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魔法の街

 門の下には馬車が列を作っていた。

前の御者台の男に聞くと、どうやら形ばかりの荷物検査があるらしい。

ただ、問題は荷物検査自体ではなく、今日の門番は話が長いということだった。

男は失敗したなぁ、とぼやいている。

「ここまで来てこれはつらい」

「しょうがないねぇ」

葉の上でごろごろする。

今日はずっと寝ているので、夜はしっかり仕事をして貰おうと思った。

陽が傾き始めた頃には、列はだいぶ短くなっていた。

早めにドライアドを起こし御者台を任せ、一応荷台を整理する。

大して物はないから全体的に壁に寄せて、空いたところだけ床を磨いた。

少しして御者台に戻ると、いつの間にか荷物検査は二箇所になり、私達の番はすぐそこまで来ていた。


 「まぁ、問題ないね。」

 「ありがとうございます。」

 「一応確認なんだが、この土って何に使うんだい。」

 「それは鉢植えの土です。御者台に乗せてますが、少し栄養がかかる植物でして」

言うと門番は荷台から飛び降り、御者台へ向かう。

鉢植えを見て、懐かしいなぁと言いながらバジルの居る辺りをじっと見た。

「いやぁ、びっくりした。ドライアドじゃないか」

「へ、おじさん見えるの?」

予想しなかった反応に、ドライアドは嬉しそうに羽を動かしている。

「おう、昔はこの辺にもいっぱい住んでたんだ。いやぁ、懐かしい。」

「そうなんだ。えへへ、なんか嬉しい。」

ドライアドは嬉しそうに門番の肩に止まった。

 おじさんも嬉しそうに笑っている。

暫くバジルを交えて雑談をし、その後の確認事項は妖精のおかげで必要ないと言われた。

「いやぁ、珍しいものを見せてもらった。お礼に何かあったら何でも言ってくれ。」

「お気遣いありがとうございます。いくつか聞きたい事がありまして。」

おじさんに旅に必要なものが揃う場所を尋ねると、魔法使いならここだねと、裏路地にある魔法屋を教えてくれた。 

精霊向けの商品があるかはわからないが、昔は取り扱っていたし、なにしろこの街で一番古い店らしい。

お礼を告げ馬車に乗る、ドライアドは最後まで手を振って、おじさんもそれに応えていた。

後ろは見ないようにした。

並んだ馬車たちは不満そうに声をあげていたからだ。

 

 門を過ぎてすぐのところに馬車留めがあり、値段も安かったのでそこに留めた。

手入れをする場所も、洗車もしてくれるというのだから有り難い。

馬車留めの主人は無愛想だが、仕事はしてくれそうだ。

夜まではもう数時間、荷台からハーブをいくつか取り、植木鉢を持ちながら先程の店に行ってみることにした。

「やっぱり歴史ある街だと、ちゃんと人もいるのねぇ」

先程、紹介を受けた店は噴水がある大きな通りから一本外れた通りにある。

そこへ向かう途中、噴水の周りを通ったのだが人通りは多く、夕刻でもわいわいと活気がある。

いつもは妖精が嫌がる人混みを避けて通るのだが、自分を知っている人間に会ったのが嬉しかったみたいで、むしろドライアドから通ろうと言ってきたのだ。

通りは勿論だが、通り沿いには店が建ち並び、どの店も人が多い。

どこも肉のいい匂いをさせるので、少し足を止めていたらドライアドに臭いと怒られた。

裏道に入り、人気は一気に少なくなる。

あまり日が当たらないのか、少し陰気な通りだった。

店は並んでいるが、中身がない。

大通りが栄える一方で、厳しさが見えた。

暫く進むと、青い屋根のおじさんが教えてくれた店が見えてきた。

扉を開けるが、店は暗く姿はない。

 「こんにちは」

呼びかけるが返事はない。

出直そうかと思ったが、せっかく来たのだから少し店の中を見ていこうか。

棚は壁沿いにいくつか、中央のテーブルにもレトロでオシャレな雰囲気で、瓶の形やキャップ、紙の種類からかなり年季の入ったものだと分かる。

ドライアドも物珍しそうに物色しはじめ、カウンターの奥に置いてある小瓶の前で止まった。

「何か珍しいものはあったかい?」

その返答も遅くなるほど、まじまじと見つめている。

「うん、銀花の種だ。凄く珍しい」

ドライアドに珍しいと言わせたそれは、名のとおり銀色の種で、緑色の液体に浸かった状態で瓶詰めされている。

 瓶の形も、さっき見たものよりも古い。四角く平べったい、金属の蓋がついた形状で、もはや知る所ではなかった。

 「おや、お客さんかい?」

黒髪を伸ばした、鼻筋の綺麗な女性が出てきた。

胸は大きく露出し、足を出した美人なら似合うドレス。

筒状の棒を咥え、煙を出す。煙草だろうか。

「留守中に失礼しました。私はハル。門番さんにこの店を聞いて来ました。」

ふーと煙を吐いて、はてと上を見る。

「あぁ、あのおしゃべりか」

ふふと笑うと、お姉さんはカウンターに肘をついた

「で、そこのちっちゃい子はなんていうんだい」

「はい、わたしバジル!」

「いい子だね」

そう言うと、お姉さんは後ろの棚から飴玉を取り出してバジルの前に出した。

「よかったら舐めていいよ。お姉さんのおごり」

バジルは葉物しか食べないので、少し戸惑ったが触れると安心したのかぺろぺろ舐め始めた。

「この街の人は皆、妖精が見えるんですか」

そんな事はないと、手を横に振った。

バジルは無心で飴玉を舐め続けている。

小動物の様に舐め続けるそれの頭を、お姉さんは笑いながら撫でる。 

「珍しいだろ。マナの飴玉さ。」

「マナですか。」

「あぁ、蜂蜜を温めてそこにマナを混ぜるんだ。」

「初めて聞きました」

そう言って、バジルが舐める飴をそっと持ち上げてみる。バジルは両手でしがみつきながら舐めている。

蜂蜜色の黄色い模様が玉の中にあり、白い部分は気のせいか、少し動いている。

光が当たるとまるで宝石みたいに綺羅びやか。

暫く見とれていたが、次第にバジルが犬のような唸りを始めたのでテーブルに戻す。

「バジルに合うものがあまりなくて、何かいいものがあればと寄ったんですがこれが気に入ったみたいですね。いくつか貰えますか。」

「妖精は昔からこれに目がないんだ。一時期は、この街にもドライアドが住み着いてたんだがね、今はこの有様さ」

 三十年ほど前はこの街にも妖精は居たらしい。

明るいところはあまり好まず、この裏通りは居心地がよくて、日に数十匹飛び回っていたという。

お姉さんの店は妖精の導きもあって、ここにお店を出して昔は繁盛したと、少し寂しそうに言った。

「お姉さんも妖精に魔法を習ったんですか」

「いいや、私は王国の魔法学院さ。卒業して10年程冒険者をやって、この街に落ち着いたんだ。」

「魔法学院だったら、就職先もあったんじゃ」

「昔から、型にはめられるのが嫌いでね。今はちょっと後悔してるかも」

 はぁ、とため息が漏れた。

「三十年程前にね、この街で大規模な工事があったのさ。街をきれいにする為って言って、下水道を作ったのさ。」

「下水道ですか」

「あぁ、おかげで使った水は下水道に流れて、街はきれいになったから人は住みやすくなったんだけど、その管理が杜撰でね。妖精たちにとっては気の巡りの悪い街になっちまってさ、皆出て行っちゃったってわけ。」

「下水は良くないね。地の巡りが変わっちゃうから」

バジルは舐めている。

ただ、説得力はあった。

「でも、精霊がいないだけで、そんなに違うもんなんでしょうか」

「あんた、この街の名前はわかるかい?」 

 そういえば、ここは魔法の街。

昔読んだ本では、マナの地脈があって、安定した魔力供給があるって。

お姉さんの言う、気の巡りってそういうことか。

「そ、マナが流れなくなったから飴玉が作れなくなって、この有様ってことさ」

「じゃあ、もう街の名前変えるしかないね」

 うんうんと頷いて、バジルを撫でている。

「そうなんだけどねぇ。マナがなくなって街が傾き出した時、錬金術の連中がやってきたんだ。錬金術ならマナは使わないとか、魔法を使ってた君たちの技術なら信用できるとか宣ってね。皆、錬金術に乗り換えちまったんだよ」

「錬金術は魔法じゃないよ」

「それが分かるのは、おまえたちだけさ」

 バジルは舐めきれない飴を私のポケットに入れた。

少しこの街の話を聞くと、どうやら私が招待されたディナーはその錬金術の総本山らしい。

そして、怖いのはあの館に入った冒険者は行方不明になるという噂まであった。

せっかく、おいしいお酒と食事が楽しめると思ったが、これは行くのをやめておこうか。

バジルが嬉しそうに話すので、つい長居をしてしまった。

陽は既に落ち、裏路地の道は暗い。

お姉さんは残ってるものが売り切れたら店を閉めるつもりだよとお姉さんは言っていた。

何年もそれを言っているのだろう、店の年季が物語る。

最後に洞穴生活を少し充実させたいと伝えると、先程の飴玉の瓶と、壁の棚から光魔法の本を持ってきてくれた。

「本はサービス。また来なよ」

「はい、ありがとうございました」

「お姉ちゃん、またね」

遂に、私が住むところでも外出自粛要請が出ました。

3月からなるべく外出を控えているので、そんなに不便に感じませんが心配ですね。

土日は昼と夜で2本ずつあげようと思っています。

ご覧頂きありがとうございます。

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