3-19 ハプニング発生
「魔道具の修理、やってみれそうだわ。」
『そうね…・修理できると思うのね…』
「ラティ、どうしたの?」
『う~ん…・なんかね~…・変なのね~~~~』
「変…?」
『そなの~~~・なんかね~…・見られてるような気がするのなの…』
「見られている?」
『なんかね~・ぞわぞわするのね~~~~』
「…ラティがさっきからそわそわしているのは、そのせい?」
『そなの~・なんか変なのね~』
「…見られているって…誰かが…後をつけているのかしら…急いで人がたくさんいるパレードの方に戻ったほうがいいわね。建物の裏かどこかに入って、転移魔法で直接店に戻ったほうが…」
『待ってね~・そいうのと違うのね~…・目だけなのね~』
「…目…だけ?」
『そなの~・だから変なのなの~~~~・何かあるのなのね~・ラヤーナの持っているものの中にあると思うのなの~』
「…ラティ…さっきアマートさんからもらった魔道具を確認してみましょう…ラティが変だと感じるようになったのは、その道具をいただいてからよね…」
ラヤーナは先ほどアマートからもらった魔道具を取り出してみる。…袋から取り出す際、何かが…些細なほんの小さなものがするりと動いた感覚がする。
「ラティ…何かしら…今何かが動いたような気がするわ…」
『この道具はなにもないのね~・大丈夫ね~・でも変なのね~・さっきから感じるの・多分この道具からだったのね~』
「ラティ、これを取り出すときに何かが動いたのよ。…ラティが感じている変なものは、もしかしたらその何か、ではないかしら…」
『動いたもの探すのね~・まだ見てるのね~・ラヤーナの方からなのね~』
「わたし?どういうことなのかしら…何か変なもので付いて…さっきは取り出すときにするって動いて…」
『ラヤーナの服に移ってるのかもしれないのなの~!・ラティさがしてみるの!!!』
ラティがパタパタとラヤーナの周りと飛び回り、服を確認し始めた。だが…変だ…時々服越しではあるが、何か小さな魔力の塊が、ラティの視線をかわすように、するりと動いている気がする。
「ラティ…何か動いているわ。私の服に何かついている…」
『ラティが見ようとすると逃げてるのね~』
「ラティ…もう一度「何か」を追いかけてみてくれる?今は背中辺りにあるのよね。」
『そなの~。ラティから見えないように逃げるの~~~!』
「ラティ、ちょうど私から動いてきたものが見えるようにそれを追いかけてみてくれる?見えるかどうかわからないけれど、もしかしたら何が動いているのかが分かるかもしれないわ。」
『わかったのなの~・ラティ・追いかけてみるのね~』
ラティがラヤーナの指示に合わせて「何か」を追いかけるようにしてラヤーナの周りを再び飛び始める。何が動いているのか、できるだけラヤーナが見つけやすいように追いかけるようにした。何度か追いかけるがラヤーナは思うように見つけることができない。それでもラティに頑張ってもらい、追いかけ続けると、何かが動いてくるのがラヤーナにもわかるようになった。ラティにゆっくり追いかけてもらうようにし、その何かが動いてくるのをラヤーナが注視していると、ようやく見つけることができた。
「…線?…これ何かしら…糸くずのような…」
『糸なの?』
「ラティ、これ、捕まえてみるわ。これからは小さいけれど魔力を感じるもの。」
『え・ラヤーナ・待ってなの・手でさわらないほうが…・あ~~~~~~~~~っ!』
ラヤーナが糸くずの様な物の端を摘まんで持ち上げると、その糸の様な物がゆっくりと動き、糸が2つにぱっくりと開き目が現れた。
「え…これ…目?」
開いた目から淡い光が漏れ始めた。
『あ~~~~・まずいのなの~~~~!!ラヤーナ~~~・魔法のカバンの中身・隠したほうがいいのなの~~~~~~!!!』
「え~~~ちょっと待ってラティ…隠すって…どこかポケットか何か…あ、今朝穴が開いていたところがあったわね…でも…場所が…あ~~~~!!!体が…吸い込まれて…!!!…と、とりあえず下着の穴を隠し場所にしてかばんの中身を……」
ラティがラヤーナの髪につかまったと同時に、ラヤーナとラティは淡い光に包まれて、目の中に吸い込まれていった。
「…ここ…どこかしら…」
「ようこそ、薬屋のお嬢さん。ここは我々の隠れ家だよ。」
「…!」
ラヤーナが声のしたほうを振り返ると、そこには二人の男性が立っていた。
「…あなた方は…誰なんですか…」
「はじめましてお嬢さん。我々はあるところからお嬢さんをとらえるように依頼されたんだよ。悪く思わないでくれよな。」
「……」
『ラヤーナ…・この人たちサフェリアの人たちね~』
「…どうして私を捕らえたの…」
「あんたに薬を作らせるらしいよ。」
「……薬がほしいのね……」
「そういうことみたいだな。」
「…私を…どうするつもり…」
「依頼人がしばらくしたらお嬢さんを引き取りに来るらしいからな。それまでは俺たちはここで見張りながら世話をするんだよ。お嬢さんにはここでそれまで過ごしてもらう。」
「…ここで…?」
「ああ、そうだよ。この家は外からカギがかけられるようになっている。窓も開けられないようにしているからここから出ることは無理だな。もちろん魔法も使えないようしてある。逃げようなんて思うなよ。」
『ラヤーナ~~~~~・魔法は使えないのね~~~・この家ね~~・魔力吸収の強い魔法がかかってるのね~~~~』
「…!…魔法が使えない…?」
「そうだ。依頼のあったお偉いさんは忙しい人みたいでな、すぐに来れないらしい。まぁ、お嬢さんには危害を加えないことは約束しているから、身の安全は保障するさ。お嬢さんに何かあると俺たちみんなやばいからな。」
「……」
「あぁ、それからな、お嬢さんのカバンはこっちで預からせてもらった。中身を確認させてもらったが…魔道具のガラクタしか入ってないんだな。まぁ、中身を盗ったら依頼主にしめられるから盗るつもりは一応ないが、変なものを持ち込まれても困るからな。」
「………」
『ラヤーナ…・魔道具以外のものはだいじょうぶなのの~?』
ラヤーナはこっそりとラティに大丈夫と合図を送った。
自分の持ち物を隠した穴にはちゃんとものが入っているのがわかる。空間魔法に関しては、魔力吸収ということはないのだろうか?とにかく誘拐犯にも気づかれていないようだ。隠したところが下着の腰あたりに開いていた小さな穴、というのがちょっとあれだが…さすがに女性の下着を調べることもないのだろう。魔道具は今回のことがあり、怖くて自分の私物と一緒に穴に隠すことはできなかった。お金もかばんに入ったままで、おそらく誘拐犯が今は持っているのだろう。ラヤーナがこっそり隠すことができたものは、魔法帳と何かあったとき用に持ち歩いていたいくつかの塗り薬と飲み薬だ。
「まぁ、こっちはあんたを引き渡しちまえば仕事は終わる。その間は変な真似をしようと思うなよ。」
「………」
「まぁ、そうお嬢さんを怖がらせるな。こんな小娘、何もできないだろうよ。」
「…そんなことわからねぇだろ。そもそもこいつ、薬が作れるっていうじゃねぇか。そしたらなんか魔法も使えるんじゃねぇのか。」
「だからここには強力な魔力吸収がかけられてるんだろ。俺たちの魔法だって使えないんだ。依頼主が騎士団のトップ級じゃねぇとこの魔法は破れないって言ってただろ。逆に俺たちが下手に動いて失敗する方がまずい。とにかくこの娘を見張っていればいいんだ。わかったな。」
「…あぁ…」
どうやらラヤーナ達はここに閉じ込められてしまったようだ。感覚でだが、転移魔法も使えない気がする。それに下手に魔法を使うと、おそらく自分の魔力が取られてしまう気もする。どうにか逃げる方法を考えるにしても、この部屋の中を観察する必要がありそうだ。
「…とにかく、あんた、変な真似はするんじゃないぞ。わかったな。」
「………」
「怖くて声も出ないようだな。お嬢さん、さっきも言ったが俺たちはお嬢さんに危害を加えるつもりはない。だからおとなしくここで待っているんだな。」
二人の男はそう言って部屋から出ていった。部屋の外からカギをかけられたのが分かる。とりあえずこの部屋の中は自由に動いてよさそうだ。水場も簡単なものがあり、トイレ…こちらの世界では装物所と言っているものもある。どうやったらここから出られるのか…このままだと薬を作るためだけに捉えられてしまう可能性もある。強い魔力吸収をかけられる魔術師もいるようだし油断はできない。まずは今の状況を正確に把握することからだ。ラヤーナはラティと部屋の探索を始めることにした。