下水道
「ハルはもう街を出るのかい」
「えぇ、明日近くのダンジョンだけ見て、夕方には出るつもりです」
「そうか、…濡れ衣を着せたままで申し訳ないが、次この街に来るときには笑顔で来れるようにしておくよ。」
ロボさんにお辞儀をしてその場を後にした。
店で寝てしまったバジルは、いつの間にか目をあけていた。
「ハル、地の巡りがおかしい」
「どういう事」
特に違和感は感じなかったが、意識しないとわからない程度に地面が揺れている。
それもほんの少しで、すぐに収まった。
「この街の気の巡りは駄目になったんでしょ」
うーん、とバジルは悩む。
「うん、そのはずだし。今のは気による流れではなかった気がする」
得も知れぬな何かに不安になった。
すると、遠くから走ってくる音が聞こえ顔を上げた。
魔法屋のお姉さんだ。
「良かった。まだ居たんだね」
店であったときとは違い、笑顔はない。
慌てた様子を見て、地の巡りのことだとすぐわかった。
「お姉さん、これは一体」
息を整える間、お姉さんは首を横に振った。
「いや、それが何もわからなくて。バジルだったら何か分かるかと思って探してたんだ」
「うーん、多分、誰かが地脈にいたずらしたんだと思う」
誰も正確な言葉が見つからず、その場で黙ってしまった。
暫くして、皆同じ答えにたどり着いた。
「下水道……、か」
「それしか考えられませんね」
しかし、何があるかわからない下水道。それに今日の一件があった事もあり、どこでラール=フーに狙われるかわからない。
お姉さんに仲間を連れてくると伝え、その場で待ってもらうことにした。
別れた直後だったので、ランとロボはすぐ見つかった。
肩を叩いて、事情を説明すると、すぐにうん、と言ってついてきてくれた。
広場に戻り、お姉さんと合流。
改めて事情の説明をすると、ランもロボも黙って頷いた。
「で、下水道はどこから入れるんだ」
「一応ちゃんと降りられる場所は二箇所。ギルドと、ラール=フーの敷地から。」
真っ黒じゃねえか、とロボは言った。
「じゃあ、ギルドから行くか。揉めたら全員懲戒処分にする」
「いいですね」
少し和んで、いい緊張感になった。
お姉さんは、マオと名乗った。中級魔法使いで、戦闘になったら久しぶりと。
ギルドはすぐそこだったので、ロボが扉を開けると受付嬢以外誰もいなかった。
「おい、下水道へ行く道はどこだ」
「ど、どういったご用件で」
昼の一件、そしてギルドの調査団だとロボを知っている彼女は怯えた表情を見せる。
いいからと、ロボが強気で聞き出すと受付嬢は黙って指差した。
「ラール達から何か言われたか」
「い、いえ、あれからは何も」
追って、お前にも罰が下る。
ロボは冷たく言い放つと、指定された床を踏んで確認し、板を引き剥がした。
剥がした床下からは鉄の扉が現れた。
扉についた丸い輪を回すと、扉は空いた。
もわっとした嫌な匂いが立ち込める。獣人は特に嫌そうに顔を歪めた。
嫌そうにロボが先に降りて、後を続いた。
灯りはない。
水の流れる音が雨の日に似ていた。
漏れる光りだけで、躊躇していたらマオは大きい光を出して先行させた。
「補助だけは任せてね。補助は」
照らされた下水道は、見なかったほうがいいと思える程に悍ましいところだった。