2.不思議なクラウン
続きです。句読点の打ち方が怪しい気がしてきました。
丘を下り、大きな岩まで近付いたネイムは岩陰の横からそっと顔だけを出して、案山子の方を見てみました。ですが、やはりそこには他には誰も居らず、1体の案山子しか居ません。
ただ見ているだけでも、その案山子は、奇妙としか言いようがありませんでした。
まず特徴的なのは、人よりも長い手足、服装は黒のフロックコート、その下に白いシャツを着て、まるでどこかの貴族の格好のようで、これまた貴族が被るようなシルクハットの帽子を頭に被っておりました。
それと案山子の顔もしっかりと描かれており、顔は全体的に白く塗られ、口のある部分は頬まで伸びたような赤い口紅が塗られており、左右の目の部分には三角と四角のペイントが施され、両頬には黄色の星型のペイントを施されているようでした。
ネイムも、今までこんな案山子は見たことがありません。
ネイムは暫く、この奇妙な案山子の様子を見ていましたが、特にはそれ以外は変わったこともなく、段々と飽きてきたので、そろそろ帰ろうかと考えていた時でした。
突然、案山子の閉じていた目が開き、口もゆっくりと動いて「ふわーあ、少し寝てしまったのか」と喋り始めたのです。
――動いた!
なんと、案山子だと思っていたそれは生きていたのです。
ネイムは、ビックリしてしまいました。この奇妙な格好をした人は人間なのか、それとも本当に平野に居る化物なのかと思い、足を震わせながらも凝視することしか出来ませんでした。
「ふー、じゃあ最後はあれをして終わりにしようかな」
そう言うと、その奇妙な人物は空を見上げてまた動かなくなりました、そして暫く空を見ていたかと思うと、おもむろに両方の長い手を空に掲げていきます。
すると、先程まで空に輝いていた星星が降り注ぎ、その人物の周りを漂い始めたのです。
ネイムがその光景に呆然としていると、その奇妙な人物は、周りに漂う幾つかの星星を手に取り始めました。そうして、幾つかの星星を手に取り暫く眺めていたかと思うと、今度はそれらをまるでボールのように放り投げ始めたのです。星星は輝きを放ちながら、ヒョイヒョイと空を舞い、またこの奇妙な人物の手に掴まれると、また軽やかに星は放り投げられ、そしてその人物もまた星を掴んでは放り投げてを繰り返していました。
――あっ! これは、ジャグリングだ!
この動きを見ていたネイムも、これがジャグリングであることが分かりました。
ただ、普通のジャグリングではなく、星星をボールにしていることに驚きを隠せませんでした。
また、早さも普通のジャグリングと違いました。
最初は、ゆっくりと放り投げていたのが、段々と早さを増していき、気付けば目も回るような早さでジャグリングをしており、それらを投げ終わると長い手を器用に後ろに回しながら星星を掴んでいきました。
これを何回か、または何十回かは繰り返して、その奇妙な人物は、最後には誰も居ない平野の方に繰り返しお辞儀をしていました。その時に、ネイムの隠れている岩の方にもお辞儀をしてきたのでネイムは気付かれると思い、慌てて岩陰に頭を引っ込めましたが、この奇妙な人物は、ネイムのことには気付いてない様子で、お辞儀が終わると先程まで手にしていた星星を軽く両手で抱きしめていきました。
「協力してくれて、ありがとうね。さあ空にお帰り」
そう言ってから空に放り投げると星星は、キラキラと螺旋状に輝きを放ちながら空に帰って行きます。 気が付けば、ネイムは先程までの怖さも忘れ、岩陰から身を乗り出して呆然とその光景を見ていましたが、あまりにも綺麗な光景だったので、どうしても我慢できずに、拍手をしてしまいました。
――パチパチパチ
ネイムの拍手の音が聞こえたのか、その奇妙な人物は顔をこちらに向けて少し驚いた様子でしたが、直ぐに笑顔になって、「やあ、こんばんは」と挨拶をしてきたので、つられてネイムも「こ、こんばんは!」と挨拶を返しました。
「こんな夜中に人の子なんて珍しい、ああっ、怖がらないで、何もしないから」
そう言って、その奇妙な人物は長い手でネイムに対して手招きをしました。
ネイムは、この人物が言い伝えの化物ではないのかと思い少しだけ躊躇してしまいましたが、不思議と怖さは感じられずに、その人物の元に近付いていくのでした。
近付いて改めて実感できたのは、その人物の背の高さです、人間の大人なんかよりも倍もあるだろう長い手足に、胴体も長めなので近付けば近付く程に、ネイムはその奇妙な人物を見上げる形に、この奇妙な人物はネイムを見下ろす形になりました。
この奇妙な人物は、ネイムが近くに来ると笑顔で「来てくれて、ありがとう」と言い、それでも何だか照れているかのように長い手で頬を掻きながら話し始めます。
「さっきのを見ていたのかい? 恥ずかしいな、まさか夜中に人間の子供が居るなんて思わなかったよ」
「あの……、その、ごめんなさい!」
ネイムは黙って見ていたのを怒られると思い、咄嗟に謝り俯いてしまいました。
ですが、その奇妙な人物は長い手を自分の顔近くで振りながら躍けてみせて「大丈夫!気にしてないよ」と笑っています。ネイムは、そんな様子を見てホッと安心すると、この奇妙な人物は何者なのだろうと、また新たな好奇心が芽生えてきたのでした。
「あの、えっと、あなたは誰なの?」
「おや? これは名乗らずに失礼! では、改めて初めまして! 僕の名前はストレンジと申します。どうぞ、お見知りおきを」
ストレンジと名乗ったその人物は、シルクハットの帽子を取って軽くお辞儀をしました。
「ぼ、僕はネイムです」
「おおっ、自己紹介ありがとう。君の名前はネイムか、良い名前だね」
「えっと、ストレンジ……さんは? こんな所で何をしているの?」
――僕には「さん」はいらないよと言いながら、シルクハットを被り直すとストレンジはニッコリと笑い、長い手をネイムの顔近くに近付けて、人差し指をピンと立てました。
「僕はね、星のサーカスという所でクラウンを勤めているんだ。それでね、1年に1度だけ開催されるサーカスの練習の為に来たんだよ。ここは夜中には誰も来ないからね。うん、練習するのにちょうど良かったのさ」
「サーカス!?」
「そうサーカスさ、とっーても大きなサーカスのね」
そう言うと、ストレンジは、手足の長い体を器用に振りながらクルンと一回転しました。
「星のサーカスは、この世界や他の星のお客様、沢山の方々が見に来られるんだ。だから僕達サーカスの団員は観客の皆様が満足して頂けるように個人的にもこうして練習しているんだよ」
「えっと、この世界? 他の星から? ねえ、どんなお客さんが来るの?」
ネイムは良く分からず興味津々で聞いてみましたが、このクラウンはニコニコ笑った後に長い人差し指を自分の口元に近付けてシーと動作をすると、
「詳しいことは……内緒さ」
とウインクして、また躍けて笑っていました。
ネイムは、この掴み所のない人物に若干、苦笑いしてしまいましたが、だからといって不快感はなく、何故か話しを聞いているだけでも次第に好感を持ててしまうのでした。
読んで頂き、ありがとうございました。




