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3.夜の平野にて

「ねえ、ストレンジ。サーカスの練習をしてるのなら僕達の街に来るの?」


 ネイムはてっきり、このクラウンと星のサーカスが春の祭りに来るものだと思い聞いてみましたが、ストレンジはキョトンとした顔をしながら、首を横に振りました。


「残念だけど、僕達のサーカスは、ここよりずっと遠くで開かれるよ。僕は、たまたまここで練習していただけなんだ」

「そうなんだ……」


 ネイムは、自分達の街に星のサーカスが来ないことにガッカリしてしまいました。ですが、それと同時に1つの疑問が浮かびます。


「でも、あんなにジャグリングが上手だったのに練習なんて必要なの?」

「もちろんだよ! 僕はまだまだ半人前だからね」

「本当?」

「本当さ」


 ストレンジのジャグリングを間近で見ていたネイムは、彼の半人前だなんて言葉が信じられませんでした。そんなネイムの疑いの眼差しに気付いたのか、ストレンジは苦笑いをして頬を掻きます。


「本当だって、僕なんか、まだサーカスのクラウンを勤めて300年しか経ってないよ?」

「え!? さ……300年!?」


 300年なんて、ネイムには想像が付きません。

 一体、このクラウンは何年生きているのでしょうか。もしかしたら300年なんて話しは出任せで、自分の反応を見て楽しんでいるのかもしれません、ネイムは、少し訝しんでしまいますが、それも一瞬のことで、後は気にしませんでした。

 

 何故なら、あれだけ器用にジャグリングをこなしていたこのクラウンには羨望の眼差しを向けることの方が大きかったからです。

 そんなネイムは、このクラウンにある質問をしてみようと思いました。


「ねえ、ストレンジもサーカスをしていて怖い時があるの?」

「怖い時? 勿論! 怖い時もあるさ、沢山のお客様が僕達の演技を観に来て下さるのだから嬉しいけど、その反面、皆の視線がいっぺんに集中するから緊張も大きいよ」

「そうなの?」


 ネイムは、自分が抱えている悩みに近いことを、このクラウンが持っていることを意外に思いました。 そんなネイムに、ストレンジは軽く飛び跳ねたり、帽子を取ってクルクルと回しながら答えます。


「だから僕達は、失敗を少なくする為にも、サーカスの皆で練習をしたり、たまにこうして人間の居なさそうな所を見付けては個人的にも練習に励んでいるんだ」


 そう答えた後に、ストレンジは「まあ、どうしても失敗する時はあるけどね」と小声で言うと苦笑いをしながら帽子を被り直しました。

 そんな様子を見ていたネイムは、クスリと少しだけ笑うと、最初に思った疑問にようやく行き着いたことを思い出しました。


――そうか、あの光はストレンジが練習をしていた光だったんだ。


 ようやく平野で放つ光の謎が分かったネイムは、心に霧が掛かっていたようなモヤモヤが綺麗に晴れていくのを感じました。

 

 ですが、謎が晴れてすっきりとした顔のネイムと違い、ストレンジは少し眉根を寄せて、手を顎に乗せながら「うーん」と唸ると、ネイムに不思議そうに問いかけてきました。


「そういえば、ちょっと謎なんだけど、君は何で夜中のこんな場所に居るんだい?」


 このストレンジの問いにネイムは正直に話してみることにしました。

 ストレンジは最初、ふんふんと話しを聞いていましたが、何故ネイムがここに来たのかと理由を知ると、アワアワと慌てながら「わー、それはごめんよ! 今度、もしまたここに来た時には気を付けるよ」とネイムに対して謝りました。


 こうして、お互いの謎に納得し合えた2人でしたが、ネイムは、もっと他の話しを、特に自分の悩みを聞いて欲しいと思い、祭りでの発表会のことや、人前では緊張してしまい上手く動けないことを話し始めました。 


「なるほど、君も大変なんだね」

「うん、僕もどうすれば上手く出来るのか分からないんだ」

「うーん、多分だけど、君は必要以上に失敗を恐れているのだろうね。失敗して皆が自分をどう思うかを君はとても怖がっているのさ」

「えっ?どうして分かったの!?」

 

 ネイムは目を丸くしてストレンジを見ました。ストレンジの言うことは当たっていたのです。

 もし失敗した時に笑われると、とても恥ずかしくて情けないと思ってしまうのです。


 そんなネイムにストレンジは笑顔を向けながらストレンジ自身を指差していました。


「それはね、君が僕に似ているからさ」

「?」

「僕も最初はそうだったんだ、最初は失敗したらどうしよう、皆に悪く言われたらどうしようと怖くて、なかなか上手く出来なかったんだ」

「そうだったのか」


 失敗するのが怖いのは自分だけではない。

 ネイムにとっては少し安心できましたが、それでも自分がどうして良いのかまだ分かりません。だからこそネイムは、自分の悩みを理解してくれるかもしれないストレンジに続けて不安を述べてしまうのでした。


「それでも、やっぱり失敗するのは怖いな」


 ネイムの不安を聞いていたストレンジは「その気持ちは分かるよ」と言いながら笑顔でネイムに話し掛けます。


「でもね、失敗は誰にだってあるんだよ? 僕にだってそうさ、最初から上手くいく人なんて殆ど居ないんだ。失敗したのならその事実はしっかりと受け入れる。そうして次にどうすれば上手くいくかを考える。例え何回失敗しても諦めずに精一杯頑張って弱さを克服していくしかないんだ」


「そうかな? 僕にも出来るかな?」

「そうだよ、僕だって出来たんだから、君も出来るよ」


 不安げに聞いてきたネイムに変わらず笑顔を向けたストレンジは「まずは慣れていこう、それに君が変わる機会は沢山あると思うよ」と言いながら頭を撫でてきました。



「あっ、話しは変わるけど他に君と似ているのは君と同じようにサーカスが好きなんだ」

「ストレンジもサーカスが大好きなんだね」

「うん、大好きさ! それに僕達の演技で多くのお客様が笑って幸せになってくれるからね」


 少年のような笑顔で、心から楽しそうに笑うストレンジを見ていると、いつの間にかネイムも同じように笑っていました。

 お互いにサーカスが大好き、それはよりこのクラウンに親近感を覚えたネイムは、あるお願いをしてみることにしました。



読んで頂き、ありがとうございました。

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