3-20 隠れ家
短めです
「ここ…どこかしら…遠いところ?」
『ここね~・多分町の近くなのね~・精霊の森とは反対側の町の外くらいだと思うのね~』
「ラティ、わかるの?」
『ラティは精霊の森がどこにあるのかはわかるのね~・だからここが森からどれくらい離れているかもわかるのね~』
「なるほど…そうなのね。…ということは、町のすぐそば、ということかしら。私はまだ町の向こう側へは行ったことがないからこの辺りがどういう地形なのかはわからないけれど………、ねぇラティ。」
『ラヤーナ?』
「ラティだったら、この部屋から出られるんじゃない?」
『え…だめなのね~・ラティはラヤーナと一緒にいるのなのね~・ラヤーナを守るのね~』
「えぇ、そうなんだけれど、魔法は使えないし、空間魔法もここに来る前にかけたものは魔法が残っているけれど、新しくかけようとするものはダメなのよ。部屋の中も今、二人で確認したでしょ?鍵も外からかけられてしまったし、私が抜け出ることができそうな出入り口は窓も含めないのよ。」
『そね~・ないのね~』
「でもね、ラティ、あそこを見て、しまっている窓の上の方に小さな穴があるでしょ?」
ラヤーナは窓の上の天井付近を指さしながらラティに話し続ける。
「あれは多分換気口…いつも見ているものとはちょっと形が違うけれど、空気を入れ替えるための小さな穴よね。この町の家にはああいう穴が部屋に必ず2,3つあるでしょ。あそこ、ラティなら通れるんじゃないかしら?」
『あ~・あの穴なのね!・わかったなの~・行ってみるのなのね~』
ラティはパタパタとその穴に向かって飛び、穴の付近を確認するとラヤーナのもとに戻ってきた。
『あの穴ね~・ラティ通れると思うのね~・でも一回外出たら中に入れないと思うのね~』
「…出れるけど、入れないの?」
『そなの~・多分ね~・部屋の中に虫が入れないようするためね~・ラヤーナのお店の空気の穴には網をつかっていたのね~・ここの穴は虫が入れないようする魔道具が使ってあるのね~・そこの魔道具のところだけは魔法が掛かるようになっているのね~』
「あぁ…そういう魔道具を使えるようにするために、町にある家の空気穴と形が違うのね…でも…そう…出たら入れない…でもラティ、通り抜けることはできそうなの?」
『できると思うのね~・あそこは鍵はなかったのね~』
「…そう…それなら…ラティ、ここを抜け出してギルド長のところへ行ってくれる?」
『だめね~・ラヤーナ守るのラティなのね~・ラヤーナ一人危ないのね~』
「ラティ、あの人たち、私には危害を加えないって言っていたでしょ。だから私がここからどこかに連れていかれる前に、ギルド長に助けてもらうようにお願いしてきて。私は今魔法が使えない上にここから出られないわ。頼りになるのはラティだけなの。いつ依頼人がここに来るのかもわからないわ。だから急いで行ってきて。」
『でも…ラヤーナ危ないのなの~~~~』
「ラティ、私達ここに二人でいても、今は何もできそうにないの。外から助けてもらわないと今の私ではどうすることもできない。だからラティ、お願い、行ってきて!!!」
『う~~~~~~~~~~~・………わかったなの!!!ラティ・一番早く行ってくるの~~~~~・ギルドのおじいちゃんに助けてもらうのね!!!!!!』
「ラティ、お願いね。」
ラティが天井近くの穴から無事に家の外に出たことが分かると、ラヤーナはほっと一息ついた。高くなった自分の魔力でも吸収してしまうことができるほどの強い魔法を掛けられる魔術師がいるのだ。ラティのことを気付かれてしまうかもしれないし、気づかれたらラティも危険にさらされてしまう。だからどうしてもラティは逃がしたかった。それにギルド長に助けを要請するのが一番確実なはずだ。
「…この部屋…どんな風に魔力吸収の魔法を掛けたのかしら…ちょっと気になるわよね…もう少しこの部屋のことを調べてみようかしら……」
おびえて待っていても仕方がない。何となくだが…ラティは必ずギルド長を連れてきてくれてここから助けてもらえると感じている…でも何が起こるかわからない。これからも、もしかしたらこういうことが出てくるのかもしれないし、自分の身は自分で守る方法も考えておきたい。
部屋を細かく探索していると、部屋の隅に魔方陣が描かれているのを見つけた。非常に薄い色でパッと見はわからなかったが、よく見るとその魔方陣からこの部屋全体へ魔力吸収の魔力が張り巡らされているのが分かる。
「…こういう風に魔法を掛けるのね…他にもこういうものが書いてある場所ってこの部屋にあるのかしら…」
ラヤーナはさらに部屋の中を丁寧に探してみた。
「…これは…もしかしたらあの目とつながっていた魔方陣?」
部屋の別の隅には使い終わった後のような魔方陣もあった。魔法の残滓を少しだけ感じることができたが、これは自分とラティをここに連れてくるための魔方陣で「目」とつながっていたものだろう。魔方陣についてはラヤーナの店に置いてあったガラクタの中に魔法書以外にも本があり、その本の中に魔方陣についての解説があるものがあった。その本の中では、魔方陣は魔法を補助するものであり、強い魔法を掛ける必要がある時に、さらに強く魔法を掛けるために有効であるとあった。ただ魔方陣を描いておく準備が必要だし、その魔方陣についても、本には簡単な物しか記載されていなかった。それでも描くには手間がかかるため、実際に使ってみたことはないし、魔力が高い場合はそもそも魔方陣を使う必要があるのかもわからない。だが、ここまで緻密に書かれている魔方陣であれば、今の魔力の魔法をさらに強くさせる効果はありそうだ。
「うーん…これ、触るとまずいわね…この魔方陣、書き写したいけれど…目で見ただけで覚えるのはちょっと無理だし…魔法を使えば魔力を吸い取られて…」
その時、ラヤーナの腰辺り…例の、あの穴のところがぽぉーっと暖かくなった。あら、と思い、裾をめくって穴にそっと指を入れると、魔法帳が指にくっつき、穴から出てきた。
「…あなたが…手伝ってくれるの?」
指にくっついている魔法帳をそっと持ち直すと、魔法帳はぺらぺらと空いているページを自分で開き、そこに文字が浮かび上がった。
『このペンを使って自分で書き写すのよ。魔法を使わないで書き写せば大丈夫。魔方陣を描くときは私もお手伝いしてあげる♡魔力が外に出ないで私の中とあなたの中で魔力が廻るだけなら魔力は吸収されないわよ。じゃ、頑張ってね♡♡♡♡♡♡』
「…………………………………じゃ、頑張ってみますか…」
ラヤーナは魔方陣を観察しながらゆっくりと書き写していった。線は一本一本丁寧に書き写す。魔法は使わず、ひたすら見て書き写すだけだ。
かなり時間はかかったがようやく魔方陣を書き写した。するとその魔方陣の下にまた文字が出てきた。
『ちゃんと書けているわよ。頑張ったわね♡♡♡♡♡』
「………何とか書き写せたみたいね。」
もう1つの魔方陣も同じように何とか書き写した。
『さっきよりも綺麗に書けているわよ。ご・う・か・く♡』
「……合格をもらえるくらいの魔方陣を描けたってことよね…」
ラヤーナが魔法帳を閉じ、そっと下着の腰の穴に入れたところで外が急に騒がしくなった。