5.虚無
猫又族の元へと向かったミダラ達。
...果たしてミダラ達の安息の場所はあるのか?
猫又族。
知性があり、何より化ける事が得意な種族である。
人間に化けても、おそらく勇者ダンケルクが気づかないレベルで。
とにかく何かに化けるのは超一流な一族である。
昔、父によく連れて行ってもらった物だ。
そして、族長は私も知っている。
幼い頃に遊んだ事があるからだ。
猫又族の集落は、私達のいた山のさらに一つ奥の山にある谷にある。
そこまで遠くもなく、死ぬまでには確実に着きそうな距離だった。
迷えば一発アウトだが、メロウの千里眼があるのでなんとかなりそうだった。
結局2日かかったが、なんの問題もなく集落の谷まで来た。
猫又族はヘトヘトな私達を労ってくれた。
傷を癒してもらい、族長に事の顛末を伝えると、
「しばらくここで休んでなさい、できたら住める場所も探しとくから。」
と言われた。
しかし、長く留まるのは少し危険だと思い、2〜、3日だけ滞在させてもらう事にした。
2、3日だけなので、族長の空いている部屋を使わせてもらった。
気がつけば、日も暮れて1日目も終わりを迎えようとしいた。
食べ物も美味しく、用意された部屋も三人で過ごすには充分な広さだった。
ただクインだけは、むしろより一層落ち込んでいっていた気がした。
私達は寝る前の習慣、毛づくろいをする。
正直言って私達は今まで滅多にやらなかった事だった。
不意に、幼い頃母が毛づくろいを手伝ってくれてたのを思い出しまた涙が出そうになった。
それを見たクインも目がうるうるとしていた。
「ぅぅっ……」
「……辛いよね。こんな風になって。」
「……」
クインは図星なのか違うのか、全くメロウの言葉に答えない。
「…僕だって後悔している。あの時なんで馬鹿みたいな選択をしたのか。」
「……」
「ねえ、もうやめて…」
「いいや違う!あの時の選択は正しかったんだ!」
「ね…」
「それに、僕たちだって魔物だけど何も人間に憎まれる事してない!そもそもなんで勇者と魔王は対立しなきゃいけないの?お互いが手を組む道だってある筈なんだ!それなのに、なんで……僕たちは…」
「…」
思えばそうだ。
..人間と魔物、何故対立するのか。
人間からした、その一般的な理由は“話が通じない”だ。
人間は平和を望んでいるのにあっちが駄目。そう決めつけている。
一概にそうとは言えないのに。寧ろそうではない魔物の方が多いのに。
これはある古参の魔王の悩み事の話だったと父は語ってた。
魔物は、人間に怯えて生きている。
人間も、魔物に怯えて生きている。
..何かピースが当てはまらない感じがする。
何故なのか考えた。
…わからない。
だが解決する方法は、ある。
「ねえ…なら私達が最強になればいいんだよ。」
「……んなっ?そんな馬鹿な…」
「メロウ、この世がおかしいと思うなら変えればいいじゃない?」
「……でも、できるのか?」
「私達ならできる。」
「…そうよ。それしかないのよ。」
私とメロウを遮って、クインが唐突にそう言った。
震えてる。
でもその震えは、恐怖や不安と言った様なそれではなく、武者震いの様だった。
「私は、やるわ。」
「「………」」
「この世界を変える。…魔物と人間が手を取り合える様になるまで。」
「………私は賛成。」
「…そうだね。..少なくとも僕らはそうするべきなのかも。」
私達は、猫又族にその話をした。
みんないいねいいねと、頷いてくれてた。
猫又族は化けるのは上手いため人間にやられる事はなかったそうだ。
しかしながらやはり化けるのは面倒らしい。
その為、何か困ってる事があればここへこいよ!と言ってくれた。
嬉しくて、私達はみんな涙した。
私達は御礼の感謝を言って、猫又族の集落を出発した。
猫又族にはいつか恩返しをしようと思った。
その後日、人間にコンタクトを取ろうとした。
冒険者だった。
暴れられても困るので、最初は気付かれない様にして、襲いかかる。
弱そうなので拘束して、話を聞いてもらう事にした。
父から人間語を教わった事がある。
結構できた筈だ。
やる意味がわからなかったが、こんな時に役立つとは思わなかった。
父には感謝しきれないな。
「私の名前は、ミダラです。」
「……!?喋った?!」
「今回は、あなたにお願いがあってこうしました。」
「……っひいい!なんでもするから逃がしてくれえええ!」
「…?今なんでもするって、」
「あ、っはい!はい!言いました!」
「では、あなたは私達の仲間になりますか?」
「………はい?」
「…ならn…」
「ああああぁああぁー!はいはいはい!なりますなります!」
「本当ですか?」
「ももももちろんです!」
「…名前は?」
「ふぁいやああああああああ!!あ、ぁえっと、ダルクでぇすう。」
ダルクは私の笑顔に動揺しまくっていた。
私が少し微笑んだけなのに。
やはり何かあるのだろう。
ここはひとつ言っておく方がいいか。
「…何もしませんよ、私はあなたに渡したい物があるのです。」
「………はぁ?」
そしてその後に私達は平和を望んでいるということ、私達は知能が無いわけではないこと、今後は人間と貿易も出来たらと思ってる事。
彼は頷いていた。
「……わかりました。じゃあ、付いてきてください。うちへ案内しますよ!」
「ありがとうございます!」
私達は彼についていく。
彼はかなり友好的だった。
さっきまであんなに怯えてたのが嘘の様だった。
だが何故か私達がとおった道にそっくりな場所が多くあった。
しばらくすると、何か肉が焼けたような匂いのする焼野原らしきものが見えてきた。
……猫又族の集落だった。
しかし、そこには黒く焦げた何かがあった。
周りに魔力は感じない。
途端に、ダルクが大笑いし出した。
彼の頭から魔力が溢れ出し、消えていく。
それが次第に首、上半身、下半身、つま先まで移動していった。
私達は咄嗟に身を引いた。
…ダルクは別人になっていた。
あの顔は、一度会ったら絶対に忘れられない顔だった。
その名も……………
勇者ダンケルク。
元々身長は彼の方が高いが、圧倒的覇気の所為でゆうに100メートルぐらいの身長差がある様に感じた。
「…残念ながら、君達の負けだよ。」
「………っくうっ!逃げるよクイン!ミダラ!」
「遅い、な。」
次の瞬間、彼の剣がメロウを貫く。
メロウは血反吐を吐く。
ダンケルクが剣を軽く振り、反動で剣から離れたメロウは床に激突した。
…メロウは未だに生きていた。
「「メロウ!」」
しかし彼は答えない。
彼は震えている口からなにか言おうとしていたが、口の中の血がごぽっと音を立てただけだった。
目の光はもう既に消えかけていた。
最期に彼は溜まっていた血反吐を思い切り吐き次に…
「生きろ。、っ」
言葉を吐いた。
目の光が消え失せ、彼は動かなくなった。
彼の顔は、苦しかった何かを吐いたあとの様に幾らか楽になった様に見えた。
その姿に、私とクインは心が折れそう…いや折れてしまった。
しかし彼の思いを無駄にはさせない。
死者の思いを無にするわけにはいかない。
そう思い、折れた心を元に戻す。
...今、一緒に生き延びた命が一つ減った。
残りはあと一つ。
どうしても守らなければいけない。
「さあ、次は誰だ。」
しかし剣を空振りさせて鈍く、しかし鋭くもあり聞き惚れてしまいそうな金属音を出し、ダンケルクは言った。
私は咄嗟に彼女の前に立った。
「…ほほう、度胸があるな。」
「……」
「ならこれでどうだ。」
ダンケルクから火炎魔法が出てきた。
彼は魔法を使った。
...魔術師でもないのに。
びびったが、咄嗟に水氷魔法を使い相殺。
そして魔力感知で背後のクインを確認…
出来なかった。
クインは目の前にいた。
首を腕で組まれて動けないでいる。
何が起こったのか理解ができなかった。
いつのまにかである。
気配すら感じれなかった。
「さあ…あと一人か。」
「……っ!クイン!?」
「逃げて!!」
「…で、でも。」
「いいから逃げてミダラ!!!あなただけは絶対に生き残って!!!!!」
「5.....4....」
ダンケルクはゆっくりと剣をクインに近づけていく。
クインは叫びながら、私に逃げろといった。
さあ、選択の時だ。
今ここでクインを助ければ、二人は少しだけ生きる時間が与えられて死ぬ。
逃げても、どうせ2秒だけ遅く殺されるだけだ。。
普通の私なら、クインと一緒に死ぬのを選ぶ。
しかし、私は逃げた。
あの時と同様に、また走った。
「3…ふっ、やはり臆病っ?」
ダンケルクは何かを言いかけたが、顔を真っ青にした。
振り返る。
クインが光り出していたのだ。
とてつもないエネルギーが溜まっていく。
クインは最期の最期に、フェイトアビディティー“絶星”を発動した。
このアビディティーは、発動者の命を引き換えに半径1kmに超高温の熱を発する。
この広範囲なら、倒せる。
ミダラはアビディティー何処か別の場所へいけるから、確実に助かる。
クインはそう思ったようだ。
そしてこのアビディティーは、発動者が極度のストレス状態になければ使えないという条件があった。
クインが勇者ダンケルクに命を懸けて、自分ができる最大の攻撃を解き放つ。
クインは、光を放ちながら私に向かって微笑んで、こう言った。
「生きて、ね?」
私が虚空空間に移動する直前、ダンケルクは目を閉じながら、氷結魔法を発動していた。
しかし重度の火傷を既に負っていた。
私は涙を流しながら虚空空間に入る。
入る直前、クインは爆発した。
...ギリギリ間に合った。
少し火傷はあるが体は大丈夫だった。
しかし、私の心はもう何処かへ行ってしまった様だ。
…そして、またあの空間である。
しかし上を見上げると、クインの思念波とような物が漂っていた。
それが私に入って行く。
そして、その最期の思念と伝言に私は涙した。
私は自分を呪った。
結局、何もできなかった自分。
そして、何もかもをなくす。
私が辿りつく場所はやはりここ…
虚無だった。
如何でしたでしょうか?
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