3-17 魔道具店
今日はお祭り最終日ということもあって、人が多く、何とか魔道具の出店通りにたどり着いた。
「今日は本当に凄い人ね…」
『人がいっぱいなのね~~~~~』
「…ここよね…」
『そうだと思うのね…』
ラヤーナは店に置いてある魔道具をいくつかじっくりと見ている。古いものもあり、ラティにわかる範囲で解説をしてもらっているところだ。
だが…この間と店主が違う…この間は祭りの間にまた来れば魔道具のことを詳しく教えてくれると言っていたのだが、その人とは別の人が店番をしているようだ。
「…あの…すみません。一昨日こちらのお店で対応していただいた方は、今日はいらっしゃらないのでしょうか?」
「一昨日?あぁ、アマートのことか。あいつはなぁ、昨日ぎっくり腰をやっちまってね。急遽、俺が店番をすることになったんだよ。」
「そうなんですね…」
「あいつに何か用だったのか?」
「えぇ…魔道具のことについて説明していただけるとおっしゃっていたので、今日また伺ったんですけれど、いらっしゃらないのであれば仕方がないですよね。」
「そういうことか。そうだな…あいつは宿で休んでるんだよ。俺たちは明日この町を出てサフェリアへ戻るんだ。」
「明日…ですか…」
「魔道具で困ってるのか?」
「困っている、というわけではないのですが、仕組みを知りたいと思っているんです。今持っている魔道具は古いものも多くて、仕組みが分かれば修理をして使えるかなと思ったんです。その…一昨日の方は…」
「アマートか?」
「はい。そのアマートさんは古い魔道具についてもいろいろとご存知の様だったので、お祭りの間に店に伺えば教えていただけるということだったんです。」
「まぁ、あいつは魔道具オタクだからな。」
「…オタク…」
「あぁ、あんた知らないのか?サフェリアでは自分の好きな物にはまっちまって厄介な奴のことをそう呼ぶんだよ。」
「…そうですか…」
「まぁ、魔道具に関しては、あいつは国でも相当なオタクだからな。古い魔道具も修理してかなりの物を使えるようにしたしな。」
「…ここに売っているものも、アマートさんが修理されたんですか?」
「古いものは、半分以上はあいつが修理したものだよ。あとは工房で修理工がいるからな。そいつらで直すのさ。新しいものも工房で作ったやつだよ。」
「そうなんですね…。」
「サフェリアの魔道具はアウロレリアの道具とはちょっと違うからな。あんたもそう思って道具を見てたんだろ?」
「えぇ。アウロレリアの魔道具は使いやすく洗練されていて、それはそれで良いんですけれど、この魔道具は道具らしいというか、修理をして使ってみたくなる面白い仕組みがあるというか…」
「あんた、よく道具のことわかってんじゃねぇか。そう…そんなにサフェリアの道具に興味を持ってもらえてるんなら…そうだな…この店は後、半ルラルで閉めて、その後片づけて宿に戻る予定だ。そこにあんたを連れていくよ。アマートとそこで話したらどうだ?俺はパレードを見てからまた宿に戻るつもりだから、その間、アマートと適当に話したらいい。」
「え、いいんですか?」
「あぁ、あんたもアマートほどじゃないが、ちょっとオタクっぽいしな。サフェリアの道具が良いと言ってくれたのも気に入った。」
「ありがとうございます。是非そうさせてください。」
「じゃ、半ルラルしたらこの店に戻ってきてくれ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
ラヤーナは店を出て、半ルラルを別の魔道具店をまわって過ごすことにした。
「ラティ、良かったわ。魔道具の話を聞けることになって。アマートさん、よね、修理のことも教えてもらえそうね。」
『そうなのね…』
「どうしたの、ラティ?」
『うーん…・お店番の人…・普通の人だったから大丈夫と思うのね~…・う~ん…』
「ラティ?」
『悪意は感じなかったのね~・アマートさんの話も本当ね~・あの人嘘言ってないのね~』
「ラティがそういうのなら安心ね。」
『う~ん…』
「ラティ、心配なことでもあるの?」
『…う~ん…なんかなのね…』
「何か…あるの?」
『なんかなのなの…』
「…ラティ…」
『あの人もアマートさんも・嘘はないのね~・でも気になるのね~・ラヤーナ気を付けるのね~・何かあるかもなのなの~~~~』
「何かある…って言うことは、何かトラブルが起きるかもしれないの?」
『そんな感じなのね~』
「何かしら?…精霊の感みたいなものなのかしら?」
『ラティもね・ちゃんとわかるのと違うのね~・でもなのね~・何か起こりそうなのね~』
「そう…わかったわ。ラティがそう言うのなら、気を付けていかないとね。」
『ラヤーナは行きたいのなの~?』
「えぇ。森の家にあるあの大量の魔道具、あともう少しでわかりそうな仕組みが分からないのよ。薬を作るのに使えるかもしれない魔道具もあるかもしれないじゃない。」
『ラヤーナのスキルですぐ薬は作れるのね~』
「えぇ。それは今の話よね。でもこれから先のことを考えると、魔道具も含めて、できそうなことや可能性がありそうだと思ったことは、少しずつ進めておいた方がよいと思うのよ。この魔道具の修理もね。魔道具の知識は必ず必要になるし、役に立つと思うわ。これは…私の勘ね!」
『わかったなの~・ラヤーナが必要と思うのね~・それは必要なことなのね~・ラティはラヤーナを守るのなの~』
「ありがとう、ラティ。」
ラヤーナはラティと話をしながら別の魔道具の出店を見てまわった。
いくつか面白い道具があり、店主から使い方を聞いてみる。
「これはあらかじめ計りたい重さを決めておくと、同じ重さで材料を分けておくことができる道具です。菓子店などの工房で使用されることが多いですね。」
「へぇ~そうなんですね…こちらでは見たことがなかったです。」
「あぁ、それはこの国(ヴェルネリア王国)は物づくりに関してのスキル持ちが多いからですよ。サフェリアは戦闘力系のスキル持ちが多く、物づくりに関しては魔道具で補助が必要な場合が多いからですね。」
「そうだったんですね…」
「お嬢さんはご存じなかったんですか?」
「えぇ…田舎者で…この町から出たことがなかったんです。それに普段は森に引きこもっていまして…」
「あぁ、ヴェルネリアは森好きも多いと聞きますよ。ここの国のエルフは森に引きこもるのが好きなようですし、人や獣人の一部も森の中を好んでいてわざわざそこに村を作って生活をしているらしいですしね。」
「…あぁ…そうですね。そう、そんな感じで、森の中が好きなんです。」
「それじゃ、祭りの時に町に出てきていろいろ見聞きするは楽しいでしょう?町以外のいろんなことを知ることができるんじゃないですか。」
「えぇ、そうなんです。今も…魔道具のことを教えていただきましたし、国によってスキルの違いが多いというのも知らなかったことです。いろいろ教えていただいてありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそうちの国の魔道具を購入していただいてありがとうございます。魔道具はどうしてもアウロレリアの道具の方が人気が高くて、うちのサフェリアの道具はアウロレリアの物よりひと手間掛かるものが多いんで、なかなか他国では購入希望が多くないんですよ。」
「そうなんですか。私はサフェリアの魔道具も良いと思います。先ほども違うお店を見てきましたし、そこでアマートさん…でしたか、あとでお話を伺えることになっています。」
「あぁ、アマートの店にも行ったんですね。あいつはオタクですからね~。扱っているものは古いものの方が多かったでしょう?」
「えぇ。古いものの仕組みが面白そうで…アマートさんからちょっといろいろ教えていただければと思っています。」
「はっはっはっ!お嬢さんも変わっていますね。アマートとは話が合うかもしれませんね。うちの魔道具についても面白そうに聞いていましたし、ご自分でも魔道具を作られるんですか?」
「いえ…そこまでは…。ですが、どういう仕組みなのかの興味はあります。こちらのお店の魔道具もいろいろと面白くて、実際に使ってみるのが楽しみです。」
「そうですが、そう言っていただけるとこちらもお売りできてよかったです。もしこのような道具がまたご入用でしたらサフェリア王国にいらした際は是非店の方にいらしてください。」
「はい。…と言っても、まだ国からというよりこの町からでさえ出たことがないので、いつになるかはわかりませんが、いつかはお店に伺いたいと思います。」
「えぇ。のんびりとお待ちしていますよ。それにいらっしゃれなくても、また来年の祭りの時にこの町にお邪魔しますよ。良い薬も手に入りましたし、来年もまた来ようと思います。」
「そうですか。是非いらしてください。その時はまたこちらのお店に伺います。」
ラヤーナはこの後2つの魔道具屋で道具を購入し、約束していたアマートの店に戻ることにした。