1走目 免罪
逃げろ。全てから。何が何でも。生きるために。
俺、20歳、もちろん男。名前は マリ
ふっつーの田舎生まれのおひとりさま。
母は幼い頃に病気で死んでしまって、顔なんてどこの一つも覚えちゃあいない。
父は国の徴兵で出て行ってしまった。これも幼い時だったがまだ顔はぼんやりとはわかる。気がする。
そんな俺は今、田舎を14で出てその国の王都で暮らしている。
っと!こんくらいで脳内自己紹介は終わっとくか!今はそれどころじゃねえ!
後ろを見ると顔を真っ赤にし、眉間にシワを何本も入れ、大声でこっちを追ってくる人がいた。俺は人通りの多い道を外れ、曲がり角が多く、何かとお世話になっているその路地を駆け抜ける。
何故か逃げることが多い俺はここをよく通る。
「待て!このクソ野朗ォォォオオ!!!」
ひーこえーこえー。なぜこんなことになっているか、それは数分前に遡る。
…10分前
俺はさっき言った人通りの多い通りを歩いていた。その通りには朝から夜までほぼ一日中露店が並んでいる。ちなみに今は昼だったわけだが、まあそんなどうでもいいことは置いといて。
今俺を追ってるおっさんはそこの一つの露店の店主さんだ。
ん?俺誰に向かってこんなこと言ってんだ?まあいいか。
んーそうだな、そう…そうそう!これは俺が悪くない、無実ということを再認識、確認するためにやっていることだ!いや、なんだよそれ。ま、まあ俺は頭の中での独り言が多いんだ。
彼は頭の中は状況整理も行いつつ、独り言もしながら自分にノリツッコミもするなどで大忙しだった。
さーて話がずれちまったが、つまり俺はそこの露店の商品を盗んだ!
………んじゃなくて、盗んだ人を見たんだ!
俺はパッとそいつをひっ捕らえてもうすんなよって言って許して、逃してやった。今の状況になった原因はここからの出来事にある。分かりやすくするとこんな感じだ。
そいつを逃した後、当然俺はこう思った。
さ。返しに行きますか。と、
俺が振り返る。と、
なんか怒ってるおっさんがいる。なんか、
おっさん、俺の手元見る。
はい誤解。
そして今に至る。
「待てえええええ!!!このクソ泥オオオオォォォォ!!!誰か!あいつ泥棒です!!」
「ちげーよ!!なんだったら、……ほらっ!返すから!」
俺はこりゃダメだと思い、商品を投げるのは失礼だと思ったんだが、話し合いもできなそうなので、仕方なく後ろに向かって、パス程度に投げた。つ、も、り、だったのに!!!
その商品、つまり赤の結晶は結晶というだけあってまあまあ重く、そしてそんな丸いわけもなく、尖った部位が結構あった。だからパス程度に投げたんだ。危ないから。でもその 商品はそんな俺の気も知らず、おっさんの顔面に飛んでいった。
「て、て、…テメえええええええ!!!!」
流石にパス程度に投げたとはいえ、あのおっさんも走って来ていた、ましてや顔面ともなれば普通に怪我は免れない。おっさんが顔を抑えながらこっちを思いっきり睨んでいる。本当すいません。
俺は謝ろうかとも思ったが、この状況で謝っても結果は分かっているので、悪いと思いながらもおっさんが顔を抑えている隙に逃げることにした。
はあ、なんでこんなに運がないんだ…。当たるか?普通。
確認してなかったとはいえ後ろに投げて顔面、しかもそんなど真ん中に当たるか?そんなにおっさんは前屈みになって走って来てたのか?おっさんに見つかった時、逃げなきゃよかったのか?そこでしっかり話せばよかったのか?
…それかさっきの泥棒捕まえときゃよかったか?
そんな思考が彼の頭に浮かぶが、すぐに否定された。なぜならその泥棒は小さくはないがこっちでいう中学生くらい女の子だったからだ。
昔、同じようなことをしていた彼には、今のような子を責めることはできなかった。何か事情があるに違いないと、そう思うのだった。
「はー、今日もなーんか知らんが逃げちまったよ」
ため息混ざりのそんな言葉がいつもの路地に少し響く。
【逃げろ。全てから。何が何でも。生きるために。】
「いつも聞こえるこの声。なんなんだ?」
以前は誰の声かと気になった彼だったが、もはや聞き慣れてしまったのだろう。
そこまで気にする素振りも見せず、淡々といつもの路地を抜けていく。
〜その後舞台裏〜
マリ「店主さん、泥棒との背の差でわかるでしょ!俺じゃないことは!」
店主「そもそも私は走っていったあなたしか見えてなかったんだよ」
マリ「女の子の方は!?」
店主「んなもん知るか!」
(最初から店主さん視点俺が犯人かよ…)
女の子「んなもん…」