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校則

作者: あじろ けい

 ブラック校則。私の学校にもありました。ブラックっていうか……時代錯誤といった方がいいのかな。


 ゲタを履いてきてはいけないっていうものです。


 笑っちゃいますよね。今時、ゲタで登校する学生なんていませんから。私も、生徒手帳を読んで、「えっ」って思いましたもん。


 他には、スカートの丈は膝下五センチとか、肩下の長さの髪は結べとかありました。一つに結んではダメで、必ず二つ結び――おさげですよね――にしないといけなかったんです。


 ゲタなんか履かないしって、みんなで笑い飛ばしていたんです。


 女子高だったし、おしゃれしたい年頃だから、二つ結びならいいんでしょって、ツインテールにしてそれなりに楽しんでました。


 高二になった時でした。例の「ゲタを履くな」の校則は時代錯誤も甚だしいって生徒がいい始めたんです。言い出しっぺは、高一の子たちでした。


 時代にあわせて校則も変わっていうべきだとか何とか言って。


 意識高い系っていうんですかね。校則だからって盲目的に従うな、考えることを放棄するなとか、ちょっとこっちが引いてしまうような熱があって。若いなあって、年は一つしか違わないんだけど、私たちは斜めに構えてました。


 ある時、その意識高い系グループのひとりがゲタを履いて登校してきたんです。わざと校則を破って、意味のない校則だとわからせるためだったそうです。足首が隠れる丈のスカートをはいて、長い髪を一つに束ねていました。ポニーテールではなかったんですよね。ゴムで簡単に縛ったって感じで、髪の長い子だったんで、巫女みたいでした。


 ゲタが禁止になった理由はすぐにわかりました。


 とにかく、うるさいんですよ。歩いていると、カラン、コロン。階段の上り下りでカラン、コロン。


 結構歴史のある古い学校なんで、ゲタ履いて登校してた生徒も昔はいたと思うんです。きっとその当時もうるさいってなって、ゲタ禁止になったんじゃないのかなと。


 禁止のままでいいよね、って友達と話してました。校則から無くしたら、禁止されてないし、とかいってわざと履いてくるような生徒がいるだろうからって冗談で言ってました。


 その日は一日中、カラン、コロン、カラン、コロンという音が校内で鳴り響いていました。ああ、彼女が歩いているって、姿を見なくてもわかりました。あまりにうるさくて、ちょっとうんざりしかけていたんです。


 放課後でした。ゲタを履いた生徒が私たちの前を歩いていました。履き慣れていないのか、ぎこちない足の運びでした。


 ゲタの生徒は昇降口への階段を降りていきました。カラン、コロン、カラン、コロン……。


 突然、ガタガタダダダダというけたたましい物音があがったんです。


 ゲタを履いた生徒でした。スカートの裾を踏んで前につんのめってしまい、顔面を強打しながら階段を転げ落ちていきました。


 一階まで落ちていって、ようやく彼女の体は動かなくなりました。廊下に横たわる彼女の首には長い髪がまとわりついていました。まるで黒い蛇が彼女の首を締めあげているようにも見えましたっけ。


 後で知ったんですけど、昔も似たような事故があって亡くなった生徒がいたんだそうです。その人はスカートじゃなくて、着物の裾を踏んづけたらしいですけど。


 ゲタを履いた生徒が死んだ後、校則を変えようという動きはピタっと止んでしまいました。


 かわりにひとつ、新しいルールが増えました。


 校内は基本、左側通行だったんですけど、事故のあった階段の昇り降りには手すりのある右側を通ること。かちあった時は降りる方に優先権があって、昇る方は待っていないといけないんです。


 待っていられなくて左側に抜けていく生徒もいましたよ。新入生たちです。何も知らないから。何であの階段だけは右側通行なのか、その理由を知った後では左側を歩く生徒はいなくなります。大体、ゴールデンウィークが始まるまでには知れわたるみたい。


 生徒たちだけの暗黙のルール。

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