23.出逢
声の主は....
...先ず疑問が浮かぶ。
何故声が?
ここは虚空間、私しかいないし操作もしていない。
なのにだ。
...いや、違かった。
ここは虚空間では無かったのだ。
虚空間は通常、どこまでも黒い場所だ。
もちろん私がしようと思えば、全体の色も変えられるし、架空的に物も色々作れる。
だが基本は黒だ。
理由は、単に黒が好きだからだ。
だがここはどこまでも赤色だ。
だが、どうやって...
まあ、今考えててもダメか。
取り敢えず、違う場所なのはわかった。
つまり、ここは...!
恐怖という感情が久しぶりに湧き出た。
後ろの誰かは、ゆっくり私に近づいてくる。
私は尋く。
「何故、私をこの場所に?」
「まあ、私のアビディティーかな?」
「...何故私?」
「あなたが“ミダラ”だから?」
咄嗟に振り返る。
目の前に現れたのは、ある女性だった。
その女性は綺麗だった。
桃色の髪の毛をしていて、瞳孔が六角形だった。
だが同時に私は理解した。
この人は死んでいると。
真核がないからだ。
魔力だけで形を保ってる。
だがその見た目だけは、確かに生きた証がある様に思えた。
まるで、細胞が、真核が、喜んでいるような感覚だ。
「私は、パンドラ。...厳密にはその残された意志。」
パンドラという女性は、凛とした綺麗な声で喋る。
何処か懐かしい。
「....」
「そうでしょうけど、あなたがミダラという人なら、伝えなければならない事がある。」
「...私はミダラ。妖狐族。」
「そう。...では先ずパンドラ、つまり私について紹介するわ。」
するとパンドラは、指を鳴らす。
刹那、記憶のような物が脳内を駆け巡る。
彼女は神の世界の住人だった。
神とは真核を完全に理解し、尚且つ智慧の実、いわゆる創造思考を得た魔物、もしくは魔物の因子、別名生命の実と呼ばれるものを持った人間の事をいうらしい。
神となった者は神だけが存在できる世界、エデンに行くことができる。
そして、彼女はその中でも格段に強く、当時ではその先の次元の神と言われる全世界、いや全次元の中でも最強の一角だった。
因みに六角形の目は次元を司る神の証だと言う。
次元とは、その世界の空間を表す一つの指標であり、世界はそれによって区分され、真核の周波数を独自に変調し、新たな真核を産み出す事により次元間の移動が可能になると言う。
世界とは、真核の周波数が正弦曲線、つまりサイン波を描きながらループしている空間の事をいう。
彼女には友達がいた。
エーテルという。
エーテルは彼女と同じく、私達の世界で人間として生まれ、一緒に過ごしてきた数少ない親友だった。
彼は人間の時、拒食症で痩せこけていたが、頭がきれ、知識人でもあったらしい。
努力をし、来る日も来る日も魔物の事を考え、勇者になり、真核を理解し、同じく次元の神になったという凄いやつだったという。
だが、ある日。
彼は突然殺し合いを仕掛けてきた。
彼はパンドラが憎かったのだ。
自分が弱いのに、何故パンドラだけ努力しなくてもなんでもできて、強いのか。
なのになんでそんな優しくするのか、自分からしたらそれは愚弄でしかない。
辛かった。隣で。
...殺し合いの前にそんな事を言われたらしい。
そんな事は思ってなかったのに...。
その言葉には死ぬより辛かった思いをしたそうだ。
結果は、ギリギリエーテルの勝利だった。
敗因は、パンドラ自信の精神的な疲労と、彼の今までの裏工作だった。
なんと、神になった瞬間から他の強い神へ手廻しをしていたらしく、最終的にパンドラを他の世界に飛ばしたらしい。
他界へ飛ばされるまではまだ良かったが、ある呪いをかけられ2度と神の世界に戻れなくなった。
だがまだ彼女には切り札があった。
真空創史化…
当時、この次元に存在していた唯一のヒアティックタイプアビディティーであり、次元の神になる近道になったという。
彼女はそのアビディティーをメインに、自らの命を捧げ、ある禁術を発動した。
フェイトアビディティー“鬽義仁邛”。
このアビディティーは、自分の真核を代償に新たなる次元を創り、ありとあらゆる物を其処に昇華させ、全ての不可逆性質や概念を変え、生命に寿命がない世界を築くと言うものだ。
だが...
それは不発に終わる。
神の世界での最強の存在だった彼女でさえ、それを行うには真核が足りなかったのだ。
その結果、自力で神の世界への呪いを根性で押し退け、神の世界の真核を抜き取り、魔界と呼ばれる世界を創り出す事に成功...
しなかった。
それも最終的にエーテルに阻止され、止むを得ず元々あった自分達の人間界と融合させてしまった。
智慧の身だけを宿す人間の世界に、生命の実だけを宿す魔物という存在がその世界に介入する。
そして、両方の実を揃えれば神になれる。
この原理は真核の根本的な欲求を刺激する。
原理自体を知らなくとも、そうしたがる。
真核を持つ生命は必ず、互いの実を欲しがる。
それは、両者が実を奪い合う終わりが見えない大争奪戦、謂わゆる人魔対戦が始まることを意味する。
彼女は力尽きる間際、最期の力を振り絞り、この争い、ひいてはエーテルの愚行を正す為にある仕掛けをする。
それが勇者と魔王の因子の存在。
勇者の因子とはパンドラの創りし最期の希望。
次元の神の領域に達し、終わりのない戦争終わらせ、エーテルを殺す切り札となりうる存在に付与される因子である。
対して魔王の因子は、勇者と対立した関係でより勇者を強くする為に存在するものである。
だが、その因子の存在でさえもエーテルに知られ、ほぼ機能しなくなる。
万策尽きたパンドラは、死に征く中で最後の最後の賭けに出る。
真核を消し、魔力だけを保ち、勇者の因子を持つ者が何かの要因で真核を理解し、神も領域へ至るその瞬間まで、真空間という自分のアビディティーの中で待つ事にしたのだ。
もし現れた場合、勇者の因子の影響でその場で即本体を召喚されるらしい。
つまり...
勇者の因子を持っているのはダンケルクではなく、私という事になる。
ではダンケルクは?
ここで駆け巡る感覚が途切れる。
鈍い痛みが全身を襲う。
...奇妙な静寂が訪れる。
「どう?...なんというか、ごめんなさい。私達の事なのに巻き込んじゃって。」
「...。」
「他人の所為で、平和な世の中が崩れて、あなたも大事な人を失った。」
「...何故それを?」
「判るのよ。あなたが大事なモノを無くした人だって。」
「...そう。」
「でも世界は平和を求めてる。」
「...。」
「このままでは世界のバランスが崩れてしまう。」
「...。」
「...あなたは不思議ね。もし私があなただったらいやでも拒否するし、そうでなくても本当にそうなのかと疑う筈なのに。」
「...一つ質問を。」
「いいよ。」
「貴方が言っていた平和って、どういう平和?」
「生き物が争わないというか、無駄に殺し合わなくなるし、神達も今よりもっと良く過ごせるじゃん?」
「...どうしてそこまでしてそんなことを?」
「大事でしょ?」
「そうだけど...何故そんなに希望に縋ろうとするの?何故死んでも諦めないの?」
「…それはね、うーむなんて言ったらいいんだろう。
...なんとなくそうする方が後悔しないかなって思ったから。」
「...。」
私は考える。
あの時、ダンケルクから逃げて、自分だけ生き残った事。
それは無駄だったのか。
そう、決して無駄ではなかった。
私は生きたかった。
私にだって心はあった。
だから、どこまでも深い絶望も、死ぬほど辛い悲しみも、退屈の中の幸せも、徒労にある浪漫も感じれた。
それにどんなにギリギリだって耐え切れたんだ。
そうして今、必死に希望に縋っている彼女がいる。
なんだ。
「...?」
「...そういう事だったんだ。」
「...大丈夫?」
「...うぐっ、ぐっふっ、ううぅ..。」
「ちょっ...はぁ。」
私は泣いた。
今まで抱えてた気持ち悪い25億年分の何かが、どんどん消えて行った。
パンドラを困らせてしまったので謝った。
私は、今まで無いぐらいスッキリしていた。
「...ごめんなさい。」
「いいのよ。まあ分かるわ、なんとなく。その気持ち。」
「うん...。」
整理はついた。
今やっと、諦めていたあの二人との誓いを果たせるかも知れないんだ。
...さあ、25億年越しの汚名返上だ。
取り敢えず...
「...行きなさい。」
「ん。」
先ずは、人間になろう。
お待たせ致しましたっ!!!!
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