16.来訪
タナロットにて......
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円状に並んでいる椅子。
そこに座る、強者達。
朝から眠たいが、他はそうではないらしい。
数時間前...
「その噂は本当か?!?」
聖粛者ゾルダが死んだかもしれないという噂が入ってきた。
彼はめちゃくちゃ強い。
下手な勇者よりはよっぽど優秀だ。
そもそも死んだとかいう話も聞かない。
しかし...どうも信憑性があると言うのと、普段そう言った噂も出ない程死ぬ事自体があり得ないと思われた人物。
この噂は本当なのかもしれない。
そう考える奴が出てきたのだ。
それだけの理由で、年に一度の筈のABCの緊急バージョン、エマージェンシーブレイバーコンセルが開かれた。
議会に出させられて、詳細の説明もなし。
その上大騒ぎだ。
朝のコーヒーを抜いてきたこっちからしたら迷惑でしかない。
「噂の信憑性は?」
「パワーバランスはどうなるんだ!?」
「それだけでは無い、政治的な問題はどうする?!」
ダンッ!と言う衝撃音がなった後、静かになった皆がそこを向く。
「落ち着いてくだされ。まだ噂なのは噂じゃ。パワーバランスについてはこれから話し合うんじゃろ?」
現存する勇者の中で最高齢の勇者、キャメロット議長が言った。
ただ、あまりいい評判はないが。
すかさず立ち上がり異議を唱えるのは、この会議の中一人だけスーツをきていて、独特な髪型も特徴的な勇者、アマデウスさんである。
「しかし、勇者ダンケルク氏はまだ来ていない。彼なしでは進む筈が無いだろう!」
そう言って、アマデウスさんはキャメロット議長の隣の誰も座っていない席に指を差す。
「如何にも。しかし彼はもうすぐにつくであろう?」
「..っ?!ちっ。親父はやっぱ勘が鋭いな。」
その直後、ギィーと言う重い扉が開く音と共に現れたのは最強勇者のまさにそれ、ダンケルクだった。
彼の後ろには、3人の仲間がいた。
そこにいる全員が、おおおぉと驚愕と感嘆が入り混じった声をあげた。
当然である。
勇者の攻撃をも抑えられるその扉を押す力だけで開けた。
その事実が目の前にあるからだ。
だが議長だけは、驚きではなく恐怖していた。
何故だろうか。
「すまない!待たせてしまった!」
「おや、これはこれは、ダンケルク。どうして遅れたのじゃ?」
「聖粛者の報告を受けたのは3時間前だ。」
「ほほー...まさか走ってきたとは。まあ座りたまえ。」
するとダンケルクは議長の隣の席へ座る。
他の連れは何処か外へ出掛けるようだった。
「....ではさてと。それではこれからEBCを始める。本日の議論の内容は、ゾルダの死による勇者のパワーバランスの崩壊の阻止と政界へどういう干渉をしていくかの対策を、考えたいのじゃ。」
「「「.....」」」
「聖粛者ヴァースよ、入ってくれ。」
すると目の前に一人の聖粛者が現れた。
表ではあまり有名では無いが裏ではネクストゾルダとも称された、ヴァースだ。
聞いた話によると、聖粛者の中でまともにゾルダと会話する者は自身の家族とヴァース、そしてダンケルクぐらいしかいなかったそうだ。
口の字型の机に囲まれて、緊張の色を隠せないヴァースだったが呼吸を揃え、挨拶をする。
それを終えた後、議長が質問を開始する。
ここにいる勇者総勢15名が、ヴァースと議長の会話に耳を傾ける。
「先ず、ゾルダはどういう人だったかね?」
「ええ、先ず彼はあまり交流的ではありませんでした。彼は人との時間をほぼ全て自分や興味ある事だけの時間に費やしてました。」
「それはどれぐらいの時間を費やしているのだ?」
「先程も言いましたが彼はずっと自分を磨いていました。聖粛者の中でも高い地位に経ってもまだ満足せず、挙句に政治にまで手を出し始めた奴です。」
「なるほど、しかし仕事仲間から友達になるというのもあるじゃろ?」
「おそらく彼は仕事仲間としか見ていません。仕事の中に友情は見い出そうとはしてはいないのです。政治をやったのもおそらくそう言う政治家向きな考え方があっての事なのだろうかと思われます。」
「しかし....本当に全部そうとは思えんぞ。」
「はい。しかし彼自身が言っていたのですが、本当に信頼や尊敬しているのは家族とダンケルク様だけだそうです。」
「ほう?」
「ダンケルク様には幼い頃から憧れていたらしく、彼が聖粛者になった最大の理由とも言ってました。」
たしかに、相当な実力を持ちながらも25歳という若さ。
数々の魔王を屠り、殺したと言うと実績がその強さを物語っている。
最強勇者、人間の限界を捨てた男とも言われる男だ。
気に入られたくもなるだろう。
ゾルダにもその方が都合がいいからな。
「....よろしい。」
「ハッ!」
「ではそれを踏まえて、だ。この中でゾルダと繋がっていた、もしくは仕事で関わった事がある者はどれぐらいおる?」
手を挙げたのは、議長以外の全員。
「...ふむ、では何も言うまい。ここではパワーバランスに特に変化は無さそうだ。」
この勇者という職業、常に強さを求められる所がある。
勇者になったらある一種の強迫観念が付いてくる、それぐらいな程に。
そしてその強さは、個々がどれだけ融通が利くかにも作用してくる。
パワーバランスとは、その個々の権力のバランスの事だ。
故に強さが無い勇者は、色々な手を使いでもして、パワーバランスを均等に保たなければ、最悪勇者を辞めざるを得ないという。
そして、同職者からの妬みが半端なく強い事で有名でもある。
一年前に成立した「勇者相互保護法」。
この保護法は、勇者はいかなる手段を用いても、勇者を殺してはならない。そして、その代わりお互いを支援する。もしこれを破った場合、勇者の称号を剥奪する。という法律だ。
この保護法が無ければ、今でも覇権争いで殺し合いが起こっていた事だろう。
無駄に争うのが嫌いな俺からしたら、ラッキーな法律だ。
「では、とりあえず一件終わったな。」
独り言を呟く議長に水を刺すアマデウスさんの一言。
「まだ、一件だ。次の方が重要だ。」
「全くわかっとるわい。でもこの年になればこの会議でさえ体力使うんだからのー。」
「....俺から提案がある。」
「?!?!」
ダンケルクからだった。
最強勇者の称号がつくほど強い。
故にパワーバランスは偏りがある所があるが、本人の性格の良さの所為かあまり提案をしない。
そして今、彼の提案をどうするべきか。
だが彼からの提案は、どちらにせようけいれなければいけない。
愚策ではなければいいが...。
「...してその提案とは?」
「この問題は全てヴァースに任せたいと思う。」
「ふむ。」
「彼はゾルダと並ぶほどの実力者だ。」
「だが、それを判断するのには実績が足りないとはわしは思うのじゃが...」
「なぜ皆わからない?彼は自分を隠しているだけだ。下手したら、あんたの息子さんより強いぐらいだ。」
「!?なっ!」
「いいか。こいつは俺と同じくらいの歳から格上の魔物と戦ってきた男だ。見ればわかる。」
「っっでは、この聖粛者は、勇者より強いとっ...?!」
「ああ、その通りだ。」
衝撃発言だった。
なんという事だろうか。
アマデウスさんは、強い方だ。
この世にいる勇者は現在15人、彼はその中の5位である。
そう、それを越えるという事は確実に勇者ぐらい強い事は確かだということになる。
何故隠しているのか、気になる。
裏のニオイがプンプンする。
この発言を未だに信じきれない議長はヴァースに質問をする。
「..くっ、ど、どうなのかね?ヴァース。」
「っっはっ。流石ですね。」
「...いや、その目を見ればわかる。」
「なるほど....ゾルダがあんなに尊敬する理由が今わかりました。..ダンケルク様、これからは色々と是非ごひいきに。」
「ん?ああ、よろしく頼む。」
「そこまで言うなら、何か証明する..!?」
ダンケルクから、禍々しい程の魔力が放たれた。
それは、明らかな脅迫。
しかし、此処にいる全員がそれに対抗できる力を持たない。
すなわち、この案が採用されるのは間違いない。
「...それでは政治的案件はヴァースに任せる事になるが、それで良いかな?」
「ハッ、承知致しました。」
「協力、感謝する。」
「くそッ!」
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議論の結果、ヴァースが全て後処理をする事となった。
そしてパワーバランスは変わらず、あとは噂が本当かどうかという事らしい。
ただ、その結果次第では大変な事になりそうだが。
十二年前に開かれた前回のEBCでは、終わった直後から覇権争いで殺し合いになりかけたという話を聞いていた。
今回はそうならずに済むといいがと考えていると、
「君がディエップか。」
ダンケルクから声をかけられた。
「ああ、その通りだ。初めてまして、というべきかな。」
「まあ、どっちでもいい。」
「ふっ、確かに」
他愛もない挨拶をした後、ある相談を持ちかけられた。
「突然だが、君に相談があって声をかけた。」
「...して、その相談とは?ダンケルク。」
「...キャメロットを暗殺する。」
どうやら、嫌な予感が的中したようだ。
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ついに令和ですね!
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