15.変化
ゾルダの噂は遂にダンケルクの元へ.....
「あの...ゾルダが?」
その聖粛者からの報告に戸惑いを覚えるのはサヴォイだった。
「はい!まだ噂ではありますが、信憑性もあるため報告させて頂きました!」
「遺体とか遺品とか、そう言ったものはあるのか?」
「いいえ、ただゾルダ様自身も身につけていた物も確認出来ていないのが現状です!」
「...とりあえず報告ご苦労。ゾルダの行方の調査を頼む。」
「ハッ!」
そういうと、俺に報告を終えた聖粛者はつま先から消えていった。
どうやら分身術を使っていたようだった。
噂であることはわかっているが。
もしも嘘ではなかったらかなりやばいかもしれない。
噂になる話の流れは2パターンある。
一つ目が、デマ。
二つ目が、本当。
まあ、当然のことだ。
このケースだと、本当だった場合を考えるとゾッとする程だ。
彼を塵一つ残さず消すのは俺でさえ骨が折れる。
つまり、少なくともゾルダを消した存在はかなり強いという事だ。
とするとまず考えられるのは、政府の暗殺部隊か何かか。
彼は生まれが良く、有名な貴族の御曹子だった上に政府関係者という地位もあった。
勇者のための特別な政策や渡航制度、ひいては政治的地位を作った天才でもある。
その他の政治家や貴族連中にはいい目をされるはずもない。
しかしながら彼は聖粛者の中でもトップクラスの強さである。
何処ぞの暗殺部隊だろうが何だろうがにやられるはずがない。
ベッカもどうしてか考えているが、寝起きで頭が回らないようだ。
うーん、うーんとずっと言っている。
ザックはそもそも考えていない。
ボーッとしているだけだ。
....考えたくない可能性が浮上する。
魔物にやられたという事だけではない。
その魔物が真核を知っている存在がいるかもしれないという可能性だ。
ゾルダは強い。
なので俺はある技を教えた。
あの真核の妄想が浮かんだキッカケだった。
それが聖惰破滅粛正波である。
この技は、呼応型だ。
俺の中にある魔力、あるいは真核をゾルダに呼応させ、同調させることにより場所や時間を関係なく魔物に効果的な攻撃を与えることができるアビディティーだ。
つまり、俺の魔力でいつ何処にいても俺の攻撃をレーザーとして浴びせる事ができるのだ。
彼の魔力操作の技術は俺とほぼ互角と言っていい程だ。
生まれが良いからか、幼い頃からずっと教えてもらっていたのだろう。
よって、俺が出せる聖惰破滅粛正波とほぼ同じ出力が彼には出せる。
それを使ってでも負けてしまう相手。
ゾルダを木っ端微塵にすることができる相手。
そんな俺でも手こずるかも知れない芸当をやり遂げる相手。
何かの不安感と興奮に全身が包まれた。
「?どうしたっすか師匠?」
「...ゾルダは魔物にやられたかもしれない。」
「え、どうしてそう考えてるんっすか?」
それから俺は、自分の考えを説明した。
ザックとベッカは信じられないという顔だ。
無理もない、彼らはまだ10代前半だ。
彼らが俺の弟子になった時には魔物の権力は既に弱まっていた。
格上の魔物などと相手するはずもなく、平和に強くなってきたのだろう。
サヴォイはそうでは無いようだ。
彼は年上だし、戦闘経験や知識では俺よりも彼の方が上だ。
納得はいく。
格上の魔物はたしかに強い。
しかしながら相性や技量、ひいては手持ちのアビディティーによって、その勝利の結果は変化する。
さらに、人間には逃げるという発想があるが魔物にはそういう発想がない。
なので死にそうになったら逃げればいい。
まあもちろん強くなるのが目的なら逃げるという選択はおススメしないが。
…昔、サヴォイはそんな風に言っていた。
サヴォイは元冒険者だ。
倒す敵こそ弱かったが、冒険者をやめて俺の父の元で実践修行して、かなり強くなった。
その条件として、一年間俺の御付きをする事になった。
その期間はとっくのとうに終わっているが、本人はずっとついていきたいらしいので今は一緒にパーティーをやっている。
……だが、噂は噂だ。
噂の大半は酒場などの悪ノリで生まれた嘘だ。
おそらくこれも嘘だろう。
「まあ、まだそうとは決まったわけではない。落ち着け。」
「あ、そっか。」
「言われればそうだな。」
「あっぶねー、話の流れでうっかりもう死んだのかっておもっちまったっす。」
「え、なにその新手のバカは?」
「はっは、お前らしいな。」
「うっ...くうぅぅ。」
「…だが、油断は禁物だ。俺は本当の場合の際にも備えるべきだと思う。」
「ダン、どうするの?」
「うーむ。少し考えさせてくれ。」
「おっけだよ!」
もし死んだのが事実なら、その後が大変だ。
聖粛者とは、勇者にとっては必要不可欠な存在である。
雑魚の掃討、伝達役、商人との武器や防具についての意見交換、ひいては政治案件。
様々な場面で活躍してくれる。
代償は、安全。
つまり、加護を授けると言う事だ。
俺の場合は、聖堕破滅粛正波を教えた事だ。
聖粛者がいなければ勇者達は魔物を倒し切れなかったり、人間自身に騙される事だってあり得る。
お互いの安全性を確保する為にこの職業が存在する。
しかし、聖粛者が死ぬと少し厄介なのだという。
聖粛者の死による勇者のパワーバランスの崩壊が起こりかねないからだ。
勇者は、聖粛者を生業とする知り合いや友達、仕事仲間が多いほど他の世界での権力の融通が利きやすい。
経済、政治、開発、色々な方面において。
現にゾルダが良い例だ。
そして、勇者達自体も権力争いをしている。
アニュアルブレイバーコンセルという、年に一度開催される、勇者たちが今後の方針を決める会議がある。
通称ABCだ。
おそらくそこでも議論に挙がるだろう。
もし彼が死んだとなれば、誰が代わりをするのかという事だ。
彼程の実力者は、そうそういるものではない。
しかしながら、そこの面の問題はあまり重要では無いかもしれない。
彼以上の実力は無いが、相当な程に頭のきれる奴を知っているからだ。
本当に警戒しなければならないのが、他の政治家や貴族の動きだ。
勇者達の為の多くの政策や改革は、貴族としてのゾルダの権力やコネによって半ば強引に作られたものと言っていい。
それほどの権力と頭のキレを持っていたという事だからだ。
その彼が居なくなれば、必然的に勇者が政界に干渉する力は弱まり、政策などを廃止させられる可能性がある。
なら、先ずは....
「...タナロットへ向かうぞ。」
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