1-7 現状確認
森の中での一件があった後、俺たちは森をでてから草原に着座して話すことにした。
何から話そうかと考えていたらシルクから口を開いて話し始めてくれた。
「では、先ずは僕たちから自己紹介をしますね。僕はシルク、冒険者をやっているものです。ダンジョンの攻略をして帰ってくる最中に悲鳴が聞こえたので駆け付けました。一応このパーティのリーダーをしています」
シルクと名乗ったのは、銀髪のさわやかイケメンって感じの見た目をした男。
装備が軽装なのは双剣の機動力を失わないためか。
さっきの戦闘を思い返してもかなりの速度で攻撃をしていたので、速度や手数を重視した戦闘スタイルなのだろう。
「アタシはアリサ、シルクのパーティメンバーよ」
こっちは赤い髪でポニーテールの気が強そうな女の子、たぶんツンデレで間違いない。
装備は片手剣に盾を持っていて、いかにも冒険者って風貌だ。
「私はミルフィです。見た目通り魔法使いをやっています」
薄緑色の髪をしたお淑やかそうな女の子だ。
耳が少し長いがこれがエルフという奴だろうか?
スタイルが良くてとても美人だ、日本だったら一躍有名なトップモデルになっていても不思議じゃない。
三人とも見た感じ若い。
俺よりも若そうだし18歳くらいだろうか?
「じゃあ次は俺たちだな。俺は神室 冬輝、ギルド登録の試験として薬草を取りに来ていたんだ。それでこっちが」
リコのほうに目線を向ける
「私はリコと申します! 冬輝様のペットです!」
……ん?ちょっとまって何言ってるのかなこの子は?
「うちもー」
「主のペットですー」
ちょっとまてぇぇぇ! 絶対この説明は誤解を招く! ってか誤解しか招かない!
君たち姿変わっていることに気が付いてますか!?
その姿でペットなんて言ったら確実に変態だと思われるじゃんか!
ほら、シルクたちみんな固まっちゃってるよ!
あ、アリサちゃんの顔が赤くなってる、これ絶対怒られるやつだよ。
「あっ、あんた! 女の子になって事言わせてるのよ!!」
「誤解だ! 俺はペットだなんて思っていない!」
「え? 私は冬輝様のペットですよね?」
「ちょっとリコさんは黙っていましょうか!」
俺はリコの口を押えた、これ以上はダメだ、話が進まない。
せっかく異世界の知り合いができると思ったのに第一印象最悪じゃないですか。
「えっと、もしかしてそちらの子が言っていた『こっちの世界』 というのが何か関係あるのでしょうか?」
「あー聞こえてました?」
あー、シルクが痛いところを突いてくるよー。
よく聞いていたなこいつ。
まあ、この誤解を解くにはちゃんと説明しないといけないし、それにずっと隠し通すのも難しいだろうから話すべきだよな。
それから俺はすべてを打ち明けた。
前の世界で死んだこと。
この世界に転生したこと。
リコたちは、前の世界で飼育していた動物の人化した姿であること。
信じてもらえるか不安でもあったが、治療スキルを持っている、実際に女の子二人が森で魔物に襲われていた等から、信じてもらえたらしい。
「そうだったんですね、それは大変でしたね、冬輝さん、リコさん」
シルクは神妙な面持ちでそう言い漏らした。
さっきまで激おこだったアリサちゃんとミルフィちゃんも言葉が出ないようだ。
「俺みたいな人はほかに居たりしないのか? なんというか、自分に実際に起きたことだから前例とかありそうに思うんだが」
「僕は異世界から人が来たなんてことは聞いたことありません、なのでこの話は隠しておいたほうが良いと思います」
「そうね……変に広まっても目立つだけだし」
「うん、私たちも他言無用ということにしておきましょう」
そうか、他に俺と同じ境遇の人でもいればあってみたいと思っていたが、やっぱりいないか。
もしかしたらシルクたちが知らないだけでどこかにいるかもしれないが、探し出すなんて到底不可能な話だろう。
それに一般的に異世界人がいないとすれば、どこぞの研究者たちに連れ去られるようなリスクも考えられる。
これはシルクたちの言う通り、他の人に話すのは避けるべきだな。
「分かった、俺も気を付けるようにするよ。リコも三毛猫と柴犬もな」
「わかりました!」
「あいー」「わかったー」
リコはたぶん大丈夫。
三毛猫と柴犬は……まあ言いふらすなんてことはないだろうし大丈夫か。
「ところで、その三毛猫と柴犬って種族名でしょ? 名前は無いの?」
「名前ー?」
「名前ないですー?」
……確かにアリサちゃんの言う通りだ。
別につけるのがめんどくさかったとかそういうわけではない、いずれ見つかるであろう引き取り手の人が好きな名前を付けられるよう、名前を付けないようにしていただけだ。
でも、こっちの世界に来たんじゃ引き取り手なんて必要ないし、名前がないと不便だよな。
「主ー!名前ー」
「名前ほしいー!」
この子たちもこう言っているし。
リコのほうを見てみるが笑顔を返してくれた。
まあ、リコに聞いても俺が決めた名前でいいっていうだろうしな。
名前かー、そう言えばリコの名前をつけたのも俺だっけ。
二人は……種族は違うけど姉妹のようなものだし近しい名前がいいかな。
「分かった、じゃあ三毛猫はシャル、柴犬はシャロだ!」
特に意味はない、二人を見てぱっと浮かんだのがこの名前だっただけだ。
「シャルー?」
「シャルー?」
「シャロー?」
「シャロー?」
「シャルー!!」
「シャロー!!」
どうやら気に入ってもらえたみたいだ。
やっぱり前世の名残なのか機嫌がよくなると走り回るんだな。
「あとリコ、今度からペットなんて言っちゃだめだからな」
「え、じゃあ私は冬輝様のなんなのですか?」
俺のシャツをつまんで上目遣いで見てくるリコ
なんなのですかときたか。
んー、仲間……であることは間違いないのだがそれだと他人行儀すぎるかな?
もとはペットだし、ペットとは言うなれば家族でもあるわけだから。
「まあ家族、ってところが妥当じゃないか?」
俺の言葉を聞いた途端今までに見たことのないほどの素敵な笑顔で抱き着いてきた。
「はい! 私たちは家族です!」
今は引きはがす訳にもいかないのでおとなしく頭を撫でておく。
アリサちゃんはまた顔を赤くして見てきているが今回に関しては怒られることはないだろう。
だって間違ったことは言ってないし。
ペットじゃないのであれば家族と言い表す以外ないはずだ。
「ところで冬輝さんはギルド登録した後は冒険者になるんですか?」
「いや、さっきみたいな魔獣なんかとは戦える気がしないしな。ひっそりと商売でも出来たらいいなと思っていたよ」
冒険者は無理だと思っていたがそれ以上のことは考えていなかったな。
生産スキルもあるしなんだかんだ商業部門とやらでやれることはあるだろうと思っていただけ。
それに異世界に来たのであれば定番かもしれないが、日本で便利だった道具やなんやらを作ってぼろ儲け、みたいなこともできるんじゃないかと思ったりもしていた。
「そうですか……でしたら僕の頼みを聞いてもらえないでしょうか?」
「いいけど、何かするのか?」
「はい、ちょっと街で困っていることがありまして、たぶん冬輝さんならお仕事としてもやっていけると思いますので」
おお、まさかの仕事の斡旋ですか?
こちらとしては願ったりかなったりだな。
「わかった、俺も特に決まった目的があったわけではないし」
「ありがとうございます、でしたら一回ギルドに帰りましょうか」
まだ走り回っているシャルとシャロを呼び戻して全員で街に帰る。
まだこの世界に来て二日目なのに、ずいぶんと大所帯となった。
それに知り合いもできて仕事まで見つかりそうだ。
魔物に襲われかけたことを除けば順調な滑り出しだな。