17.休暇
ダンケルク一行は何処へ?
数日後...
聖粛者規定に基づいて、ゾルダの死亡が認定された。
今さっきのヴァースからの報告でもあった通り、勇者キャメロットの暗殺計画もうまく実行されたようだ。
ディエップが何故聞いてきたかはわからないが、暗殺の理由など聞くまでもないだろう。
大したこともしていないのに勇者の優遇政策をいいように使い、会議では毎回議長という役割をして都合のいいように会話を誘導させようとした勇者などいらない。
現にキャメロットの現役時代、そこまで大したキャリアはない。
ある程度強力な魔物は倒せたらしいが魔王級のやつには苦戦していたという話だ。
確かに苦労人主義が好きなのはわかる。
しかしその思想では、魔物の進化に追いつけない。
従って、そういう考えは淘汰すべきなのだ。
その考え方の違いから、勇者になりたての頃に殺されかけた。
俺を騙し、理不尽な量の魔物を、仲間を傷つけないというハンデをつけられた上で戦わせた。
だから、あの時と同じ様に、トラップを仕込み、幻術をかけ、魔王級の魔物と対峙させた。
若い頃でさえ苦戦してたのに歳をとって鈍くなったのか、一撃もくらわせずに死んでしまった。
みっともない姿だった。
泣きずりまわって自分の武器に刺されて死ぬというなんともかわいそうな死に様だったのだから。
おっとっと、落ち着け俺。
ナンセンスが嫌いなのは昔っからだろうに。
そのまま声に出そうだった。
現在は、馬車で移動中である。
あの会議の後、キャメロットの誘導とゾルダの捜索などをしていた。
そのあとに久しぶりにあそこへ行きたくなったのだ。
どうせ暇だし息抜きもしようと言う事だ。
サヴォイが馬車を走らせてるあいだに、俺とザックとベッカは馬車の中で休憩をしている。
いつも通り馬車の中で寝ているベッカをよそに、ザックと雑談をしていた。
「師匠ー、なんか忙しくなってきそーっすね!」
「ああ、だが俺はこういう忙しさを求めてはいないんだ。」
「まあまあ師匠!ここはポジティブに考えましょうや!」
「ははっ...そうだな。」
「うんうん、大丈夫!師匠ならなにもかも上手くいきますよ!」
「ああ、ありがとう。」
「いいえいいえ!いいんっすよ師匠!」
「....おまえはいつも明るくていいな。」
「...師匠、今日死ぬんですか?」
「?何をいってるんだ??」
「え。あ、ああ!な、なんでもありません!」
「なんだよ。」
「あっははははぁー。」
「それよりも師匠、最近冒険者で妙な噂があるらしいですよー」
「なんだそれは?」
「確か、冒険者の新入りがいきなりCランクらへんだったって話とかなんとか。」
「なるほど?」
「あー、えーまあなんか大した事ではないっすよー。だって僕ら既にSSランククリアしてるんで。」
「まあ、そうだな。」
「えっとあともう一つあって、ええとぉぉ...」
「しばらく待つか?」
「いや、あきらめるっす。すいませえん」
「まあいいさ、それぐらいどうでもいい事だって事だ。」
気付けばもう夕暮れ。
夜行性の魔物が特に出る場所なので、気を引き締める。
念のため、というより毎度ではあるがベッカも起こして馬車の周りに結界をはった。
ベッカの寝起きの髪型は凄まじい。
しかし面白い事に髪型でその後の天気がわかるという謎の能力も備わっている。
例えば今日の髪型は、太陽みたいなボッサボサ加減なので、この後は晴れになる。
そして我々は、共和国アグロスへ向かう。
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朝。
共和国アグロスにつく。
天気は快晴。
今我々は、冒険者ギルドの目の前に立っている。
ギルドの酒場ならゾルダについて何か知っている人がいるかもしれない。
こちらとしては、生きていてほしい存在ではある。
色々と世話になっていた事もある。
もし生きているならば、言葉ぐらいでもかけてやりたい。
もし死んでいたとしても、何か供養出来るものはないかと探している。
...最近、俺はおかしい。
何故か、普通が特別に感じるような。
この普通が消えてしまいそうな..予感がするのだ。
「ダン?」
「ん、あ。失礼。」
「...最近大丈夫?疲れてる?」
「まあ少しな。久々に忙しい期間があったからな。」
「師匠...」
「なんだ?」
「自信持ってくっさいよ。ダンケルクですよ?確かにゾルダがいなくて寂しいのは分かるんすけど、それだったら尚更っすよ?」
「?...ああ、おまえのいう通りかもな。」
「絶対そうっすから、信じてくださいって。」
「ああ。」
どうやら疲労が顔に出てしまったようだ。
まあ、だが少し軽くなった。
ここからはこの休暇を楽しもう。
そして、この休暇が終わったらまた頑張ろう。
そう思い、ギルドに入る。
みんなすごい目で見てきた。
憧れの目で見る者、化け物を見る目で見る者、特に気にしない者。
久し振りに来た酒場は、視線以外はいつもどおりだった。
と同時に、僅かだが変な雰囲気を感じた。
あの雰囲気だ。
あの三つ目とあった時の...。
「ねえ、ザック。」
「っなん?」
「匂い、おかしいよね。」
「あれ?..あ、ほんとだ。」
「なんかこことか、魔獣っぽい匂いがしたけど...」
「うーむ、でもいま匂わないから気のせいじゃね?」
「うーん、そうかな。」
「匂いがしたのは本当か?」
「まじっすよ、師匠。」
疲れの所為か、少し胸が早鐘を打つ。
ふらふらして、椅子に座ってしまう。
「師匠!大丈夫っすか?」
「あっ、あぁ。」
「もー、無理しないで。」
「なんかすまない。」
「まあまあいいかr...」
「オメエら、どけぇー。そこは俺の席だぁ!」
「「「?!」」」
酒場の空気が凍りつく。
そいつはどうやら酔っ払っているようだ。
俺が俺だという事に気づいていないらしい。
フラグだ。
このままだと...
「はようどけ...」
「ウルセェ。ぶちのめすよ?」
「あ?..ガキンチョが舐めた口きいてんじゃねえぞ?」
「あなた、私が誰だと?」
「んなぁしるか!はよどけ!」
「...嫌だと言ったら?」
「ああ、女の子だからって容赦はしねえぜ!」
「ハンッ!」
「っ!ってめぇ!...なっ!」
殴りかかる馬鹿の全力の拳が止められた。
奴の身長の七割にも満たない背丈の少女が、だ。
そしてベッカは鋭い眼光を馬鹿に向け、ずっしりと重い言葉を言い放つ。
「もう一度だけいうよ?うるさい。」
「っっっひっ!」
「あなたの席は用意してあげるから、二度とダン...いや、ダンケルク様にそういう態度をしない事ね。」
「あ、っへ?ダンケルク?!?!」
「さもなければ、今度こそ容赦しないよ?」
「うっは?..うわはああああああ!!」
馬鹿は真っ青になって逃げた。
そいつの逃げた跡には、液体がばらまかれていた。
「...ハッ!..すみません。」
「いいや、いい。大丈夫だ。」
「怖えええぇ。」
すると、店の人が一人、申し訳なさそうに話しかけてきた。
店長のようだ。
他の店員も、掃除をしている人、こちらをチラ見してきている人もいる。
「ああのお、すみません。..ダンケルク様ですよね?」
「...あ、ぁあそうだが。」
「やっ、やっぱり!」
店長がそう言った瞬間皆の目が輝き、一斉に駆け寄ってきた。
「ぁぁぁぁ...だめだこりゃ。」
そのあとは無料で料理を出され、お酒も飲まされ、終いには握手会まで開かれるなどで大変だった。
まあ嬉しいは嬉しいが、ここまですると流石に凄く疲れてしまった。
「....はあ。」
「本当に..忙しいっすね。」
「..やばいね。」
突然、後ろから机が動いた。
そしてそのまま机を引きづられ、いつ用意したか分からないが円形のテーブルがあった。
そこの真ん中らしき場所まで連れていかれ、気付けばみんな座っていた。
店長の掛け声。
「それじゃ、皆さん。勇者ダンケルクに...」
「「「カンパアアイ!」」」
どうやらやばい事になりそうだ。
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もう少しで夕方の時間ぐらいになり、やっとの事で抜け出せた時、俺は千鳥足になりかけていた。
観光を楽しんでたサヴォイはこの疲れ具合を見てやばいと思ったのか、近くの宿泊施設を予約するといいふらふらな俺ら三人と一緒に宿を探している。
「師匠..。あちゃー。」
「これは不味いね。」
「うぇっ。」
「ダン?!大丈夫?」
「ああ。すまん。」
「「はぁーー。」」
とりあえずの宿を見つけて、そこに泊まる事にした。
もしやここも...と思ったが、杞憂だった。
宿の大将と女将さんが労ってくれたのだ。
VIPルームを用意してくれたり、なるべく一般の人に見られないようになどなど、色々な事を配慮してくれた。
こうして、久しぶりにかなり疲れた俺らは、きちんと睡眠を取り、昨日をすっかり忘れて、朝を迎えたのだった。
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