9.会談
冒険者ローとは?
2階のトイレの入り口で、私は待っていた。
ローが気持ち悪いというので、ガルガンチュアと一緒にトイレへいったのだ。
トイレの中から気持ち悪い音が聞こえる。
匂いもきつい。
「……おおぇええええ」
「おい、大丈夫かよ。」
「…うっふ、大丈夫だぞ。それより、仲間待てせてるぞ。早くいかないと怒られるう!」
「…そのノリだけは健在か。」
「おいおいラウト、その言い方はねえだろう。いつもちゃんとみんな酔い潰れて待ってるんだよう。」
「言ってる事がよくわからないが…まあ、いい。とりあえず戻るぞ。」
「そうだな。」
ローはトイレでゲボを吐いていた。
おそらく私達が来る前に食べ物も食べていたのだろう。
トイレから出たローは、辛そうだ。
…お酒はそう言うリスクもあるのか。
ローは、内股でつま先を使いながら変な風に足を動かし、私達と一緒に店へ戻る。
この時ガルガンチュアが、これを千鳥足と言うのを教えてくれた。
「うぃぃ、飲んだぜえ」
「はあ、全く。飲み過ぎだ。」
「いやーだがラウトも凄いぜえ。俺のパンチくらっても立ってられるの、かっけえ」
「韻を踏むのはもういいから。」
「やめやめやめやめ、ややっめえ。シんぐおおぉおぉぉおぉ。」
「だせえ。音痴。うるさい。もうやめてくれ!」
「ええーぇ?いいと思ったのになー…っしゃあねえなあ。」
「はあ……」
笑ってしまいそうだ。
まるで私とガルガンチュアみたいじゃないか。
ガルガンチュアのその呆れた笑い方から、ガルガンチュアが私の苦労をやっと理解したことを祈ろう。
店へ入ると、騒がしい店内から、
「おおーい!こっちこっちー!」
とヒューズくんが手を振っていた。
私は…気付かない内にくん付けをするようになってる。
なぜだろうか。
と考えていると、
「全く、ローさんってなんで会ったときは毎回必ず酔っ払ってるんですか?」
「いええええい」
「……だめだこりゃ。ごめんなさいラウトさん。この人お酒が好きすぎて…」
「まあ、気にするな。というより、知り合いか?」
「あーそうなんですよ!この人がギルドについて色々教えてくれたんです。」
「なるほど。あの時の話の..」
「うんうん。そういえば、ロー…」
「んごおおおおおお、んごっ、んごおおお」
ローは寝ていた。
机に顔をだらしなくつけ、口を開け、おまけによだれを垂らしながら。
面白い、かなりのマイペースぶりだ。
酒の力は凄いな。
人をこんなにも馬鹿に出来るのか。
種族アビディティーの創造思考がなかったらこんな感じになるのかと想像出来るほどだ。
まるで一種の毒の様だ。
…まあ、素の状態を知らないから何も言えないが。
「あ、そうだ!…とりあえずみんなに声をかけました!」
「あ、ああ。ちなみにだが、なんて言った?」
「魔術が少し出来るテイマーが、どこかのパーティへ入りたいって言ってくるかもかもしれないって。」
「なるほど。それで、どうだった?」
「とりあえず、1パーティーだけ、話に興味を持ってくれたっぽい!」
「うーむ、いいと言っていいのかわからないな。」
「僕もわからないけど、実力さえあれば入れてくれるって!」
「わかった。会わせてくれ。」
「了解!ついてきて!」
すると、ヒューズくんはそのまま店の奥にあるVIPフロアと呼ばれる場所に連れていってくれた。
するとかなり雰囲気が変わった。
4つの小さな窓からは外が見える。
そして何より…静かだ。
さっきまで騒がしかったのが嘘の様だ。
しかし何より凄いのが、その静けさが安定している事だ。
魔術か何かか?
普通なら、ここまで安定させるのは無理だ。
…思えば、真核を感じられない。
なら、そもそも魔法ではない……?
ガルガンチュアも少しびっくりしている様だ。
「…ここは凄いな。」
「ええ、騒音が少なくなってますよね。これ実はノイズキャンセリングって言うんですって。」
「ほお、どういう仕組みなんだ?」
「ええーっと、たしか、波形を反転させてなんとかだったけど……忘れちゃった!」
「なるほど…。」
っくそ。
人間は恐ろしい。
…発想が素晴らしい。
ゲゼルシャフトの補助が無ければ私もわからなかった。
エネルギーの誘導、変換と信号の受信だ。
どういう事か?
根っから魔法など使わずに、全てを物理的に済ませようという事だ。…と、ブレーキブレーキ。
このことは後回しだ。
面白そうだがまた今度だ。
最近、時間の使い方をよく間違えてしまう。
注意だな。
そうだ。
こういう時こそゲゼルシャフトだ。
[並列演算を起動します。例題を“音の特性”に設定。演算開始。]
この機能は初起動だな。
結果が楽しみだ。
…それにしてもどういう奴らなんだろうか。
Fランクだと思われているから興味を持った人間も大してそこまで強くない気がするが。
まあ、いいか。
気がつけば、フロアの真ん中を通り抜け、目の前にはドアがあった。
中には6人、人がいた。
右側には2人、しっかりした装備をしていて、他の人は脆そうな装備をしていた。
初心者とベテランの違いがはっきりとわかった。
ベテランの方の2人が酒を飲みながら話していた。
「ゴヴェルノ、まだか?例のテイマーは。」
「ああ、ってかローはまた酒飲んでんのか?」
「俺はあんまり知らないがあいつっていつもこうか?」
「まあな、でも下手すりゃあテイマーよりも遅れて来ちまいそうだぜ。」
「へっ、そんなことがあったらこの俺が‘弾丸の説教’を食らわせてやるぜ。」
「はっはっはは。」
「っ……嘘。」
そう、ヒューズは知らなかった。
ローがパーティーを組んだのを。
私達は知らなかったが、ローは今まで一匹狼だったらしい。
一人で冒険し、一人で任務などをこなす。
その実力から、割と注目されていたらしい。
しかしながら彼は酒癖がひどかった。
酔うと真面目な人から韻を踏み続けるおかしな人になるのだ。
その噂が広まるにつれ彼の周りには殆ど人が居なくなっていった。
実力こそあるものの、それを認めてくれる人もごく少数だった。
次第に彼は酒に依存する様になっていったらしい。
それがヒューズの知る限りのローであった。
が、しかしそんな彼がパーティーを作った。
どういう気まぐれだろうか。
何の為なのか。
酒に依存する生活をやめようと思ったのか。
とりあえず、熟睡中のローをヒューズと一緒に引きづりながら、ドアの前に立ちノックをする。
念の為聞いておいたが、ガルガンチュアはローが仲間に怒られるようとと知ったこっちゃないと私に言った。
おまけに愚痴まで聴かせられた。
その様子からやはり、私がガルガンチュアに苦労している事は理解していない様だ。
はあ、と久し振りに心から溜息をついた。
…中から出てきたのは一番右の席に座っていた男だった。
「おぉ!きてくれたか。ってロー!…っはあ、テメエやっぱり酒のんだのか。」
「…っあ、あの」
「おお、君がヒューズくんか。ローから聞いたぞ、君が紹介してくれたんだってね。」
「う、うん、そうだけどお兄さんってローとパーティー組んでるの?」
「ああ、そうだがその事はローからきかされ....てないな。」
「ええ、酔っ払ってますからね。」
「おお、やっぱりこいつの酔い癖の酷さを知ってるのか。これはいい友達になれそうだ。」
「ええ、よろしくです!」
2人は握手を交わし、私達も含めて簡単に自己紹介をした。
彼はサブというらしい。
この国の中では数が少ない狙撃手という職業では、割と有名らしい。
その後、なんと案内してくれたヒューズくんが帰りたいと言い出した。
門限を守らないと親にブチ切れされるらしい。
いつのまにか外は夕暮れになっていたらしく、窓の向こうは既に暗い。
仕方がないので、帰りみちに気をつけてとガルガンチュアに言わせて、かえらせた。
ローはというと、まだ寝ていた。
いつもの事らしいので、部屋にローを運び込み、ちょうど一人と半人分空いてた席に私達は座る。
「さあ、それではみんな自己紹介をしよう。」
「じゃあ、俺は紹介したから。お前からだな」
「あ、そっか。改めて自己紹介する、俺はサブだ。言いづらいならサムでもいいぜ!よろしく。」
すると、彼はステータスを見せてきた。
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冒険者ステータス
名前:サブ
種族:欧羅巴族
職業:狙撃手
属性:火、風
ランク:A
経験値:21300(Sランクへ昇格可)
総魔力量:1300
魔力コントロール練度:27%
潜在性:108%
アビディティー:創造思考、思考加速、攻刃化、爆焔焦弾化、齒威十
状態:ほろ酔い
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...なるほど。
ステータスの数値はこれでか?と思う所はあるが、齒威十というアビディティーはそこそこ凄いかもしれない。
するとガルガンチュアはサブに頼んできた。
齒威十の効果を教えてくれ、と。
気づいてしまった。
こいつは最初からファウンダーアビディティーについては隠すつもりはなかったのだ。
それがかなりの高性能だというのも。
そのアビディティーを、潜識図書館というらしい。
おまけに、あとで効果まで教えてくれるという。
一本取られた気もするが、まあいいか。
しかしガルガンチュア曰く、この世界のある特定のアビディティーはわからないものがあるらしい。
存在すら知らない事もあるとか。
今回はステータスを見てわかったが、それが無ければガルガンチュアでもわからなかったのだ。
運が良かったとも言える。
しかし、大抵は凄いアビディティーではないという事でそこまで気にしていないらしいが。
「しゃあねえなあ。これも信頼の証だ。」
サブは詳細を見せてくれた。
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アビディティー:齒威十
効果:銃、もしくは何かを投げる時に発動。
1.攻撃威力、貫通威力が10倍。
2.追尾弾化、分離弾化も可能。
3.空間転移弾の使用も可能。(10分に100発)
4.囮の弾を作成可能。
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アビディティーは確かに強い。
世界一の弱小種族でこれは凄い、というべきか。
そしてその使い道がわかりやすいのもいい。
自分に合わせて、制限されていいものを制限し、より便利な効果を代わりに組み込んだようだ。
文明の力とアビディティーの融合、理にかなっている。
このアビディティーを生み出した彼は、天才なのかもしれない。そう思った。
というより、これが創造思考というアビディティーによって成し得る事ができる、
“想像による創造の力”なのろう。
創造思考の凄さは、その種族の発想力や協調性、社会性、学習能力など全てを0から1000にする程の特性を持つというところだ。
つまり人間という種族は、他種族との圧倒的な力に対して知恵を持ち、それが今日まで生存競争に勝ち続けた理由でもある。
今回、人間がアビディティーを作り出せる事を知った。
と同時に通知。
[レアアビディティー"擬態化"を獲得。]
こうなれば、やる事は決まっている。
即虚空空間へ移動。
虚空源史化とゲゼルシャフトを駆使して速攻進化。
ハイドアビディティー"出虚異"を虚空源史化に統合。
それにより、虚空源史化が少しパワーアップしたようだ。
元の場所に戻る。
そう考えると人間は凄い。
そう改めて認識させられた瞬間だった。
ガルガンチュアも同じ事を考えていたのだろうからか、ステータスをじっと見ている様だった。
「.....おーい、大丈夫か?」
「あ?あぁーすまん!凄くて見惚れてしまった。」
「おおー、まじかよ。こいつは嬉しいな。」
「お、おう。」
「ふっ..あ、じゃ次はゴヴェルノだな。」
「やっと俺か。..ええと、俺はゴヴェルノ。まあよろしく。あと、俺のステータスだ。」
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冒険者ステータス
名前:ゴヴェルノ
種族:欧羅巴族
職業:剣士
属性:水、光
ランク:B
経験値:14000(Aランクへ昇格可)
総魔力量:1340
魔力コントロール練度:20%
潜在性:140%
アビディティー:創造思考、思考加速、水流化、洸線化、水災刈命剣、聖架領速
状態:ほろ酔い
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剣で受け流すタイプの技と剣を光のレーザーでできた様にする技。
必殺技と加速系の技か。
まあこれが、普通か。
これでもある程度の魔物は倒せる。
取り敢えずこれが冒険者の平均的な強さだと覚えておこう。
相変わらず私は創造思考にしか目がいかない。
どうしてもこれだけは欲しい。
それ以外は割とどうでもいいが。
何しろ私は人間の認識されている属性の系統のアビディティーは無難に操作系アビディティーに進化させておいたから、なんでもありになるのだ。
何をするかの発想は無いが、これをやれと言われれば大抵のことはできそうだ。
そして、残り4人のステータスも拝見した。
どうやらその他の人は、今日冒険者になった人だったようだ。
気にするほどではなさそうだった。
「...さあ、ラウトさん。あんたのステータスを。」
ガルガンチュアがステータスを見せる。
...予想通り、皆が騒ぎ始めたのを見て私はガルガンチュアに彼らを頑張って説得する様にと、いった。
十数分後、私の誘導で魔術もできる奴という設定にしてなんとか乗り切った。
そしてそのまま話は魔法の事になり、店が閉店する直前に大慌て。
結局明日の午前中に集まる事になり、今日はそのままお開きになった。
ちなみにローは、ずっと寝たままだった。
どうすればと私達が困っていると、サブの粋な計らいによりローの面倒を見る代わりにサブの家へ泊めてもらう事になった。
如何でしたでしょうか?
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また次も、お楽しみに!