4.苦痛
ダンケルクの魔術師 VS ミダラ達。
勝負の行方は...
「……………作戦は話した通り。じゃあ、みんな準備はいいか。」
カガリの小声で、作戦開始前の最終確認がされた。
みんなは交互に頷いていく。
そして、[悪知恵キッズ、魔術師を撃沈!作戦]がスタートした。
前提として、いくらどうやってもダンケルクは倒せない。
自分達で戦うにはレベルの次元が違う。
ダンケルクは後回しだ。魔王でなければ戦いにさえならない。
そこで第1段階、先程いた魔術師を倒す。
理由は二つ。
1つ目、魔術師は対魔物職の様な職業である。
魔術師はその名の通り魔術を専門とした職業である。
故に人間が森を歩く時は魔術師と一緒にいる人が多いそうだ。
そして魔術師はアビディティーとして‘魔力感知’を保持している。
単純な結界や魔力を使った攻撃は避けられるか、跳ね返されるかである。
阿保な魔物を倒すにはうってつけの職業である。
つまり、ここで相手の戦力を削っておく必要があるのだ。
ちなみに、ダンケルクは何処かへ行った様で今目の前にいるのは魔術師だけだった。
おそらく私達を相手するにはこれで十分だと思っているのだろう。
それも考えると今が相手の戦力を削減するチャンスという事だ。
二つ目。
何より、魔のつく職業を生業とする者以外では魔法を使えない。
故に追跡も難しくなる上、万が一追跡された際、最強勇者とて魔法を使えないとなると、かつては最強魔王だった父に苦戦を強いられるのだろうという事だ。
さらにここでもし戦力不足で撤退した場合、位置を把握される事なく再度結界を張れるのだ。
運が良ければ結界の罠にハメれるかも知れない。
先に動いたのは魔術師。
相手が弱そうという余裕からか、歩いてきている。
先ずは、トラップである。
魔術師には殆どの魔力の流れは見切れてしまう。
そのため、今回は山で培ってきた地理力と日々重ねてきた悪の実験の成果をバリバリの魔法の法則や理論抜きでやろうということ。
加速術も使わずに作られたトラップなど誰が引っかかるか。
そう言わんばかりに強化魔法を駆使し、難なく避ける。
そこで、2段目のトラップ発動。
木の枝から無数の針が現れ、魔術師を襲う。
これも咄嗟の防御魔法で防がれる。
すかさず3つ目、着地点に泥沼を用意しておき、木の板を敷いて置いた物を2段目のトラップが発動した時に取り外したのである。
成功…しなかった。
引っかかったが、足場氷結魔法で凍らせ、身体強化を最大限に高め粉砕した。
その間六秒。
次は直接攻撃。
固有アビディティースキル、アイアンクロウ。
カガリが魔術師に正面から襲いかかる。
またもや咄嗟に魔法を発ど…
「「「させるかああ!」」」
私、メロウ、クインによる結界剥離魔法。
私が家からの脱出の為に開発した、魔術師への必勝法。
中には通用しない程の強い結界もあるが、通用した様だった。
魔術師、結界が発動しない事に気づきまた身体強化をして、後ろに跳び、目の前の攻撃をかわそうとする。
「おおっりゃああ!」
そして、メロウが後ろからも殴りこみ。
流石の魔術師もここは食らっていた。
そのままアイアンクロウ。
致命傷を負わせる。
次は私が結界を発動。
範囲麻痺毒結界である。
さらに念押し、クインも魔法針で魔術師の心臓を貫く。
溢れ出る血。
しばらくの沈黙。
…ついに悪知恵キッズは、魔術師を倒す事に成功した。
「「「「やったああああ!」」」」
私達はかつてない程の喜びと興奮で満たされた事により油断していた。
そして、自分達の功績の証拠の為に魔術師が使っていたマントを持って、集落へ帰った。
帰る足取りはゆっくりだった。
魔力を感じ取れる魔術師がいなければ、追跡も出来ない。
そう考えたからだ。
森を抜けて、村が見えてきた。
村と一緒に、私の両親も見えてきた。
みんな何か疲れ果ててそうが、それでも喜びが、嬉しさが湧き上がっている様な感極まった顔をしていた。
「………あっ、お父さん!」
「……もういい、話は後だ。」
「お父さ…あっ。」
抱きしめられた。
おそらく、父は泣いてたと思う。
よかった、よかった…っといった父の顔はいろんな水でぐしゃぐしゃしていた。
嬉しかった。
同時にこれ以上の悪ふざけはやめよう。そう思った。
過去は変えれない。
気づいた時にはもう遅い。
この事態は、予想できた。
自らの命を犠牲にすれば、大事なものを救えた。
叫び声が聞こえた。
父の顔色が変わってた。
結界が広がり、真核を感じられなくなった。
そこにいた皆が恐怖した。
振り向いた先に立っていたやつは、
勇者ダンケルク。
疑問より先に冷や汗が湧き出てきた。
後ろには倒した筈の魔術師が広範囲結界をはっている。
つまりさっき倒したのは、分身体だったのだ。
..子供でも倒せた訳だ。
そして私達は、まんまとダシに使われた訳だ。
逃げなきゃ。いや、もうダメなのか。
目からも汗が出てくる。
父が咄嗟に前へ出た。
「…お前たちは先に逃げてろ。生きのびれるかもしれん。」
「でも…父さんが、」
「うるせえ!逃げろっつってんだ!」
父が声を荒げたのは初めてだった。
すると、父の纏うオーラに変化が起きた。
父は振り返り、紫色のオーラを発しながら言った。
「…生きろ。お前はその資格がある。」
何を言われたか意味が分からなかった。
そして父はダンケルクと対峙する。
ダンケルクは嗤っていた。
その嗤いの中に、カオスを感じた。
まるで地獄を体現したかの様な表情だった。
そこから先は覚えていない。
ただ走った。
障害物を避けながら。
地形が変わる程の凄まじい攻撃から逃げながら。
気がつけば、村の近くにあった山を3つも超えた場所にいた。
戦いの影響か否か、周りの木が枯れている。
幸い片目をやられただけでそれ以外はかすり傷と切り傷だけでそれほど深くもなかった。
ここまでくれば大丈夫。そう思い膝を落とす。
しかし同時にまだ駄目かもという不安、誰も周りにいない孤独、自分の今までした選択への後悔。
泣いた、ひたすら泣いた。
何度も、何度も。
もう回数なんてわからない。
そして泣き疲れたころにやってきたのは、虚無。
そして私は、力を得た。
イレギュラーアビディティー、虚空空間。
自分自身を虚空の場所に移動させる事が出来る。
その空間の中では、自分が絶対の支配者。
その空間の中にいる間、現実世界では時間が一切経たない。
加えて、腹も減らず、眠る必要もなく、歳もとらない。
唐突に、かつ無意識に発動したアビディティー。
状況が掴めず、呆然とする。
しかし、しばらくしてそれでもいいと思った。
..どうせもう私にあの世界にいる理由なんてないのだから。
そして、私は現実逃避をし始めた。
誰もいない筈の空間に妄想で人を作り出し、独り言を喋る。
何回やったか?そんなのどうでもいい、ひたすらそれをし続ける。
しかし…逃避すればする程、虚しさと、悲しさと、後悔がどんどん虫食いの様に心を蝕んでいく。
やめてみた。
事実は、受け入れなければいけない。仕方ない事だ。
きっと、次は自分だ。
ふと現実へ帰りたいと思った瞬間。
景色が変わり、枯れ木が生えている場所に戻っていた。
一瞬涙ぐんだが、覚悟を決めた。
勇者ダンケルクに、一矢報いると。
「「ミダラ?」」
あの声だった。
死んだかと思ってた友達。
生きていたのだ。
振り返る。
そこにいたのは、クインとメロウ。
二人とも満身創痍だったが走れなくはなかった様だ。
私は嬉しかった。
けど、先に聞かなければいけない事がある。
「…あの、カガリは?」
「……死んだよ。」
「私達を迫り来る戦いの余波から守るためだけに…」
「気づいたらここにいた。」
「…そうなんだ。私のお父さんは?」
「…証拠はないけど、おそらくもう…」
「…そっか。」
「…なんで、どうして。」
私達だけ生き延びるの?
もしダンケルクを見つけた時に違う選択をしたとしたら、
もしかしたら自分達以外の大勢の命は確実に助かったはずなのに。
ここにいる全員がそう思った。
しかし同時に、友達が生きていた事にも安堵と喜びを覚えた。
生き残ってくれた友達にそれぞれ感謝の眼差しを送りあった。
涙はとっくに枯れている。
でも、それでも出てきた。
そう。まだやるべき事はある。
一矢報いるのは無しだ。
まだ全てを失った訳じゃない。
ここにいる二人を守る、それが第一。
そう思った。
そして、私達は猫又族の集落へ向かった。
如何でしたか?
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