1-4 ギルド
街の中央広間の奥、石造りの階段を上った先の正面にギルドがあった。
窓の数的に四階建ての赤レンガの大きな建物だ。
建物には武装した冒険者が多く出入りしており、冒険者のほかにも商人と思われる人も出入りしていた。
建物に入ると一階は酒場と受付のようだ。
入って右にはカウンターがあり窓口が三つある。
それぞれのカウンターには剣のマーク、お金のマーク、杖のマークがついていた。
おそらく部門ごとの受付をわかりやすくしているのだろう。
そして入って左側、酒場となっているところは冒険者たちが溢れかえっている。
男女種族問わず騒ぎ散らかしながら酒を飲んでいる様はまさに冒険者ギルドって感じだ。
よく昼間っからそんなに飲めるな、働く気はあるのだろうか。
そんな光景を眺めていると剣のマークの受付にいたお姉さんが話しかけてきた。
「あら、初めて見る方ですね。どういった御用ですか?」
「あ、ギルドに登録したいんだが、今日この街に来たばかりでギルドの仕組みがよくわからないんだ」
「登録ですね。ギルド会員になるためには最初に試験を行い冒険者登録をしてもらいます。そのあとにどの部門に属するかを選択していただく形になりますね。」
「試験というのは何をすればいいんだ?」
モンスターの討伐とか言われると困るんだけど、装備とかないし。
「試験内容は簡単です。指定した素材を収集して納品してもらうだけです。ここのギルドでは草原の奥にある森付近に生える薬草の収集です。草原には魔物も少ないので危険はほとんどありません」
「あれ、それだけでいいの?」
「はい、最初の試験ですし、どの部門でも収集能力は必要ですのでこのような試験となっています」
あー、採集クエスト的なやつね、それなら武器を持っていない俺達でもできそうだ。
確かに冒険者だったら言わずもがな、商売をするにも素材は必要だしな。
理にかなっていると言えばそうかもしれない。
「試験を受けられますか?」
「ああ、あとこっちの連れも一緒に受けてもよいだろうか?」
「わかりました、では登録のためにお名前を伺ってもよいですか?」
「俺は神室 冬輝」
「私はリコと申します」
「はい、冬輝様とリコ様ですね、では次はステータスプレートというアイテムを作っていただくのですが、手数料で一人100マイル必要になります。いまお持ちでしょうか?」
「ありますあります、はい」
「確かに受け取りました。ではそちらの席におかけになってお待ちください」
そういわれると俺とリコは椅子に座る。
「どうやら順調に進んでるみたいですね!」
「うん、この世界に着いたときは心配していたけどみんな優しくて一から教えてくれるから助かるよ」
ほんとに、屋台のおっちゃんといい、アカネちゃんといい、親切な人ばかりだ。
ここまで教えてもらえてなかったら今頃挫折していた自信がある。間違いなく。
ただ人生それほどうまくいかないものだ。
マジで運悪く魔物に襲われるなんてことにはならないでくれよ……
「お待たせしました、先ずこちらがステータスプレートになります」
え、これが?
クレジットカードくらいの大きさのただの石のプレートにしかみえないが。
「これは特殊な石にギルドが加工を施しているプレートです。これに手を当てて一日経過するとステータスとスキル、所属ギルドなどが表示されるようになります」
何それそんな便利なものがあるのか。
確かに、手を当てるとプレートには名前が浮かび上がり光りだした。
いったいどうなってんのこれ?
特殊な石、特殊な加工って言っても限度があるでしょうに。
名前とかステータスとかが表示されるって、いったいどこからその情報が出てくるのか。
例えば改名したりでもしたらどうなるんだろう、命名に公的手続きがいるようには思えないし、ぶっちゃけ名前なんて自分がそうだと名乗っているだけだし。
……まあ、こんなファンタジーな世界でそんなことを気にしても意味ないか。
「リコ様もどうぞ」
リコもプレートに手を当てた。
リコのほうもちゃんと名前が浮かび上がり光りだした。
「こちらは明日お渡ししますので一度お預かりしますね」
そういってプレートを回収していく受付嬢。
まだ試験も合格していないわけだし当然といえば当然か。
「では次に試験についてご説明します。試験の内容は先ほど申し上げた通り薬草の採取です。街をでて南にある森付近に生えているのでそれをとってきてもらいます。ただ注意していただきたいのは、森の奥に入ると少なからず魔獣が生息しているためあまり奥へは入らないようにしてください」
説明をしながら薬草のサンプルを見せてくれた。
正直見慣れていない俺からしたらそこらへんに生えている雑草にしか見えないんだよなあ。
まあ、解析スキルもあるし心配ないとは思うが一応覚えておこう。
「あと、夜になると草原にも魔獣が出没するため、採集は明日にしたほうが良いと思われます」
窓の外を見ると日が沈みかけている。
こんな何にも装備のない状態で魔獣に合うなんてごめんだ。
装備があっても戦いたくはないけど……
言われた通り採集に行くのは明日にしよう。
「説明は以上になります。何か質問はございますか?」
「んー特には無いかな、リコは?」
「私も大丈夫です」
「では、明日も私はカウンターにいますので、採集できましたらこちらにお持ちください」
説明を終えるとお姉さんはカウンターに戻っていった。
その後、夕食ついでに串焼きの屋台のおっちゃんに宿が見つかったと報告することにした。
串焼きのみでは物足りないので、パンと飲み物も買って夕食を済ませる。
宿に戻って先ず風呂がないか確認したがこの世界では風呂は高級品らしく、一般人は行水か濡らしたタオルで拭くだけで済ませるそうだ。
一般常識らしく、またアカネちゃんに驚かれてしまったのだが、寧ろこっちが驚いたわ!
これだけ綺麗な街なんだから風呂くらい完備されているものだと思っていたが甘かった。
仕方ないのでアカネちゃんに案内され宿屋の裏に用意されている井戸へ向かう。
この井戸水を桶に入れて、隣にある小屋に入りそこで浴びるそうだ。
小屋は三部屋あり一部屋はシャワールームほどしかない。
あまりに原始的すぎて落胆してしまったが、一般的な宿屋としてはこれが普通らしく、それどころか小屋があるだけ良いほうらしい。
案内が終わり、アカネちゃんが戻っていったので、桶に水を溜めて小屋に入る。
リコは俺の身体を拭くとか言って一緒に入ろうとしてきたが、丁重にお断りさせてもらった。
どうしてと問い詰められることになったのだが、よく考えてみてほしい。
たとえ身体にタオルを巻いているとはいえ、裸の男女が一人用の小さな個室に入ったらどうなってしまうのか。
それはもうナニが始まってもおかしくないよね?
いやリコは十分可愛いし、健全な男としてこの上ないイベントであることは間違いないのだが、如何せんここは宿屋。
何か不祥事を起こして泊まれなくなったら困るのだ。
せっかくの大イベントを逃してしまう悔しさと、こんなことにならないためにも一軒家が欲しいという願望を胸に、行水をするのであった。
部屋に戻りベッドに転がりながらスキルを確認していた。
なんと自分の持っているスキルにも解析スキルをかけることができたのだ。
それで思い出したのが治療スキルの洗浄だ。
これを自分自身に使用すれば行水なんてことをしなくても済むかもしれない。
早速試してみると思っていた通り、服からは汚れが落ち、体からも皮脂や汚れといったものが取れた。
何気に便利過ぎないかこのスキル。
まだレベル3だが、風呂いらずで怪我もすぐに治せるのだ、ぶっちゃけ食糧さえ何とかすればどうとでも生活できそうだ。
「それ」
「ひぅ!?」
こっそりリコにも洗浄を試してみた。
慣れない感覚からか終わった後には身体をプルプルさせていた。
動物だった時の感覚が残っていたのか?不覚にも笑ってしまった。
「突然何するんですかー」
「ごめんごめん、治療スキルの洗浄を試したんだよ。どう、服とか体とか綺麗になったでしょ?」
「確かに、尻尾とかさっきよりもサラサラになった気がします」
やっぱり効果はあるみたいだな、これなら行水しかできなくても清潔は保てるか。
でも風呂には入りたいよなー、日本人なら特にそう思うはず。
温泉好きの俺的には、ぬるめの湯をはった大きい風呂でゆったりと長風呂がしたい。
当面の目標はそんな風呂がある家を持つことを目標にしようかな。
ぅあぁぁー…………。
ちょっと寝るには早い気もするが、いろいろなことがあって正直めっちゃ疲れた。
「俺は疲れたからもう寝るよ、おやすみリコ」
「おやすみなさい、冬輝様!」
まさかリコにおやすみなさいと言われる日が来るとは思わなかった。
そして俺は、リコの笑顔を目に焼き付けながら自分の布団に入り目を閉じた。
ゴソゴソ……ゴソゴソ
ん?なんか布団に入ってくる感覚があるんだが……
奇妙な物体を手で確認していく。
サラサラした感覚、そのまま下にたどっていくと途中で引っかかる突起、その突起は手が触れるとぴくぴくと動いていた。
そしてさらに手を下げていく、少しずつ下げていくと薄い布を挟んで手のひらに収まる柔らかい半球体の物体。
「あ…………んっ!」
……なんだ今の声。
いや、何となくわかる、分かるのだが……
確認するしかないよなぁ……
バサッ!
うん、やっぱりリコですよね。
いやまあ、リコ以外がいたらそれはそれで怖いんだけどね。
ってかさっきの触った感じ、もしかしてリコのおっぱいですか?
絶対そうだよね、だってさっき手を置いていたあたりに丁度リコのお胸様がありますもん!
というか今はそんなことは重要じゃない、いや男としてはかなり重要事項ではあるのだが、今はなぜリコがここにいるのかを明らかにしないと。
「リコさん?なんでここにいるのですか?」
「え、だって冬輝様がおやすみになるので私も寝ようかと」
「……リコさんの布団はあっちにあると思うのですが?」
俺は隣の布団を指さす。
間違いなく俺の指の先には同じベッドがもう一つあるはずだ。
「冬輝様といるときはいつも冬輝様と一緒に寝ていたじゃないですか、今日はダメなんですか?」
リコは潤んだ瞳でこちらを見てくる。
いやー確かに動物の時はいつも俺の膝の上で寝ていたもんな……
でもな……いまは人型なんだぜ?
尻尾も耳もふさふさだし、もふりながら寝れるのは俺もうれしいのだが……
あー、めっちゃ上目遣いで見てくるよー!
あと寝転がってるせいで服がはだけて胸が見えそうなんですが!
やばい、なにこの状況、耐えられる自信ないんだけど。
俺は仏にでもなればいいんですかね?
さっきのもそうだけどこういうイベントは宿屋みたいな周りに迷惑のかからない場所で発生させてくださいよ女神様!
まあだからと言ってこのまま無理やり追い出すのも可哀想か……
しょうがない、今後のことは明日考えるとして今日はこのまま寝るか。
「分かったよ、じゃあ一緒に寝ようか」
「はい、おやすみなさい」
はあ、明日から大丈夫だろうか……