フラグ回避ってできてますか?
アイリーンがすごく独り言とか多い子に…。
はぁぁ…疲れたぁ。
自分が乙女ゲームの世界の悪役令嬢だと気づいてから早1ヶ月。フラグ回避のために意気込んだ翌日から私は毎日のように王宮に足を運んでいる。
「王妃教育がここまでしんどいものだなんて思わなかったわ。」
正直私は王妃教育をなめていた。たかが小学生に満たない年齢の子供がすることだと…。しかし、ジルベール殿下の婚約者になるということは、将来この国の王妃になるということだ。そのためには多くのことを学ばなければいけない。この国のことや他国のこと、礼儀作法やダンス等々、公爵令嬢として学んでいることと重なることも多かったが、求められるレベルはそれの比ではなかった。公爵令嬢としての教育を受けていた私ですら悲鳴を上げるほどだ。
「まぁ基本的な事以外にも魔法や武術とかも教えてもらってるからちょっとハードになってるだけなんだけど。」
そう、フラグ回避のために決めた目標のうち、治癒魔法と攻撃に対して素早く対応できる訓練をすることの2つは私がどんなに一人で頑張ろうとしても限界がある。こういうものはちゃんとした人に学ぶのが一番いい。ということで、王妃教育を始める際に教育の責任を担当している王妃様にこの2つを学べるように進言した。 もちろん目的を素直に言うわけにはいかないので、万が一の時に殿下の助けとなれるよう、あらゆることを身につけたいと主張した。王妃様は殿下のためにというところに感激したのか、それとも私の気迫がすごかったのか、基本的な王妃教育の内容を疎かにしないのならという条件付きですんなりと了承してくださった。
魔法は基本的な事から学んでいるのでまだ使うことはできない。魔法の属性とかがあって治癒魔法を使うことができなかったらどうしようと思っていたのだが、得意不得意はあるけれど、イメージする力が強いとどんな魔法でも使うことができるそうだ。もちろんその人物の魔力量で行える範囲にはなる。
私?私はメインキャラということもあってかなり魔力量は多い。高い壁ほど乗り越えたときの達成感が強いでしょう?アイリーンは結構チートなのだ。ゲームではちょっと我儘でプライドも高いくせに手を抜きがちなキャラだったのが残念な所だ。
あの乙女ゲームでは、ヒロインはそれなりの努力という名のミニゲームで、ある程度学力や魔法技術、ダンスなど好感度以外のレベルをあげないと、悪役令嬢に負けて好感度を下げてしまうという仕様なんてのもあった。アイリーンのレベルが高いせいでジルベールを制するにはミニゲームは欠かせなかったが、こんな教育を受けてきた人に挑むならそりゃ本編内のレベル上げだけじゃ足りないはずだ。
…と話がそれてしまった。というわけで怪我や病気が治るというイメージが強くできるのならば治癒魔法は使えるということだ。あとは自分の中の魔力の流れを掴むことができれば10歳でも応急処置程度の治癒魔法は使えるだろう。
次に、攻撃に対してすぐに対応できるようになる、ということを考えると動体視力や瞬発力を身につける必要があると考えた。テニスとかそういうのがあるとよかったんだけど、この国、というかこの世界には存在しなかった。ということで護身術もかねてということを理由に武術を教えてもらっている。もちろん強くなりたいとかそういう願望はないということはちゃんと説明しておいた。私の目的もそこではないしね。
とまぁこんな感じで毎日、王妃教育という名の勉強やら訓練やらを王宮で日替わりで行っている。武術だけは感覚を忘れないようにという先生の方針で毎日あるので、私のこの疲労は基本的にそのせいだ。
そんな毎日を過ごしているが、楽しみの時間もある。王宮の庭の一部に完璧な手入れがされたわけでない場所がある。庭園とは少し離れたそこは武術や剣術を学ぶための広場だ。その場所の端に大きな木があり、その近くは訓練で踏み荒らされないので、ある植物が多く生えている。
それは前世で好きだったクローバーと同じ見た目のクローブという植物だ。乙女ゲームの世界だけあって植物は見た目も名前も前世の世界と同じ、もしくは似ているものが多い。前世が恋しいとかそういうことではないのだが、なんとなく懐かしく心を落ち着けることができるので、武術の訓練後に四つ葉のクローブを探すことが私の日課になっていた。きれいな庭園の花をめでるのも好きだけれど、四つ葉のクローブを探している時間はなんとなく公爵令嬢とか王妃教育とかそんなものから離れて夢中になれる。
もし四つ葉のクローブが見つかったらお押し花にしてお守りにしよう。悪役令嬢として起こる不幸から守ってくれると嬉しいんだけど…。そんなことを考えながら、今も訓練後にその場所に来ている。
ん?…そういえば何か忘れてない?ちゃんとフラグ回避のために魔法の練習も、瞬発力と動体視力のために武術も頑張ってる。うん何の問題も…。
「あっ殿下に対するの印象改善のこと忘れてたわ…。」
あの事件を回避することが前に出て、肝心の殿下の私に対する印象を良くしようっていうことを完全に頭から抜けていた。
一番大事な事じゃないか…。そこそこ仲良くなって話が通じる人間だということをわかってもらえないといけないのに、無駄にスペックだけ高くしていったら近寄りがたい雰囲気に拍車がかかってしまう。
王宮に来るようになってたけど、殿下には全然会ってない。会いに行けば会えるだろうけど…。その…毎日武術の訓練してると汗かいちゃうんだよね。汗くさい女って嫌じゃない?こんなんで会いに行ったら印象良くなるどころか悪くなっちゃうよ。それに押しかける女は個人的に好きじゃないしっ……ごめんなさい言い訳です。忘れてました…。
その場にうなだれながら現実逃避のために空を眺めてみる…。
うん、こんなことしても解決しない…このままじゃだめだよねぇ。なんとか印象は良くしておきたいけど…。
「殿下に会えないかなぁ…。」
「俺がなんだって?」
「ひょえ!?」
急に現れた少年に驚いて変な声が出てしまった。
慌てて振り返ると、そこには風になびく金髪がとても似合う美形の少年がいた。彼は紛れもないこの国の皇太子、ジルベール殿下だ。
会いたいとは言ったけど急すぎるっていうか、今声に出しちゃってたよね!?会いたいとかどこの恋する乙女的な発言だよ。何呟いちゃってるの数秒前の自分!
いろんなことが重なって急に恥ずかしくなった私は顔面が熱い。
絶対変な子だと思われる!というかびっくりしすぎて礼儀とか忘れてるし、印象が悪くなっちゃう!!
どぉすればいいのっぉおおおお!!!
急な殿下の登場に、私は心の中で絶叫していた。
お読みいただきありがとうございました。
殿下がしゃべりましたよ。どんな人かはこれからですね。
すでに迷走しそうです。




