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ペットな彼女と異世界へ  作者: らい
第一章 始まりの町
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1-8 シルクの頼み事

 俺たちは街に帰ってからすぐにギルドに入っていった。

 シルクたちはシルクたちで報告やなんやらの用事があると思ったので、俺はさっさと薬草の納品をしようと思って歩き出したのだが。

 なぜだろう、昨日はついつい耳を抑えたくなるほどだった喧喧囂囂とした様子が無い、寧ろ静かすぎるくらいだ。

 周りを見回しても冒険者がいないわけではない、ただ皆一様に一点を見つめていた。

 そう、全員が俺たちを見ていたのだ、正確に言えば俺の後ろにいるシルクを。


 「おい、シルクが帰ってきたぞ」

 「ほんとだ、シルク様ぁ」

 「アリサちゃんとミルフィちゃんも一緒だ」


 なんだなんだ!?

 さっきまでは静かだったにの、急に騒ぎ出しやがって!?


 「さすがシルクだぜ!たった十日で、しかもほぼ無傷で帰ってきやがった!」

 「シルク様ー!握手してくださいー」

 「おおアリサさん!一度でいいからその凛々しい表情のまま蹴られたい!」

 「ミルフィさん、今日もお美しい!」


 なんかすごいことになっているぞ!

 途中ヤバイ声も聞こえたが……聞かなかったことにしよう。


 「な、なあ、いったいこれはどういうことだ?」


 こっそりアリサちゃんに聞いてみる。


 「あれ、言ってなかったっけ?シルクはプラチナランクの冒険者でこの街では最強の男なのよ? 私とミルフィもこの国では女性で二人しかいないゴールドランクの冒険者なんだから」

 「聞いてねえよ! ってかなんだよプラチナランクって……。名前からして凄いってのは分かるんだがどれくらい凄いんだよ」

 「あーそっか、あんた何にも知らないんだもんね」

 「うっせぇ…」 


 どうやらギルドのランクはビギナー、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと上がっていき、

シルクはプラチナ、アリサちゃんとミルフィちゃんはゴールドランクだそうだ。 

 と言うことは、ギルドランクで測れる中ではシルクたちは最強であると……

 え、なに?シルクたちってそんなにすごいやつらだったのかよ。

 確かに魔獣を退治した時の剣捌きはすごいと思ったがここまでとは……

 もしかして英雄とか呼ばれちゃったりしてたり?

 そんな人たちとお近づきできたの?

 そんなことを考えていると、シルクは周りの人に軽く手を振りながら受付嬢のほうに歩いて行った。


 「すいません、ギルマスに報告をしたいのですが」

 「は、はい! 少々お待ちください!」


 シルクの言葉を聞くと受付嬢は大慌てで奥の部屋へ走っていった。


 「あはは、すいません、なんか大騒ぎになってしまって」

 「いやあ、シルクがまさかそんなに凄いやつだとは思わなかったよ」

 「僕なんてまだまだですよ。あ、あと冬輝さんもギルマスのところに来てもらっていいですか? 遅かれ早かれギルマスから声がかかると思いますが、早くギルマスに紹介したいので」


 なんだろう、俺たちが異世界人だってことは隠すと言っていたし、魔獣に襲われたことの報告でもしなければいけないのだろうか。

 それとも装備を持たずに森に入っていったことでお叱りでも受けるのだろうか……

 まあ無鉄砲だと言われても仕方ないことではあるし、それくらいのことは覚悟しておこう。


 「お待たせしました、どうぞお入りください!」


 息を上げた受付嬢が戻ってきてカウンターの入り口を開けた。

 シルクたちと一緒に受付嬢についていくと奥にあったのはなんとエレベーターだった。

 この世界にもエレベーターはあるのか、電気で動いているような感じではないし魔法で動いているのだろうか。

 エレベーターで四階に上がると一本の通路と四つの部屋につながる扉があった。

 剣のマークの付いた扉の前に受付嬢が立つと、失礼しますと言いノックをして扉を開ける。

 中には身長180cmはありそうな顔に大きな傷跡が残る屈強な男が皮のソファーに座っていた。

 おそらく彼が冒険者ギルドのマスターなのだろう。


 「おうシルクか、ダンジョン攻略の予定は二十日間だったはずだが、もう終わったのか?」


 男が座るように促すと正面にあるソファーにシルク、アリサちゃん、ミルフィちゃんが座った。

 俺達は受付嬢が用意してくれた椅子に座って話を聞くことになった。

 シャル達が騒ぎ出さないか心配だったが、受付嬢が持ってきた茶菓子を渡すと食べるのに集中して静かにしてくれている。


 「それが、すこし不可解なことがおきまして。ダンジョンに入ったときは魔獣が生息していたのですが、魔獣が忽然といなくなったのです」

 「魔獣が? それで魔人はいたのか?」

 「いえ、魔獣がいなくなったのですぐに最奥まで進んだのですが、何もありませんでした」

 「何も……か、ということは元からそのダンジョンには魔人はいなかったのか」

 「かもしれません、ただ、急に魔獣がいなくなったことを考えると、魔人はいたが、僕たちがダンジョン捜索中にいなくなった、という可能性も」

 「なるほど、その線はありそうだ。改めて調査をする必要があるかもしれないな」


 なんだろう、まったく話についていけない。

 魔人?この世界にはそんなものもいるのか。

 あ、でも確か女神様が魔王もいた(過去形)って言ってたし不思議ではないか。


 「まあその辺は王都にも報告しに行くことになりますし、詳しい話は王都に行ってからでも良いでしょう。それより今回はこちらの冬輝さんをギルマスに紹介したかったのです」

 「なんだこいつは? 冒険者ギルドマスターの俺に言ってきたってことは冒険者志望か? 見たところひ弱そうなやつにしか見えないが」


 ギルマスは立ち上がって俺の前に立つと睨むようにして俺を観察する。

 そりゃあんた達に比べたら、平和な世界でのうのうと暮らしていた俺はひ弱だろうよ。

 と言うか良い加減睨むのやめてもらえないかな……

 正直言って怖いです。


 「違います違います、冬輝さんは冒険者になる予定は無いそうです。ただ、冬輝さんは治療スキルを持っていらっしゃるのですよ。そして丁度この街のギルド加入試験を受けていた最中でして」

 「何!? それは本当か! 試験を受けていたと言うことはステータスプレートは作っているんだろうな、今持っているか?」

 「は、はい。すぐにお渡しする予定でしたので……。こちらです」

 

 ギルマスが受付嬢に確認すると、出来上がっていたステータスプレートを取り出してギルマスに渡す。


 「ほ、本当だ、しかも生産スキルと解析スキルまで、しかもレベルが3以上だ」

 「そうなんですよ、本来であればすぐにでも商業部門のギルマスであるテリエーナさんに紹介するべきですが、どうやら不在のようでしたので先にご紹介しました」

 「そうだったのか……俺はこの街の冒険者部門のギルマスをやっているガトリンだ、さっきは睨んですまなかったな、これでビビるようなやつは冒険者としてやっていけないからこんな感じで普段から選別していたんだ」

 「ああ、俺は神室 冬輝、正直言って怖かったよ。まあ冒険者になるつもりは無いから安心してくれ」


 自己紹介と握手をする。

 結構手が痛かった。


 「いまこの街には常駐している治療師ヒーラーはいませんよね? 冬輝さんとはギルド登録の試験を受けているときにお会いしたのですが、治療スキルを持っているみたいで、しかもお仕事を探しているようでしたので常駐治療師になってもらえるのではと思ってきてもらったんです」

 「なるほどな、この街を預かる者の一人としてはありがたい話だ、それに生産スキルを持っていると言うことは……」

 「はい、冒険者ギルドが抱えているポーション不足問題も解決するかもしれません」


 治療師、要は前の世界でいうところの医者みたいなものだろうか。

 それにポーション不足とくれば、シルクが俺にお願いしかった内容は、治療師として活動しつつポーションを作ってギルドに卸して欲しいと言ったところか。

 棚ぼた的な感じではあるが、俺がやれそうだと考えていたことばかりじゃ無いか。

 

 「どうでしょう冬輝さん、このお願い聞いていただけないでしょうか」

 「ギルマスとして俺からも頼むぜ! いまは王都から定期的にくる治療師しかいないんだ。これで街の住人が安心して暮らせるなら俺たち冒険者ギルドも協力は惜しまねえぜ」


 実際俺もそう言った仕事に着くことを考えていた訳だが、いざ面と向かって人に頼まれるとはいやりますとは言いづらいな。

 なんせ俺はまだ学生だったのだ、しかも人相手の医者ではなく動物相手の獣医を目指していた。

 生き物を助けると言った点では同じだが、この世界の常識すら知らない状態で引き受けて、シルク達の期待に応えられるか不安でしかない。


 「冬輝様、きっとこれは冬輝様にしかできないことです、私も全力でサポートしますので頑張りましょう」


 リコが手を握って後押ししてくれた。

 そうだよな、俺にしかできないってのは言い過ぎだと思うが、今の俺にできるのはこれしかない。

 弱気になっていても始まらないし、ここは男らしく引き受けるとしますか!


 「分かった、その頼み引き受けるよ。ただ俺もまだまだ未熟者だ、いろいろ助けてもらえると嬉しい」

 「ありがとうございます! 何かあれば僕に聞いてくださいね」

 「薬とかの素材は冒険者たちから集めさせる。依頼料は格安にしておくぜ!」


 そんなこんなで俺は異世界に来ても医者を、いや、この世界でいうところの治療師を目指すことになったのだった。 


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