殿下に会いました
2話連続投稿、「フラグ回避ってできてますか?」の続きです。
殿下が私のもとを訪れたあの日から、殿下は私と一緒に四つ葉のクローブ探しをしている。なぜこうなったかというと…。
・・・
「で、俺がどうした?アイリーン嬢?」
「え、あ、えっと顔見せの挨拶の頃からお会いできていなかったので、殿下に、その、会いたいなぁと……。」
「………」
沈黙はやめてーっ!!!わかってるから!ものすごく恥ずかしいことになってるのわかってるからそんな驚いた眼で見ないで!!!
「ではなぜ会いに来なかったんだ?」
え?怒ってる?なんか声低くなってない?ちょっと待って、すでに印象悪いの!?手遅れなの?あぁもうわかんないっ。とりあえず何でもいいから言い訳!
「あっあの、ジルベール殿下は私が王妃教育の一環で護身術を身につけようと武術を習っているのはご存知ですか?」
「あぁ聞いている。」
「えっとそれで、護身術は万一の時に対応するためのものなのでいつも着替えずにドレスのままで行うのです。だから、その、汗をかいてしまうので…。殿下の前に行くのはその……。うひゃあ!!!」
口ごもりながら説明していると殿下は急に首元に顔をうずめてにおいを嗅いできた。いやそれ6歳児だからまだ許されるけどダメだからね!?なに汗のにおい気にしてる女の子のにおい嗅いできてるのよ!!変な声出ちゃったじゃない!!!
「別に臭いはしないぞ。問題ない。」
「ジルベール様、いくら婚約者と言えどまだ会うのは2度目にございます。急ににおいを嗅がれるのはアイリーン様にとってはお恥ずかしいのではないのでしょうか。」
急に突拍子もない行動をとった殿下に対して、横にいた初老の執事風の人が苦言を言っている。
よくぞ言ってくれました。えっと…殿下の従者の人かな、ありがとうございます。心の中でお礼を言っておく。
「あぁそうか。すまないアイリーン嬢。だが君が気にしていることについては問題ない。汗臭くないし、会いたいときにいつでも会いに来るといい。どうしても気になるのなら私の侍女に言って湯汲を頼めばいい。」
「えっ、あ、ありがとうございます。しかし、そこまでお世話になるわけには参りません。」
「別に気にしなくてもいいのだが、まあいい。俺も忙しくはあるが婚約者と会う時間はある。それに俺はアイリーン嬢のことを知りたいと思ったから今日ここに来た。1ヶ月も会いに来てくれない婚約者殿は俺をどう思っているのかとね。」
「うっごめんなさい。」
にやりと笑いながら言う殿下に言葉が詰まる。確かに王宮に来ながら1カ月も会いに行かないのは不敬だったかもしれない。
「いや…、すまないただの八つ当たりだ。今まで行動に移せなかったのは俺だしな。だが、本当に気にせず会いに来てくれ。」
まずいことをしていたのだと俯いてしまった私の頭を、自嘲気味に笑う殿下が…これは頭ポンポン!!見た目6歳の男の子だけどドキドキしてしまうのはさすがメインヒーロー…恐るべし…。
でも会いに行くいい機会かもしれない。今までのことも流してくれているみたいだし、印象を良くするために殿下に無害ですよとアピールができる。
思いがけない朗報に私は頬が緩んでしまう。
それを見た殿下は少し驚いたように目を見張り、慌てて目をそらした。
「そういえば、アイリーン嬢はいつもここでしばらく過ごしているようだが何をしているんだ?何かを探しているようだとも聞いたが。」
あぁそうか、まさか公爵令嬢がクローブ探ししてるなんて思わないものね。もしかしてなくし物でもしたとか思われて心配してくださったのだろうか?
「四つ葉のクローブを探しておりますの。」
「四つ葉の?クローブと言えば三つ葉のそこらに生えている植物ではないのか?」
不思議に聞き返す殿下に、私はクローブについて説明した。まぁだいたい前世での知識だからどこで知ったかとかはごまかしたけどね。
「そうか、四つ葉のクローブはとても珍しく見つけると幸せになれるのか。なかなか面白い話だな。…よし俺も探すぞ。」
「え、ジルベール殿下も一緒にですか!?よろしいのですか?」
「あぁ、こっちの方が楽しそうだしな…。よし、やはりさっきの話は無しだ。会いに来るな。」
えっちょっと待って!?やっぱり会いに行っちゃいけないの!?何か私変なことしたかな?あっ花を愛でるんじゃなくて草に夢中になる令嬢とか変だから?
会いに行けないとなって少し落ち込んでいると殿下が慌てて訂正した。
「あっ違うぞ!会いに来るなというのは言葉の綾だ。会いに来てもいいんだ。だがこの時間はアイリーン嬢は今まで通りここで過ごして待っていてくれ、俺が会いに来る。」
そういうことかぁ。何をやらかしたのかと思っちゃった。でも四つ葉探しは続けられるし、殿下ともお話しできるなんて願ったりかなったりだわ。
「わかりました。お待ちしていますわ。」
「そうだ、アイリーン嬢。俺のことはジルでいい。アイリーン嬢は俺の婚約者殿なのだから。」
また殿下はニヤッとからかうような笑みでそう言った。
それってヒロインに許す殿下の愛称じゃないの!?ゲームではアイリーンは殿下としか呼んで無かったよね!?
「いいのですか?」
「嫌なのか?」
「いえ、嫌ではないです!えっと、ジ、ジル…様。」
殿下は満足そうに微笑んでる。
なんだろう予想以上に恥ずかしい。前世ではジル様最高とか叫んでたけど、本人を前にすると親しくなれた気がして嬉しさとかいろいろこみあがってくる。
「では私のことも、イリーとお呼びください。」
「あぁよろしくイリー。」
あぁこれはやばい。ジル様の微笑みの威力が半端ない。何この可愛い生き物は…。
この笑顔はずっと守らねばならない。私はひっそりと気合を入れなおした。
お読みいただきありがとうございました。
アイリーンの愛称は悩みましたがIreneでイリーになりました。中には初めの文字がEで始まりエリーと呼ばれる人もいるみたいですね。