風(7)、土(7)、空間(7)、時間(6)、治癒(5)、
手芸(5)、重力(3)、防音(1)、隠匿(1)、魔法防御(0)、身体強化(0)、眠り(0)、建築(0)、光(0)、闇(0)
称号:森神人
特殊スキル:精霊の本の記録
神水の作成
精霊の指輪の所有
守護獣との守りの絆
薬の恵み歌
女神の守り
番の首輪
「ほほぉ~~~~~。」
「…まだ使えないものがあるのか…」
「え、あの…驚かれないのですか?」
「驚いてほしかったのか?」
「いえ…セヴェリさんに…ギルド長にもですけれど…このステータスって普通じゃないですよね…だから見せることはできないって思っていました。」
「まぁ、普通じゃないじゃろう。とりあえずこれは他には見せられんな。」
「そうだろうな。」
「嬢は治癒魔法も使えるんじゃの。」
「はい。でも…私の治癒魔法はまだ上手くないんです。薬の方が圧倒的に効きが良くて、まだ練習中です。」
「そうか…嬢の場合は…そうじゃのぅ~~~~~、早めに魔法防御と身体強化は使えるようになっておいてほしいの。いくらセヴェリが守るとはいっても、敵はこれ以上じゃからのぉ~~~。」
「え!ギルド長は敵をご存じなんですか?」
「まぁ、儂は年寄りじゃからの。」
「ギルド長、魔法防御と身体強化の魔法は教えられる者はいないか?」
「お主が教えればよいじゃろ。」
「え、セヴェリさん、使えるんですか?」
「…俺が教えるのは…今は…」
「…む…そうか…そうじゃの…うーむ…儂はさすがに嬢に教える時間を取るまではできぬしのぉ…」
その時ラティがギルド長のところへ飛んで行った。耳元で何かを言っているようだ。
「おお、そうじゃった!守護獣殿にお願いしよう。」
「え…」
「防御と身体強化については後で守護獣殿にお願いすればよいじゃろ。光と闇は発顕しても実際に使えるようになるにはもっと時間がかかるが、この2つはこれからのことを考えるとできれば使えるようになっておいた方が良いものじゃ。今は何かわからんでもいい。ただ使えるようになる必要がある魔法だと覚えておくんじゃぞ。」
「…わかりませんが…わかりました…」
「嬢は素直じゃのぉ~~~」
「とにかくこれからどのように嬢を守っていくのか、セヴェリ殿にもう少し詳しく話を聞いてもらおう。」