18.刺激
休暇二日目。
朝、起きた俺たちはいつもよりもゆっくりと装備をチェックし、宿を出発する。
今日は冒険者地区を出て、貿易地区でお買い物だ。
久しぶりに、備品を買おうと考えての事だ。
貿易地区では色々な物が売っている。
貿易地区の品揃えは装備や食べ物、生活必需品のみならず、家具から芸術品までもが売られている。
毎日色々な人が行き交う、活気のある場所だ。
ベッカがうきうき楽しそうに歩きながら独り言を呟いている。
「今日は、なーに買おっかなー。お守りとかいいなー、あー、あれもいいなぁー、けどそしたらあれが買えないー。どうしよおー。」
それをよそに、話す俺ら。
「...師匠もなんか欲しいもんあるんすか?」
「俺か、俺の今のトレンドは電気を利用して闇を簡単に照らす、懐中電灯だ。」
「へー、そりゃあ便利っすね!」
「サヴォイは何か欲しい物はあるか?」
「自分は回復系統のポーションならなんでも。」
「了。」
「うっへー、なんかサヴォイもっといいのないんすか。」
「じゃあ、お前のその生意気な態度を買収したいな!」
「ひぇええ。すみませんでしたあぁぁー。」
そんな会話をしながらしばらく歩いていると、貿易地区の入り口が見えた。
門をくぐり、人の混雑を避けながら少し奥へ進むと、お目当ての場所が見つかった。
「きた、」
「ここが..」
「トイストア!」
「ふむ、遊び心が溢れてるいい場所だ..」
「「それじゃあ、レッツゴー!」」
そう言って入り口を開けるベッカとザック。
慌てて中へ入ると、ものすごく広い空間が広がっていた。
周りをみていると早速、懐中電灯を見つけた。
10レアルだった。
...思ってたよりも安く手に入れそうだ。
皆もそれぞれ欲しいものを探しているようだ。
その様..
!?
咄嗟に振り返ったが誰もいなかった。
誰かに肩を叩かれた気がしたが、気の所為だった様だ。
何だろうと考える。
...思い当たる節もなしだ。
それなら、考えなくてもいいか。
そしてその他の部分を少し見回った後、みんなを探して集合させる。
「さて、みんな何を買うかおしえてくれ。」
「僕はこの収納箱っす。」
「私は熊さんのぬいぐるみ!」
「自分は回復薬4つ。」
ザックの収納箱は、非常に小さく、正六角形をした魔術式収納が出来る物だ。
魔術を使えれば、中で自由に仕分けも可能らしい。
そしてその容量は、水5000リットル分。
本人はこれで好きな武器をコレクションするらしい。
30レアルだ。
ベッカのぬいぐるみは、可愛らしい見た目にも関わらず何もしなくても一定時間結界を貼る事ができる。
さらに一定量の魔力を貯めておけば重力系や転移系魔法も使えるらしい。
これは流石に60レアルとお高めだった。
サヴォイの回復薬には、回復時に魔力が強化される成分もあるらしい。
しかも、特殊な調合により使うたびに薬に対する耐性が出来、回復薬が効かなくなってしまうという問題もないという優れものだ。
お値段は4つで40レアル。
本来は140レアルだが、勇者の俺は無料になるので、全部で130レアルだ。
今500レアルあるので、とりあえず買う事にした。
「全部買うか。」
「「「ありがとうございますー!」」」
支払いを終えた後、それぞれ自分の荷物入れにしまっていく。
みんなにやけが止まらない様だ。
それを見ているとほっこりして俺がにやけてしまうので大変だ。
その後、色々な場所を見た。
子供の頃ひたすら修行に励んだ俺にとっては、どの場所も新鮮で、輝いていて、とにかく楽しかった。
ちなみに道中で声はかけられなかった。
色々な人がいる場所という性質上、有名人も結構通る事が多いためだ。
そのため、有名人がいてもあまり話しかける事はないそうだ。
こっちからすると楽でいいが。
そんな事を考えてると、サヴォイから昼になったので食べに行こうという提案があった。
という事で、近くにあった料理店へ行く。
店内は空いていて、なかなかいい雰囲気の場所だった。
食事も豪華で、味も癖のあるものだったがそれが斬新で病み付きになる物だった。
チャーハンというものらしい。
普通あまり食べないサヴォイも完食し、育ち盛りのザックとベッカは普段の2倍も食べていた。
美味しい食事を終えた後、新しく生産地区の外に出来た、釣り場というところに行った。
釣りは、爽快だった。
魔物を狩っている感じと感覚が似ている。
トドメを刺すのもまた楽しかった。
久しぶりのこの感覚に、喜びを覚えた。
しかしながら魚を釣るのは、単に釣るのが目的ではなく食べ物を確保するという側面もあるらしい。
保存方法に困ったが、ザックが氷結魔法で魚を凍らせ、さっき買ったあの箱にしまってくれたので解決した。
とりあえず遊んだので、行政地区へ行ってみることにした。
念のための挨拶だ。
何故挨拶するか?
この国の行政地区の客寄せ効果と他の地区との連携はかなりよく出来ている。
これが情報や物の流通などが早い訳なのだ。
そのため、この国に根をはっておけば色々と都合がいいのだ。
行政地区も、上品で小洒落た感じになっていた。
前は臭いところもあったがそれも無くなっていた。
いい感じである。
そして誰に挨拶するかだが、元国王が良いだろう。
王政が廃止された後でも王族の権力は強く、現在でもこの国の最高議決機関の会議の議長をやっている。
という事で今、城下町と城本体を繋ぐ橋の前にいる。
城は相変わらず立派に黒光りしていた。
その橋の下には非常に深い堀があり、人間なら落ちれば確実に素手では戻れないほどの高さだった。
門番は俺に気づいた瞬間、
「橋を開けろおぉぉぉぉ!」
と大きな声をあげると同時にベルの様なものを鳴らす。
からんからんという音とともに、目の前にあったただの鉄の板の角度が下がり、橋になった。
そのまま橋を渡る。
みんなすごいすごいと言っている。
堀の底に何があるか気になったのでちらっと見たが、何もなかった。
なんかあるかなとおもい期待したんだが...
橋を渡り終わると、目の前に屈強な肉体を持つ汗臭い男が現れた。
だがこれは汗臭くなるだろうと失礼ながら思ってしまった。
何しろ、防具が異常な程重装備なのだ。
金で出来た頭の二本のつのの様なものが、その黒い重装備によく似合っていた。
「我こそは、侍のケンシンでござる!ダンケルク殿、なんの御用でござるか?!」
「国王様に会いたい。」
「承知でござる。では、こちらでござる。」
ケンシンはそういうと振り返り、そのまま前へ進む。
俺たちもついていく。
城の中へ入り、綺麗な回廊を進んでいく。
城内は変わっていた。
豪華なものがより質素になり、洗練されている。
そのまま道なりに歩いていく。
すると、玉座が見えてきた。
そのまま玉座の前へと言う言葉を言い、ケンシンはそのままはじへ寄る。
玉座の前で止まり、俺たちはそのまま玉座へ目線を向ける。
そこに座る者は言う。
「久しいなぁ。ダンケルクよ。」
「そうですね。」
「?敬語はよさんか。今は王ではないのだ。そして儂は敬語が嫌いなのだ。」
「ああ、悪かった。」
「まあ、良い。...それで今日はなんの要件だ?」
「ゾルダが死んだ。」
沈黙。
「...なるほど。それで儂に後ろ盾を..」
「お願いしたい。」
「わかったぞ!いいだろう。儂が後ろ盾になってやる。」
「ありがとう。」
「ふんっ、礼は言える様になったのだな。」
「まあな。」
「下がるがよい。あと、これぐらいの事で来なくても良い。」
「...心配だったから来た。」
「ぶあっはぁはあああっ!やはりダンケルクは変わっとらんのお。」
念を押さなくてよかった様だ。
少しため息をついて、後ろへ向き、そのまま元の道へ戻る。
色々終わったのでとりあえず今日は寝る所を探す事にした。
結局夜遅くまで見つからずに、昨日と同じ場所で泊めさせてもらった。
はあ、今日も疲れた。
そう思いながら眠りにつく。
いつもアンチブレイバーを読んで頂き、ありがとうございます!
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